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偽りのプロフィール その1

書いてて長くなりそうなので分割しました。

予選を無事に終えた後、予選を勝ち抜いた第三グループの三名はとある一室に集められる。

そこには受付をしていたあの男が待っていた。


「皆さん、本選出場おめでとうございます。武闘大会に出場しようとする人なら大体の事は把握しているでしょうが、一応改めてこの場で今大会について説明をさせて頂きます」


男はそう言うと四人を前に簡単に武闘大会についての説明を始める。

内容は以前ライにした物と全く同じであり、他の者も既に知って居る様子だった。


「――と、大会に関する説明はこんな所です。さて次に大会期間中の皆さんの宿舎に関する説明ですが」

「うわぁ…!」

「よっしゃ、待ってました!」


男がそう言った突端、ライを除く二人が歓喜の声を上げる。

一人状況が飲み込めないライが首を傾げていると、男が説明を続ける。


「本選出場者の方には大会期間中特別な宿舎をご提供しているのです。これは本選まで勝ち抜いた皆様をもてなすという意味もありますが、不埒な輩から皆様をお守りするためでもあります」

「専用の宿舎があるというのは知って居ましたが…不埒な輩ですか?」

「武闘大会では賭け事が禁止とされているのはご存知ですか?」

「はい、賭けた人間が出場者を襲うという事件があったからと聞いていますが」

「その通りです。とはいえいくら禁止にしても裏で賭けている人間はどうしても存在します。そういった輩から守るためにも我々の目の届く所に出場者の方には居て貰いたいのです。まぁ宿舎を利用するかどうかは任意ですのでそういった物が煩わしいという方は既に取っている宿をそのまま利用して頂いて構いません」

「私は勿論利用するわ!」

「俺もだ!」


食い気味に言う二人に受付の男が若干引き気味になりながらもライに尋ねる。


「貴方はどうなさいますか?」

「えーっと、その宿舎って出場者以外の人間も大丈夫でしょうか?。連れが居るんですけど…それと宿を移るかどうかも相談したくて」

「そこら辺は問題ありませんよ。出場者の関係者であるなら構いませんし、出場者が利用するしないに関わらず宿舎の用意だけは既にしてあるので大会期間中であれば自由に使って頂いて構いません」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます」


男の説明にライが礼を言い頷いて見せると、男は次の話題に映る。


「それでは次ですが、皆さんこれをどうぞ」


出場者の三人に一枚の紙を手渡される。


「それは大会に出場する際に書いて貰う事になっている書類です。内容は名前や職業、大会に出場した動機などで堅苦しいものではありませんし、適当に書いていただいて構いません」

「適当で良いんですか?」

「そうじゃねーと困る奴が居るだろ。お前だってそうなんじゃねぇの?そんなもんで顔を隠してんだからよ」


予選でライに踏み台にされた事を根に持っているらしく、男が刺々しい口調で言う。

悪くなった雰囲気を変えようと受付の男が説明を続ける。


「武闘大会には様々な人がそれぞれの目的を持って出場します。中には表立って顔をだせない人だっていますからね。そういった方は偽名を書いたりしますし、適当でも構わないと言ったのはそういう事です」

「でもそれならこの書類を書かせる意味は一体?」

「予選までなら問題はありませんが、本選出場してまで番号呼びというは問題があるでしょう?。出場者紹介もなくただ淡々と試合を進めるのも見ている側としては何とも味気ないですからね」


男のその説明にライは納得したように頷く。


「なるほど…これって提出期限とかあります?」

「出場者紹介に使うだけですから、本選前に頂ければ問題はありませんよ。まぁ最悪提出頂けなくても解説者が独断と偏見で有る事無い事好き勝手喋るだけなので面倒なら提出しないというのも有りです」

「自分で書いといた方が良いわよ。前に知り合いがそれやって”オークマラ”なんて名前付けられた挙句、同性愛者の男娼扱いされてたわ」

「ぶはははは!ソイツ覚えてるぞ!前回の出場者でナニがデカそうとか見た目だけで判断されて好き放題言われてた奴だろ!ありゃ傑作だったな!」

「絶対に自分で書くようにします」


大笑いする男の横でライが即答する。

独断と偏見で決められるというのなら、ライの今の姿などまず間違いなくロクな紹介のされ方はしないだろう。

オークマラなどという不名誉な名前を付けられた人間と同等、もしくはそれ以上にヤバイ紹介をされるのは間違いない。


とりあえず説明はそれで終わりらしく、ライを除く二人はその場で書類を書きそのまま受付の男の案内で宿舎の方に早速移動するとの事だった。


ライはフィアと相談してからという事もあり、一人部屋を出る。


フィアと合流する前に人目につかない場所で魔形を取り、念のため普段身に付けている物とは違う大き目の外套で身なりを隠してからフィアが待っているであろう観客席に向かう。


ライが観客席に向かう頃には既に第四グループの予選は終了しており、観客席には疎らに人が残っているだけだった。


人の姿も少ないため、ライはすぐにフィアの姿を見つける。

良く見て見ればすぐ傍に見慣れたカレン達四人の姿もあり、ライは真っ直ぐフィア達の元へと向かう。


「フィア」

「あぁ、ライお疲れ様」


フィアがそう答えると、カレン達もライの存在に気付いたのかライの方へと向き直る。


「お、やっと来たかい」


待ちわびたと言わんばかりの様子でカレンが言う。

その後に続くようにその他の面子もライに声を掛けていく。


「ライ、お疲れ様…」

「ありがとうございます」

「お兄さん格好良かったよー。なんか密林の奥深くで斧片手に暴れ狂う狂戦士って感じで」

「それ、褒めてるんですか?というか見た目だけで言ってますよね完全に」

「最後の投擲は100点満点でしたよ。この短期間で複数を正確に狙えるようになるなんて…短剣の扱いを教えた甲斐がありました」

「ははは…どうも、おかげ様で助かりました」


苦笑いをしながらライがそう返す。

以前フローリカとアムダに短剣の扱い方を仕込まれた際、ただ短剣を振るだけでなく投擲術に関しても仕込まれていた。

予選の時ライが投擲した短剣は特訓を耐え抜いた褒美としてアムダから腰に据え付けるホルダーとセットで渡された物で最初に貰った聖銀製の短剣よりも細く、刃も薄いため投擲には適しているが普通に使うには適さない代物だ。


地獄のような特訓を思い出し顔色を悪くしたライだったが、ふと何かに気が付いたように口を開く。


「あれ、そう言えばエリオさんとニーナちゃん達は?」

「エリオと子供達なら一緒に街を散策してるよ。子供達からしたら予選なんかよりもそっちの方が良いだろうしね」

「前に買い物してた時もそうですけど、闘都に着いてからエリオさんばかり子供達の世話してませんか?」

「それは仕方ない…。戦わないエリオと違って私達は街の中くらいでしかゆっくり休めない…。だからエリオが子供達の世話をするのは当然」

「まぁずっと任せっきりという訳ではありませんし、夜に子供達を寝かしつけるのは私達の役目ですから」

「流石にエリオと子供達を一緒にする訳には行かないからねー。なんたって夜のエリオは狼だから、子供達の教育に――って冗談だって!フローリカ無言のまま懐に手を伸ばさないで!」


にこやかな笑みを浮かべたまま懐から何かを取り出そうとしたフローリカをノーラが慌てて止める。

しかし止まる様子のないフローリカの手にノーラは急な話題転換で逃げようとする。


「あっ!そうだ!お兄さんに聞きたい事があったんだー!」

「聞きたい事ですか?」

「うんうん!お兄さん予選で背後からの攻撃をまるで見えていたかのように避けてたよね!あれどうやったんだろうなーって思ってたんだよ!私だけじゃなくて皆も聞きたがってたよね!?」


周囲を同意を求めるようにノーラが他の三人の顔を見る。


「まぁ、そりゃねぇ」

「気になってた…」

「フィアさんはなんだか分かってたみたいですが、私達はサッパリ分かりませんでしたしね」


フローリカのその言葉にライがフィアの方を見る。


「フィアは分かったんだね」

「うん、ここからなら全体の状況を把握出来たからね。見てすぐに気付いたよ」

「普通傍から見て理解出来るような物じゃないんだけど、流石フィア」

「そうでもないよ。事前にヒントは貰ってたからね。ライの視界内で背後の状況を知る事が出来る情報に絞って見当を付けて行けばそう難しい事でも無かったよ」


ライとフィアがそんな話をしているとノーラが二人の話に割って入る。


「あのーお二人さんは分かってるから良いとして、分からないこっちとしては何のことかサッパリなんだけど」

「あはは…すみません。とりあえずこんな所で何時までも突っ立ってるのも何ですし、宿に戻りましょう。帰りながら説明するので」


そうして六人は闘技場を後にし、ライは宿に向かう道すがら予選での事、宿舎に関する事、手渡された書類の事等を他の面々に話した。


「これがその書類です」


最後まで話終えるとライは懐から書類を取り出し隣を歩いていたカレンに手渡す。


「ふーん、まぁ基本的な事しかないね。名前に職業、それと動機」

「職業の脇にランクの項目があるね」

「武闘大会に出るのは殆どが冒険者ですから、別に可笑しな事は無いかと」

「む…見えない」


カレンの手元を覗き込みながらノーラとフローリカが言う。

その背後ではカレンの手にある書類を見ようとライラがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


カレンはライラに書類を手渡した後、ライに質問する。


「それで?まさか馬鹿正直に書く訳じゃないんだろう?」

「それは勿論、でも適当な事を書こうにも何を書いて良いのやら…」

「別に何書いたって良いんじゃない?。なんなら白紙で出して解説者に任せてみるってのも面白いかもよ」

「それを面白いと思えるのは当事者じゃないからですよ。好き勝手言われる身からしたら絶対に嫌です」

「ぶーぶー!」


速攻で拒否したライに対しノーラが不満気に口を尖らせる。

その脇ではカレンがライラから書類を受け取りそのままライに書類を返しながら言う。


「まぁ別に難しく考える必要なんて無いと思うけどね。魔形で顔を隠してる時点で本当の事を書いてるとは誰も思わないだろうし、どうせ本選に出ている間だけの話なんだ。好き勝手書いたって何の問題も無いさ」

「だと良いんですけどね…まぁ今夜にでも当たり障りのないよう書いてみますよ」


ライとカレンがそんなやり取りをしている中、ノーラが怪しげな笑みを浮かべていた事に、この時は誰も気づいては居なかった。

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