1 呪いのビデオから出てきた少女
とあるアニメで幽霊少女が可愛いすぎて、思い付きで書いてみた作品・・・他の作品より更新頻度は低めの予定です。
「呪いのビデオねぇ・・・」
友人から渡されたその手書きのパッケージのDVDを見ながら俺、西園寺拓斗は半信半疑にそう呟いた。
特別ホラーが好きなわけでもなく、だからと言ってまったく信じていないわけでもないので、こういう怪しげな、いかにも手作り感が満載の呪いのビデオとかいう地雷っぽいものは嫌いじゃないが・・・
「にしても、ホラー好きな一也がガチでヤバいって言ってたのが気になるな・・・」
俺の友人である坂井一也はホラー系統が好きでよくこういった作品をすすめてはくるのだが・・・今回は珍しく深刻な顔でこれを渡してきたのが気がかりだった。
『拓斗。これはマジでヤバい。本気で呪われたかも・・・』
そんなことを顔面蒼白で言われて手渡されたが・・・いわくつきのそんな品を友人に渡すほどの余裕があれば大丈夫だろう。
「まあ、とりあえず見てみるか・・・」
せっかくなので俺はそのDVDをセットして再生ボタンを押した。
序盤はその手のホラーものみたいに注意書きというか、このビデオを見たら呪われるというテロップが流れてから、素人が撮影したような荒い動画が再生された。
内容は、廃坑の奥を探索していると、謎の影が・・・みたいな展開で、俺はそれをポケーとしながら見ていたが・・・何故か途中で映像がきれて、ノイズばかりの画面になってしまった。
プレイヤーは正常に作動しているし、編集ミスかと思ってスキップボタンを押すが・・・何故かスキップできなかった。
何度か試してダメで、本体を止めようとするがーーーDVDの挿入口は何度ボタンを押してもまるで反応しなかった。そんな異常な事態に首を傾げてテレビのリモコンを操作してチャンネルを変えようとするが、それも出来ず、電源をきろうとしてもこちらも反応がなかった。
そんな異常事態に俺は一応最後の抵抗にと、コンセントをダメ元で抜いてみたが・・・映像が消えることはなく、ノイズのような画面のままだった。
「んー・・・もしかしてマジもんの呪いのビデオなのか?」
若干、不安になりはじめたが・・・なんとなく俺はそのままノイズのような画面を見続けることにした。
『ーーーーーーー』
しばらくその画面を見ていると、言葉に出来ない不気味音まで聞こえてきた。甲高いそれは叫びだろうかーーーそんなことを考えていると次第に音は大きくなっていく。
『ーーーーーけて』
ふと、ノイズの画面に何かがよぎったように見えた。
『ーーーーーたーーーてーーー』
画面のノイズが次第にひとつの影を生み出していく。今まで呪いのビデオはかなり見てきたが・・・こんな異常事態は想定外だったので、部屋の暗さも相まって若干の恐怖とーーーワクワクする子供心を抑えるのに必死だった。
『ーーーしてーーーーたーーーーて』
やがてノイズがはっきりと人の形になり、こちらを見ているようだった。
『殺ーーーーてーーーすーーけて』
もはやはっきりと人だとわかるそれは、やがて画面から異常なほどに真っ白な女性の腕らしきものが出てきた。
『殺しーーーーたすーーて』
右手の次は左手、そしてギョロりとした瞳がはっきりと見えた。
そしてやがて、鮮血に染まったーーー血に濡れたようなほどに真っ赤な液体をつけた髪の長い女性だと思われる生き物がこちらを見ながら近づいてきた。
『殺してーーー助けてーーーー』
はっきりと聞こえてきたのはそんな言葉。甲高いものだが、間違いなく何かを欲しているそれを見て俺はーーー
「・・・お、おいで」
間抜けにも手招きしていた。ずりずりと地面をはいながら近づいてくる生き物のギョロりとした瞳が何故か悲しそうに見えてーーー俺はその生き物が近づいてくるのを肩を震わせて待った。
怖くないわけではない。こんな異常な現象に怖くないというほどに神経は図太くはないがーーーそれでも、悲しげな彼女を無視できなかったのだ。
『殺してーーー助けてーーー』
はっきりと聞こえる。繰り返しているのはそんな言葉だった。殺して、助けて。果たしてどちらなのかわからなかったが・・・俺は彼女が近づいてくると、そっと、その血に染まった華奢な身体を抱き締めていた。
震える手を必死に抑えて俺は出来る限り優しい声で言った。
「大丈夫ーーー俺が助けてあげるから」
「ーーーーーーァアアアア!!!」
抱き締めた彼女は腕の中で暴れてから首筋に噛みついてきた。鈍い痛みが走るとともにおそらく血を吸われているのだろう。
そんな彼女の背中を俺は優しい撫でてから言った。
「大丈夫だよ・・・側にいるから」
幼子をあやすようにそっと抱き締めて言った。怖いけど、悲しげなその女の子を見て俺は自分でもよくわからない感情にかられていた。悪霊なのかもしれない。でも、助けを求めている。こんな姿で助けを乞う女の子を見捨てることなど、例え偽善でも俺にはできなかった。
やがて俺の視界がぼやけ始める。貧血だろう。そんな感じで意識を手放す最後まで俺は彼女の背中を撫で続けてーーー
「・・・・どうして・・・」
そんな呟きが聞こえてきてから俺の意識は闇に落ちたのだった。