7話 凄腕冒険者
「ようやく見つけたぜ。ターゲットはこいつだよなぁ、カレン」
「そうよ、フレット。このドラゴンが今回のターゲットね」
空洞の奥から先ほどの雷撃を繰り出したであろう二人組が現れた。
ドラゴンを前に全く動じた様子を見せないことから、かなりの手練れであることは容易に想像できるだろう。
それでなくても、先ほど発動された雷魔法は超級魔法であり、扱える人間などこの世にそう多くはない。
「あの二人相当強いよ」
「分かってる。あんなプレッシャーを放つ人間見たことねえからな」
「味方……かしら?」
「現状じゃあ判断できないな。ただ、ドラゴンと敵対していることだけは間違いないけどな」
岩陰から成り行きを見ているシルトたちは、ドラゴンと対峙する二人の存在を見て各々が感じたことを口にしている。
「あの二人、まるでバケモノだな。いや、英雄ってやつか?」
「英雄だと信じたいけどね」
目の前でドラゴンと対峙しているのは男と女の二人組だ。
男の方はかなり重厚な大剣を手にしていることから剣士やそれに準ずる役職だろう。
そして、かなり凄腕であることは一目で分かる。
女の方は宝石を散りばめたような杖に魔法のローブを身に纏っていることから、先ほどの雷撃を放った超一流の魔導士だと推測できる。
この二人組はかなり名の知れた冒険者なのだが、今のシルトたちは知らないようだ。
その時、ドラゴンとの戦闘に動きがあった。
「さっさと片付けて帰るぞカレン。こんな辛気臭い場所に長居したくねぇ」
「そうね。私も洞窟はあんまり好きじゃないし」
「そうと決まれば、最初から全力でいくぜぇ!」
ドンッという足音が聞こえるほどの踏み込みで、フレットが剣を振りかざしながら、ドラゴンへと切りかかったのである。
大剣使いとは思えないほどの俊敏な動きだ。
本来大剣といえば、重みを活かした一撃を与えるものであり、その重さから動きに制限がかかるものなのだが、フレットの動きはまるで短剣でも装備しているかのような素早さだ。
身体能力を強化する魔法をかけているのかもしれない。
『グゥァアア』
ドラゴンの咆哮が空洞に響き渡る。
フレットの斬撃がいとも容易くドラゴンの鱗を切り裂いたのだ。
動きの速さに加えて、大剣本来の重い一撃を与えられるようで、ドラゴンの体からは血が噴き出している。
なんとも出鱈目な強さだ。
かなりの硬度を誇るであろうドラゴン鱗をものともせずにダメージを与えているのだから。
「さっさとくたばりやがれ!」
フレットは攻撃の手を休めずに幾度となくドラゴンへ斬りかかる。
かなりの重量があるはずの大剣を軽々と振るい、喜々とした表情を浮かべて目標を切り刻む姿はまるで鬼神のようだ。
そしてフレットは疲れを知らないかのように大剣を振り続けている。
ドラゴンは体を徐々に削がれていく。
しかし、流石は伝説の生物だけあって、致命傷は負っていないようだ。
そして、ドラゴンもやられるがままという訳ではなかった。
一撃浴びせれば致命傷になるであろう鋭い爪を振りかざし、尻尾を叩きつけて、フレットに対し攻撃を繰り出している。
凄まじく鋭い一撃だ。
尻尾が叩きつけられた地面はひび割れ、爪が掠った岩は砕け散る。
しかし、そんな恐ろしい攻撃はターゲットの体を捉えることはできない。
攻撃されているはずのフレットは全ての攻撃を紙一重で躱しているのだ。
軽々と躱せる攻撃ではないはずなのだが、この男はどこまで強いのだろうか。
いや、攻撃を予測して躱しているようにも見える。
ドラゴンとの戦いに慣れているのかもしれない。
ただ、ドラゴンがここまで苦戦する理由は他にもある。
この洞窟という空間がドラゴンにとってかなり動きを制限される空間になっているようなのだ。
背中に悠然と備わっている翼も洞窟内では広げることのできない無用の長物。
もし空に飛び立つことができればここまで一方的に攻撃されることもなかったのかもしれない。
斬撃を続けていたフレットは一度ドラゴンから距離を取り、カレンの傍へと戻ってきた。
なかなか決着がつかないため、他の方法を取る魂胆のようだ。
「カレン、そろそろ終わらせる。力を貸せ!」
「分かったわ、付与魔法をかけるからそこにいて。」
カレンはそう言うと煌めく杖に魔力を込め始めた。
杖はキラキラと光を放ち始め、美しくも恐ろしい魔力に包まれている。
『汝に天空を震撼させし力を与えん ―― サンダーストラック ――』
カレンが魔法を発動させた。
まばゆい光はフレットの大剣へと集まり、バチバチと音を鳴らす雷の魔力が付随されたのである。
この世界にはエンチャントと呼ばれる魔法が存在する。
エンチャントとは対象物に特定の属性を付与する魔法だ。
エンチャント自体はそこまで上位の魔法ではないのだが、先ほどカレンが使った魔法は通常のエンチャントとは魔法の質が違う。
エンチャントとはあくまでも属性を付与するに過ぎない魔法のため、多少の追加効果が望める程度の効果なのだが、カレンの魔法はまるで剣そのものが雷になってしまったかのような魔力量だ。
おそらくエンチャントの上位互換なのだろう。
「上出来だぜ、カレン!」
フレットはその場で足を肩幅に広げて腰を落とす。
そして剣を構えて、意識を集中する。
ドラゴンを視界に捉え、タイミングを見計らう。
そして一言、
「まあ、ゆっくり眠りな、ドラゴンさんよぉ。『霹靂神一閃』」
目にもとまらぬスピードの一歩と一刀を放つ。
凄まじい閃光と雷撃を纏った一刀は的確にドラゴンを捉えた。
ドラゴンに攻撃が命中した瞬間、空洞内には雷鳴と雷光が轟き、場違いな明るさを演出する。
再び暗闇が訪れた空洞は静けさに包まれていた。
攻撃を受けたドラゴンは動体は両断され、力なく地に崩れ落ちていく。
絶命したのだ。
圧倒的な力の差を見せつけて、フレットとカレンの二人組はドラゴンに勝利したのである。
これが、上位冒険者の力だ。
シルトたちからすれば雲の上の存在。
そして、目標とすべき存在だ。
静寂の空洞で、フレットはドラゴンの亡骸へと近づいていく。
「終わった、終わった。素材を回収してさっさと引き上げるぞ」
そう言うと、フレットは慣れた手つきでドラゴンの鱗や牙、爪などのパーツを回収し始めた。
この動きを見るに、やはりドラゴン退治はこれが初めてではなさそうだ。
シルトたちは岩陰でただ息を潜めて素材回収している二人が去るのを待っている。
これほどの力を持っている二人だ。
本来なら救助を求めるべきなのかもしれない。
しかし、現状では味方かどうか判断できないため、接触は避けた方が無難だと判断したようである。
フレットとカレンがこの場所までドラゴンを倒しに来れたということは、少なくとも普通に出入りできる通路があるということ。
無事に出るルートがあるという事実だけで良しとすることにしたのだ。
フレットとカレンはあらかた素材の回収を終えたようで、来た道を引き返し始めた。
しかし、空洞を出る瞬間、フレットがシルトたちの潜む岩を一瞥したのだ。
鋭い眼光がシルトたちの潜む岩陰を注視する。
シルトたちは口を手で覆い、身じろぎ一つせず、息を呑み、物音を立てないように身を潜める。
どうか気づかないでくれと心の中で祈りながら。
数秒の後、フレットは出口へと歩き出した。
おそらく岩陰に何かが潜んでいることには気づいたのであろうが、これ以上労力を使いたくないのか、それとも無害だと判断したのか、特に何もせず去っていったのだ。
フレットとカレンの足音が離れて行き、聞こえなくなったころ、
「……助かった~。今日一日でどれだけ死ぬ思いをしてるんだ俺たち」
「本当よね、死んでもおかしくない状況だったわ。むしろ生きてることが不思議なくらいよ」
「冒険者って大変な仕事だね……」
三人は脅威が過ぎ去ったことに安堵し、また冒険者が命がけの職業であることを再確認しながら話しを交わしている。
三人とも額から冷や汗を流し、バクバクと鼓動が早くなっていることから、本気で命の危険を感じていたようだ。
「早くここを出ましょう。ドラゴンという存在がいなくなったことで魔物が入り込んでくるかもしれないわ」
「これ以上危険な目に合うのは勘弁だしな」
洞窟脱出のためフレットたちが出ていった通路へと歩を進める三人。
ドラゴンの亡骸の近くを通過する際にロゼがあるものに気づいた。
「ちょっと待って、二人とも」
「ん?」
「どうしたの?」
「あそこに何かあるわ」
ロゼが指さす先には楕円形をした何かが、護られるように岩陰に隠れていた。
「これって……卵……よね」
「卵だな」
「卵だね」
ロゼが見つけたものは紛れもなく卵だった。
大きさこそ三人が知っている卵よりも大きいが、楕円形のフォルムからして間違いないだろう。
そしてこの場所にある卵ということは、十中八九ドラゴンの卵だ。
「ドラゴンの卵だろうけど、どうするつもりだよ、ロゼ?」
「どうするって言っても……」
そのとき、パキパキと音を立てて卵の殻にヒビが入り始めた。
凄まじいタイミングだ。
そして、それは数分もしないうちにドラゴンの赤ちゃんが生まれることを意味している。
「おい! 生まれるぞ、どうするんだ!?」
「どうするって言っても、このままここには放っておけないでしょ!? この子にはもう母親がいないのよ!」
「確かにそうだけど……」
ピシピシ。
パカッ。
『ピィィィー!』
卵の中から元気なドラゴンが産声を上げた。




