予選当日
平日に書いてる余裕が無かったから土日に一気に二話投稿!…って考えたらまさかの休日出勤です。
とりあえず土日に二話投稿できるように頑張ります。
出来なかったら休日出勤で忙しかったんだなと思っててください。
予選出場者が発表されてから数日後、今日はその予選当日であった。
闘技場には予選出場者の他にも出場者の関係者や興味本位で覗きに来た一般人の姿もあった。
予選出場者の関係者や一般人は闘技場内にある観客席に集まっており、予選出場者達は予選のブロック毎に分けられた控室で予選が始まるのを待っていた。
予選を目前に部屋に集められた出場者達はピリピリとした雰囲気を漂わせている一方、闘技場の外、人通りの少ない建物の影にライとフィアの姿があった。
「控室で待っててなくて良いの?」
「予選開始前に案内があるからね。それに合わせて行けば十分間に合うよ。というか極力これを着けた状態で人前に出たくない」
フィアの質問にライが魔形に視線を落としながらそう答えた時、闘技場全体に女の声が響き渡る。
『予選第一グループ、まもなく開始します。第一グループの皆様は舞台内にお集まりください』
「どうやら始まったみたいだね」
「ライは何番目だっけ?」
「俺は第三グループだから次の次だよ」
「ふーん…予選って具体的に何をするの?」
「ただの乱闘だよ。どんな攻撃でも一撃貰ったら即失格、残り人数が一定数まで減った時に立っていた者が本選出場っていう単純なルール」
「確か3人はもう本選出場が決まってて、予選で選ばれるのは13人なんだよね?」
「そう、グループは4つに分かれてて第一から第三グループは3人まで、第四グループだけは4人が本選出場出来るんだ」
そう説明しながらも、ライは何処か落ち着かない様子で視線をあちらこちらに巡らせていた。
それに気が付いたのかフィアがライに問いかける。
「落ち着きがないけどどうかしたの?」
「いや…もうすぐ予選が始まるんだなーって考えたらちょっとね。無事本選に出られるかなって」
「ライは心配性だね。ライの実力ならそう簡単に負ける事なんて無いと思うよ?」
「これが一対一だったのなら俺だって自信はあったけど、乱戦状態となると話は別だよ。視界に映る全ての人が敵だし、視界に映ってる人にだけ意識を向けてたら背後から一撃貰って即退場なんて事になりかねない。かと言って視界に映ってる人を警戒しないなんて選択肢も無い」
「その両方を警戒するんじゃ駄目なの?」
「フィアも相当無茶を言うね…。両方を警戒するっていうのはつまり舞台内に居る全ての人間を警戒するって事になる。とてもじゃないけどそんな事は不可能だし、必ずどこかに死角が出来る。意識が虫食い状態になるくらいなら端から警戒しない方がマシだよ」
「それじゃあどうするの?」
フィアの質問に対し、ライは少し考える素振りを見せてからゆっくりと口を開く。
「さっきも言ったけど、一つの手段として警戒しないってのがある。ただし本当に警戒しない訳ではなく自分が把握できる範囲までを警戒し、それ以外はあえて確認しないようにする。自分の視界に入らない背後とかね」
「背後を無視するって…それ大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないよ。ただ一度に見る事が出来る範囲には限りがあるから左右に視線を、背後を見るなら首を振り向けないといけない。そんな事すれば前方は完全な死角になるし、目まぐるしく変わる乱戦の中で全方位を確認しようとするなら悠長に同じ方向ばかりも見てられない。結果それぞれの方向の確認は最小限となり、入ってくる情報量に比べてその精度は低いものになる」
「周りを見渡す分、色んな情報が入ってくるけど確認自体は短く行うからそこまで詳細に物を見て判断する事が出来ないって事だね」
ライの説明をフィアが自分なりに解釈し、それにライが同意するように頷く。
「そう、しかも乱戦状態じゃ目を放した隙に状況が一変してるなんて良くある話だからね。多すぎる情報は混乱を招き、判断を鈍らせ、正常な思考の妨げになる。それを防ぐために確認する箇所を限定し無駄を省くんだ」
「なるほど…ライが言ってた”警戒しない方がマシ”って言葉の意味は分かったけど、まだ分からないのがもう一つ」
「背後を見なくて良いのかって話でしょ?。さっきの話の続きになるんだけど、確認箇所を絞ると言っても背後からも襲われる可能性がある以上、背後の事を完全に無視する訳には行かない。それならどうするかと言えば」
そう言いながらライが自分の背後に向かって指を差す。
「背後の状況を想定するんだ」
「想定する?」
「うん、常に自分にとって不都合な状況をイメージし、そこに視界から入ってくる情報を加味してどう行動すべきかを考えるんだ」
「不都合な状況というと具体的には?」
「例えば今自分の背後に敵が居て自分を狙ってるとかだね。実際には狙われていなかったとしても、想定せずに背後から斬りつけられる危険性があるのなら、その状況を想定し行動に移す意味はある」
「やらないよりはやる方がマシって事ね…。でも見ても居ない背後の状況なんてそう上手い事想定出来るものなの?」
フィアが疑問を口にする。
背後を見ないという事は自身の背後の状況が一切分からないという事だ。
そんな中で状況を想定しようにも背後の状況が分からないのでは不確定要素が多く、ありとあらゆる状況を想定出来てしまうため、その時の状況に合わせて最適な想定をするというのは不可能に等しい。
そんなフィアの疑問にライがちょっと得意げな笑みを浮かべながら答える。
「背後を見なくても背後の状況を知る方法は色々とあるんだよ。自分の視界の中とかにね」
「視界の中?」
視界外である自分の背後の状況を視界内から知る方法とは一体何なのか?。
フィアが小首を傾げたその時、再び闘技場全体に女の声が響き渡る。
『予選第一グループ、予選終了です。第二グループの皆様は舞台内にお集まりください』
「もう一組目が終わったの?」
「一撃喰らったら終了というルールで乱戦だからね。しかも最後の一人ではなく一定数まで人数が減らば良いだけだから自然と決着も早くなるよ。さてと、この分だと第三グループもすぐに始まりそうだしそろそろ移動しようか」
そう言ってライが腰を上げるとフィアも釣られるように立ち上がる。
「そう言えば話の途中だったけど…まぁ良いか。どうせ実際に見れるんだし」
「ん?何の話?」
「ほら、ライがさっき言ってた背後の状況を想定しながら戦うって話だよ。答えは聞けてないけど、もうすぐ実際に見れるんだし別に良いかなって」
フィアのその言葉にライは暫し空を仰ぎ見た後、申し訳なさそうな顔をしながらフィアに言う。
「あー…期待して貰ってる所悪いんだけど今回そんな戦い方するつもりはないよ?」
「え?じゃあどうする気なの?」
「出場者の数が減るまで壁を背にし気配を殺しながらじっとしてるつもりだけど…」
「………」
フィアがジト目でライを見る。
「じゃあさっきまでの話は一体なんだったの?」
「いや、話の前置きで”一つの手段として”って言ったでしょ?。他に手段が無い訳では無いし、より安全で確実な方法があるならそっちを選択するのは当たり前だし…」
フィアから放たれる無言の重圧に尻すぼみしながらライが説明する。
それからライは第三グループ集合のアナウンスがあるまでフィアの無言の重圧に耐えるのであった。