10 事故と王都到着
けたたましいアラームの音で目が覚める。今は6時30分。学校の時はいつもこの時間に起きる。父親はすでに起きて、"俺"と妹のお弁当を作っている。俺が小3の時に母をなくしてからは父は仕事をやめて一人で俺たち二人を育てている。
「…おはよう。」
「おはよう、珪華を起こしてくれ。」
「わかった。」
先に制服に着替えたあと珪華を起こしに行く。相変わらずすごい寝相だ。掛け布団を蹴っ飛ばし腹を出している。もう高一なんだから。こんなんじゃお嫁にいけないぞ。
妹の頭を揺らして起こそうとする、
「おい、珪華。起きろ。」
なかなか起きない。そこでおでこに力をためてはなったデコピンをお見舞いする。
ベチッ!
「イタッ!もー痛いなぁ。」
「お前がいつまでも寝てるからだぞ。ほら早く顔洗って、着替えろ。もう朝食出来てるぞ。」
こうやって妹をせかす。ほぼ毎日だ。
朝食の前に母に手を合わせ、ご飯を置く。線香を一本指し今日の平穏を願った。そのあと朝食を食べ、弁当と水筒をバッグに入れて家を出た。歩いて15分で駅につき、そこからバスで学校へと向かった。
教室に入ると女子たちは真面目に机に向かい、男子たちは集まって問題の出し合いや話をしている。いつものクラスの感じだ。受験生とはいってもあまり自覚は持てない。そのためか、勉強に集中できずにラノベやスマホをあさっていた。
朝礼が終わり1時限目の授業が始まる。今日は化学スタートだ。教科書はすでに終わり、今はテキスト中の先生が指定した問題を黒板に解き方を書いて解説するという感じだ。
「早く書かないと先生が来ちゃうぞ。」
「分かってるよ。硝之は今日、黒板どのぐらい使う?」
「そんなに難しくないから、3分の1位あればいいよ。」
「わかった。」
友人と話ながら書いていく。友人たちとは学校内でしか関わりがない。友人たちとは広く浅くの関係でこれといった親しい友人は数えられるぐらいしかいなかったが、特に学校ではあまり不自由はなかった。でも、他の人が外で仲良くしているのをたまに羨ましく思ったりしていた。小学校5年生の時に転校してからすぐにいじめにあった。そのため友人関係には不安があったが、中学からはそんなことはなく、それから6年間は楽しいスクールライフを過ごせている。
教壇の上にたって発表する、
「問17、グリシン、アラニン、フェニルアラニンの混合物から生じるトリペプチドの組み合わせは何種類あるか。なお、結合の順序は考えないものとする。まず最初にグリシンをGly、アラニンをAla、フェニルアラニンをPheとすると、Gly×3、Ala×3、Phe×3、Gly×2+Ala×1、Gly×2+Phe×1、Ala×2+Gly×1、Ala×2+Phe×1、Phe×2+Gly×1、Phe×2+Ala×1、Gly×1+Ala×1+Phe×1の10種類となります。よって答えは10種類となります。」
まあこんな風にここ最近はやっている。つっかえずに言えて良かった…
そのあとは先生が追加の説明をする、
「はい、この問題は3つづつアミノ酸を組み合わせていけば大丈夫ですね。フェニルアラニンは必須アミノ酸ですから私たちにとってこれは外から摂取しなければいけないわけでありますね。はい、次の人。」
こんな風に順々に説明していくわけである。
・・・・・・・
今日も地獄の8時限目が終わりようやく放課後となった。外はもう真っ暗だ。まだ白い息はでないもののかなり寒くなってきた。学校の前ではバス待ちの生徒が長い行列をなしている。これは三台目かな。
予想通り、三台目のバスに乗ったが、座れずにつり輪を掴み立っている。減った体力をさらに削られていく。暇なのでスマホでラノベを読み始めた。好きなジャンルはファンタジーや異世界もの。特に〇リーポッターは大好きで本や映画に出てきた呪文をすべて覚えてぐらいだ。最近は異世界ものが中心となっている。原因としては受験という勉強地獄から逃れたいというものとガミガミいってくる父親からの逃避だ。異世界に行ければ…なんて思いを馳せているのだ。また父は頑固なため融通が効かない。スマホでのゲームを禁止されているものの妹と共にやっている。しかし、ずぼらな妹なのでばれそうになったときはいつも俺が尻拭いをしている。全く世話が焼ける。
今日は道が混んでいて到着時間を大幅に遅れたが無事に駅に着いた。そこから歩きだが商店街は明るいけれど、家の近くはまばらにしか街灯がなく、暗い場所が多い。
もうじき家に着くところまで帰って来た。スマホを見るともう8時を越えている。すると、メッセージが入っているのが目に入った。どうやらバド部の後輩からのようだ。
〉明日の昼休みに卒業アルバム用の部活の集合写真を撮りたいと思っています。なのでラケットとユニフォームを持ってきてください。
そうか、もうそんな時期か、と改めて感じた。そして返事を打つ、
〉わかった。"僕"から他の人に伝えておこうか?
こう打って送った。俺は仲良くない人やまだ関係の浅い人、言ってみれば信用できると言えない人に対しては"僕"と言う。これは小学校で受けたいじめからだ。いじめてきたやつが、
「お前は転校してきたばっかの癖にでしゃばってんじゃねえよ!」
とさんざん言われたことからだ。実際、早く仲良くなろうと誰それ構わず積極的にいったのが仇となった。それからは俺は、初めての人や仲良くない人に対しては"僕"を使うことででしゃばっている感じを消し、他人と間をつくり、いざとなったら関係を切りやすくしてきた。それが今の広くて浅い関係に繋がった。今ではようやく仲のよい人ができた。でももう二度と同じことを味わいたくない。一種の自己防衛だ。
送った後はクラスのメッセージなどを見ながら帰っていった。遠くからスポーツカーの音やサイレンが聞こえる。
「将来、俺もスポーツカーが買えるぐらいの生活ができているかなあ…」
こんなことをぼやいた。
それから歩いて数分、小文字のYを鏡に写した形のY字路まで来た。俺がいるのは直線ではない方の道だ。直線の方を渡ればすぐ家につく。スポーツカーとサイレンが近くなっている。でもここじゃないかなと思い歩行者信号が青になって渡ろうと少し前に出た瞬間、白線ギリギリで走っていた高速のスポーツカーに跳ねられた。建物の音の反響のせいだろうか、この通りではないと思ってたのに。当たった瞬間、体は中に浮き、時間はゆっくり過ぎる。そして再び地面が近づいてきたので目を閉じて衝撃に備えた、が痛くはなかった。しかし、今俺は、"俺"の体を上から眺めている。体は足がちぎれ、血が流れででいる。サイレンをならしていたパトカーもやって来た。どうやらスポーツカーを追っていたらしい。俺にぶつかったスポーツカーは衝撃でコントロールを失い電柱に衝突して止まっていた。パトカーから出てきた警官は俺の体に近づき、
「早く119番を!」
と叫んでいた。衝撃からか、野次馬たちが現れ始めている。警官もパトカーから黄色いテープを取り出し立ち入り禁止としてテープを張っていった。
それからは数分後、救急車が到着し俺の体は運ばれていった。すると俺の上のくうかんが突如開き、吸い込まれた。
「うわああぁぁ・・・・
・・・・・・・
・・・あぁ、夢だったのか…」
目を開けると船の中。そう"僕"は今、王都へと向かっている最中だ。どうやら朝らしい。かなりの時間寝ていたらしい。酔いもすっかり取れた。
食堂へ行き、そこでエルフの3人に今一度感謝を伝えた。するとそこへレーシャさんがやって来て小袋を渡された。
「これは?」
「酔うのを防いでくれる薬だよ。乗る前に言ってくれれば良かったのに。これでもう大丈夫だよ。」
「ありがとう。早速飲むね。…あんまり苦くない。もっと苦いかと思った。」
「そこは薬師である私の技だよ。えっへん!」
僕よりも4、5歳年下の女の子に助けてもらったことは少し恥ずかしいがこれで快適に過ごせるだろう。
「本当にありがとね。」
「うん!」
満面の笑みで返してきた後、レーシャさんは去っていった。
その後の僕はみんなで話したり、釣りをしたりと楽しい船旅を過ごした。そして三日目の夕方、王都の港へと着いた。いよいよ王都観光と国王との面会が始まる。
読んでいただきありがとうございます。今回は硝之の事故の敬意と地球での硝之の人物像をメインに書かせてもらいました。次回は今までの登場人物とステータスを書きたいと思っています。感想やこうしてもらいたい・この方がいいというところや、誤字・脱字がありましたらぜひよろしくお願いします。




