第二話
あの小娘同じ公爵家の令嬢だからと言って調子に乗りすぎだわ!
本当だったら、入学式の入学生代表挨拶はこのダブルの魔法使いにしてマーダー王国が誇る四大貴族が一つ、バルスト公爵家のサーシャ·バルストこそがなる筈だったのに、才能があるとかの以前にたかが五歳の幼女に代表挨拶をさせる学校も学校だ。
本当はインチキだって認めたくないけど、一週間の授業でフューリの凄さはよく解ったわ。
もう一人、いけすかないルートっていうフォースの魔法使いのセカンドネームも持たない平民が居たけど、彼も含めてクラス中の誰もが模擬戦で勝てなかったどころか、魔法をまともに使わせる暇さえ与えてもらえなかったのだから。
でもそんなのはバルスト公爵家の者としてアクセル公爵家の者に負けたと認める事になってしまう。
そんなの私のバルスト公爵家の者としてのプライドが許さない。
だから私の自慢の兄――シーファ·バルストお兄様に生意気なアクセル家の小娘と決闘してもらうことにしたの。それも全校生徒と先生達の目の前で。
お兄様は、この学院が設立してから三番目に高い魔力数値を叩き出し、しかも火、風、雷のサードの魔法使いであの小娘がやっている無詠唱もできる現学院で最強の生徒ですのよ。
なのにあのアクセルの小娘ときたら、二つ返事で了解ときてる。
こうなったらお兄様、こてんぱんに叩きのめして頂戴な!
◆◆◆
僕はシーファ·バルスト。マーダー王国の四大貴族バルスト家の次期当主だ。
僕は生まれながらに魔法の才能を持っていた。
魔導学院の卒業生のマーダー王国宮廷魔導師長のカール·ドフラン、西の魔女――チルチに続いての魔力量を魔導学院の試験で叩き出し、火、風、雷の魔法を使えるサードと呼ばれる魔法使いでもある。
でも才能にあぐらをかかず、研鑽をついたおかげで現魔導学院最強の生徒と呼ばれている。
そんな中、二つ年下の可愛い妹サーシャにアクセル家の少女を衆人環視の中で痛めつけて欲しいと頼まれてしまった。
妹もダブルの魔法使いで才能があるために今回の入学生代表挨拶を出来なかった事が相当プライドを刺激したらしい。
仮にフューリ·アクセル嬢が代表挨拶に選ばれなかったとしても、ルートというフォースの魔法使いで魔力量も僕の次くらいに学院である彼が選ばれたと思うけど、問題はそこじゃない。
アクセル家とバルスト家は昔から仲が悪かった。
僕自身はアクセル家の領地の統治のやり方など尊敬しているのだが、僕以外のバルスト家の者はアクセル家をライバル視してる為、多少ワガママに育ったとしても可愛い妹の頼みだし、次期バルスト家当主としてこの戦いからは逃げられないものを感じ、苦笑いをしながら妹の頼みを承諾した。
試合当日。
修練場で面と向かっているのは、アクセル公爵家の神童――フューリ·アクセル。
大勢の観衆の中、微塵も緊張を感じさせず立っている。
審判は学院長で、修練場の四隅にいる四人の先生達が防御壁の魔法を多重にかけている為、観衆には危険はない。
試合を始める前に握手をしようとフューリ嬢が手を差し出す。
「バルスト家の麒麟児と手合わせができるなんて光栄ですわ、シーファ先輩」
「こちらこそアクセル家の神童と戦えるなんて光栄だよ」
僕も手を出して握手した瞬間、ゾクッと寒気がした。
今まで学院で生徒だけじゃなく教師とも戦ってきた僕が初めて感じたもの。ここですでに勝敗は決していたのかもしれない。
「それでは試合を開始します。始めっ!」
学院長の合図でお互いに距離をとる僕とフューリ嬢。
早速フューリ嬢が無詠唱で三発のファイアボールを放ってくる。
僕はそれを無詠唱の風弾三発で打ち消す。
観客席が盛り上がる。それはそうだろう。初級魔法だとはいえ無詠唱で三発同時に放ち合うのは学院ではなかなか観れるものではないのだから。
だが、彼女はまだ全然本気を出していないし、僕もまだ本気を出していない。
さて次はこちらからいこう。中級魔法のサンダージャベリンを無詠唱で放つと同じサンダージャベリンが無詠唱で帰ってくる。
中級魔法のぶつかり合いで修練場が揺れるが、先生達が防御壁をかけてくれているので観衆達は安全だ。
それよりも驚いた、中級魔法まで無詠唱で発動出来るなんて。
これでまだ五歳というのだから恐ろしい。
だがこれはどうかな?
「爆発せよ、フレアバースト!!」
上級魔法の短縮詠唱だ。これができるまで随分努力したものだ。周囲の観衆も驚いている。当たり前だ。上級魔法の短縮なんて上級魔導師でも使い手が少なく、今この場で出来るのは審判をしてくださっている学院長ぐらいだろう。
さぁどうでる? 回避は難しいから防御壁で耐えるのが精一杯かな?
だが、僕の予想と違い、フューリ嬢は無詠唱の上級魔法アクアバーストで僕のフレアバーストを打ち消し、そのアクアバーストの余波で僕は吹っ飛ばされる。
ははっ、上級魔法の無詠唱だって!? そんなの賢者マーリン以外に出来る人間を知らない!
……認めよう。フューリ嬢の方が強いと。
そのうえで今僕が出せる全力全開の魔法を放つ。
「紅蓮と雷を纏いし豪風、フレアライトニングサイクロン!!」
三種類の上級属性魔法を混ぜたこの一撃が僕の必殺だ!
だが彼女は防御壁を張り、完全に僕の必殺を防いだ。
この時点で僕の負けだ。
審判に負けを伝えようとしたが、フューリ嬢が詠唱を始めている。
「フレアバースト、アクアバースト、エアバースト、ライトニングバースト、ガイアバースト、ホーリーレイ、ナイトメア!!」
八種類の上級魔法の同時短縮詠唱だとっ!?
空中に八種類な上級魔法が浮いている。
「先程の素晴らしい魔法のお返しですわ」
待てと言う前に八種類の上級魔法が一斉に僕に向かってくる。
魔力量が多い僕でさえ、この魔法達を抑える魔法壁は張れない。
死んだなとあきらめて目を瞑った。
周囲から先生達が張った魔法壁が破れる音や観衆の驚きの声は聴こえるが、僕はなんともない。
目を開けると、僕の周りに防御壁が張られており僕は無事だったが、修練場地面はひどい有り様だった。
「……この防御壁は君が張ってくれたのかい? フューリ嬢」
「ええ、大きなお世話だったかしら?」
「とんでもない。おかげで修練場の地面のようにぐちゃぐちゃにならずにすんだよ。ありがとう、僕の完敗だ」
今度は僕の方から手を出して握手をする。
それを見届けて学院長は勝者はフューリと、全観衆に聴こえるくらいな大声で宣言した。
◆◆◆
試合後、学院長室に呼ばれ、あなたにこの学院で教える事はないとあっさり卒業認定された。
更に学院の特別講師にならないかと熱く誘われたが、やりたいことがあると言って丁重に断った。
早くに卒業する事になるとは思っていたが、まさか一週間と一日で卒業とは予想外だったが、私にとっては好都合だったので良しとしよう。それにルートやシーファ、少し生意気だがサーシャの三人と出会えた事は大きい、この三人は近いうちにマーダー王国で名を馳せるだろうからこの出会いも後々重要になる。
まぁ、サーシャは私が学院から出る際にも嫌みを言ってきたから重要になるかはわからないが。
私は迎えにきたアクセル家の馬車に揺られながら、次の目標に向けて思案する。
◆◆◆
ま、まさかお兄様に勝つなんて!! それに誰が観てもフューリ·アクセルが圧倒していた。しかも今回の試合で学院卒業認定されてしまうなんて!
……カッコいいですわ。正直同じ公爵令嬢として恥ずかしいぐらいに。
戦う姿勢もお兄様の事を気遣った戦い方でしたし、今までの彼女に対する態度を謝りたいぐらい。
そう思って学院から彼女が出る時、謝ろうとしたのだけれど、「お兄様を倒したからっていい気にならないでね。次に会った時あなたを倒すのはこの私よ。 ……まぁ、その時私に勝てたならお友達になってあげてもよろしいけれど、無理でしょうね。おーほっほっほ」とつい言ってしまったの。
絶対に嫌われたわ。
お兄様に相談したら次に会った時に謝ればいいじゃないかと、アドバイスを頂いたから次に会った時は自分の気持ちに正直になってお友達になるんだから!
読んで頂きありがとうございました。