1、名無しの女神ちゃん、堕落する
「何でこんなに退屈なのよ!頭がおかしくなっちゃう!」
私はこの神域に誕生してから三ヶ月とちょっとの若輩女神である。名前はまだない。
そんな私の神域での暮らしは、人間の思っているような楽しいものではなく、非常に退屈なものだ。朝起きたら担当世界に異状がないかチェックし、全生物の転生書類の整理整頓をしたら寝る。これの繰り返しなのだ。十年この生活を我慢すれば、新しい仕事として転生者に対する接客業みたいなものを任されるのだが、先輩女神から聞くには、これまた糞程も面白くないらしいのだ。
ああ、何で私は女神として生まれてしまったのだろう。人間が羨ましいな。人間の世界には娯楽が沢山あって、仕事だって努力すれば好きなものに就けることが出来るそうではないか。神よりも恵まれた生活を送っているとはどういうことか!全くけしからん。
私は自室の神棚の前にちょこんと座ってみる。私はいつもここで自身が何者であるのかをよく考えるが、結論が出たことは今まで一度もない。
神とは何だろうか。私も神と呼称される存在だが、自分に世界を想像したり、破壊したりする力があるようにも思えない。私がやっていることなんて世界の管理だけで、世界そのものに影響を及ぼすことなんて、何一つできないように何かしらからの制限を受けているのだ。私が思うに、私のような管理するだけの神というのは、神の代行者であり、私たちに制限をかけている存在こそが神なのではないのか。では私たちはどちらかというのなら天使の部類に入るのではないのか。考えても何の得にもならないし嬉しくもないことなのだけれども、本当に私たち以上の権限を持つ神がいるのだとしたら、私はその神を呪ってやる。こんなつまらない仕事を押し付けやがって、許さねえからな。
「って、え?」
ふと顔を上げると、目の前の神棚が光り輝いていた。なにこれ、え、ヤバくね?
神棚は徐々に光を収めてゆき、一つの物体を出現させた。
「なんじゃこりゃ」
それは丸っこくて、何だか甘い香りのする白い何かだった。手に取ってみると、それはなんだかさらさらとした手触りであった。軽く押してみるとにゅうっとへこんだ。押したところが少し茶色くなったが、何か中に入っているのだろうか?
白い丸を半分にちぎってみると、甘い香りがさらに増し、食事が必要のないはずの私の胃を刺激してくる。これはもしかして食べ物なのか?私は警戒しつつもその片割れを口の中に放り込んだ。モグモグ、ん?な、なんだこれ?!
「めっちゃ甘い!めっちゃ美味い!すげえ!」
え?え?ヤバイ、何だかこう、今まで生きてきた中で感じたことのない感覚が口内を通り過ぎていって、すごい幸せな気分......
私はちぎったもう片方の白いのも夢中になって咀嚼する。
ふわっとした、優しく素朴な甘みが、また私の全身を駆け巡る。ああ、至福。
「もっとないのか!この白い真ん丸は!もっと食べたいぞ!」
私は神棚をガシガシ揺らしながら喚きまくる。もっとくれ、甘いの欲しいのおおおおおおおっ!
「はっ!そういえば神棚って下界に繋がっているんだっけ?それでたまに人間が神に供物をささげるとそれがランダムで自動的にいろんな神に分配されるというのを聞いたことがある!先輩が言ってたもん!間違いない!これは人間の作った食いもんだ!」
こうしちゃいられねえ!今すぐ下界に降りてあの白丸を食さねば!辛抱ならんわこんちくしょう!
私は自室の扉を生きよくぶち開け、だだだっと下界門までダッシュした。
「あれ、新米ちゃん?って、ええ?!何してんだあんたぁ!」
下界門の番人さんことそこら辺の男神Bさんが私を止めようとしてくるが、全力女神ちゃんパンチで薙ぎ払う!
「おごおっ!ぼべええっ!」
吹っ飛んだ男神Bが奇怪な叫びをあげてのたうち回っているが気にしない!私はそのままの勢いで下界門をがばっとあけ放つ。新鮮な空気な香りが私の鼻腔を満たして、ん”ぎも”ぢぃぃいいいいいいいいいいいいっ!
「未知なる下界へ女神ちゃんがイク!イッちゃうよお!1,2,3、さらば神域!私は旨い飯を食いに行く!二度と戻ってくるものか!」
勢いよく下界門から飛び出した私は、神様リングを頭上に展開して地上に向かって急降下する。
いいねぇ下界!いつものように上空から姿隠しながら偵察してるのとはわけが違う!肌にまとわりつく湿気も、身を貫く雷も、体当たりしてくるあほクソ鳥も、全てが未体験の感覚!気持ちいい!イキそう!
喘ぎながら地上に向かって女神ちゃんが落ちていた、そのころの神域では―――――
「報告いたします。神様ナンバー20997が只今下界に堕落いたしました!」
「は?」
爪を磨きながら腰をくねらせていた私は、その報告に驚き、思わず羽衣を脱ぎ捨てた。
「なっ、ナカナキ様、破廉恥ですぞ?!」
何故か顔を赤らめてあたふたしているナンバー3を引っ叩き、首をへし折ってやった。
「あの小娘が!せっかく目をかけてやっていたというのに堕落するとは!許せん!おいナンバー3!死んでる場合じゃねえだろ!さっさとナンバー20997を殺してこい!」
「ひゃい、ナカナキ様!仰せのままにぃ!」
むくりと起き上がったナンバー3は下界に向かって走っていった。
まったく、腹立たしい。にしてもあの娘がなぜ堕落したのか気になるな、あの娘は堕落するような子ではなかったはずだが......。ま、考えても仕方ない。私は股間の辺りが妙に黄ばんだ羽衣を羽織い直し、どすっと椅子に腰を掛けた。
この女ナカナキは、女神ちゃんから先輩と言われていた、それなりに偉い立場にある女神さんなのであるが、彼女には秘密があった。それは自分がレズであるということである。彼女は新しい女神が誕生するたびに自分の立場を偽って近づき、仲良くなった後に、新人女神たちの心の隙に漬け込んでレイプとしゃれ込むのが趣味なのである。誰がどう見てもクズである。
そんな彼女は自分が狙った獲物は逃さない性分なのだが、逃げられると殺したくなるほど相手を憎むようなのだ。よって堕落した女神ちゃんのことを逃げた判定し、殺すことを決めたのである。
彼女のことを擁護したいわけではないが、神が堕落することは禁忌であり、堕落した者には原罪が与えられ、二度と神域には戻ってこれない。つまり神域から追放されたか神は、元仲間に裏切者と言われ殺されても文句は言えない感じなのである。
さて、女神ちゃんの運命やいかに?