冬の戦場にコタツを置いたら平和になると思う。
コタツ
コタツ
コタツ
コタツが欲しい。
私がただひたすらにコタツに入り、ミカンを食べて雑誌を読んでテレビを見てそこでうたた寝したい。
うたた寝をしたところでお母さんに起こしてもらいたい。
コタツが欲しい。
白い息を吐きながら家に帰る途中、駅の街頭テレビを見た。
遠く離れた地で戦争だか、紛争が起こっているというのを知らせるニュースだった。
緯度だったか経度の関係かよくわからないけれど、そこはもう雪が降り積もり、積もりに積もって真っ白な雪原が広がっていた。
その雪原を挟んでやっていると
ニュースは続けていった。
冬の戦場にコタツを置いたら平和になると思う。
ミカンとか雑誌とか兎に角、いろいろコタツの上に置いて、武器とかそんなのは全部放っぽり出してコタツに入ればいい。そしたら、ほかほかして、お母さんに起こしてもらうまでずっとうたた寝するかな。
ぼんやりそう思いながら、家に帰る。
家のドアを開いて、手を洗う。
「あーおかえり。」
「ただいま。」
お母さんが台所に立って、夕ご飯を作っていた。
いつもなら、一度私の部屋に荷物を置いてからリビングに行くのだが、そんな時間すらもったいなくて、私は真っ直ぐにリビングのドアに手を掛けた。
リビングへ向かう間、私は昼間お母さんから送られてきたメールを思い出していた。
「出そう、出そうと思って先延ばしにしてたけど、今日やっと出せたのよ。」
お母さんが押入れから出したことをメールで送ってきた時、
女神が王の誕生を下々の民に告げる神託のようだった。
そうこうしているうちに
リビングのドアの前に立つ。
ドアの向こうに広がっているに違いない理想郷を思い描きながら、ゆっくりとドアを開けた。
そこはすっかり玉座の間へと変貌を遂げていた。
護衛に囲まれる様にその四方に座椅子を置かれて、
自慢げに大きな花がらの布団を、まるで王様のマントの様にゆったりと広げて、
蜜柑の入った籠は王冠のように上に置いて、
今までリビングの主であったテレビを従えて
王は、コタツはリビングの中心にあった。
「コタツ」
私はそういうと、
手に持っていたもの
背中に背負っていたもの
全部放っぽり出して、
コタツという王の元に忠誠を誓った。