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本選当日

地の文と会話で名前がごっちゃになる!。


武闘大会本選当日、会場である闘技場の観客席は予選の時とは比べ物にならない数の人間で埋め尽くされていた。


「さっすが本選、予選の時は雰囲気が全然違うねー」


東側の観客先の中段、そこにエリオ達一家の姿があった。


ノーラが周囲を見渡しながらそんな事を言っているとカレンがその言葉に反応する。


「当たり前だろう。年に一度の国を挙げての祭事なんだ、盛り上がるのは当然だし、それに今年は…」

「Sランク冒険者、【豪腕】のアドレアが数年ぶりに出場するって噂ですものね」

「他にも…凄いのが居るって噂も…ある」

「何にせよ、今年の武闘大会は何時もとは違うって事だろうな」


今か今かと開始の時を待ちわびている観客に混じってエリオ達がそんな話をしていると、何かに気が付いたのかニーナが両手を上げ左右に振りながら叫んだ。


「あ!おねーちゃーん!こっちこっちー!」


ニーナの声に反応し、一人の人間がエリオ達に歩み寄ってくる。

それは大人状態になったフィアであった。


「あぁ、フィ――ダリア、リンに付いて行ったんじゃなかったのかい?」


何時も通り呼びそうになったカレンがギリギリの所で言い直す。


「この先大会関係者以外立ち入り禁止だって言われてね。追い返されたの」


今朝から緊張しっぱなしのライを心配して付き添っていたフィアだったが、出場者の控室周辺は出場者や運営の人間以外の立ち入りを禁止しており、ライと離れ離れになってしまったフィアは仕方なく観客席にまで上がってきたのだった。


「なははーそれはしょうがないねー。っと、ここ座りなよ」


ノーラが座っているニーナを掴み上げ自分の腰の上に下ろし、フィアの座れるスペースを作る。

フィアは軽く頭を下げるとノーラの隣に腰を降ろした。


「リンの出番って何番目なの?」

「そりゃ分かんないね。組み合わせ表以前にそもそも出場者の情報すら伏せられてるからね」

「出場者の情報?個人情報が伏せられてるって意味じゃなくて?」

「個人情報含め、何から何までさ。出場者を推測できるような情報の類は一般には一切公開されてない。まぁ噂話程度で流れてくる事はあるけどね」

「予選無しで出場が決まった三人の件は…強引に割り込んだせいで出場者の枠が急遽変更になったから…」

「迷惑を掛けた関係者各位へ釈明の為に説明してたら、それが噂となって漏れ出したらしいよ」

「【豪腕】が出るって噂ばっかりで他の二人については情報が全然出回って無いのですけどね」

「ふーん、それにしてもそこまで情報を伏せる意味ってあるのかな?」


フィアがそんな疑問を口にすると、エリオがその疑問に答える。


「意味はあるよ。出場者の情報を伏せる事で賭けが出来ないようにするんだ。誰が出るか、対戦の組み合わせも分からなければ賭けようも無いからね」

「まぁそれも出場者が分からないのは初日だけで、組み合わせに関しても逆に”誰と誰が戦うか”で賭けが始まるくらいだから賭け対策としては意味は薄いんだけどね」


エリオの説明にカレンがそう補足を入れる。

その説明にフィアが納得したような顔をする。


「なるほど、でもそれなら対策した意味はあると思うな。賭けの対象が出場者の勝敗で無いのなら、対戦者を襲う人も居ないだろうし」

「確かに、ダリアの言う通りかもね。出場者を襲う不埒な輩対策としては十分に機能してるのか」


フィアの説明に今度はカレンが納得したような顔をする。


話が一段落した所でライラがフィアに質問する。


「ライ…じゃない、リンの様子はどうだった…?」

「朝と変わらず緊張してたよ。Bランクのカレン相手にあれだけ戦えたんだから自信を持ってって言ったんだけどね」


そう言ってため息を吐くフィアを、カレンが頬を引き攣らせながら見ていた。


「そこで私を引っ張り出すのかい…まぁ一方的にやられたのは事実だし、今更言い訳するつもりも無いけどね。ただ、悪いが私程度じゃライに自信を付けるには足りないだろうね」

「どうして?大会にはBランクの冒険者も出るんでしょ?。Bランクで出場できるって事はリンは出場者の中でも実力はかなり上位に入ると思うんだけど」


フィアの疑問にカレンが答える。


「武闘大会に出場するようなBランクと私らとじゃ立ってる場所が違うんだよ」

「立ってる場所?」

「あぁ、Bランクと言えば肉体で劣る人間が肉体で勝る魔物に勝つために手に入れた武器、魔法を魔物達も使うようになるランクだ。ただ魔法を使うだけの戦い方じゃ到底勝てる相手じゃない。まぁ並外れた魔法の才能があれば話は別だが…全員が全員そんな才能を持ってる訳じゃないからね」

「才能の有無…それが立っている場所の違い?」

「一概にそうとは言い切れないが、まぁ概ねその認識で良い。魔法の才がある者はその才能を活かしBランク以上でも活躍している。だがさっきも言ったけどBランク以上の冒険者全てに魔法の才が有る訳じゃない。魔法が才が無い以上、そういった者達は別の物でその差を埋めなければない。そしてそれが――」


カレンはそう言いながら自身の背に背負われたハルバードの柄に手を伸ばす。


「コイツだよ」

「…武器?」

「Bランク以上の魔物との戦闘は基本的に魔物の放つ攻撃魔法、防御魔法を如何に掻い潜り致命の一撃を与えるかが肝になってくる。魔法の才がある者は防御魔法で相手の攻撃を防ぎつつ、同時に攻撃魔法で相手を防御魔法諸共消し炭にしたりするが、魔法の才が無い連中にはそんな芸当は出来やしない」

「それじゃあどうするの?」


フィアの質問にカレンはニッと笑みを浮かべながらハルバードを握る手に力を込める。


「答えは簡単、魔法だけでは足りないのならそこにもう一つ要素を掛け合わせれば良い。”魔力”を単純に武器に纏わせるエンチャントとは違う、”魔法”を武器に乗せるエンチャントの発展形さ」

「発展型…」


フィアの脳裏には以前の盗賊との闘いで見せたカレンの一撃が思い浮かぶ。

地を割る程のハルバードの強烈な一撃、その衝撃が地面を伝わり、対象の足元で地面を弾けさせたあの一撃だ。


「思い出したかい?。Bランク以上になるとああいった魔法と武器の合わせ技みたいなのが必要になってくる。剣の切っ先で敵の防御魔法に裂け目を作り、そこから剣を媒介として魔法を発動し相手の防御を崩す。やり方は様々だが純粋な魔法での戦いに向かない連中はそうやって戦うしかない」

「なるほど、カレンやノーラ、それにフローリカはそういうタイプの人間なんだね。でもそれなら武闘大会に出てる人と変わりないんじゃないの?」

「そう答えを急くもんじゃないよ。確かに大雑把に括れば私達も出場者の連中も変わりないかもしれないが、自分で言うのもなんだけど私らは魔法の才能がある方の人間だ。私らがやったような技は魔法の才能がある奴にしか出来ない。才能が無いのは魔法を魔法として発動させる事で精一杯だし、例え武器に乗せられたとしてもその威力も高が知れてる」


カレンが盗賊に放った一撃はカレンが使う魔法の中でもかなりの高等技術を要求される代物だったりする。

見た目が派手なだけで対象を打ち上げるだけの一撃に思えるが、その真価は衝撃を別の個所でも発生させるという部分だ。

これを使えば例えどんな強固な外皮を持つ魔物であろうとその衝撃を内部へと伝え、内側から破壊する事が出来る。

これを魔法の才能が無い者が真似しようとしても、武器に乗せる以前に魔法そのものを発動させる事さえ出来ないだろう。


「そんな連中が一体どうやってBランク以上になったかと言えば、魔法で劣っている分を技術で補っているからさ」


カレンの言葉にフィアは真っ先にライの顔を思い浮かべる。


「私らは”魔法を活かす”ために技術を使う。魔法の才能がない連中は逆に”技術を活かす”ために魔法を使うんだよ」

「前提の違いだけで結局は使うものは同じなんだし、そう変わらないんじゃないの?」

「全然違う。私らは相手に効果的に魔法をぶち込むために技術を使うが、あっちは武器を急所に叩き込むために魔法を使う。その時点で戦い方は全く異なる物になる」

「例えば相手が強固な防御魔法を使った時、私らは防御魔法ごと相手をぶち抜けてしまうけど、そんな魔法が使えない人達は防御魔法を掻い潜り、剣先が届く範囲まで接近するために魔法を使うんだよ」


ノーラの補足にフィアは納得したように頷く。


「Bランク以上の冒険者には魔法に重きを置く戦い方と技術に重きを置く戦い方の二通りの戦い方がある。そして闘都の武闘大会に出場するような連中は後者、技術に重きを置く奴らだ。魔法抜きの戦いにおいては私らじゃ手も足も出ない」

「リンの実力はかなり高い…でもリンがカレンにやって見せたような戦いなら…多分この大会に出場する何人かは同様の事が出来ると思う…」

「まぁあれだけの剣の鋭さは他の人間には早々真似出来るもんじゃないと思うが、この大会は剣の鋭さのみで制覇できる程甘くない」


闘都に向かう最中、カレンはライに対し絶対優勝出来るなどと言っていたカレンだったが、あれは本気の言葉ではない。

陰鬱な表情をしていたライを元気づけるために放った言葉であり、体の良い機嫌取りだ。

とはいえライがそう簡単に負けるとも思ってはいないため、もしかしたら優勝出来るかもしれない程度には考えていた。


「少なくとも剣の鋭さ以外にもう一つ、リンだけの強みが無い事には優勝は厳しいだろうね」

「リンだけの強み…」


フィアがその言葉で考えるような素振りを見せる。

数秒の沈黙の後、ふいにフィアが顔をあげる。


「あるよ。リンだけの強み、誰にも負けないとっておきの強み」

「お、そりゃ一体何だい?」


興味津々といった様子でカレンがフィアに聞き返す。

同じように興味があるの中、全員の視線がフィアに集中する中、フィアがゆっくりと口を開いた。


「リンの強み、それは”魔法を前提に戦っていない事”」


フィアの口から出た言葉に面々は首を傾げる。


「魔法を前提に戦っていないって、それは武闘大会に出場してる人達と同じでは無いのですか?」


フローリカがそんな疑問を口にする。


魔法を前提に戦って居ない、それはつまり技術に重きを置いた戦い方の事だとフローリカは考えた。

フローリカと同じく、他の面々もそう考えていた。

だがフィアの言った言葉の本当の意味は”魔法の使用を前提にしていない事”だった。


”魔法に重きを置く戦い方”と”技術に重きを置く戦い方”そのどちらも前提として魔法を使う事に変わりはない。

魔法禁止の武闘大会においては、技術に重きを置く戦い方であったとしても本来の実力を発揮する事は出来ないだろう。


だがライは違う。

長年魔法という物に頼る事無く、己の技術のみで戦ってきたライはその実力を遺憾無く発揮する事が出来る。

クラックブーツの使用が不可能とはいえ、それでもライの戦いにはそれほどの影響はない。

ライの真価は長年積み重ねてきた戦いそのものに有るのだから。


(この強みは生半可な人間では覆す事の出来ない強み、心配事があるとするのならそれをライ自身が自覚していない所かな)


大会が始まるまでの間、フィアは控室で緊張しているであろうライの姿を思い浮かべ、一人心配そうに空を見上げていた。

仕事が落ち着いて来たので投稿間隔を少しずつ戻して行こうと思います。

月末とか納入が近づくとまた投稿間隔落ちるとは思いますが…取り合えず次回はちょっとお話が長くなりそうなので結局週末になるかもしれません。

ただあまりにも長くなるようだったら分割するのでその場合は早くに投稿出来ると思います。

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