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ライの真価

今回は短めです。

次回戦闘で各戦闘は二話づつで終わらせる予定です。

そんでこの章自体は後七話か八話で来月中には終わる予定…です。

もしかしたら話数伸びるかもしれないですが、まぁお盆休み中に執筆を加速させるのでどのみち来月には終わらせます。

実は息抜きに別作品も執筆したいなーと考えてるのは内緒です。シリアス少ないやつ(当社比)

第二回戦を終え日も沈んだ頃、ライの宿舎に昨日のようにリドルが押しかけライと共に酒を飲みながら話をしていた。


「コボルトの次はスプーフか、お前さんの戦い方は千差万別じゃな。対峙する相手に合わせて戦い方がコロコロ変わる」

「まぁ、そうしないと魔物相手にとてもじゃないですけど戦えないですからね。人型の魔物も居れば獣のような魔物、岩のような外皮を持つ魔物に不定形の魔物、どれも同じ戦法では勝てませんから」

「確かに人間を相手にするよりかは多様な戦術を要求されるだろうな。そこで質問だ、今勝ち残っている三人、【豪腕】に【剣乱】そしてこのわし、お前さんならどう戦う?」

「どう…ですか?それは…」


言い渋るライの姿にリドルが言う。


「何、別に無理して言う必要は無い。なんせその相手であるわしが目の前に居る訳だしの、ただの興味ほんじゃ忘れてくれ」


失言だったというようにリドルが発言を撤回する。


リドルの言う通り、ライが言い淀んだのは目の前にその相手が居るからというのもあったがそれだけでは無い。

アドレア、アリス、リドルとその全員が全ての試合を殆ど一撃で終わらせていた。

そのため三人の戦い方に関する情報が不足しており、ライはどの魔物にも当て嵌める事が出来ずに居たのだ。


(【豪腕】は腕力に物をいわせた単純な物、【剣乱】は細剣による突き主体の剣術、ある程度の予想はつくし何かしらの魔物に強引に当て嵌める事は出来る。でも目の前に居るこの人は――)


目の前で酒を呷るリドルに視線を向けながらライが考える。

リドルは以前、自分の戦い方は”隠す”事だと言った。


(姿が見えなくなる、擬態するような魔物とは戦った事はあるけど隠す魔物か…困ったな)


ライは今まで”隠れる”魔物を相手に戦った事はあったが、”隠す”といった魔物との戦闘経験は疎かそんな魔物の話すら聞いた事は無かった。

元来魔物という物は本能で戦う生き物だ。

群れを成す知性を持つ魔物は居るが、そんな魔物でも人間のような高度な戦術を用いる事はない。

一部例外として長い年月を経て人間と同等かそれ以上の知能を獲得した個体も存在するが、そういった魔物は例外なく強大な力を持っており自己顕示欲が強く隠すといった真似はしない。


(そんな知能の高い魔物とも戦った経験も無いし、この人を相手にする時は完全に未知なんだよなぁ…)


ルミエスト、タルートと今まで戦った事のある魔物に置き換えてきたが、リドルに対してはそれが通用しない。


「ふむ…何やら考えとるようだの。差し詰めわしの倒し方といった所か?」

「っ!」

「お前さんはすぐ顔にでるのぉ、もちっと隠す努力をせんか」

「す、すみません」


条件反射でライがそう謝る。


「謝るでない、戦うかもしれん相手の事を考えるのは当たり前の事じゃろう。しかしこんな老い耄れ相手に随分と難しく考え込んどったようだの?」

「…正直に言うとリドルさんが今まで戦ってきたどの魔物にも当て嵌まりそうになくて、どうしたものかと悩んでたんです」


隠しても無駄だと悟ったのか、ライが素直に打ち明ける。

そんなライにリドルが言う。


「何を悩む必要がある。お前さんにとってそんな事は日常茶飯事の事ではないのか?」


それ一体どういう意味だとライが問いかけるよりも早くリドルが続きを言う。


「お前さんは今まで色々な種族の魔物と戦ってきた。そんな魔物と初めて相対した時、それは未知との闘いであったのだろう?」


その言葉にライがハッとしたような顔をする。


「未知との闘い、それは既知との闘いよりも遥かに危険度が増す。何故ならどんな達人であれ、たった一つの読み違いで命を落とす危険があるからじゃ。未知との遭遇、その時に生まれる動揺――お前さんが今日の試合で見せた物がまさにそれじゃ」


ライはタルートとの試合で策を、タルートにとっての未知を見せる事で動揺を誘い、相手の思考を遮る事でタルートのミスを促した。

人は自分の知らない物に遭遇すると必ずそれが何かを考えてしまう。

それは思考の逡巡、躊躇という形となり動作を遅らせ、その遅れが致命的なミスへと繋がる。


「未知とは新たなる始まりである可能性でもあり、それと同様に破滅の可能性も秘めておる。それ故に人は未知との遭遇を本能的に嫌い、それから目を逸らそうとする」


未知への探求、それは創造と破壊の表裏一体、創造とは新たなる始まりであり、古きものの終わりでもある。

未知を探求する者はその内に破滅願望を秘めている事が多い。


「だがお前さんは違う、未知から目を逸らす事無くそれと向き合おうとする。それは破滅的な願望があるからではない、むしろその逆じゃ」

「逆?」

「生きるため、死なないためにお主は未知へと向かう。その未知を未知で無くし、己が身を守る為に」


空になったグラスに酒を注ぎながらリドルが続ける。


「まったく本当に面白い奴じゃ、生きる為に危険を承知で前へ進む。どうしようもなく矛盾しているようで納得出来る部分もある。そしてそんな戦い方こそがライ、お前さんの真価だとわしは思っとるよ」

「俺の…真価?」


言葉の意味を問うようにライがその言葉を口にする。


「お前さんは今までありとあらゆる未知を体験し、それらを乗り越えてきたはずじゃ。それを繰り返す内、お前さんは新たなる未知に遭遇した時、過去との類似点を見つけ出しそれを可能な限り未知で無くし、また即座に対応する術を身に付けておる」

「どうしてリドルさんにそんな事が分かるんですか?」

「分かるさ、お前さんの戦いを二度も見たんだからの。ルミエストにタルート、お前さんはそいつらに魔物との類似点を見出した、だが全く同じという訳では無かろう?。コボルトにいなすなんて芸当は出来んし、スプーフはあんな武器を使いはしない。しかしお前さんは不完全ながらも初めから対応して見せた。多少の動揺は有ってもそれもすぐに抑え、動揺が収まった頃にはもう完全に対応してしまっておる」


酒を注がれたグラスにリドルが口を付ける。


「んくっ…ふぅ、全く驚異的としか言い様がない。そして戦いの中で進化していくお前さんは見ていて実に面白い!」


グラスを握るリドルの手が僅かに震える。

それは酒が回ったからか、武者震いから来るものか、それはどちらなのかを論ずる必要すらなく笑みを浮かべるリドルの顔をみれば明らかだった。


「ライ、今のお前さんなら魔法も使えんあんな小僧小娘共に負ける事はない。そしてそれはわしも同じじゃ」


リドルの手に無意識に力が込められグラスに罅が入る。

だがリドルはそれに気付く事もなく増々笑みを深めながら熱が籠ったように口を開き続けた。


「お前さんとわしは必ず戦う事になる。だからその時にこのわしに見せてくれ!お前さんの真価を!魔物を相手に磨き上げてきたお前さんの技術が、人間を相手に磨き上げてきたわしの技術とぶつかり合った時、どう進化するのかを!!」

「リドルさん…」


狂喜的とも言える程の笑みを浮かべるリドルに気圧されながらもライは目を逸らす事無く真っ直ぐにリドルを見つめる。


「分かりました。未知だろうがなんだろうが、どのみち戦うしか無いのなら俺は全力でぶつかります。そして貴方に勝ちます!」

「言うたな小僧…?」


ライからの宣戦布告に嬉しそうな笑みを浮かべるリドル、一触即発の雰囲気の中リドルが突然席を立ち扉の方へと向かう。


「リドルさん?」

「今夜もう終いじゃ。これ以上ここにおったら昂りが抑えられんくなる」


ライに背を向けたまま扉をゆっくりと押し開けリドルが部屋から出ていく。

部屋を出て扉を閉める刹那、リドルが首だけでライの方に振り返る。


「ライ、次に会う時は敵同士じゃ。その時にわしを失望させてくれるなよ?」


閉まりつつある扉の隙間から見えた鋭い眼光に、ライは何も言葉を返す事が出来ずその姿をただ黙って見送るのだった。

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