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外套の裏

ギリギリだけど何とか投稿!。

案の定二話では収まらなかったので次話でリドルとの試合は終わりの予定です。

「ふっ!」


前へと飛び込みながらライが剣を突き出す。

突き出された剣の切っ先がリドルの持つ外套に触れた瞬間、何か硬質な物とぶつかったかのようにライの剣が動きを止める。


「!?」


目の前ではためく外套ではあり得ない感触にライが目を剥く。


「ほれ!!」


そんな掛け声と共にリドルが外套を勢い良く翻すとライの剣が弾き返される。

剣を弾かれ後ろに退く最中、ライははためく外套の裏に鈍色に光る刃を見た。


(外套の裏で剣を構えていたのか!)


はためく外套にばかり気を取られ、その裏の事にまで気が回っていなかった自分自身にライが舌打ちする。

しかし一度は見る事が出来た、それならば次からは驚く事などもう在り得ない。

そう考えながらも何故かライはリドルに斬り掛かる事を躊躇していた。


「ほれ、どうした?来ないならこっちから行くぞ?」


手首を軽く捻り外套をヒラヒラと揺らしながらリドルが挑発する。


(このまま躊躇してたら何時まで経っても勝つ事なんて出来ない、危険を承知でここは――)


そうライは決心すると大きく前へと踏み出しながら鋭い一撃をリドルに見舞う。

しかし一度退いていたが為に間合いが開きすぎていたのか、その一撃には届かず外套の表面スレスレを撫でるだけに終わる。


「何を躊躇っとる?もっと踏み込まんか!」


繰り出されるライの斬撃を軽々と避けながらリドルが言う。

リドルの言う通り、ライは先程外套に掠めた時から間合いを詰めようとはせず常に一定の距離を保っていた。

リドルからの反撃を恐れている訳ではない、ライはもっと別の物を警戒していた。


「まったく、年寄りの忠告は素直に聞くもんじゃぞ?。さもないと――」


回避のみだったリドルが動きを見せる。

左手首にスナップを利かせながらリドルが左手を突き出す。

左手に持っていた外套が翻り、その端がライの鼻先に触れる。


「なっ!?」


ライの鼻先で揺れる外套、それはライの鼻から下、リドルの首から下までをライの視界から完全に隠してしまう。

突如奪われた視界、リドルの予想外の行動にライが一瞬動きを止める。

そしてその隙をリドルは見逃さなかった。


ライが把握する事が出来ない外套の裏側でリドルは大きく足を踏み出し、剣を横薙ぎに振るう。

横薙ぎに放った剣はライの剣先にぶつかるとライの剣を用意に外套の外側へと弾き出す。


「ぐっ!?」


その感覚に外套の裏で何が起こっているのかを察知したライが慌てて退く。


「今のは警告じゃ、次は無いぞ?」


そう警告するリドルを前にライは考えていた。


(予想が甘かった…隠す戦いと聞いて勝手にイメージを凝り固まらせていた)


隠す――その言葉から連想されるイメージは相手から自分の物を見えないようにする事を思い浮かべるだろう。

外套の裏に剣を隠す等がまさにそれだ。


だがリドルの隠すにはもう一つ、相手から自分の物を見えなくするのではなく”自分から相手の物を見えなくする”という物が含まれていた。

相手の物、今回の場合はライの視界だ。


リドルに外套によって視界を隠された際、ライはリドルの身体の動きだけでなく、自分とリドルの距離感さえも分からなくなっていた。

リドルが一歩足を踏み出した際ライの右腕と剣は既にリドルの間合いに入っていたが、視界を隠されたライは自身の剣とリドルの剣がそれ程までに接近している事に気が付くことが出来なかった。


(さっきの視界隠しの対処法はあるし問題はない、問題があるとするならあの外套)


ライが先程剣先で外套の表面を撫でるように斬った時、剣先から伝わるほんの僅かな抵抗感に気が付いていた。

何かが剣先に引っ掛かるようなそんな感覚、ただの布を斬った時とは違うその感覚がライは気になっていた。


(あの外套思ったよりも生地が厚い、それに布というよりは革に近い感じがした。見た目以上に丈夫なのは間違いない。厄介だな…)


ただ丈夫なだけなら何の問題も無かった。

だがライが感じたあの剣先に引っ掛かるような感覚、あの外套は恐らく防刃用の物だろう。

深く剣を振るえば外套に引っ掛かり、絡め取られる危険性もある。


(あの外套がある限り迂闊に斬り込めないな…でもそれは――)


剣を構えながらライが突撃する。


(向こうも同じだ!)


ライが唯一外套に隠れていないリドルの頭部目がけて剣を突き出す。

頭を狙われる事はリドルも分っていたのだろう、突き出された剣の腹に自身の剣をぶつけ、その軌道を逸らす。

しかし防がれるここ都はライも分かっており、突き出した勢いのままリドルの脇をすり抜け振り向き様に剣を薙ぎ払う。


続け様に放たれた一撃をリドルは外套と剣で防ぎ、反撃の為にライに接近する。


(来た!)


外套が翻り、外套の裏でリドルが剣を構える。

ライからは見る事の出来ない不可視の一撃、だがライはそれを距離を取る事で難なく回避する。


「ふむ、流石に気付くか」


ライの動きを見て、リドルが呟く。


防刃の外套、それは相手の攻撃から身を守るのと同時に自身の攻撃の妨げにもなっていた。

ライが剣を外套に絡め取られる事を警戒しているように、リドルもまた同じように警戒していた。

だからこそリドルはライに攻撃を仕掛ける際、外套を翻し相手の視界を隠しつつ自身の攻撃の妨げにならないよう外套を移動させていたのだ。


つまりリドルの攻撃には外套を翻すという予備動作が存在していた。

それさえ分かってしまえば例え不可視の一撃であろうと事前に察知し距離を取る事は簡単であり、さらにリドルが前身を隠すように外套を構えている間は反撃を受け辛いという事でもある。


(攻め、受けどちらもある程度は分かってきたけど、それでもやっぱりこんな戦い方をする魔物に心当りは無いな)


リドルの戦い方を理解してきたとは言え、現状を打開するような策は思い付いてはいない。


(もっと情報が必要だ、リドルさんのあの外套を攻略するための情報が)


そのためには無駄だと分かっていてもリドルと斬り合うしかない。


ライは外套に剣が絡め取られないよう注意しつつ、少しでも多く相手の情報を引き出そうと剣を振り続けた。

襲い来る剣を躱し、時に防ぎ弾き、まるでドレスのように外套を翻しながらリドルはライの動きを観察していた。


「のぉ、随分と肩に力が入っとるようじゃがそんな調子じゃこの老い耄れよりも先に体力切れを起こしてしまうぞ?もっと力を抜かんか、力を」

「くっ!分かってて言ってますよねそれ!!」

「はて?なんのことじゃ?」


焦りと苛立ちが籠った声でライが叫ぶ中、リドルはそれをどこ吹く風と言わんばかりにとぼけた様子で返す。

先程まで冷静に相手を分析しようとしていたライだったが、剣を振るう度に心の中は焦燥感で溢れていった。

そんなライの変化にカレン達が気付いた。


「リンの奴、肩に力を入れ過ぎだ!今まで見せてたあの剣の鋭さが影も形もありゃしない!」

「何か…焦ってるみたい…」

「何故あんな力任せに、リンさんらしく無いですね」

「あんなガッチガチに力を入れて剣を振ってたんじゃすぐにへばっちゃうよ!」

「どっちにしろこのままじゃまずい、一度距離を置いて冷静になって肩の力を抜かないと――」

「違うよ」


カレンの言葉を遮るようにフィアが言う。


「力を”抜かない”んじゃないよ、力を”抜けない”んだよ」

「抜けない?それは一体どういう事ですか?」


フィアの言葉の意味をフローリカが問う。


「リンは普段剣を振る時、腕をまるで鞭のように使う事であれだけの鋭さを生み出してるんだよ。そのためにはある程度の柔軟性、脱力が必要不可欠、でも今のリンに力を抜く事は許されない」

「なんでだい?」

「あのお爺さんがそれを許さないんだよ。リンの攻撃を躱しながらも時折剣をぶつける事でリンを牽制してるの。”僅かでも力を抜いたらその剣を弾き飛ばすぞ”って」


腕に鞭のような(しな)り生み出すには脱力が不可欠、例え指先であっても力を込めてしまえばそれに釣られて腕にも余計な力が入ってしまう。

そのためライは剣を振る際、遠心力で剣が飛んでいかないギリギリの力加減で柄を握っていた。

ギリギリが故に不意に剣を弾かれるような事があれば剣はライの手から簡単に離れてしまうだろう。


「でも私と戦った時に何度かリンの振るう剣を受け止めたが、リンはしっかり剣を握ってたじゃないか」

「それはリンが剣が対象に触れる瞬間に力を込めてるからだよ。そうする事で瞬間的に剣を加速させ、あの鋭さと切れ味を生み出している。でも今はそれが出来ない」

「………そうか、あの外套かい」


フィアの言葉で答えに辿り着いたのか、納得した様子でカレンが説明する。


「あの外套の裏に隠された剣、一体何時、何処でどう構えているのか分からない以上、迂闊に普段通り剣を振るえば予期せぬ所で衝突し、もしその時に力を込めていなければ剣は手から飛んでちまうって事か」

「正解、だからライは最初から振り切るまで力を抜く事が出来ないんだよ」


ライが力を抜けない理由を理解したカレン達だったが、このままではライが一方的に体力を消耗するだけであるのは明らかであり、全員が心配そうな目でライを見つめていた。


「ほぉれどうしたどうした!息が上がって来とるぞ!」

「ぐぅ!こんのぉ!!」


リドルの挑発にライが大きく踏み込みながら剣を突き出す。

それをリドルは右回りに移動するように躱すと同時に外套を広げ、ライの左半身を覆う。


(しまった、踏み込み過ぎた!!)


ライが気付いた時にはリドルはライの半身を覆っている外套の裏に隠れていた。

間違いなく攻撃動作に入っているだろうと考えたライは一刻も早くリドルの間合いから脱出する為にリドルとは反対、自身の右側に移動するために重心を右へと傾ける。


しかし初動の遅れたライよりも早く、リドルが先んじて動きを見せる。

リドルが左腕を振り払うように動かしライの左半身を覆っていた外套を払いのける。

外套によって塞がれていた視界が広がった途端、ライの視界に鈍色に光る刃が映った。


(間に合わない!?)


ライが右に飛ぶよりも早く、リドルの放った一撃はライの頭部に迫っていた。

ライの頭部を完璧に捉えた一撃、どう考えても回避は間に合わない、そう思われた時だ。


「っ!!」


ライが左足を滑らせ身体を極限まで倒す事でなんとか一撃を回避する。


しかし――


「これで終いじゃの」


完全に体勢を崩し地面に倒れ行くライの頭上からそんな声が聞こえてきた。

倒れ行く中、ライが視線だけを頭上に向ける。

太陽の光が逆光となりリドルの全身に黒い影を落としており、表情は魔形に隠れ見えなかったがその声から明らかな落胆の色が伺えた。


リドルが外套を翻しライにトドメを刺さんと剣を構える。


――その時、ライは見た。

翻った外套の裏、突き出そすように構えられた剣、そしてとある魔物の姿を――。

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