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護衛と宿舎

ライとフィアの偽名ですが、前回書いててゴチャゴチャになりそうだなーって思ったので地の文では普通にライとフィアで通そうと思います。


 時は戻り大会出場者用の宿舎を目指し闘都の北区にある高級住宅街を行くライとフィアの目の前に、とある大きな問題が立ち塞がっていた。


「貴様らっ!!ここで一体何をしてる!?」


その問題というのは現在ライとフィアは取り囲む長槍を持った兵隊達である。

何故そのような事態に陥っているのかと言えば、それは勿論


「なんだその怪しい恰好は!?」


ライの恰好が原因であった。


ここは闘都の一等地、貴族の屋敷が立ち並ぶ高級住宅街である。

それ故に警備の兵隊などは他の区よりも厳重であり、そんな所で嫌でも目立つような魔形を身に付け、さらには全身を覆い隠すような大きな外套に身を包んだ人間がうろついてこうなるのは当然の結果であった。


「いや!ちょっと待ってください!自分は怪しい者ではありません!!」

「嘘を言うな!お前の恰好の何処から怪しさ以外の要素が見つかるんだ!!」


兵士の正論にライは何も言い返す事が出来ず黙り込んでしまう。

一方、フィアの方はと言うと兵士に囲まれる前から一切表情を変える事無くただ黙って前を見続けているだけであった。


迂闊な事をしないでくれるのはライにとっても有難い一方、ライではどうしようもないこの状況においてフィアがこのまま動きを見せなければライ達はそのまま連行されてしまうだろう。


「大人しくしていれば手荒な真似はしない、黙ってついてこい!」


そう言いながらじりじりと距離を詰めてくる兵士達を前にライが諦めかけた時、ふと視界の向こうから一人の人間が駆け寄ってくるのを見つける。


「おーい!ちょっと待ってくれー!」


それは兵士のようであったが、ライ達を取り囲む兵士達とは異なる装いの男であり、そんな男が手を大きく振りながらライを取り囲む兵士達へと駆け寄る。


「はぁー…ったく、こんなところに居やがったか」


あちこちを駆け回っていたのか男は額に汗を滲ませ、荒れた呼吸を整えながら言う。

そんな男の近くに立っていた兵士の一人が男の姿を見て反応する。


「貴様…その制服は」

「悪いなお前ら、そんな成りだがソイツはそれでも大会出場者――つまり俺の護衛対象だ。俺の言いたいことは言わなくても分かるよな?」

「し、失礼しました!!」


兵士達は慌てた様子で長槍を引っ込めると男が通れるように道を開ける。


突然の事態に状況を飲み込めていないライだったが、兵士達に道を譲られこちらに歩み寄る人物に見覚えがあることに気がついた。


「あ、ハルマンさん!」


そこに居たのは武闘大会の面接の際、ライに色々と説明をしたハルマンであった。


「よっ、まさかお前が大会出場なんて、正直面接で落ちると思ってたぜ」

「あははは…正直自分も駄目かと思ったんですけど何故か受かりまして…」


恥ずかしそうに頭を掻くライをハルマンは呆れたような諦めたような何とも言えない表情で見つめる。


「っと、こんなところで立ち話してる場合じゃねぇな。こいつは俺が責任持って引き継ぐからお前らもさっさと仕事戻れよ」


ハルマンのその言葉でライ達を取り囲んで居た兵士達は巡回に戻っていく。

兵士達が全員居なくなった事を確認すると、ハルマンは先ほど見せたような微妙な表情で今度はため息を吐いた。


「えーっと、ハルマンさん?どうかしたんですか?」


そんなハルマンを心配してライが声を掛ける。


「どうかしたかだって?」


ライの問いに答えるよりも早く、ハルマンはライの頭部に手を回しヘッドロックを決める。


「どうしたかじゃねぇこのアホ!何が"あ、ハルマンさん"っだ!。正体隠す気あんのかおめぇは!?」

「ちょ、ハルマンさん!?痛いです!」

「痛くしてんだよこっちは!こんな魔形付けといて、もうちっと隠す努力をしやがれ!締めるぞこの野郎!!」

「もうこれ以上ないってくらい締めてますよ!?てかなんでそれでハルマンさんが怒るんですか!?」


あまりの理不尽さにライがそう叫ぶとハルマンは少し力を緩め、その問いに答える。


「さっきも言っただろ、俺がお前の護衛だからだよ」

「ハルマンさんが護衛?俺のですか?」

「他に誰が居るってんだよ?」

「だって唐突過ぎて状況が飲み込めなくてですね…というかハルマンさんは一体何者なんですか?。あの兵士達の様子からして武闘大会の面接を受けに来たただの受験者って訳では無いですよね?」

「あぁーまずはそこから説明しねぇと駄目か…しゃーねぇなぁ」


面倒臭いといった様子を隠す素振りも見せず、ハルマンはライの拘束を一旦解く。


「とりあえずさっさと行こうぜ。説明は道すがらしてやる」

「行くって、何処に?」


ライが首や頭をさすりながらハルマンに尋ねると、ハルマンは首だけで後ろに振り返りながら言う。


「お前の宿舎にだよ」







「ハルマンさんが人狩り…ですか?」

「おう、まぁ”人狩り”ってのは俗称で正式には特別な名前も何もない、ただの治安維持部隊なんだけどな」

「ただの治安維持部隊なら人狩りなんて呼ばれて恐れられる事なんて在り得ないと思うのだけど」


フィアの遠慮ないその言葉にハルマンは愉快そうに笑みを浮かべる。


「はっはっは、確かにお嬢さんの言う通りだ。俺達は普通の治安維持部隊とはちょっと違うかもな。まぁ他の国や街がどうやって治安を維持してるかなんて闘都を守る俺らは知らねぇし、違いを聞かれても答えられねぇんだが…とまぁそれは置いといてだ、そういう訳で俺は上からお達しで出場者の護衛役を任されたって訳だ」

「なるほど…ハルマンさんが面接の日に闘技場に居たのは何故です?」

「面接を受けに来たただの受験者を装った見回りさ。人狩り(うち)の制服は目立つからな、一目見れば人狩りだって分かるし、そんなのが周囲をうろちょろしてたら気になって仕方ねぇだろ?」

「じゃあ俺にわざわざ親切にしてくれたのは?」

「単なる気まぐれだよ。強いて理由を上げるとすれば右も左も分からないような人間を騙そうとする輩とか、もしくは知らなさ過ぎて面接官相手に粗相をやらかす馬鹿が現れるのを未然に防ぐためって所か」

「あぁ、確か面接官はヴァーレンハイド内でそれなりの地位に就いている人達でしたっけ。緊張しててあんまし自分は覚えてないんですけど…大丈夫だったかな」


緊張のせいで何か粗相をやらかしては居ないだろうかとライが少し不安そうな顔をする。


「もし何か失敗してたのなら面接の時点で落とされてるはずだし、大丈夫だよ」

「その通り、面接受かってんだから粗相なんてしなかったって事だろ」

「だと良いんですけどね…」

「なんだ、何か気になる事でもあんのか?」

「はい、面接を受けていた時の事は殆ど覚えていないんですけど、アピールが終わった後に面接官のお爺さんから”早く出てけ”と言われまして…何かやらかしたんじゃないかと心配で」

「早く出てけ…か、随分と口汚い爺だなぁ。うちの大将にソックリだ――っと、今のは内緒な」


自分の失言に気が付いたのか、ハルマンが少し慌てた様子でライとフィアに告げる。


「大将って、治安維持部隊の隊長の事ですか?」

「いんや、隊長は四十代ぐらいのおっさんだ。俺が大将って呼んでるのはその上、六十年間治安維持部隊の隊長を勤め上げ、現在は隊長の座を後任に譲ったものの未だに実働隊の中に混じって闘都の治安を守り続けてる妖怪爺の事さ」

「六十年って、しかも未だに現役とか一体何歳なんですかその人」

「さてなぁ、十代の頃から自警団を率いていて、数年後に活躍を国に認められ治安維持部隊の隊長になり、今の隊長に座を譲ったのが十年前って話だから…最低でもまぁ八十は超えてるだろうな」

「八十歳ですか…」

「そんな歳なのにその実力は隊長でさえまるで歯が立たないうえに好戦的な性格と来た、まさに妖怪だろ?」


同意を求めるようにハルマンがいうも、実物を見た事がないライは素直に信じる事が出来ないのか微妙な表情を浮かべる。


「その顔は信じてねぇだろ?。まぁ別に良いけどよ、にしてもお前なんだってそんな魔形付けてんだ?趣味かなんかか?」

「趣味ってどんな趣味だったらこんな見た目の魔形を付けるんですか…。ただ単に大会で無償で魔形が配られてると知らずに知人の言葉に騙されただけですよ」

「くくくっ、なるほど…しかしその知人とやらも随分と良い趣味してんな。何処で手に入れたんだそんなもん」


そんな他愛の無い話をしながら三人は宿舎を目指す。

歩き出して五分程経った頃だろうか、ライがハルマンに質問する。


「宿舎は近いんですか?」

「あぁ、二つ先の角を左に曲がれば見えてくる。大会期間中しか使えねぇからな、この機会に目一杯満喫しろよ?俺も護衛しつつ満喫させて貰うからよ」

「はぁ…」

「なんだその気の抜けた返事は、宿舎が楽しみじゃねぇのか?」

「いえ、楽しみではあるんですけどそれ以上に暫くこの変装をしたまま生活しなきゃいけないのかと思うとちょっと陰鬱で…」

「変装?」


ライの言葉にハルマンは不思議そうに首を傾げる。


「そんなもん宿舎についたら取っちまえば良いだろ?」

「いやいや、取ったらまずいですよね?。出場者用の宿舎何ですから他の人達も居るでしょうし、素顔なんて晒せませんよ」

「ん?んん?」


ハルマンは増々首を傾げ考える素振りを見せた後、ふと何かに思い当たったように得心がいったような顔をする。


「そういう事か。大丈夫だ、お前が心配するような事はねぇよ」

「どういう事です?」


言葉の意味が良く分からないライがそう尋ねるも、ハルマンは意味有り気な笑みを浮かべるだけで質問に答えようとしない。


「まぁまぁ、そこは着いてからのお楽しみ――っと、そんな事話してたら着いたぞ」


そう言いながら足を止めたハルマンが見ている視線の先をライ達も見る。


そこには二階建ての大きな屋敷が建っており、屋敷の二倍はあろうかという巨大な庭の中央には噴水が設置され、正門から見て左側には立派な庭園が広がっていた。


絵に描いたような豪邸を前にライは思わず感嘆の声を漏らす。


「うわぁ…これが出場者用の宿舎ですか。出場者が十六名しか居ないのに随分と大きいですね」


二十人所か五十人は余裕で住めるのでは無いかというその大きさを目の当たりに、ライがそんな感想を口にするとそれを横で聞いて居たハルマンが笑いを堪えるようにしていた。


「ちょいと訂正しとくぜ。ここは厳密に言えば出場者用の宿舎じゃあない」

「え?あれでもさっき着いたって…じゃあここは?」


首を傾げるライの姿にハルマンは笑いを堪えきれなかったのか一度噴き出しながらも説明を続ける。


「おいおい、もう忘れたのか?。案内する時にこう言ったろ?”お前の宿舎に”って」

「それってまさか」


その言葉で事情を察したライが驚いたような表情を浮かべる中、ハルマンはニヤリと笑みを浮かべながら告げる。


「ようこそ、ここが”ライ専用”の宿舎だ」

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