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噂をすれば

ライが闘技場を後にし、適当に寄り道をして夕暮れ時に宿へと戻った頃、宿の大部屋でノーラがニヤニヤとした笑みを浮かべながらライを待ち受けていた。


「やぁ、どうだったお兄さん?」

「ノーラさん、嵌めましたね…」

「んー?何のことかなー?それよりも結果はどうだったのさ、ほらほら」


愉快そうに笑うノーラにライが恨めしそうな視線を送りながらも闘技場での事を話す。


「確認してきましたよ…この魔形は使っても問題ないそうです」

「だってさ、良かったねー皆。お兄さんはあのお面着けて大会に出てくれるみたいだよ」


ノーラのその言葉に子供達が嬉しそうに騒ぎ出す。

ノーラにはまだまだ言いたい事があったライだったが、嬉しそうに騒ぐ子供達を前に文句を言う訳にも行かず、そのまま押し黙る。


子供達の騒ぐ声を聞きつけたのか、隣の二人部屋からカレンとライラが顔をのぞかせた。


「ライ、フィア、帰ってきたのかい」

「おかえり…」

「ただいま戻りました」

「戻ったよ」

「結果はどうだったか…なんて聞いてもしょうがないか」


そんなカレンの言葉にライが意気消沈といった様子で話しかける。


「カレンさん…知ってたなら教えてくれても良いじゃないですか…」

「悪かったよ。でも見た目はアレだが大会で配られてる魔形よりは正体がバレ難いと思うけどね。見た目のインパクトもあるけど、頭全体を覆い隠してるから髪型も隠せるしね」

「む…まぁ、確かにその通りですけど」

「正体がバレたくないっていうなら…大会の支給品よりもこっちを着けるべき…」

「二人の言う通りだね。大体見た目なんて戦いにはなんの影響も無いんだし、別に良いんじゃないの?」

「そう言われると何も言い返す言葉が無いんだけどね…」


そう言いつつもまだ納得が行かないのかライが微妙な表情を浮かべる。

その時、ふとノーラが思い出したかのようにライに話しかけてくる。


「そうだお兄さん、武闘大会に関する事で耳寄りな情報が有るんだけど」

「なんですか?一応大会ルールについてなら今日一緒に確認してきましたが」

「違う違う、大会のルールじゃなくて出場者に関する話だよ」

「出場者ですか?」


出場者という単語に興味を引かれたのか落ち込んでいたライの表情が少し明るくなる。


「うん、実は今年の予選で選出される人数なんだけど、実は13名っていう話なんだよね」

「13名?あれでも本選出場って16名ですよね?後三人足りてないんじゃ」


そう言いながらライが首を傾げると、ノーラがライを指差しながら答える。


「そう!本来16名選出するはずが急遽13名になったんだよね。何でもかなりの実力者が大会出場を名乗り出たらしくて、その人達は予選無しに本選出場が決まってるみたいなんだよ」

「そのせいで予選で選出される人数が13名になったって事ですか…それでその人達っていうのは?」

「それがハッキリしてないんだよ。予選の選出者が13名ってのは確定情報みたいなんだけど、肝心の名乗り出たのが誰かは様々な推測や憶測が飛び交ってて判然としないんだよねぇ…ただ」


そこまで話した後、ノーラが勿体ぶるように話を区切る。


「かなり精度の高い情報で一人だけ、間違いなく本選出場が約束された三人の内の一人であろうという人物が居るんだ」

「その人物とは?」

「それは――」






「へぁっくしゅん!!」

「アドレア、風邪ですか?」

「ズズッ…いや、別にそういう訳じゃねぇんだが、なんだろうな急に鼻がムズムズしてきやがったというか」

「アドレアに限ってそれは無いでしょう。何せ馬鹿ですもの」

「おいイザベラ、どう意味だそれは」

「そのままの意味よ。馬鹿は風邪を引かないって言うでしょ」


手に持った本から視線を上げる事なく淡々とイザベラが言う。

そんなイザベラの態度にアドレアが苛立ちながらもそれ以上言い合う事もなく無言で腰を降ろす。


「ッチ、しかしお前ら本当に良かったのかよ?」

「何がでしょうか?」

「大会だよ大会、俺とアリスは出場すんのにお前らは出なくて良かったのかって聞いてんだ」


アドレアのその問いにイザベラが答える。


「出る訳無いでしょ。というか魔法の使用禁止の時点で私が出られる訳無いでしょうが」

「別に魔法を禁止してるだけで魔術師の出場を禁止してる訳じゃねぇぞ?」

「魔法が使えない魔術師に一体何が出来るっていうのよ。大体魔法も無しに殴りあって何が面白いのよ…私はパスよパス」


鬱陶しそうに手で追い払うような仕草をした後、イザベラは再び本へと視線を落とす。


「ルークは?お前は出ねぇのかよ。お前はイザベラと違って魔法だけって訳でも無いんだろう?出場してみようぜ」


アドレアはルークの腰にぶら下がっている剣を指差しながら言う。

ルークはこれまでの旅の間、防御に徹しており攻撃は専ら他の三人に任せきりにしていた。

それはこの旅に限った話ではなく、天竜の時など様々な依頼をこの四人で共に達成してきたがその中でルークがまともに攻撃に参加した事など一度も無いのだ。

防御だけでも十分な活躍はしていたし、攻撃役は十分揃っていたため誰もそれを指摘する事は無かったが、それ故に誰もルークがまともに戦っている姿を見た事が無くアドレアも興味を抱いており、ルークに大会出場を勧めていた。


「はぁ…私ですか?私も遠慮しておきます。もう受付も終わっているのでしょう?」

「大丈夫だって、予選もまだ始まってねぇし、ルークが出るって言ったら強引にでも出場させてくれると思うぜ?」

「いいえ、やはり私は遠慮しておきます。強引に割り込んでは大会の運営にも正規の手段で予選まで来た人達にも申し訳ありませんから…それに――」

「それに?」


そう言って話を区切るルークにアドレアがオウム返しのように尋ねる。


「大会では命を落とさぬよう、医療班などが待機しているのでしょう?。そんな状況では興が冷めてしまいとてもじゃないですが興奮出来そうにないので…私が求めているのは生か死の瀬戸際!!そう例えるならば鳥籠ごと地面に叩きつけられそうになった瞬間に感じた浮遊感、そして叩きつけれた時、肉体と精神が飛んでしまうのではないかと感じるほどの凄まじい衝撃!!嗚呼――願わくばもう一度あの体験をしてみたい…」

「私は二度とゴメンよ」


今まで黙って聞いて居たアリスが冷ややかな目でルークを見つめながらボソリと呟く。


「クッソーやっぱり駄目かぁ…魔法馬鹿のイザベラはともかく、ルークとは一度戦ってみたかったんだがなぁ」


そう言うとソファーに背を預けアドレアが天井を仰ぎ見る。

悔しそうな表情を浮かべていたアドレアだったが、その表情もすぐに笑みへと変わる。


「まぁ良いか…ルークとやれないのは残念だが、今回の大会には”アイツ”が居るからな」


先日、闘技場での出来事を思い返しながらアドレアが笑みを深める。









「クラックブーツを履いた冒険者ですか?」


闘技場内部にある一室でアドレアと受付の男が向かい合っていた。


「クラックブーツを履いた冒険者は何名か居ましたが…もしかすると2056番の事でしょうか」

「番号で言われても俺はわからねぇんだが…ソイツどんな見た目してた?」

「年齢は二十代くらい、黒髪で短髪、茶色の外套に軽装で武器は長剣の――」

「ソイツだ!間違いねぇ!!」


受付の男の言葉に食い気味にアドレアが被せるように発言する。

突然大声を上げたアドレアに受付の男が驚いていたが、そんな男を尻目にアドレアを独り言を呟く。


「そうか…やっぱりアイツもこの大会に出場しに来たのか…」

「2056番とお知り合いなのですか?」

「あぁ、知り合いっていう程でもねぇが…それにしてもクラックブーツと言っただけで良く分かったな。他にも何人か居たんだろう?」

「えぇ、実は以前にも2056番について尋ねてきた方が居られましたので、クラックブーツと言われた時にもしかしたらアドレア様も…と思ったのです」


受付の男の頭の中で、面接官の一人である老人との会話が再生されていた。


『お主、2056番を覚えておるか?』

『2056番ですか?それは勿論、仕事ですから覚えていますが…彼が何かしたのですか?』

『いんや、なんもしとらんよ。ただわしら以上に様々な人間を見てきたお主の目にはどう映ったのか、参考程度に聞きに来ただけじゃよ』

『無害に見えました。言い方を悪くすれば覇気が無いというか、あまり戦いを好むようには見えませんでした』

『ふむ…そうか、お主がそう感じたのなら恐らくそうなんじゃろうな。それなら良かったわい、大会でやりあう前に排除しなければならんような輩だったらどうしたものかと考えとった所じゃ』

『大会でって…まさか!?』

『今年はわしも出るぞ、久しぶりにの。あの小僧見とったら抑えが効かんくなったわ、カッカッカッ』


愉快そうに笑う老人の顔を思い出しながら受付の男は考えていた。


(あのお方に続きアドレア様までとは…2056番、彼は一体――)


「おい!」

「っ!?あ、なんでしょう?」

「なんでしょうって…声掛けても返事しねぇから呼んだんだよ」

「それは申し訳ございません。少々考え事をしていたもので」

「まぁ…別に良いけど。しかし俺の前にも聞きに来た奴が居たのか…ソイツは誰だ?」

「申し訳ございません。その方に関するお話は本人に固く口止めされておりますので」

「俺に話せない…ってなると、俺よりも立場は上の人間か」


その事にアドレアは考える素振りも見せるも、すぐに考える事を止める。


「考えた所でしゃーねーか。一番知りたい事は分かった訳だし、仕事の邪魔して悪かったな」

「いいえ、受付が終わった今私自身暇していたのでこれくらい問題ありませんよ」

「そうかい、んじゃまぁ俺は帰るわ」

「お気をつけて」


アドレアがドアから出ていくのを見送った後、受付の男がソファーに腰を降ろしため息を吐く。


「ふぅ…」


ソファーに背を預け、奇しくも老人やアドレアがそうしたように受付の男も天井を見上げ同じ人物の顔を思い浮かべる。


(あの二人が気に掛けるほどの人物、一体何者だろうか?)


記憶の中にある人物の姿を思い浮かべながら受付の男が想像を膨らませる。

その翌日、件の男が自分の元に現れるとは夢にも思わずに。

何気にライの見た目についてここまで言及したのは初めてな気がします。

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