十七話
翌日、砦から海に浮かぶ大型船三隻を確認。
それぞれの帆に聖騎士団の色を示す文字がデカデカと書いてある。
左から緑、黄、紫と書いてある。
「凄いですね」と率直な感想をグラム殿に伝える。
「ああ、オズワルド帝国と戦う為に七つの内の三つの聖騎士団を出すなんて凄いとしか言えないな」
「そうではなく、三つの聖騎士団を相手にして北の砦を死守してきた事が凄いと言ったのですわ」
「ははっ、照れるなぁ。でも正直君達が来てくれて良かった。もう守る必要もないのだから」
「それもそうですわね、壊滅させましょう。ルートとサーシャは北砦の防衛を頼みますわ」
「了解!」「了解しましたわ!」
北の砦の門が開くこの時を待っていたかの様に聖騎士達が上陸してくる。
だがこちらには新兵器のパワードスーツを着込んだ百名の兵士達がいる。
この百人の兵士達は私が選んだ精鋭の兵士達。その中にはアンリとターナも入っている。
いくら聖騎士がAランク以上でもこのパワードスーツを着込んだ精鋭達に勝てる見込みはない。
そして、私とグラム将軍のふたりが対峙するのは、緑の騎士団団長ユピタス、黄の騎士団団長フェイ、紫の騎士団団長ルシャール。そして三百名の聖騎士達。
聖騎士達はパワードスーツ兵に任せるとして、この団長三人はどういう分配をすればいいのだろう。
「あの~、グラム殿は誰と戦います?」
「ふむ、ユピタスとフェイは引き受けよう。戦闘スタイルでルシャールとは相性が悪いので、フューリ殿にお願いしたい」
「わかりました、それでは参りますわ!」
紫の団長ルシャール。冒険者ランクに置き換えるとSSランクで、三人の団長の中でたぶん一番強い。
だが残りの二名もSランクだ。だが戦闘のスタイルは単純な力技系。
しかし、ルシャールは体からぼとぼとと、何か粘膜を出し、地面がジューと溶けている。
強力な酸を生み出す魔法か!
通常魔法は七属性しかないが、たまに特殊な魔法を身につける者がいる。
過去の人生で何度かそんな特殊な力を持つものにあったことがあり、超能力、特殊魔法など様々な呼び方があったが、この世界では神から贈られし者と呼ばれているらしい。
ルシャールは壊れた様に笑いながら「ジュージューだよ、ジュージューだよ」とぶつぶつ言っている。
確かにグラム殿の正統派剣術では相性が悪いかもしれない。
この溶解魔法は防御魔法すら溶かしている。
ならば遠距離から溶解するスピードに追いつけない程の極大魔法を撃てばいいだけ!!
どうやらルシャールは飛行魔法はできないらしく、溶解魔法が追いつけない高さまで飛行し、極大魔法メギドレーザーを放つ準備をする。
ユピタスとフェイが危険を感じたのかルシャールの方に向かおうとするが、重剣グラムが二人を行かせない。
「放つは光、研ぎ澄ます光、それはまさしく天まで穿つ光、メギドレーザァァァア!!」
ルシャールは溶解魔法で防御盾を作るが溶かすスピードが遅い。
「貫けぇぇぇえっ!!」
瞬滅する光は溶解盾を貫き、ルシャールの鳩尾辺りに大穴を開ける。
「…ジュー……ジューだ……よ?」
かろうじてまだ生きているが、その大穴は間違いなく致命傷。
重剣グラムとの戦闘を止め、ユピタスとフェイは、「全軍撤退」と大きな声をあげ、瀕死のルシャールを抱え、船に戻り、ここから遠ざかっていく。
流石、グラム殿は聖騎士団長二人を相手に無傷。
それよりも凄いのは、パワードスーツを着た我が兵士達。Aランク以上の実力を持つ聖騎士相手に拮抗する所か終始相手を圧していた。
そのおかげで数十人の聖騎士を捕縛する事に成功した。
まさに我々の大勝利だ。
聖騎士達を地下の牢に入れ、地上は勝利の宴が始まっていた。
兵士が皆盛り上っている中、グラム殿と私は二人で飲んでいた。
「今回の勝利は間違いなくフューリ殿とフューリ殿が作ったパワードスーツの勝利だ」
「いえ、グラム殿と北の砦の兵士達が連携してくれたおかげで勝てたのです。ここは、マーダ王国とオズワルド帝国の勝利でいいではありませんか?」
そう言うと、グラム殿は小さく笑い、「貴殿が敵ではなくて良かった! 二つの国に乾杯!」
ジョッキをこちらに向けてくるのでこちらもジョッキを向ける。
「二つの国に乾杯!」とジョッキをぶつけ合い宴を楽しんだ。
次の朝、二日酔いの中、帰り支度をしている私の所に同じく二日酔いで苦しんでる様子でグラム殿がやって来た。
「お互いに飲み過ぎたなフューリ殿」
「ええ、おかげで今から魔導車に乗るのかと思うと気が重くて」
「ははっ、なんならずっとこの北の砦にいるかい?」
「ふふっ、非常に嬉しいお誘いですが、待っている部下達が居るので失礼しますわ」
「そりゃあ、残念だ。ただ今回の貴殿との共闘は忘れはしない。貴殿が味方でいる限り、助けが必要な時はいつでも呼んでくれ。必ず駆けつけよう!」
「ならばグラム殿が味方でいる限り、グラム殿がピンチの時はいつでも駆けつけますわ!」
グラム殿と私は握手をし、別れた。
オズワルド帝国最強と呼ばれるだけあって相当の力の持ち主だった。
しばらくはフィンデル教皇国も大人しくなるだろうし、これで四つの町を作ることに集中できる。
資金面は魔導車、魔導船、魔導飛行機を量産し、同盟国に売りつけたおかげで充分にある。さらに今回のパワードスーツの生産と、三つの聖騎士団を追い払った功績で間違いなく、莫大な報奨金がもらえ、さらに大公の地位がもらえる事を確信している。
そうなると肝心の首都をどうするかだ。
今までは、ウォーロック要塞近くの町ウォーセルしか町がなかったが四つも町を作るとなると、町は五つになる。
ウォーセルの街を西の町と見立てると、東の町、北の町、南の町を作り、その中心地に首都を構えるのが一番しっかりくる。
この考えで四つの町を作り始めた頃、叔父上から民衆の前で叙勲式を行うと連絡が入った。
私はもうすぐ十二才になる。
十二才と言えば、もう結婚してもいい世界だ。
だが私にその気はない。
その決意として今まで長く伸ばしていた髪をショートカットにし、男装した。
数日後、王都の大広間にて叙勲式が行われる。
まずは功績の少ない者から報奨を与えられ、ついに私の番がやってくる。
「フューリ·アクセル侯爵よ、前へ!」
「はっ」
叔父上に呼ばれ、叔父上の目の前で片膝をつき、頭を下げる。
「顔を上げよ、フューリ侯爵」
「はっ」
「今回そなたのもたらした功績はとてつもなく大きい。帝国と一緒に開発した魔導車、魔導船、魔導飛行船は、我が国と同盟国を飛躍的に成長させた。更に我が国だけの新兵器パワードスーツを作り、オズワルド帝国の北の砦で見事パワードスーツの有能さを証明し、帝国のグラム将軍と共に三つの聖騎士団を撃退出来たのは誠に見事である。よってそなたには我が国から無くした大公の位を授け、大公の家名マクスウェルを名乗る事を許可し、お主から今持っている領土を国として認め、マクスウェル大公国を名乗るのを許可する」
「ありがたき幸せ。マーダー王国の属国として恥をしないよう粉骨砕身頑張らさせてもらいます!」
「うむ、頼んだぞフューリ·マクスウェル大公」
「はっ、了解しました」
次の瞬間、民衆の大歓声が起きる。
どうやら民衆は英雄フューリが大公になり、建国する事に賛成みたいだ。
だが四大貴族に数えられるエクリプス公爵家の当主にして宰相であるジェイル·エクリプスだけは最後まで叔父上にこの報奨を与えないように説得していたが、他の四大貴族が賛成だった為、エクリプス公爵の反対意見は通らなかった。
これにより私はマーダー王国の大公となり、国を名乗る事を許された。
早速城をマクスウェルの領地の中心地に作った首都改め、大公都メルギスに作っていく。
私が十二才になるまで後二か月。
そろそろ私の見初めた家来達を召集する時が来た。
まずはパワードスーツを着た百名の兵士達。その中にはアンリとターナも入っている。
この百名は私の近衛兵としては迎える。
次は、ルートとサーシャを魔導師団の団長と副団長として二人の部下ごと迎える。
次に軍学校時代の友だったマルコとイリスを軍師として招き、副官だったリッサ少尉を宰相にし、その宰相の副官にアンヘル·ビーツを任命した。
そして城が完成し、明日の私の誕生日に正式にマクスウェル大公国の誕生を祝う式の前日に、リヒャルト·マスケインとアルベル·ビーツが現れた。
これで明日の式で二人の事も紹介できる。
なお、ウォーロック要塞の新たな総司令官は、別のブロックで司令官として優秀だった者に任せ、要塞から引き抜いた兵士の代わりは、王宮から派遣するように頼んでいる。
フォローはちゃんと済ませている。
これでいよいよ、明日の式典で正式にマクスウェル大公国を世界に晒すことが出来る。楽しみだ。
読んで頂きありがとうございました。




