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中堅冒険者の実力

Sランク冒険者達が天竜と対峙している頃、ガダルの街の南部に広がる森の遥か上空、雲の中を高速で飛ぶ一人の人間の姿があった。


「あぁぁぁぁぁあぁぁぁあああああああ!!」


情けない声を上げながら、凄まじい速度でライがすっ飛んで行く。

あの時、街を救いに行こうとライが言った後、それならとフィアは善は急げとばかりに陸路ではなく空路で移動する事を提案してきた。

森の中を掻き分けて進むよりは断然速いとそれに賛成したライだったが、突如高度数千メートルまで引っ張り上げられた挙句、雲の上から街に向かって一直線に急降下させられていた。


『ライ!もうすぐガダルが見えてくるよ!』


フィアがそう言うと同時に雲の中から抜け出し、開けた視界にはガダルの街と天竜、そして四人の冒険者の姿が見えた。

急降下していたライの身体がゆっくりと速度を落とし、空中から天竜と冒険者達の戦いの様子を眺める。


「これは一体…」


眼下に広がる天竜と冒険者の凄まじい魔法の応酬に目を奪われる。

見た限り魔法を放っているのは天竜と一人の冒険者であり、傍から見れば一人の冒険者が天竜と対等に渡り合っているように見えるだろう。

しかもその一人以外にも冒険者の姿があるし、四人がかりならこのまま倒せるのではとライが考えているとフィアがその考えを否定する。


『あの四人じゃあの子は倒せないよ、地力に差があり過ぎるもの』

「差があるって…見てる限り対等に戦って――」


ライがそう言いかけた時、頭上からライの顔スレスレを閃光が通り過ぎて行く。


「おわぁ!?」


閃光は天竜の頭部に直撃し、土埃が激しく舞い天竜の姿が隠れる。

今の一撃で勝負が決まったのではと思いながらライが地上をじっと見ていると、やがて土埃が晴れ天竜がその姿を現した。


「そんな…あの一撃を受けて無傷なのか…?」


不意打ち気味に決まったあの一撃、並みの魔物ならそれこそ跡形もなく消し飛ぶほどの威力を持った攻撃をまともに受けたはずなのに、天竜は倒れるどころか傷一つなかった。

ここに来てライはフィアの言っていた地力の差というものに気がついた。

先程までの戦いは天竜にとってお遊びに過ぎなかったのだ。

その事実に気がついた途端、ライは今どれだけ絶望的な状況にあるのかを理解する。

先程まで対等に戦えていたのは、天竜が対等になるよう加減して居たからだ。


ならば今は?。

攻撃を受け、傍目から見ても分かる程に激怒している天竜が、加減などするだろうか?。

そんなライの想像を肯定するかのように、天竜が動き出した。

両翼を大きく広げ、地上を埋め尽くさんばかりの魔法陣が姿を現す。


「これがあの竜の本気だって言うのか…!」


魔法陣が展開されてすぐ、冒険者もそれに対抗するように巨大な壁を展開するのが見えるが魔法陣から街を守りきるにはどう見ても大きさが足りていない。


「あれじゃ守りきれない!」

『仕方ないよ、もう体内の魔力も周辺の魔力も枯渇しているようだし、それよりライそろそろ介入しないと本当にまずいよ』

「介入するって、フィアが何とかしてくれるんじゃないのか?」

『何言ってるの、ライは私に”街を救って欲しい”じゃなくて”街を救いたい”って言ったんだよ?。ライがやらなくてどうするのよ』

「お、俺が!?」


確かにライはそう言ったし、自分に出来る事があるなら可能な限りやれるだけやるつもりではあった。

しかし、この現状を見る限り自分に出来る事なんて何も無いと、そう考えていた。


「俺なんかに出来る事なんて、何も」

『あるよ、ライにも出来る事、あの竜を倒す事が』

「倒すって…あんな化け物をどうやって、魔法もロクに使えない俺なんかが」


そうライが自分を卑下するように言うと、フィアが優しく諭すように言う。


『大丈夫、ライは強い、少なくともそこら辺に居る冒険者なんかよりも』

「買い被りだよそんなの…魔法も使えない人間なんかに」

『それは違うよライ、貴方は魔法が使えないんじゃない、魔力を取り込む事が出来ないんだよ』

「何が違うって言うんだよ…!魔力を取り込む事が出来ないんじゃ魔法が使えないのと同じじゃないか!」

『じゃあ、私が魔力を集めてライに渡すって言ったら?』

「フィアが…魔力を?」

『そう、私が魔力を集めてそれをライに渡す、ライはそれを使ってあの竜を倒すの』

「でも…俺魔法なんてロクに使った事無いし…魔力だけ渡されたって何も」

『何言ってるの、一つだけ得意な魔法があるでしょ?』


フィアの言葉にライは一瞬考えるような素振りを見せると、自身の足元に目を向ける。


「【クラック】…?」

『そう、少なくともあんな竜一匹倒すにはそれで充分だよ』


フィアはそう言ったが、ライにはとてもじゃないがそれで竜が倒せるとは思えなかった。

【クラック】は魔力をただ破裂させ、その反動で移動するだけの魔法だけの魔法だ。

しかもライはクラックブーツの補助を受けてなんとか発動させるので精一杯という有様なのだ。

そんな物であの竜にどうやって対抗出来るのだというのだろうか。

今の自分があの竜と戦った所で待っているのは間違いなく死だ。


何も出来ぬ無力な自分に、死に怯え前に進むことも出来ない自分に、恐怖と怒りで身体が震える。

そんな時だ、ライの全身を先ほどまで包んでいた魔力とは桁違いの魔力がライの身に集まってくるを感じた。

地上を見れば、天竜や冒険者の魔法が分解され魔力となり、ライの元へと集まっていた。


「これは…」

『言ったでしょ?私はどんな願いでも叶えて見せるって…だからライ、私を信じて』

「フィア…」

『絶対にライは勝てる、だってライは私の声を聞く事が出来る…特別な力を持ってるんだから』


その言葉を聞いた瞬間、全身に力が漲るのを感じる。

莫大な魔力によって身体強化が施されたのだろう、気がつけばライの身体の震えは止まっていた。


『さぁライ、剣を構えて』


腰から剣を引き抜き、中段に構える。

すると構えた剣にも魔力が流れていき仄かに発光する。


『私の手助けはここまで、ここからはライが、自分自身の手で願いを叶えるんだよ』

「俺自身の手で…」


そう呟きながら、剣を握るライの手に力が入る。

それと同時に、地上では魔法を解除され苛立ちが頂点に達した天竜がライの存在に気がつき天を見上げた所だった。

天竜がライに向き直ると同時に、ライは空中でしゃがみ込むように身体を丸め力を貯める。


『ライ、行くよ!』

「あぁ!」


その言葉を合図に、ライが空を思いっきり蹴り、天竜目がけて一直線に飛んでいく。

そんなライを迎え撃つように天竜は大きく開いた口をライに向ける。

大きく開かれた天竜の口の向こう、喉の奥で何かが光りが見えたかと思うと、次の瞬間光は巨大な火の玉となりライ目がけて飛んでくる。


「っ!?【クラック】!」


空中で魔力を発動させ横に飛ぼうと考えたライだったが、しかし魔法は発動することなくライの身体は火の玉に向かって直進していく。


「なんで!?」


ライがそう叫ぶ間にも、火の玉とライとの距離はどんどん近づいている。


(まずい…!どうにか、どうにかしないと!)


火の玉を眼前に捉えたライが無意識に右足に意識を集中させた次の瞬間、右足の魔力が爆発しライの身体が横に逸れ、ギリギリの所で火の玉を躱す。

しかし強引に軌道を逸らしたため、ライはきりもみをしながら地上に向かって落下していく。


「ぐぅぅぅぅぅ!!」


凄まじい遠心力に身体を引っ張られながらも、どうにか空中で態勢を整え両足で地面に着地する。

かなりの速度で地面に落下したため、地面は抉れ土埃が辺りに舞う。

なんとか地面に着地したライは、土埃の中で先ほどの事を思い出す。


(魔法が…使えた?クラックブーツの補助も無しに…俺にも魔法が…!)


自分にも魔法が使えた事に感動を覚えたライだったが、すぐに今はまだ戦いの最中なのだと思い出し意識を引き戻す。

それと同時に土埃の中から突如天竜の巨大な尻尾が姿を現し、ライ目がけて振るわれる。

咄嗟に剣で防ぐ事で直撃を避けたものの、ライの身体は天竜が尻尾を振り切ると同時に再び空中に吹き飛ばされる。


(思い出せ…!魔法を使った時の感覚を!)


ライは凄まじい勢いで吹き飛ばされながら、再び魔法を発動させる。

炸裂音が響き、反動でライの身体が空中で振り回される。


(そうだ、この感覚だ…!)


何度も炸裂音を響かせ、その度に空中でライの身体が激しく振り回されていたが、その動きが徐々にゆっくりとした物に変わって行く。

足で、手で、背中で、胸で、その都度魔力を破裂させる位置を変えながら、ライは速度を殺すために的確なタイミング、的確な位置で魔法を発動させる。

速度を殺し、空中で態勢を整えたライが地面を滑るように着地する。


「これが…魔法…」


ライはそう呟き、遠くに見える天竜を睨みつけ両足で地面をしっかりと踏みしめると、再び魔法を発動させ天竜に向かって飛び込んでいく。

ライに向かって放たれた火の玉を時には避け、時には剣で切り裂き、時には魔法で吹き飛ばしながら、地を、空を蹴りながら縦横無尽に駆け、天竜へと接近する。


その様子をSランク冒険者達は見ていた。


「何者だアイツは…」

「あの身に纏った膨大な魔力…アイツが魔法を解除して魔力を奪い取ったっていうの?」

「それだけではありません、あんな戦い方初めて見ます」

「あの鋭い剣筋、剣圧で火の玉を斬るなんて…」


Sランク称される冒険者達の目にはライの戦いが異様な物に映っていた、それもそうであろう。

何故ならばライの戦いは、一般的な冒険者のそれとは前提からして大きく異なっているからだ。

一般的な冒険者は、自身の力ではどうにも出来ない状況に陥った場合、魔法に頼る事が多い。

剣で貫けない程頑強な敵ならばその防御を貫ける魔法を使い、盾で防げない程の攻撃ならば魔法で防ぐ。

しかし、魔法を使う事が出来ないライの場合はそういう訳には行かない。

剣で貫けない程頑強な敵ならば関節など装甲の無い部分を狙い、盾で防げない程の攻撃ならば避け、受け流し、直撃だけは避ける事で対処してきた。


一般的な冒険者が魔法がある事を前提にしているのに対し、ライは魔法が使えない事を前提に戦いCランクまで上り詰めた。

中堅冒険者と言われる所まで、魔法も無しに自身の技と力だけで。


しかしそんなライでも、もし魔法が使えたらと、そう考えなかった訳ではない。

自身の力だけではどうしても対処出来ない事態というのはあったし、もし魔法が使えたらと幾度となく考えた事もある。

自身に足りないものを、それを埋めるような魔法をイメージしながら、ライは常に戦ってきた。


そして今、ライは夢にまでみた魔法を使い戦っていた。

魔法に頼る戦いではなく、自身の欠点を埋める戦い方。

技術と魔法の融合、ライが求め、思い描いた自分の戦い方。


「はぁぁぁぁあああ!!」


ライが火の玉を切り裂きながら天竜へと突っ込んでいく。

そんなライの気迫に押されたのか、天竜が口を大きく開きながら天に向かって頭部を伸ばしながら力を貯める。

天竜の大きく開かれた口がライに向けられた瞬間、視界を覆い尽くさんばかりの業火が放たれる。


「やべぇ!」


その様子を見ていたアドレアがそう叫び、他の三人もその様子を食い入るように見つめる。

業火によってライの姿が完全に見えなくなる。

あのタイミング、横や上に飛んでも避けられたとは思えない。

今の一撃によってやられてしまったのではという考えが、冒険者達の頭の中で駆け巡っていると、ルークを空を見上げて叫ぶ。


「っ!上です!」


ルークの言葉に他の三人が空を見上げる。

地上より数十メートル上空に、剣を上段に構えながら天竜目がけて落下するライの姿があった。

ライは業火に飲み込まれるそうになった瞬間、自身に迫りくる業火に向かって右足を向け、魔力を爆発させることで、火の勢いを一瞬だけ殺しながら斜め後方へと飛び上がる事で業火から逃れていたのだ。


「うおぉぉぉぉぉおおお!!」


ライがそう吠えると、ライの全身を包み込んでいた魔力の全てが剣に注がれる。

剣を握る両手に力を込めながら、渾身の力で天竜目がけて振り下ろした瞬間、ライの両手から蒼い光が溢れ出す。


『っ!これは!?』


ライは両手から蒼い光を放ちながら剣を振り下ろし、天竜の頭部から胴体、そして地面さえも真っ二つにする。

真っ二つとなり地面に崩れ落ちた天竜に見て、地面に落下しながらライが呟く。


「やった…のか?」


その事実に、ライが喜びの声を上げようとした時だ、そんなライとは対照的にフィアの焦ったような声が響く。


『ライ!今すぐ剣から手を放して!』

「え?」


ライがどうしてという言葉を発するよりも早く、ライが両手に握っていた剣がガタガタと震えだし、剣に込められていた膨大な魔力が一気に解き放たれる。

解き放たれた魔力は光の奔流となり、ライも、天竜の亡骸も、四人の冒険者さえも飲み込み、大爆発を引き起こした。


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