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魔形

遅れてしまって申し訳ございません。

ゴールデンウィーク前の残業ラッシュで執筆時間が中々取れなかった…。

闘都に到着してから数日が経過したある日の事、武闘大会の会場である闘技場の廊下にライとフィアの姿があった。


「はぁ…」

「またため息ついてる。約束しちゃったんだからしょうがないでしょ?。第一何が嫌なの?」


隣を歩くライを横目に見ながらフィアが言う。


「何が嫌って…そりゃあ――」


そんなフィアの問いに答えるようにライが口を開きつつ、自分の手の中にある物に視線を落とす。


「見た目の一言に尽きるよ」


ライの手の中にある物、それは奇妙な見た目の仮面であった。

何故ライがこんな物を持っているのかと言うと、それは昨日の夜に時間は遡る。






「お兄さん!面接合格おめでとー!」

「うわっ!?ちょっとノーラさん強すぎますよ!」


ノーラが自分の持つ木製のジョッキをライの持つジョッキ目がけ勢い良く叩きつけ、中に注がれた酒が零れる。


「あははーごめんごめん」

「それに面接に受かっただけでまだ予選も控えてるんですから喜ぶのは早いですよ」

「一番心配だった面接が無事受かったんだ。ライの実力なら予選を難なく突破出来るだろうし多少喜んだって良いだろう?」


そう言いながらカレンがジョッキをライに向ける。

ライは微妙な表情を浮かべながらも差し出されたからには応じない訳にも行かず杯を交わす。


「それにしても良く受かりましたね。最初ライさんの様子を見た時もう面接は駄目なんじゃないかって思ってましたが」

「自分自身そこが不思議なんですよね。もう落ちたものだと半ば覚悟していたので驚いてます」

「覚悟…ねぇ」


ライの言葉にフィアがピクリと反応を示す。


「覚悟してた割に結果を確認する時私に代わりに見てくるよう言ってきたよね」

「うっ」

「自分で見てくるように言っても木札を握ったまま掲示板の前で行ったり来たりしてたし」

「ぐぅ」

「その後確認せずにそのまま戻ってきたし」

「………」

「結局私が確認する事になって、全然覚悟出来てないよね?」

「お兄さん…」


全員の視線がライに集中する中、ライが恥ずかしそうに縮こまる。


「か、返す言葉もありません…」

「まぁなんにせよ面接は無事に合格したんだ。今はとにかくそれを喜ぼうじゃないかい」

「そう…ですね」

「ん?なんだい、なんか気になる事でもあるのかい?」


歯切れの悪いライの返答にカレンがそう問いかける。


「いえ、予選に出るって事は本選で当たる人達ともそこで顔を合わせる事になるんですよね?」

「そうだね…予選の際は組み分けされるから全員と顔を合わせる事はないけど、例年通りなら一つの組みから三人が本選に出場できるはずだから、最低でも二人とは顔を合わせる事になるだろうね…それがどうかしたのかい?」

「大会に出場するとは決めましたけど、極力目立つような真似は避けたいって事に変わりは無いんです。なので変装するなら予選の段階で変装しておかないと意味が無いんじゃなかなって思いまして」

「なるほどね。確かに本選に入ってから変装しても同じ予選を通過した人間に素顔を見られてちゃ意味が無いからね。しかしそれならそれで何を悩んでるんだい?。変装するって決めたらすればいいじゃないか」

「すればいいって言われましても今まで変装なんてした事も無いですし、変装の用意も何もして無いんですよ。だからどうしたものかと悩んでいて…。それに視界が悪くなるような変装は出来れば避けたいですし…」

「それなら良い物がありますよ」

「良い物?」


悩むライにエリオがニッコリと笑いながら頷くのだった。






食事の後、ライはエリオに連れられ子供達が宿泊している大部屋に来ていた。


「どうですかライさん、それなら顔も隠せるし視界も良好でしょう!」

「えぇ…確かにバッチリ顔も隠せてるし、視界も何も着けてないのと変わり無いくらいにはハッキリしてるんですけど…あの、ただ」

「ただ?」


首を傾げるエリオに対し、ライは自分の顔を覆っている物に触れながら言葉を続ける。


「この密林の奥深くに隠れ住む原住民が身に付けてそうなデザインはどうにかならなかったんですか…」


ライの顔を覆っている物、それはエリオから渡された奇妙なデザインの木製の仮面であり、顔の全面だけでなく頭頂部から後頭部にかけて赤や青、緑と色鮮やかな羽の装飾が施されており頭部を完全に覆い隠していた。


文句を言うライに対し、横合いからカレンが口を挟む。


「仕方ないだろう?。私らが持ってる”魔形”で視界の確保が出来るのはそれしかないんだからさ。文句言うんじゃないよ」


魔形(マガタ)”――姿を偽装する魔道具の総称であり、ライが付けている仮面には視界を確保するための穴のような物は用意されてはいなかったがそこは魔道具の仮面、ただの仮面とは訳が違う。

姿を隠す、別人の姿を見せる等、様々な特殊な効果を持つ魔形だが、ライの身に付けている仮面の魔形の効果は何も着けていない時とほぼ変わらない視界の確保である。


「確かに視界は凄く良好ですし…というか普段と変わりないですけど、でもこれを着けて大会に出場するのはちょっと恥ずかしいというか…」

「えー!なんでー!?カッコのにー!」


ニーナがライの右足に抱き着き、ライを見上げながら言う。


「お兄さん、子供達がカッコいいって言ってるんだから問題ないって」

「いや問題大ありですよ、こんなの着けてたら悪目立ちしますって。そもそも武闘大会って確か魔法の類は禁止でしたよね?」


魔形を着ける事に拒否反応を示すライの足元に残りの子供達もわらわらと集まってくる。


「お面…着けないの?」

「すっごい似合ってるのにー」


フィーとアミナが残念そうな顔をしながら言う。

そんな子供達を前に流石にライもハッキリと嫌だとは言えず言葉を濁す。


「えーと、ごめんね。大会のルールで決められてる事だから…ルールで決められてなければお兄さんもこのお面を着けて出場したんだけどね。残念だなー」


苦笑いを浮かべながらそう言うライに対し、ノーラがこんな提案をする。


「それならお兄さん、一度大会の運営に確認してみたら?。もしかしたら許可してくれるかもしれないよ」

「え?でも魔法の類は禁止なんですし、魔形なんて確認するまでも無く抵触してると思うんですけど…」

「まぁまぁ、そう言わずにさ。実際に確認して駄目って言われたなら子供達も素直に引き下がるだろうし、ちょっと面倒だろうけど子供達のためだと思って明日行って確認して来てよ」

「確認するくらいなら…まぁ構いませんけど」


確認した所で何も変わらないだろうと思いつつも、ライはノーラの言葉に軽く頷いて見せる。

そんなライの姿にノーラが一瞬ニヤリと笑みを浮かべるもすぐに表情を戻し子供達に話しかける。


「だってさ、だからもしお面は駄目だーって言われたら素直に諦めるんだよ?」

「「「はーい…」」」

「よしよし、良い子だね…という訳でお兄さん、明日ちゃんと確認してきてね」






というような事があり、ライは仮面の魔形を抱え闘技場に使用可能かどうかの確認を取りに来たのだ。


(どうせ駄目だろうし、さっさと確認を取って適当な仮面なり覆面なり見繕って帰ろう)


ライはそう考えながら以前受付をした場所まで来ると同じ位置にあの受付の男が座っているのを発見する。


「あのーすみません」

「ん?おや、貴方は2056番の…面接合格おめでとうございます」

「あぁ、ご丁寧にどうも…というか本当に参加者全員の顔を覚えてるんですね。しかも合格したかどうかまで」

「それが仕事ですので、それで何か御用ですか?」


そう尋ねてくる男に対し、ライは手に持っていた魔形を差し出しながら言う。


「実はこれを大会で使って良いかを聞きにきまして…」

「これは仮面…もしかして魔形ですか?」

「えぇ、視界確保の効果の魔形で知人から渡された物なのですが…」

「なるほど、ちょっと失礼」


ライの言葉に受付の男は納得したように頷くとライの持つ魔形を手に取り調べ始める。

そんな男の様子を見ながらライは一人喋り続けた。


「武闘大会で魔法を使う事が禁止されてるのは流石の自分も知っていたので絶対に駄目だろうなとは思ってたのですが、知人から確認して来いと言われましたのでこうして一応確認に来た訳なんですよ」

「うーむ…単純な視界確保の魔形ですね。これなら別に使用して構いませんよ」

「あはは、ですよねー。やっぱり駄目――え?」


男の口から飛び出た予想外の言葉にライが一瞬固まる。


「あの…聞き間違いでしょうか。今”使用して構わない”って聞こえた気がしたんですが」

「えぇ、確かにそう言いましたよ。この魔形なら大会で使用しても問題はありません」


その言葉で自分の聞き間違いではなかった事を認識した瞬間、ライの顔から汗が一気に噴き出す。


「い、いやいやいや!駄目でしょう!?だって戦都の武闘大会ですよ!?純粋な人の力だけで競う武の祭典なんですよ!?」

「何をそんなに焦ってるのかは知りませんけど、そういう意味なら全然問題は無いでしょう?。この仮面を着けた所で結局仮面を着けていない時と同じ視界を確保できるというだけで、別に戦いで有利になる訳では無いんですし…それに」


受付の男はそう言いながら自身の懐から真っ白い物を取り出す。

それは目も鼻も口もない、真っ白で無地の仮面だった。


「視界確保の魔形の仮面なら私達の方でも用意してますからね。貴方の持ち込んだその魔形も効果が同じであるなら禁止する理由はありません」

「た、大会側で用意されてたんですか…?」

「それは勿論、この大会には様々な人間が集まりますからね。犯罪者や他国の重鎮、おいそれと公の場に姿を現せないような人達の為にこういった物も準備してあるのです。これくらいの事なら別に私の所に聞きに来なくてもそこら辺の人に聞けば分かる事ですよ?」


男のその言葉にライはハッとしたような顔をする。

ライの脳裏には昨夜のノーラの言葉が思い起こされていた。


『それならお兄さん、一度大会の運営に確認してみたら?。もしかしたら許可してくれるかもしれないよ?』

『実際に確認して駄目って言われたなら子供達も素直に引き下がるだろうし、ちょっと面倒だろうけど子供達のためだと思って明日行って確認して来てよ』

『という訳でお兄さん、明日ちゃんと確認してきてね』


(は…嵌められた…!)


ノーラはこうなる事が分かっていてあんな事を言ったのだろう。

ライが頭を抱えるも既に後の祭りであり、こうしてライは大会出場中この奇妙な仮面を着ける事になるのであった。


きっと結果発表の時、フィアは受験生の子供を持つ親のような気持ちだったでしょうね。

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