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プロローグ03 円卓会議

 アヴァロン王国王城内にある大部屋に複数の人間が集まっている。

 部屋の中央に備え付けられている円卓を囲むように座っている人間たちはそれぞれが神妙な面持ちだ。

 重苦しい空気の中で一人の男性が口を開いた。


「さて、知ってのこととは思うが、今世界は危機的状況にある。今後の対策について皆の知恵を借りたい」


 口を開いたのはアヴァロン王国国王である。

 世界最大の国家の頂点に君臨する男だ。

 ゆっくりとした口調だが、威厳を感じさせる。


 しかし、円卓を囲む者たちは王の言葉を聞いても誰も言葉を返さない。

 いや、返せないのだろう。

 誰も問いに対する的確な答えが思い浮かばないのだ。

 皆一様に頭を抱えている。


「どうだ、シグムンド。騎士団長のそなたなら何か良い知恵は無いか?」


 国王は一人の男に視線を向けながら問い掛ける。


「わ、私ですか……。すいません、私には良い案を出すことはできませぬ。出現する魔物を適宜殲滅するくらいしか思いつかないのです」

「それができれば苦労せぬ」


 円卓は再び沈黙に包まれる。


 この円卓を囲む会議が行われている理由はかなり深刻なものだ。

 数日前に魔物から世界を護っていたバスティオン皇国が滅ぼされたのである。

 それが意味することは、魔物が世界中に溢れるということ。

 今までは魔物との戦いなど他人事だったのだが、今や当事者になってしまったのである。


「国王陛下。発言しても宜しいでしょうか」

「かまわん、申してみよ」

「このまま話し合いをしていても結論はでないと考えます。まずは、騎士団の再編成と育成を行うのが優先かと」

「……うむ。現状では取れる対策もないということか」

「失礼ながらそうかと。後は各国の連携を深めるしかないかと。これはもはや一国の問題ではありませぬ」


 国王に対して意見を述べたのはアヴァロン王国騎士団元帥である。

 騎士団の全権を握る権力者だ。

 そして、彼の言う通り、今までぬるま湯の中で生活してきた騎士団では魔物への対抗手段になり得ないだろう。

 育成環境を整えて、次代の戦力を育て上げることが急務なのだ。

 そして、申し訳程度の国交しかしていない周辺諸国との連携を深めて問題解決へ向かう。

 それが、人類が生き抜く上で必須の事項ともいえる。

 会議をしている時間すら勿体ないということだ。


「では、円卓会議はこれでお開きとしよう。貴重な時間を使わせてすまなかった。各人、おのれの使命を全うせよ」


 国王の一声で集まっていた者たちが一斉に立ち上がる。

 その刹那、


『やあ、人間諸君』


 異質な声が空間に反響した。


「陛下!」


 元帥が反射的に剣を抜き、国王の前へ躍り出て盾となる。

 素早いその動きは彼が実力を持ってその地位にあることを示す。

 同時に国王への忠誠心も確かなものだ。


 そして、ざわつく会議場内に声の主が登場した。

 何もない空間に漆黒の粒子が集まっていき、姿を構築していく。

 恐ろしい光景だ。


「何が起きている……」


 その光景を眺めながらその場にいる者は息を呑む。

 経験したことのない事態が目前で起こっているのだ。

 如何に国家の権力者であっても対処できないのだろう。


『構築まで少し時間がかかってしまったな』


 漆黒の粒子は人の形を形成した。

 いや、人と呼ぶには禍々しすぎる。

 一目で敵と分かる形相をしているのだ。


「何者だ、貴様!!」


 シグムンドと呼ばれていた騎士団長が剣を抜き異形の存在へと突きつける。


『物騒だな。別に争うつもりはない。剣を納めてくれないかな』

「魔物の言うことなど聞けん!」


 シグムンドは異形に斬りかかった。

 その動きは室内にも関わらず俊敏だ。

 彼もまた実力通りの地位にあるのだろう。


 ガキン


 鈍い金属音が室内に響く。

 そして、金属音から一呼吸遅れてドスッと音を立てて何かが壁に突き刺さる。

 突き刺さったものは鋭利な剣先。

 シグムンドの剣が綺麗にへし折られているのだ。


「……なんという力だ」


 シグムンドは切っ先の無くなった剣を眺めながら青ざめた顔をしている。

 実力の違いを思い知ったのだろう。

 自分には勝てる相手ではないと。


『危ないな、急に斬りかかるなんて。次は剣じゃなくて君の頭が飛ぶよ?』


 異形の存在は殺気の籠った双眸で室内にいる人間をゆっくりと眺めまわす。

 人間のような顔立ちだが、その目からは恐怖しか感じられない。

 もはや室内に戦う意思のある者はいなかった。


『それじゃあ、ここに来た要件を言おう』


 人間たちはゴクリと唾を飲み喉を鳴らす。

 この恐ろしい異形は何を言ってくるのか。

 何を要求してくるのかを固唾を呑んで待っている。


『ここから北にある人間の国が滅びたのは知っているだろう? まあ、単刀直入に言うと宣戦布告ってやつをしに来たんだ。これから人間を蹂躙するから宜しくってね。抗いたいなら抗ってみるといい。矮小な人間諸君』


 それだけ言うと異形の姿が漆黒の粒子として霧散していく。

 最初から何もいなかったように室内は静寂に包まれ、人間たちは唖然とした表情をしている。


「宣戦布告……か」


 この日、アヴァロン王国以外の国家でも異形による宣戦布告が行われた。

 この日を境に本格的な人間と魔物の戦争が始まったのである。

 城塞国家が滅びたことなど序章に過ぎなかったのだ。


 これから数十年に渡り、人類は敗北の歴史を積み重ねていくこととなる。

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