第十五話
先日の叙勲式で軍では最高位の元帥になり、爵位も侯爵以上が公爵となるので、爵位でもとれる事実上の最高位の侯爵に昇格した。
だが私が目指すのはあくまで真面目で優しい人間が正当に評価される国を作ること。
それに必要なのは、今は失われし大公の爵位。
百年前までは王族の血をひく者がついていた地位。
ところが百年前の大公が国王に反逆し、内乱が起きた。
内乱は国王軍が勝ったがそれ以降大公の爵位はマーダー王国では使われなくなった。
私が国王陛下と約束したのは、十二才になるまでに大公の爵位を与えなければいけない程の功績をマーダー王国に捧げる事。
それでもし大公の爵位を得ることができたならば、治める領地を大公国として独立させて欲しいと五才の時にお願いした。
後三年で禁忌となった大公の爵位を得る。
その為には領地を発展させねばと現在私の領地である村に来ているが以前よりも住民の増えている。
これもマーダー王国の英雄という看板のおかげだろう。
新たに住民達の住居を魔法で作る。
耕した畑は更に広げ、作っているのは、米に小麦にサトウキビ、じゃがいも、ニンジン、大根、キャベツ、白菜などに似た野菜などだ。
畜産業も初め、今領地にいるのは、牛に豚、鶏、ヤギ、羊がいる。
一生農家として生きた人生も経験してきたので、連作障害やイナゴなどの対策は十分だ。普通は無農薬なので、虫がわきやすいのだが、田んぼには鴨を放し、虫を食べてもらったり、虫が嫌がる唐辛子、ニンニク、ハーブ、酢で作ったスプレーを撒いたり、様々な木の合成樹脂からビニールの発明に成功し、ビニールハウスを作り、獣害からも野菜を守れるようにした。
ビニールを作った要領でプラスチック、発泡スチロールを作るのにも成功し、軽くて丈夫な箱として発泡スチロールの箱が売れる売れる。プラスチックで作ったペットボトルは水筒代わりにつかわれており、これも売れまくっている。
今までの功績でもらった報奨金で村の改造に力を入れて良かった。今や町レベルまで発展したウォーロック要塞近くの村は、今後ウォーセル町と呼ばれる事になったらしい。なんでもウォーロック要塞と私の家名をくっつけたらしい。
ウォーセル町は順調に発展しているが、オズワルド帝国から頂いた領地は広く、後四つの町が作れそうだが、作るのにもお金がかかる。報奨金はウォーセルの町の発展に使いきったので、今はウォーセルの野菜や肉やペットボトル、発泡スチロール箱の売上しかお金の当てはないのだが、それだけでは四つの町を作るのに資金不足だと悩んでいると、小型化した魔導通信機――携帯電話から着信の音がなったので出ると、電話の相手はオズワルド帝国の皇帝――ユウマ·オズワルドからだった。
「結構大きいビジネスの話なんだが、乗らないか?」
「分け前は?」
「五:五だ」
「すぐにそちらに向かいますわ」
「ああ、私室にいるから来てくれ」
テレポーテションでオズワルド皇帝陛下の私室に飛ぶ。
「やっほ」
「仮にも皇帝に向かってやっほって」
「それでは皇帝陛下にお会いでき光栄の極みでございますとか言って欲しいのか?」
「いや気持ち悪いから素のままでいいよ」
お互いに転生者というのもあって二人の時だけは普段のお嬢様の仮面を外せる。
「で? 大きいビジネスって言うのは?」
「車に船に飛行船を作りたい」
「なるほど、私がプラスチック、ビニール、発泡スチロールを作ったからだね?
「ああ、その技術があればゴムぐらい作れるだろうし、僕よりも色々と知識がありそうだったからね」
「なるほど私が技術を提供する代わりに発明資金は帝国が出してくれるって事かな?」
「話が早くた助かる。どうだろうこの先北の連中と戦うのに必要だと思うのだけど?」
「確かに。協力するのは構わないけど、そう言えばマーリン殿の気配がないな。何かあったのかい?」
あれほど近くに置いていたマーリンがいないのは何か変だ。
「マーリンなら君達と戦った後から帝国から居なくなったよ。そしてフィンデル教皇国に潜伏させている者によると、マーリンをフィンデル教皇国で発見したらしい」
「ということは……」
「ああ、どうやら僕はマーリンの操り人形だったみたいだ。冷静に考えればおかしい所が沢山あったのに、育ての親の様なマーリンを裏切り者だと思いたくなかったのかもしれない。今思えば、中央大陸の統一も、統一させた方が侵略するのも簡単だ。だからこそ長い時をかけて僕に様々な国々を侵略させていたんだろう。君も薄々気づいていたんじゃないかい?」
「ああ、世界最強の魔導師の筈のマーリン殿があのくらいの攻撃を完璧に防御できないのもおかしいし、あれくらいの防御魔法を張ったぐらいで疲弊するのもおかしいとは思っていたよ」
「そうか……やはりそうか……」
その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
「育ての親にされたこの仕打ち、さぞ辛いだろうけど、君は皇帝だ。侵略の果てに大国となったこのオズワルド帝国を君は守る義務がある」
「わかっているさ。だから君をここに呼んだんだ。正直裏切られた怒りよりも哀しみの方が強いけど、それでも僕は立ち止まってはいられない、皇帝だからね。このビジネス乗ってくれるね?」
今まで彼を皇帝とは思いづらかったが、今ここにいるユウマ·オズワルドは間違いなく皇帝だ。
「仰せのままに皇帝陛下」
ウォーロック要塞の私室にしばらくオズワルド帝国に滞在しますと書き置きを残してさっそく仕事にとりかかる。
まず作るのは、車。その為に合成樹脂でゴムを作成し、走るための心臓である魔導エンジンを作る。後はハンドルから流す魔力でエンジンが動くか試行錯誤しながら伝達出来るように仕上げフレームと四個のタイヤを取り付け完成。この試作一号機が出来るまでに三ヶ月もかかってしまった。
あとは動くかどうかだけ。どうか動いてくれ!
祈りながらハンドルに魔力を流すと、ドッドッドッとエンジンが動きアクセルをゆっくり踏むとゆっくりと前進し始めた。
しばらくゆっくりと走りアクセルとブレーキがちゃんと動いてるのを確認してから、アクセルを目一杯踏み込む。すごいスピードだ。これでブレーキがちゃんと動いたら成功だ。
スピードマックスの状態でブレーキを踏む、少しずつ踏み込み車はなんともない。魔導車の完成だ。
一緒に車を完成させた帝国の技術班と喜び、未成年だというのに飲みに飲みまくった。
翌日、ユウマの元を訪れるとあれだけ飲みまくったのに、テキパキと書類仕事をしている。
「おはようユウマ。昨日あれだけ飲んだのにもう仕事だなんてさすがは皇帝陛下だ」
「そっちはひどい二日酔いみたいだけど、車はもう生産し初めている。次は船だ。いけるかい?」
「車でエンジンの作り方、魔力を伝達させる方法もわかった。動かすのが、タイヤからスクリュープロペラに変わっただけだ。飛行船も一緒でたぶんあっという間に作れると思うよ」
「そうか、それじゃあ頼むよ」
「ああ、任せておけ」
その宣言通り魔導船も魔導飛行船も一ヶ月程で完成させ、今は量産している所である。
その後量産体系も流れができて落ち着いて来たので車と魔導船と魔導飛行船を手土産に帰る事にした。
数ヶ月後。
最初は皆見慣れない飛行船や車にびびっていたが、今では富裕層は車を買ってドライブし、車が買えない者達も魔導船や魔導飛行船のおかげで今まで遠かった西大陸のシュライバン共和国や東大陸のヤマトに行けて大喜び。
叔父上でもあるマーダー王国国王陛下も随分と気にいられて穏やかな笑顔で話し出す。
「これだけの物を作ったんだ。十才にもなったし、もう大公になってもいいんじゃないのか?」
国王陛下は私が五才の時に大公になりたいと言ったときも賛成してくれた。そして今も。
だがわたしが大公になることを民衆の多くに認めさせる為にはあと一つ足りない。
何をすれば認めさせる事が出来る?
「しかし、同盟国である国々にも車や魔導船、魔導飛行船も売っているのだろう?」
「ええ、それが何か?」
「いや、ないとは思うが、同盟国が敵になったとき、魔導飛行船でウォーロック要塞など簡単に通過出来ると思うとな」
確かに魔導飛行船によりウォーロック要塞の意味が薄れてしまっている。
ウォーロック要塞はマーダー王国だけが持つ絶対防壁だった筈。
魔導飛行船は値段が高く、軍事利用するまでにはだいぶ時間がかかると思うが、確かにマーダー王国の持ち味が一つ減ってしまった。
……そうか! マーダー王国だけの兵器を作ればいいのか!!
「叔父上、大公にさせて頂くのは少しお待ちを。必ずやマーダー王国の為の兵器をお見せ致しますので」
他の国には悪いが一つ飛び抜けた兵器を作るとしよう。
読んで頂きありがとうございました。




