第一話
「お父様、お母様行って参ります」
「行かないでおくれぇ、フューリィィ!!」
メイドや執事に取り抑えられながらも娘が遠くに行くのがつらくて泣きながら娘を見つめるデュアル·アクセル公爵。
そんな視線お構い無しに馬車へと乗り込むフューリ·アクセル五歳。
「体に気をつけてしっかりと勉学に励むのですよ」
「はい、お母様」
馬車に乗り、向かう先はマーダー王国の王都ミディア。
マーダー王国の四大貴族の一つに数えられるアクセル家。
そのご令嬢が向かう先は王立魔導学院。
普通は十六になる年からしか入学出来ない。しかも毎年千人以上が受験して残るのがその十分の一。
名門中の名門にまだ五歳であるフューリ·アクセルである私が推薦入学する事になったのは単純明快で今まで最初の人生含めて百八回の人生で、身に付けた知識を隠さずフル活用して生まれたときから天才児として生きてきた。
結果、この世界での宮廷剣術や文字の読み書き、帝王学や経済学などもすぐにマスターした。
困ったのが貴族令嬢としての振る舞い方だ。
今までの人生女性として生きた事がないので、男の動作の癖を消し女性の身のこなしを身に付けるまで四苦八苦した。
だが今までの人生のおかげで、効率の良い身の付け方を知っていた為五歳までになんとか貴族令嬢として振る舞えるようになった。
魔法は、本を読んで覚えた事にし、生まれた頃から隠れて魔法を使い、三才の頃から隠さず、この世界で使える魔法をひたすら使いまくって、魔力量を上げていった。
この世界では魔法は自分の中にある魔力器官にあるぶんの魔力でしか使うことは出来ないし、魔力量も生まれた瞬間から決まっていてそこから魔力量があがらないのが常識だ。
だが、毎日魔力がなくなるまで魔法を使えば少しずつだが、魔力量はあがる。それを生まれた時から毎日欠かさずおこなってきた為、元々魔力量が一般的よりも多かったのもあり、今では、この世界でいう上級魔導師と同じぐらいの魔力量を魔力器官に持っている。
だが人に魔力があるなら当然他の生き物や空気や大地にも魔力はあるのだ。
つまり大地や空気中から魔力を吸収し扱えれば無限に魔法が使えるようになる。
だか、これは非常に魔力コントロールに長けていなければ難しい魔法の使い方で確か五十七回目の世界がこの魔法の使い方だった。
だがこの世界では自分の持っている魔力しか使える者がいない。
例え私が教えても使えるようになるまでに早くても十年はかかるだろう。
隠さず魔法を使っていれば、話は広がっていく。
王立魔導学院の学院長に話が伝わり、今日へと至った。
学院に行くまでの護衛としてアクセル公爵の私兵騎士団――赤の騎士団から女性騎士アンリとターナが一緒に馬車に乗っている。
「フューリ様の護衛ができるなんて光栄です!」
アンリが私を尊敬する目でみてくる。
「あんたフューリ様の大ファンだもんね」
ターナがアンリをからかう。
「ちょっとターナ、それは言わない約束でしょう!」
「こんな素敵な騎士様に好意を持たれるなんて光栄だわ」
アンリが顔を赤くし気絶した。
「アンリをからかいすぎですよ、フューリ様」
自分は棚に上げて言うターナ。
「別にからかってないわ。あなた達はアクセル家の自慢の騎士ですもの。頼りにしてますね、ターナ」
「っ! そういうのずるいですよ」
自分が褒められるとダメなのかそっぽを向くターナ。
馬車内が静かになったので暇潰しに持ってきた戦術学の本を読む。
随分と古い戦術だなぁ。これで最新の戦術だと言うのだから笑わせる。
つまらない戦術学の本をペラペラめくっていると、馬車の操縦者から盗賊が現れたと聞き、窓から首を出し前を向いてみると三十人程の武器を持った者達が前に構えていた。馬車を急停止させると三十人が馬車を囲む。
アンリとターナが私をかばいながら外に出る。
「ぎゃははは、その馬車のマークはアクセル公爵家の家紋だよなぁ。しかも護衛が女二人で御者が一人で豪華な服を来た嬢ちゃんが一人。公爵家のご令嬢様って所か。こいつぁついてるぜ。死にたくなけりゃ、そのお嬢ちゃんをこっちに渡しな」
おそらく私を人質にして私の家に身代金を要求するつもりなのだろう。
じゃあこっちの小銭稼ぎになっても文句はないよな。
「バインド」
その瞬間、盗賊全員に光の輪が絡まり縄でしばわれたような状態になった。
「な、なんだこれ!? 動きがとれねぇ!? おい、そこの嬢ちゃんお前がやったのはわかってんだ。これを外さねぇと痛い目にあわすぞ、ゴルゥラッ!!」
「あら、どうやって痛い目にあわすのかしら、それに自分の今の立場が分かってらっしゃらないようですね」
私が指でパチンッと音を鳴らすと盗賊たちに絡まっている光の輪の締め付けが強くなる。
「「「いででででっ!!」」」
「もっと強く締め付ける事もできるけどまだ何か文句があって?」
ぶんぶんと一斉に盗賊達が首を横に振る。
「腕は封じられても歩くぐらいは出来るでしょう? 私達これから王都まで行くの。ついてらっしゃいな」
「バ、バカ! ここから王都までどれくらい距離があると」
「文句ないんじゃなかったかしら?」
指を鳴らす格好をする。
「わ、わかった! 歩けばいいんだろ、歩けば!!」
馬車をゆっくり走らせ、王都に到着。
三日間飲まず喰わずで走らされた盗賊達は、もはや瀕死状態と言ってもいい。
王都の警備員に事情を説明すると、この盗賊達には懸賞金がかかっていたらしく、三百万ギルのお金をゲットした。
盗賊達を引き渡した後、王立魔導学院へ向かい、学院の門の前でアンリとターナと別れる。アンリは別れるのが名残惜しそうに涙を流していたが。
さてここは、私を満足させる事が出来るのか楽しみだ。
ここ王立魔導学院は全寮制で私もここの寮で暮らすことになる。
まずは私を推薦してくれた学院長の所へ向かう。
――コンコンと学院長室をノックし、「どうぞ」と許可がおりたので、ドアを開け入る。
「失礼します、学院長の推薦を受け参りましたフューリ·アクセルと申します」
「ようこそ、王立魔導学院へ。私が学院長のサンドラ·マルンよ、どうぞ腰掛けて」
ソファーに誘導されて座り、学院長も対面のソファーに座る。
秘書の方だろうか? 私と学院長のテーブルの前に紅茶を置く。
「あなたの話は聴いているわ。なんでもその年で宮廷剣術や文字の読み書きもできて、経済学や皇族としての嗜みを身に付けているとか。あとは本を読んで独学で魔法が使えるとか」
「いえいえ、皆様が大げさに吹聴してるだけでそんなたいした人間ではありませんわ」
「ご謙遜なさらずとも良いのですよ。先程懸賞金のかかった盗賊三十人を捕まえられたそうで」
「まぁ、恥ずかしい話ですわ」
「恥ずかしがる事などありませんわ。むしろあなたの様な勇猛果敢で才能に溢れる方がこの学院に来てくれてありがたいわ。でも魔法の奥深さは独学では限界です。ぜひこの学院で魔法の真髄の一端を掴めるように祈っていますね。あと、明日の入学式は入学生代表をお願いしますね」
「わかりました。まだ未熟者な私でよければ代表をやらせていただきます。では寮に置いてある荷物を整理しなければならないので失礼いたしますわ』
入学式の代表かぁ。なんか一波乱起きそうだなぁと思いながら寮の方へ行き、自分の部屋の鍵を寮母さんから預かり、部屋へと入る。
通常は二人部屋らしいが、公爵家の威光を使い、一人部屋にしてもらった。おかげで日課の魔力操作のトレーニングを隠れずに出来る。
今日も寝る前に自分の中の魔力を使い果たし、眠りにつく。
翌日になり、顔を洗って制服に着替えて準備万端。
入学式に向かう途中、金髪の美少女に声をかけられた。
「あなた恥ずかしいとは思いませんこと? 親の権力で学院長から推薦入学をしてもらって、その上入学式での代表挨拶をすなんて。少し才能があるからと言って五才の子供がするべきではありませんわ。だからこのサーシャ·バルスト公爵令嬢である私に代表の座を譲りなさい!」
ようは嫉妬だろ。面倒臭いなぁ。
「申し訳ありませんが、私に代表の座を譲る権限はございませんの。もし本当に代表の座が欲しいのならば私ではなく学院長に直談判するべきでは?」
自分の率直な意見を言っただけなのだが、サーシャと名乗った十六歳程の女性は、顔を真っ赤にしながらお供を引き連れて去っていった。
◆◆◆
ボクの名前はルート。
只の平民だけどボクには驚くべき力があったんだ。
まだ十二歳なのにあの王立魔導学院の試験に主席で合格できる程の魔法の力が。
主席合格者は毎年入学式の挨拶代表に選ばれているから昨晩から何を言うかで悩んで、つい夜更かしをしてしまい、寝坊してしまったけど、全力疾走でなんとか入学式に間に合い、今か今かと待っていると、先生が、「入学生代表挨拶」と言い席を立とうとした瞬間、「代表フューリ·アクセル」と言い、「はい」と五歳ぐらいの女の子が壇上に上がり、実に素晴らしい挨拶をした。
ボクが夜更かしして考えた挨拶よりも何倍も。
ボクはあの五歳の女の子――フューリ·アクセルをライバルにする事に決めた。
クラスは成績優秀者順にまとめられており、あのフューリ·アクセルとも一緒のクラスだ。
普通魔法は一人一種類の魔法しか使えない。だか世の中には特別に何種類も使える人間がいる。
それが公爵家の威光を威張り散らしているいけすかない女――サーシャ·バルスト公爵令嬢。何でも火の魔法と風の魔法を使えるダブルらしい。
だけどその程度で威張り散らしてるんだから器が小さい。
ボクなんか四つの魔法を使えるフォースでしかもそのうちの一つが取得者が少ない聖属性魔法なのだからもっと評価されてもよかった筈なのに、フューリ·アクセルが居る事でボク程の天才さえ霞む。
彼女はなんと、火、水、土、風、雷、聖、闇のすべての属性を持っている。
彼女に勝っているのは魔力量だけだ。彼女も上級魔導師程の魔力量は持っているけど、そこだけはボクが圧倒的に勝っていた。
なのに彼女との模擬戦では全戦全敗。
理由は明らかで、魔法の無詠唱を彼女が出来る事。それもいくつもの魔法を同時に。
そんなの魔力量がいくらあっても勝てやしない。
先生もそんな彼女に呆れ、すぐに彼女の学年が一つ上がった。
ボクは確かに自他共に認める天才だ。
だけど彼女は化け物だ。一瞬でもライバルだと勘違いした自分が恥ずかしい。
ボクは普通の天才として生きていく。
◆◆◆
一週間で一学年上に昇ってしまった。
予定より少し早い気もするがまぁ良いだろう。
後一週間でもう一学年昇って、そしてもう一週間で卒業、つまりあと二週間で卒業する予定だ。
だが人生とはそう上手くいくものではないと百八回も転生してればわかるものだ。
入学式の時に絡んできたサーシャ·バルスト公爵令嬢がまたもや絡んできた。
「ちょっといいかしら? あなたがどんなインチキをしてるかわかりませんけど無詠唱で魔法を同時に放つなんて信じる人がいると思っているのかしら?」
「信じてる人が居たから一学年昇ったのだけれど何か?」
「ふん、どうせ学院長に賄賂でも渡したに決まってるわ!」
「はぁー、どうすれば信じてくださるのかしら」
サーシャはニヤリと笑う。
「先生や生徒達の前でこの学院の生徒会長である私のお兄様に勝ったら信じてあげるわ」
「そう、そんなことでいいのならいつでもしてあげるわ」
淡々と言う私に苛立ちを覚えたのか顔を真っ赤にする。
「明日よ! 明日の放課後私のお兄様と魔法修練場で勝負なさい!! お兄様はこの三年間すべての試験で主席でしかも、学院史上三番目の魔力量を持っているトリプルの魔法使いなんだから後で泣きついても知らないんだから!」
「明日の放課後に先生や生徒達の目の前であなたのお兄様と修練場で戦えばいいのね? 解ったわ。それじゃあさようなら」
サーシャとその取り巻きを残して寮にもどる。後ろから奇声と地団駄を踏む音が聴こえるがどうでもいい。
どうやら卒業予定が早まりそうだ。
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