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フィアの防具

それからカレンが店主に話を聞き戻ってきた所、残念ながらその者が打った剣はライの持つ一本限りという話だった。

しかし端からもうこの剣に決めていたライはそれを残念に思う事も無く、即決でエクレールを購入したのであった。


「さてと私は防具を見に行こうと思ってるけど、ライ達はどうするんだい?」

「カレンさんが良ければ付いて行って良いですか?。買う気は今の所無いですけどどんな物があるかは見ておきたいので」

「分かった。付いて来な」


カレンの先導で防具店を目指す途中、カレンが話を振ってくる。


「ライは随分と軽装だけど金属鎧は嫌いなのかい?」

「嫌いって訳ではないですけど、まぁ動きやすさ重視なので自然と皮鎧になってますね」

「なるほど…なら軽装を専門に取り扱っているの店に行ってみるかい?」

「良いんですか?カレンさんって重装ですよね。俺に合わせなくてもカレンさんが見たい物で良いんですよ。さっきだって俺の剣だけ選んで自分の武器は何も選んで無いじゃないですか」

「別に気にする事はないよ。それに私のハルバードは特別製だからね。オーダーメイドで作って貰ってる所だし、鎧ももう選んであるからね。今は本当にただ見て回ってるだけなんだ」


カレン説明にそれならばとライはそれ以上何も言うことはせず、カレンの好意を受けとることにした。


カレンに連れて来られたのは一見防具屋には見えない、洋服を取り扱っている普通の店舗のような所だった。


「ここが軽装専門の店?」

「まぁ入ってみれば分かるよ」


そう言いながらカレンが店のドアを押し開くと鈴の音の後にいらっしゃいませという店員の声が聞こえてくる。

カレンの後に続きライも店内に足を踏み入れる。


店に入ってまず目についたのはどう見てもごく普通の女性用の洋服だった。


「あのカレンさん、どう見てもごく普通の女性物の服を取り扱っているお店にしか見えないんですけど…」

「安心しな、ちゃんと男物も取り扱っているよ」

「別にそこを心配している訳じゃ無いです」


ライがカレンにそう返した時、聞き慣れた声がライの耳に入ってくる。


「おーい、お兄さーん!」

「ノーラ…煩い…お店の迷惑」

「あれ、ノーラさんにライラさん?」


ライが声のした方に振り向いてみると、そこには見慣れた二人の姿があった。


「お兄さんも服を見に来たの?」

「いや、そういう訳ではないんですけど」

「ライは服じゃなくて防具の方を見に来たんだよ」

「あぁそっち?んじゃあそんな入口に突っ立ってないで奥に行こ」


ノーラはそういうと有無を言わせる間も無くライの手を取り店の奥へと引っ張って行く。

ノーラに連れて来られた店の奥、入口からは死角となっている奥まったスペースに明らかに他とは異なる物が置かれていた。


「これ防具ですよね?。なんでこんな奥に隠すように置かれてるんですか」

「だって服と一緒に並んでたら違和感凄いでしょ?。お店なんだから見栄えを気にするのは当たり前だしねー」

「はぁ…なるほど、でもそんな事するくらいなら最初から服だけ陳列すれば良いのに、何故防具を」

「それはこの店が冒険者向けの店だからだよ」

「冒険者向けですか?」


ライは目の前にある防具ではなく、店内の至る所に陳列された服に目をやる。

取り扱っている商品の殆どが服であり、防具はその内の一割程度でしかない。

どう見ても冒険者向けとは思えない店内の様子にライが首を傾げているとカレンが口を開く。


「ここにある服は一見普通の服に見えるが、汚れが付きにくくて生地も丈夫とそのまま狩りの際に着ても行ける代物なんだ」

「とはいえ流石に防具も着けず服だけで狩りに出る訳にもいかないからねー。折角の服が台無しにならないように服に合うような防具も一緒に販売してるんだ」

「冒険者でも女性は女性…少しでも可愛い服や綺麗な服を着たいと思うのは当たり前」

「そう言う事ですか」


三人のその説明にライは納得した様子で店内を再び見回す。


「折角だし防具を見るだけじゃなくて服も見て言ったら?っという訳で――」


ノーラが素早い動きでフィアの背後に回ると両腕をフィアの腰に回し抱きしめる。


「フィアちゃんのおめかしだー!」

「え、私?」


突然の事に唖然とした様子でフィアが言う。


「うん、だってフィアちゃん防具も何も着けてないでしょ?。流石に旅をするのにそれは危ないし丁度良いんじゃないかなって」

「確かに、旅をしているのなら防具を着けないというのは色々と不都合が出るだろうしね」


ノーラの言葉にカレンが同意する。


「私は別に防具なんて要らないけど…防具が無くて都合の悪い事なんて今の所は無いし」

「フィアが強いってのは分かるけどね。防具ってのはいざって時に身を守ってくれるし、防具も着けてないとただの女の子にしか見えないからね。冒険者二人組ではなく冒険者と一般人では色々と変わってくるんだよ。盗賊だって前者より後者を狙うだろうし、ライだって無用な争いは避けたいだろう?」

「まぁ、それはそうですね」


ライがそう答えるとノーラがここぞとばかり畳みかけるように言う。


「ほら!お兄さんだってこう言ってるし、フィアちゃんも防具を着けようよー!」

「うーん…ライがそう言うなら…」

「じゃ、決まりだね!お兄さんフィアちゃん借りるよー!」


ノーラはそれだけ言うとフィアを抱きかかえたまま走り去っていった。

答える暇もなく走り去っていったノーラにライが唖然としているとカレンとライラが申し訳なさそうな顔をする。


「悪いねライ、あぁなったノーラは人の言う事なんて聞きゃしないんだ」

「ノーラ、可愛い物好きだから…一度火が付くと止まらない」

「あはは…別に気にしてないですから謝らなくて大丈夫ですよ。むしろフィアがどんな服を着てくるのかちょっと楽しみに思ってるくらいですから」

「それなら良いけど…ただ一つ覚悟しときなよ」

「覚悟?」

「後で分かるよ」


覚悟とは何の事かと気になったライだったが、後で分かると言われた事もありそれ以上聞く事もせずフィアの服選びが終わるのを待ち続けたのであった。










「ねぇライ、どうかな?変じゃない?」

「変じゃないよ」


あれから二時間、ノーラがフィアを着せ替え人形にし納得が行くまで選び抜いた服と防具をフィアはライに披露していた。


ノーラはフィアの新たな衣装のテーマとしてドレスアーマーを選択し、元のフィアのイメージを壊さぬようにと以前と同じく緑色を基調としたドレスに、防具は手足を守るための籠手と脛当、胸部に胸当と必要最小限に留めていた。


胸当はいわゆる溝付甲冑で鎧に縦線の溝がいくつも入っており、さらに胸だけでなく首も守れるよう出っ張りの付いた独特の見た目をしていた。


「そっか、防具なんて初めて着けるから良く分からないけど、変じゃ無いなら良かった」

「変な訳ないよ!なんせこの私が心血注いで選んだ一品だからね!。見た目だけじゃなく機能性も考えて防具に重量が軽くても頑丈なフリューテッドアーマーの胸当てを選んだりしたんだから!」


ノーラが鼻息荒くそう説明する横で、フィアも満更でも無いのか鏡の前で軽くドレスを揺らしたりしていた。


「フィア、気に入ったの?」

「うん、最初は防具なんて…って思ったけど、盗賊なんかを避けるためって言うのも分かるし、何よりライが変じゃないって言ってくれたからね」

「そっか、良く似合ってるよ」

「………そう」


似合っているという言葉に恥ずかしくなったのか、フィアが頬を赤らめてそっぽを向く。

そんなイチャイチャとした雰囲気を漂わせる二人の間にカレンが割って入る。


「それを買う事にしたのかい?」

「はい、フィアも気に入ってるみたいですし」

「そうかい…ところでライ、コイツをみな」


カレンはそう言いながら陳列された服の中から適当に一着を掴み取るとライの方に差し出して来る。


「この服がどうしたんですか?」

「その服の襟元を良ーく見てみな」


首を傾げながらもライは言われた通り受け取った服の襟元を確認する。

そこには明らかに服とは違う材質の細長い何かがくっ付いていた。


ライがその正体を確かめようと何気なくそれを裏返した時、ライの目が大きく見開かれた。


「あの…カレンさん。0がいくつも並んでるんですけどこれってまさか…」

「値札だよ。その服は比較的安い奴だけどね。冒険者向けというだけあってただの服じゃないし、使ってる素材だって一級品だからね」

「これで比較的…ですか」


自信の手の中にある服を見つめていた時、ふとライは嫌な予感を覚え鏡の前でドレスアーマー姿の自身の姿を確認しているフィアの方を見る。

フィアが着ているドレスはどう見ても今ライの手元にある服よりも高価であるのは間違いない。

しかもそれに鎧の分の値段も含まれるのだ。


「私が覚悟しときなって言ったのはこういう事さ。ま、甲斐性がある所を見せるチャンスだと思って頑張りな」


そう言いながらカレンがライの肩を叩く。

マリアンベールでの散財の事もあり、暫くの間金銭的に悩まされる事となるライであった。

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