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2 幽霊少女は大和撫子

本日2話目。



「うぅん・・・あれ?俺は・・・」


目が覚めると同時に頭を柔らかい感触が包み込んでいることに気付く。我が家に果たしてここまで気持ちのいい枕はあっただろうか・・・そんな疑問を抱きつつ俺は目を開けてーーー唖然とした。


見上げる位置にはとびきりの美少女がいたからだ。本来黒い髪に隠れているであろう顔は俺の位置から見える限り整っており、血が滴っていてもその美しさは薄れることはなく輝いていた。瞳は鮮血のように真っ赤だが・・・その瞳には悲しみの色が浮かんでいるように見えた。


「ねぇ・・・あなたはどうして私を拒まなかったの?」


少女がそう問いかけてきた。その言葉に俺はなんとなく状況を思い出す。

そうだ・・・確か借りた呪いのビデオを見てたら目の前の少女が出てきたんだよな。てことは彼女は幽霊なのか?


「私が怖くないの?」

「怖くないことはないよ。けど・・・なんか少し悲しそうな表情をしてたから」

「・・・そんな理由?」


その少女の言葉に俺はポツリと昔を懐かしむように言った。


「昔さ・・・俺、クラスメイトからいじめをうけていたんだ。子供だったんだろうけど・・・その時誰も助けてくれなかった。家族も先生も友人だと思っていた人も全員俺に問題があるからって逆に俺を叱ってきてさ。子供ながら理不尽だと思ったものだよ」

「・・・それで?」

「学校には意地でも行ったよ。誰も味方がいないなら一人で頑張るしかないって。とはいえ、仕返しなんか馬鹿みたいだからいっそのこと学校に荷物はほとんど持っていかないで家でその分勉強したよ。必死になって勉強だけに精を出してさ・・・妨害されてもクラスで一番いい成績を取ったんだ」


今でも思い出すのは自分より格下だと思っていた奴がいい成績をとっていることに唖然としたような馬鹿な連中の顔。教師ですらそれは例外ではなかった。ほとんど授業を聞いていないと思っていた生徒が好成績を取ったとなれば無視はできない。

とはいえ、俺はそのクラスの担任以外の先生には色々といい顔を見せて優等生の顔を見せていたので、他の先生は今さらそんなことに驚く担任に逆に驚いていて、しかも俺が涙ながらに信用を勝ち得た先生にいじめのことを訴えたらあら不思議・・・あっという間に情勢はこちらに有利になった。


担任は他の先生からのバッシングを恐れて見てみぬふりをしなくなった。もちろんそれは表面的なことに過ぎないが・・・俺はそれでも、卒業まで耐えることはできた。


「・・・その時の気持ちを今でも覚えてるんだよ。誰も味方がいなくて助けてくれない苦しさ・・・一人で頑張るって字面だけみれば格好いいけどさ、結局のところ誰よりも辛いって。だから君を見たときに拒めなかった」

「・・・私が悲しそうな表情でいたから?」

「それもあるけど・・・君が悪い悪霊で俺をあの世に連れていくならそれはそれで構わないって思ったんだよ。それで君の孤独が少しでも和らぐなら」

「あなたは・・・一体・・・」


俺の言葉に呆然とした表情を浮かべる少女に俺は笑顔で言った。


「西園寺拓斗だよ。拓斗でいい」

「拓斗・・・」

「君の名前を聞いてもいい?」


そう聞くと少女は一瞬だけフリーズしてから・・・ポツリと言った。


「・・・アリス」

「アリスね・・・可愛い名前だね」


そう言うと少女ーーーアリスは驚いた表情を浮かべて言った。


「そんなこと初めて言われた。皆、黒い髪でアリスは変な名前だって馬鹿にされたから・・・」

「そうかな?俺はいいと思うけど・・・ところで君は俺をこれからどうする予定なのか聞いてもいい?」

「・・・殺すって答えたらどうするの?」


ポタリと顔に血がたれてきた。俺はそれを脱ぐってから・・・少し考えてから言った。


「怖いけど・・・それで君の気が晴れるなら喜んで命を差し出すよ。幸いにも俺には大切なものは何もないからね」


そう言うとアリスは少し悲しげな表情で言った。


「あなたは優しいのね・・・」

「偽善者なだけだよ」


そう、俺は優しくなんてない。ただの偽善者だ。本当に優しい人間なら彼女にこんな悲しそうな顔をさせていないだろう。

そんな俺の言葉に首を降ってアリスは言った。


「こんな想定外の反応はあなたが初めてだから・・・皆、私を見ると一目散に逃げるか気絶するだけだったから。まさか抱き締めて貰えるなんて思わなかったわ」

「嫌だった?」

「・・・不思議と嫌じゃなかった」

「そっか・・・なら良かったよ」


女の子を無理矢理抱き締めるなんてある意味事案なわけだが・・・合意なら大丈夫だろう。

そんな俺の気持ちを察したのようにアリスは笑って言った。


「変な人・・・」

「お互い様だよ」


なんとなく笑いあう。彼女の瞳はまだ悲しそうではあったが・・・その表情は少しだけ明るくなっていたように見えたのだった。





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