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ライの剣

執筆時間が取れないのと長くなるのとでこんなにも遅れてしまいました。

申し訳ございません。


「はぁーん、それでライは元気が無いわけだ」


闘技場での面接の後、宿屋でライ達はカレン達と一緒に食事を摂っていた。


「実力だけで言うなら間違いなく本選に出場出来ると思うんですけどね」

「ライは変な所で気が弱いから…面接は駄目」


フローリカとライラが落ち込むライの顔を見ながら言う。


「まぁもう結果は変わらないんだし、落ち込んでたってしょうがないよ。結果発表までまだ一週間以上あるだしそんな調子じゃ身が持たないよ?」

「そういえば今年の受付期間は随分と長いな。何かあったのか?」


ノーラの言葉を聞いたエリオがそんな疑問を口にする。

その疑問にノーラが答える。


「ほら、ここに来る途中化け物見たいな怪鳥が現れたでしょう?。アレのせいだよ」

「そういえば闘都の方角に飛んで行きましたものね」

「アレが闘都に現れたって割には街の様子が落ち着いてるのは何でだい?」

「んー…あまり詳しい事は分からないけど、怪鳥は巨大な鳥籠を落としていったくらいで街を襲ったりはしなかったみたいだよ」

「そうなのかい、しかしだとしてもやけに落ち着いてるね。あんな化け物が現れたら住民が不安がってもっと表情に出していても可笑しく無さそうなもんだけどね」

「それはほら、闘都には”あいつら”が居るからね」


その言葉にカレン達が納得したような表情を浮かべる中、状況をイマイチ飲み込めていないフィアが質問する。


「あいつらって?」

「闘都には凄腕の治安維持部隊が存在するんだよ。どんな些細な混乱の種をも迅速に摘み、闘都を脅かす物の存在は決して許さない。最優先すべきは闘都の治安であり、人の安全ではない。生かすべきは闘都、人は闘都を機能させるために必要な物であり、それ故に守りはするが闘都の治安を乱すと判断されれば即鎮圧、例え酔っぱらいの喧嘩だろうと決して見逃す事はない」

「その容赦の無さから闘都に住む住人達から恐れられ付けられた名前が通称”人狩り”、闘都の住人が怪鳥の事に関して気にするよな素振りを見せないのはそのためさ」

「怪鳥が去った今、実害も無くなったのにも関わらず変な噂話を広めようものなら人狩りの鎮圧対象にされかねませんからね。極力気にしないように努めているのでしょう」

「…なるほど」


カレン達のその説明にフィアが納得したように頷く。


「まぁ、馬鹿をやらかさなければ害のない連中だ。むしろそいつらのおかげで闘都の治安は他の国の都と比べても良いと言っても過言じゃない」

「だね、後ろめたい事が無いのなら気にする必要もないし、そういう人間達が居るから迂闊な発言は気を付けておこうくらいに考えておけば問題ないよ――所で」


ノーラがチラリとライの顔を見ながら言う。


「お兄さん達は面接の結果発表までどうする気なの?」

「え?あー…武闘大会を観戦するつもりで来てたので、あんまり考えて無かったですね」

「駄目だよー。せっかく闘都まで来たんだから観光くらいしてかなきゃ。第一結果発表までの間、そんな様子でうだうだ一日中部屋に籠って過ごす気?。気分転換に外に出なきゃ」

「気分転換ですか…」


俯き加減だったライの顔が僅かに上がる。


「そうだ、明日私達も買い物に出るんだけど一緒にどう?。今日はエリオの商談の方で忙しかったらまだ買い物も出来てないんだよね」

「買い物ですか?」

「うん、とりあえず闘都に来たんだし質の良い装備を手に入れるチャンスだからね。武器と防具、消耗品なんかを買い足そうって話してたんだよ。良かったら一緒に行かない?」


ノーラの提案にライは考える素振りを見せる。

ライも今の装備に満足している訳ではなく、今使っている剣は天竜との闘いの際失った剣の代わりにとブルガスで購入した物であったが、値段と品質を比べた結果他よりはマシだろうと選んだだけの品であり、何時か買い替えようとは考えていた。


「そう…ですね。自分も剣を新しくしたいと考えてたので、皆さんが良ければ」

「よし、じゃあ決まりだね!明日の朝から皆で買い出しだ!」


カレンのその一声に子供達は嬉しそうに声を上げる。


「わたし新しいお洋服欲しい!」

「…お菓子食べたい」

「サーカス!サーカスに行きたい!」

「分かった分かった。こんな所で騒ぐんじゃないよまったく」


そんな親子のやり取りを微笑ましく思いながら、ライは一時の間面接の事は忘れる事にしたのであった。











翌日、ライ達は闘都の南東側にある商業区にやって来ていた。


「一緒にだなんて言ってたのに、皆好き勝手にお店に入っちゃったね」


商業区に到着してすぐカレンは武器を、ライラとノーラは防具を見に行き、フローリカは一人ふらりとどこかに行ってしまった。


「あはは…済まないね。妻たちは買い物が好きでね…何時もこうして子供達を私に任せてさっさと行ってしまうんだよ。妻たちに悪気は無いんだ、そこは分かってくれ」

「大丈夫ですよ。俺達は誘ってくれただけでも嬉しかったですし、逆に自分達に気を遣われる方がこっちも嫌ですし」

「そう言ってくれると助かるよ。そういえばライさん剣を買うとか仰ってましたね。私の事は気にせずに行って来てください」

「え、でも…」


ライはエリオの足元に居る三人の子供達に視線を落とす。


「買い物の間子供達の面倒を見るのは何時もの事ですから大丈夫ですよ。それにライさんもさっき”自分に気を遣われる方が嫌だ”って仰ってたじゃないですか」

「…すみません、それじゃあお言葉に甘えて…行こうか、フィア」

「うん、分かった」

「あ!わたしも――」

「駄目だよニーナ、ライさん達は大事な買い物に行くんだ。遊びに行くんじゃ無いんだよ?」

「でも…」


エリオに怒られしょんぼりとした様子のニーナにライが腰を落とし目線を合わせながら優しく話しかける。


「ごめんね。お兄さんが今から行く所はニーナちゃん達が触ったら危ないような物がいっぱいある所なんだ。だからニーナちゃん達を連れてはいけないんだ」

「うー」


諦めきれないのか目じりに涙を溜めながらニーナが唸る。


「代わりに買い物が終わったら遊んであげるから、それじゃ駄目かな?」

「本当…?」

「うん、本当」

「約束だよ?」

「約束だ」


ライはニーナと指切りすると三人の頭を優しく撫で、その場を後にした。








ライは当初の予定通り新たな剣を購入するために様々な武器屋に入り剣を物色していた。


「うーん…これもかぁ…」

「良いのが見つからないの?」

「いや、流石は闘都と言うか、どこの店も良い剣が揃ってるんだけどね…ただ」


手に持っていた剣から視線を外し、ライは目の前にある木札に視線を向ける。


「値段がなぁ…」

「高いの?」

「かなりね」


難しい顔でライが自分の手の中にある剣と木札を交互に見た後、その剣を棚に戻す。


「マリアンベールで結構散財しちゃったからね。これは少し厳しいかな」

「でも護衛の依頼の報酬でお金も貰ったんでしょ?。それでも足りない?」

「今回の依頼は護衛と言っても俺達が一方的に守る護衛じゃなくて、一緒に移動して少しでも互いの危険を減らそうっていう感じだったからね。俺達がここに無事到着するのも依頼の報酬の範疇なんだ。だから貰った報酬はそんなに多く無いんだよ」


ライはそう言うと、棚に戻した剣を名残惜しそうに見つめながら店を出る。


「んー闘都なら手頃な値段で良い剣が見つかると思ったんだけどなぁ」

「どんな剣を探してるの?」


フィアのその質問にライが答える。


「刃渡りは50cm、材質はクロムライトで値段は20万ギルダ以内かな」

「そりゃキツイよ」

「え、カレンさん?」


突然背後から聞こえてきた声にライが後ろを振り返ると、そこにはカレンが立っていた。


「クロムライトで刃渡り50cmの剣なんて言ったら材料費だけで10万ギルダを超えちまう。職人の手間賃省いたとしても諸々の経費も含めたら15万は余裕で超える。原価で売ってくれるような店でも無い限りその値段は有り得ないよ」

「あはは…やっぱりそうですか。闘都ならもしかしたらって思ったんですけど」

「確かに他所ではとんでもない値段が付くような業物もここら辺にはゴロゴロしてるし、値段も比較的安いけどね。流石に限度って物があるさ」


カレンのその言葉にライは恥ずかしそうに頭を掻く。

そんなライの様子を見てカレンがニヤリと笑う。


「実は武器を原価で売ってくれる店を知ってるんだが…ついて来るかい?」

「そんな店が有るんですか?」

「あぁ、質は定まらないし酷い剣も交ざってたりするがちゃんと品定め出来る目と運がありゃ掘り出し物を見つけられる。ついて来な」


そういって歩き出したカレンの後ろをライ達は付いていく。

大通りを歩き途中で狭い路地に入り横道にそれ暫くすると、カレンが一つの店の前で足を止めた。


「ここですか?」


店先には大量の武器が無造作に放り込まれている樽がいくつも置いてあった。

樽には木札が張られており、3万ギルダと書かれていた。


「これって在庫処分か何かですか?」

「違うよ。この店の店頭に並んでるのは見習い鍛冶師が打った武器さ」

「見習いですか?」

「まぁ、詳しい話は店の中に入ってからだ」


カレンの後に続くようにライも店の中へと足を踏み入れ、目の前に広がる光景に思わず目を剥く。


「うわぁ…凄い」


ライの目に映ったのは大量の棚の中に並べられたこれまた大量の武器だった。


「材質や武器事に棚が分かれてるんだよ。この棚には鋼鉄製の短剣が陳列されてる」

「凄い量ですね」

「そりゃそうさ、なんせ闘都中から集められてるんだからね」

「さっき見習い鍛冶師がどうこう言ってましたけど、もしかしてここに並んでるのって全部…」

「あぁ、察しの通り全部見習い鍛冶師の物さ。ここは見習い鍛冶師が打った武器を専門に取り扱ってる店なんだよ。見習いとはいえ何時までも下働きしてる訳にも行かない。鉄を打たなきゃ上達なんてしないからね。とはいえ見習いが打った武器をそのまま店に並べる事は出来ない。ライ、ここに並ぶ武器と今まで見てきた武器屋に並んでた武器、見比べて見てどうだい?」


ライは無造作に棚の中から一つの短剣を手に取って見る。


「普通の武器屋に並んでいてもなんら違和感のない出来ですけど、闘都の武器屋に並ぶ武器はどれも一級品でした。そんな中でこの短剣が一緒に並べられているのはちょっと…言いにくいですけど」

「その店の主の目を疑うだろうね。他の街なら普通に並べられるような出来でもここじゃとてもじゃないが店先に出す事すら敵わない。とはいえ折角打った武器を鋳つぶすのは忍びない――という訳でそんな武器を集めて原価で売ってるのがこの店さ」

「なるほど…でも見習いが打ってるって事はあまり質が良い物は無いんじゃないですか?」

「まぁ大体はそうだね。でもそうじゃない物もある」

「どういう事ですか?」

「打った見習いが天才だったのか、あるいは偶然に出来た奇跡の一品のかは分からないけど普通に店に並んでいても可笑しくはない。あるいはそれ以上の物がポロっと混ざり込んでたりするのさ」

「どうしてそんな物が…普通に店に並べれば良いのでは?」

「見習いが打ったからさ。例えそれがどんな業物であっても見習いが打った物は例外なくここで売られる。ちゃんとした店で扱われるようになるのは一人前と認められてからって決まってるんだよ」


カレンはそう説明しながら辺りを見回すと、一つの棚に歩み寄る。


「あった、クロムライト製の武器の棚はここら辺だよ」


そこには大量のクロムライト製の直剣が棚の中に大量に収められており、木札には16万ギルダと書かれていた。


「本当にほぼ原価の値段ですね。それにしても店先の樽に入ってた武器、どう見ても原価割れしてましたけどアレは一体」

「あの中のは見習いが打った中でもさらに酷い物だよ。もはや原価で売る事すら躊躇われるような代物ばかりさ。辛うじて武器として扱えるけど、金に困ったような人間でもない限り手を出しはしないよ」

「なるほど…」


ライがカレンの説明を聞いて居る横で、フィアが一本の直剣を掴み取る。


「ねぇライ、これなんかどう?。刃渡りが丁度50cmの剣だよ」

「どれどれ」


フィアが差し出す剣をライが受け取る。

受け取ってすぐライの眉がハの字になる。


「どうしたの?」

「比重が狂ってる。若干剣先の方が重い」


そう言うとライはその剣を棚に戻し、別の剣を選び取る。


「こっちは右側と比べて左側の刃が僅かに厚みがある。こっちのはバランスは良いけど刃が鈍い」

「試し斬りもしないでそんな事分かるのかい?」


カレンが驚いたようにライに尋ねる。


「今まで剣一本でやって来ましたからね。剣を見る目には自信ありますし、うるさいんですよ」

「剣一本…?」


カレンの頭の中でふと魔物嫌いの森の中で聞いたライの言葉が過る。


『確かにカレンさんの言う通りです。そもそも俺は体内に魔力を貯めることが出来ないのでそんな方法は取れません』


(あの時はそれ所じゃなくて聞かなかったけど、魔力を貯められないってのはどういう事だ?。魔力を貯められないって事は魔法が使えないのと一緒だ。それなのにCランク?)


カレンが頭の中に浮かんだ疑問の答えを探しだそうと考えている間にもライは黙々と剣を選び続ける。

そしてライが一本の剣の柄を掴んだその時、ライの表情が今までとは明らかに変わる。

ゆっくりと、その剣を棚の中から取り上げる。


刃渡りは70cm、ライが想定していたよりも20cmも長く腰に据え付けるには若干邪魔になる大きさであり身幅はおよそ3cm、比較的細めで刃もその分薄く重量も軽い直剣だった。


ライは軽くその場で剣を二、三度振るとじっと剣を見つめる。


「この剣、根本から剣先までの比重が綺麗に整ってる。ちょっと軽いけどそれも使ってる内に慣れるだろうし…うん、この剣だ。これが良い」


ライが剣を掲げじっくりと見つめていると、カレンが後ろから声を掛けてくる。


「ライ、その剣の柄をよく見て見な」

「柄?」


カレンの言葉にライが柄の部分を良く見てみると、文字が彫られている事に気が付いた。


「”エクレール”?」

「それがその剣の名前だよ」

「名前ですか?」

「あぁ、見習いは自分が打った一番最初の武器に名前を付けるのが習わしなんだ。最初の一本でそれだけの剣を打ったとなると期待の新人って所だろうね。もしかしたらソイツの打った剣がまだあるかもしれない。ちょっと店主に無いか聞いて来るよ。それよりも後に打った剣ならもっと良いのが出てくるかもしれないからね」


カレンはそう言うと店の奥の方へと一人歩いて行ってしまう。

ライはその背中を見つめていたが、すぐに自分の手の中にある剣へと視線を落とす。


「エクレールか」

「ライ、その剣が気に入ったの?」

「うん、カレンさんはもっと良い剣が無いか探してくれてるみたいだけど俺はこれが良い」


そう言いライは笑みを浮かべながら自分の新たなる剣を見つめるのだった。

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