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第二回戦

ここからはちょっと飛ばしていきます。

流石にペース上げないと何時まで経ってもこの章が終わらない。

リドルとの酒盛りを終えた翌日、武闘大会二日目の午後、ライは控室で自分の出番を待っていた。


「そろそろ出番だが体調の方は大丈夫か?。遅くまで大将に付き合ってたみたいだけどよ」

「えぇ、酒はもう抜けましたし午前中の間に休めましたから問題無いですよ」


心配そうな顔をするハルマンに、ソファー腰掛けながらライがそう答える。


その時控室の扉を外から叩く音が聞こえてくる。


「えー…アレなんちゃらさん、間も無く出番ですので移動の方お願いします」

「はーい!」


大きな声で答えるライのすぐ横で、ハルマンが声を抑えながら笑っていた。


「ククク…アレなんちゃらって、変な呼び名が定着したもんだな」

「そう呼ばれる原因の一端はハルマンさんにもあるんですから笑わないで下さいよ」

「わりぃわりぃ、まさかあそこまで支離滅裂な事が書かれてるとは思わなくてよ。パっと見で面白そうだからと提出しちまったが、いやー悪い事したな」

「全然そんな風には見えないんですけど…」


悪びれる様子もなく笑顔を浮かべながらそう言うハルマンに、ライが呆れたような顔をする。


「もう過ぎた事ですから良いですよ。それよりも早く移動しましょう」


そう言うとライはソファーから腰を上げ、魔形を被るとハルマンを連れ立って控室から出て行くのであった。







時間は少し進み闘技場中央、観客席は前日と同じ、いやそれ以上の賑わいを見せ、立ち見している人間の姿も見受けられた。

今年の出場者の中にアドレア、アリス、リドルと言った名だたる面子が揃っている事に起因しているのだろう。


『さぁさぁ、二回戦も残す所あと二試合!まだ顔を出していない出場者は残り四名!次の試合に現れる二人は一体誰なのか!?皆さん予想出来ましたかー?。それじゃあ答え合わせと行きましょう!選手入場です!』


北側の入場口から一人の人間が姿を現す。

口元から手首、足首までその身に纏う衣で覆い隠されていたが、右腕には巨大な膨らみが存在しており、腕に何らかの装備を付けている事が伺えた。


『刃と肉体が躍るこの武闘大会!そこに現れたのは冒険者ではなくなんと狩人!!狙った獲物は逃がさない!自作の弩で得物を射抜く!タルートォォォォ!!』


フーバーがその名を告げると同時に、タルートが右腕を掲げ上げる。

掲げた事で露わとなったその右腕には弦の無い弩のような物が装着されていた。


『見えますでしょうかあの弦の無い弩!矢を番える必要もなくしかも連射可能!一回戦では相手を寄せ付ける事なく一方的に事を運んだタルートですが、二回戦ではどうなる事でしょう!?』


「どうもならねぇよ、一回戦と何ら変わりない」


冷めた様子でタルートがそう呟く。


『さてそんなタルートの対戦相手は誰でしょう!それでは対戦相手の方どうぞー!』


フーバーの声に答えるように南側の入場口からライが舞台内に姿を現す。


『良く分からないままに終わった第一回戦!今だに実力の図れない出場者の内の一人!アレなんちゃら!!』


前回の事がある為か、他の出場者と比べて簡単にフーバーが説明を終える。


『えー、非常に名前の長いアレなんちゃら選手ですが、流石にこのままアレなんちゃら呼びもどうかと思うので、勝手ですが私が呼称を付けさせて頂きます』


「えっ」


フーバーの突然の宣言にライがそんな声を出す。

ライの頭の中で”オークマラ”という言葉と共に嫌な予感が浮かび上がる。


『一回戦で見せた踊るような激しい剣戟…特徴的な意匠の魔形…うーん、よし!”密林仮面”と呼びましょう!!』


(ノーラと同じセンスだ)

(ノーラみたいなセンスしてるね)

(ノーラと一緒…)

(ノーラと同じですね)


エリオ、カレン、ライラ、フローリカが似たような事を思い浮かべる中、件のノーラはニコニコと笑みを浮かべていた。


「司会のお姉さん、私と同じで良いセンスしてるね」

「それ自分で言うの?」


隣に座っていたフィアが呆れた様子で言う。


『さぁ!戦う二人が揃った所で武闘大会二回戦、第三戦目!始めぇぇぇ!!』


フーバーの宣言とほぼ同時にタルートが右腕をライに向ける。

照準がライに重なった瞬間、破裂音と共に発射口から矢が飛び出す。


(早速か!)


真っ直ぐライの眉間目がけて飛来した矢をライは身体を横にずらす事で回避するも、タルートはそれに構う事なく矢を連射する。


(3…4!)


ライが四本目の矢を避けた所でタルートの連射が止まる。

タルートが右腕をL字に曲げると弩の後部から長方形の黒い箱が滑り落ちる。

そこにタルートが腰に据え付けられた同様の長方形の箱を弩に押し込むと再びライに向けて右腕を構える。


(あの連射性と弾込めの速さ、厄介だな…でも!)


自身に向かってくる矢を躱しながら、ライがその本数を数える。


(4!今だ!)


一射、二射、三射と矢を躱し、四本目の矢を躱した瞬間ライが一気に距離を詰める。

タルートは矢を撃ち切った為に弾込めの動作に入っており、驚いた様子で向かってくるライの姿を見ていた。


(マジかよ!弾込めのタイミングを狙うとしても普通もうちょっと回数重ねて矢の装填数を確実に計ってからだろうが!?)


弾込めを終えたタルートがライを迎え撃とうとするも既にライの間合いでありライが剣を構える。


「クソが!」


タルートが吐き捨てるようにそう叫ぶと、発射口を地面に向ける。

次の瞬間、右腕に装着された弩の発射口とは違う箇所から何か黒い塊が発射され、その塊が地面に衝突し凄まじい炸裂音と共に煙幕が周囲を覆い隠す。


『おぉーっと!煙幕に隠れ両者の姿が見えなくなってしまった!一体煙の向こうはどうなっているのでしょうか!?』


煙幕で状況が一切分からない中、煙幕の中からタルートが飛び出して来る。

飛び出したタルートは煙幕に向かって矢を連射しつつ煙幕から距離を取り、それに少し遅れてライが同様に姿を現す。


(思い切りのいい奴だ。おかげで煙幕を使わされたが…仕方ない、コイツも使うか)


矢を撃ち切り、弾込めをしながらタルートがそんな事を考えていた。

左から順に取っていた長方形の箱を順を飛ばし真ん中の物を選び取り弩に込め、再びライに向ける。


一射、二射、三射、先程と同じように規則的に打ち出される矢をライが躱し、四射目を躱すと同時にライが距離を詰める。

だがここでライは先程とは何か違う事に気が付いた。

先程ライが四射目を躱した時、タルートは既に弾込めの動作に入っていた。

しかし今は弾込めを行っておらず右腕は真っ直ぐ伸ばされたままだった。

発射の反動で跳ね上がっていた腕が水平になりライに向けられた瞬間、発射口から五射目の矢がライに向かって飛んでくる。


「っ!」


直進していたライは身体を捻って躱す事が出来ず、剣で飛来する矢を受け止める。

勢いよく射出された鉄製の矢の威力は凄まじく、直進していたライの進行を易々と止め後退させる。

続け様に六射目が飛来するも後退させられていたライはそれを難なく躱す。


六射目を放ったタルートは弩に弾込めをしながら分析する。


(あれを防ぐか。四連射が限界だと当たりを付けていたなら絶対に引っ掛かると思ったんだが、あの反応は五射目も予測していたな。それでいて二回目の弾込めのタイミングから狙って来るとかどんだけ勝負師なんだ)


タルートの推測通り、ライは五射目の可能性も考えていた。

遠距離で戦う者を相手にする際、近距離で戦う者が真っ先に考えるのは遠距離攻撃の隙を突く事。

距離があれば一方的に攻撃する事が出来る反面、一度距離を詰められてしまえば遠距離攻撃しか手段が無い者は対抗する術がない。

弓や弩であれば矢を番える時、魔法であるなら魔法を構築している時が隙となる。

だからこそ弾込めのタイミングこそが最大の隙であり、そこが狙い目であるという事はライもタルートも理解していた。


そしてそれを理解しているからこそ対策をする。

タルートは序盤に四本まで矢が装填されている箱を使用し、相手に四連射が最大だと思い込んだ所でそこを逆手に取り、四本以上装填された箱を使用し相手を射抜く。

単純だが効果的な手段であり、それ故にライはそれを警戒していた。


ライが二回目の弾込めのタイミングから突撃したのは相手がいきなり手の内を明かすような真似をするはずが無いと、次の装填数も四本だと当たりを付けていたためだ。

事実タルートは四本の矢が装填された箱を使用し、予想よりも早いライの行動に対応しきれず接近を許してしまい、使う予定もなかった煙幕を使わされる事となったのだ。


(戦い慣れてる感じだな、冒険者なんだから当たり前か。ふざけた見た目をしてはいるが油断ならない相手だ)


ライに対する評価を改めながら、タルートが次の手を考えていく。

一方、ライの方も同様に次の手を考えていた。


(すぐに手の内を出して来るなんて、相手の切り替えも早いな。出し惜しみするタイプじゃなさそうだし別の手を使ってくるだろうな。ここからはこっちも別の手で行くか)


そう決断するとライは先程とは打って変わり、ゆっくりとそして斜めに前進する。

時折進む方向を変えながら相手に的を絞らせないよう緩急をつける。


(本数を数えるのは辞めたか。妥当な判断だ)


ライの動きを見て、ライが狙っている事をタルートが察知する。


ライが狙っているのは先程と同じく弾込めの際に生まれる隙である事に変わりはない。

だが一度に発射される矢の本数が不規則では弾込めのタイミングが掴めないため、撃ち切ったのに合わせて一気に近づくという手は使えない。

弾込めの動作を見てから駆け出したのでは間に合わず、撃ち切る前に突っ込めば先程の二の舞になる。

それならばいっそ弾込めの動作に入った所で確実に刺せるだけの距離まで事前に近づいてしまえば良い。

これならば装填されている本数は関係ないし、相手の動きを見てから動けるため動きやすいという利点もあった。


しかしこの方法には問題点もある。

それは先程よりも距離を詰めるため、発射から命中までの間隔が短い事だ。

迂闊に距離を詰めれば反応出来ず回避はおろか防ぐ事も出来ない。

かと言って距離が離れては弾込めの動作を見てからでは間に合わない可能性がある。


飛来する矢を回避する事ができ、弾込めの隙に近づけるだけの距離、それを探るためライはじわじわと距離を詰めていた。

そしてそれと同様にどれ程の距離が回避不能であるかを測るためにタルートが矢を放つ。

斜め移動していたライはそれを難なく躱す。


(この距離はまだまだ余裕って感じだな)


第一射を終え、ライに照準を合わせつつも距離を測るために間隔を空けながら矢を放つ。


少しずつ二人の距離が近づくにつれライの動きに変化が現れる。

ゆっくりとしていた動きが徐々に速度を上げていくも、前進する速度は変わらず左右に小刻みにステップを踏むように移動する。

二人の距離は当初の半分にまで縮まっており、ライが回避困難な限界距離に近づいていた。

少しでも回避しやすくするために身体を左右に動かす事で的を絞らせず、また咄嗟に横に飛ぶ事が出来るよう常に左右への動きを心掛けていた。


(この距離が回避できる限界――なんて考えてるんだろうな)


不規則に左右の動くライをタルートの右腕が追う。


(なめるなよ!)


弩から放たれた矢は不規則に左右に動くライに惑わされる事無く、真っ直ぐライに向かって飛んで行く。


「っぐ!?」


何時でも回避出来るように構えていたライだったが、一切のズレも無く飛んできた矢を躱しきれず、剣で何とか矢の軌道を逸らす事で対処する。

畳みかけるように矢が連射されるもライは後ろに後退しながら躱し、時に剣で弾く。


(駄目だな…これ程の威力の矢、そう何度も受けてたら剣が折れる。それに辺りに漂う匂い、火薬を使っているのか)


タルートが弾込めの動作に入るもライは距離を詰めるような事はせず状況を分析する事に努める。


(的が絞れないように左右に動き回ってたのに一切のズレもなく飛んできたな。偶然だったのかそれとも――)


弾込めを終え、タルートがライに向かって右腕を向ける。


(どちらにせよ、まだ試す必要はある)


先程よりも慎重にライが左右に動きながら距離を詰めて行く。

その動きをタルートが冷静な目で見つめていた。


(右、右、左、右、左、左――)


ライの動きを目で追いながらタルートが頭の中で呪文のようにそう唱えていた。

しかしただライの動きを見てから唱えている訳では無く、タルートはライが実際に動くよりも先にライの次の移動方向を予測していた。


ライはどんなタイミングで発射された矢でも回避出来るようにと心掛けて動いていた。

横移動した直後にでもすぐ移動出来るよう、ライは移動する前から次の移動方向を決め、すぐに動けるように構えていた。

つまり移動する前の予備動作が存在していたのだ。

例えば身体の傾きであったり、足先の方向などだ。


「さぁ、どっちが駆け引き上手か勝負と行こうか!」


ライとタルートの本当の戦いは、ここから始まるのだった。

各戦闘二話くらいを予定してましたが、書き始めると思った以上のボリュームに…。

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