闘都を目指す目的
投稿が遅れて申し訳ないです。
今日一日中寝て過ごしてたら何時もの投稿時間を過ぎてました…。
荷馬車の荷台の中、様々な商品の木箱が積み上げられた狭い空間にライの姿があった。
「うぅぅ…」
木箱と木箱の間に身体を通すように、床に横になりながらライが唸る。
そんなライのすぐ脇にはフィアの姿もあった。
「ライ、大丈夫?」
「まぁ…なんとか、ただ怪我はないけど疲労感がちょっとね…」
フィアとの闘いの後、ぼろ雑巾のように地面に転がっていたライは自力で起き上がる事も出来ず、フィアに担がれ荷台に乗せられた。
子供達と一緒だと休めないだろうという事から後方ではなく前方の荷馬車の荷台に乗っており、現在荷台の中にはライとフィアの二人のみである。
「はぁ…自分も少しは成長したと思ったんだけどなぁ…やっぱりまだフィアには敵わないや」
「仕方ないよ。成長したって言ってもそれは魔法や始源に関する事であって、今回の戦いには一切影響が無い要素だったからね」
「でも剣の稽古だってしてたんだよ?。前にフィアにやられた時から何が駄目だったのか考えてイメージトレーニングも欠かさなかったし、一矢報いるくらいは出来るかなと思ったんだけどなぁ…」
「所詮はイメージ、頭で思い描いても実際に身体が動かなきゃ意味無いよ」
ライは以前のフィアの敗北から普段の稽古に仮想の魔物を相手とした稽古の他に、フィアを相手とした稽古も追加していた。
フィアのあの動きに対してはこう対処するなど、ライの考えた対フィア用の戦い方に間違いは無い。
だが実物のフィアを相手にした時、ライがフィアの動きを認識した時には既にフィアの行動は終わっており、フィアが言っていたように実際に身体が動かなければどんな対処法を考えようとなんの意味も無かった。
「手厳しいなぁ…っと」
「起きて大丈夫?」
「背中がまだヒリヒリするけど、それ以外はもう何ともないから――あれ?」
「どうかした?」
「いや、前に戦った時もそうだけど、なんで俺は怪我をして無いんだろうって」
ライの言う通り、フィアからあれだけの攻撃を受けていたのにも関わらず、ライの身体には怪我らしい怪我が無い。
強いて言うならば何度も地面に叩きつけられたため背中が痛いという位であり、それ以外に痛みも特に無かった。
ライがその事を不思議に感じていると、フィアがそれについて答える。
「それはライを攻撃した際、始源を使って何も無かったかのように書き換えたからだよ」
「と言うと?」
「私がライを攻撃してライの骨と肉をグシャグシャにした瞬間、ライの肉体が痛みとしてそれを認識するよりも早く、始源を使って書き換えライの肉体を元通りに戻したって事」
「グシャグシャって…」
確かにフィアの拳は目では捉えきれない程に速く、鋭く、威力もあった。
その威力はライの身体が軽々と浮くほどであり、それを考えれば殴られた箇所がミンチのようになったとしても可笑しくはない。
ライは改めて自分がどれだけボロボロにやられていたかを理解し、身震いする。
「それにしても怪我を無かった事にする…か。始源ってそんな事も出来るんだね」
「人が想像出来る限りの事は全て実現可能だと思ってくれて良いよ。まぁ、それを使いこなすには相当な訓練が必要だけど」
「そっか…」
ライは自分の中にある始源を動かしながら、フィアの言葉を頭の中で反芻する。
(今はまだ出したり引っ込めたりしか出来ないけど…何時かは)
そんなライの姿を、フィアは不安そうな表情で見つめていた。
その時、外からカレンの声が聞こえてきた。
「おーい!闘都が見えてきたよ!」
その声にライは立ち上がると、荷台に付けられた小窓を開け外の様子を見る。
カレンの言葉の通り、街道の先に城壁が見えていた。
「あれが闘都…大きいな」
「ライは闘都は初めてなのかい?」
「えぇ、ガダルの周辺から余り遠出した事が無かったので」
「そうかい、闘都には色んな武具や冒険に役立ちそうなもんがある。これを機に色々見ていくと良いよ」
「はい、そうします」
「そう言えば聞いてなかったですけど、ライさんは大会には出場されるんですか?」
エリオが口にした言葉にライがピクリと反応する。
闘都の武闘大会――それは毎年闘都で開催されている物であり、出場者は魔法抜きでの純粋な自分自身の力でのみ戦い、それを競う大会だ。
魔法の使用禁止という以外に得に決まりはなく、ルールは単純で敗北条件は戦闘不能に陥る、降参する、魔法を使うの三つだ。
「出場するに決まってるさ。魔法無しであれだけ戦えるんだ、出場しないなんて選択肢はないだろ。私はライが優勝するに賭けても良いよ!」
カレンは笑いながらそう言ったが、小窓から顔を覗かせていたライの表情は何処か影があった。
「…あの、カレンさん。期待して貰ってる所悪いんですけど、自分は大会に出場するなんて一言も言ってませんよ」
「何だい、武闘大会が目的で闘都を目指してたんじゃないのかい?」
「確かに武闘大会も目的の内ですけど、あくまで観戦するつもりで出場するつもりは無いですよ」
「そうなのかい?。惜しいねぇ、ライなら絶対優勝出来ると思ったんだが…本当に出場する気は無いのかい?」
「…えぇ、大会になんて出て目立ちもしたく無いですからね」
ライのその言葉に偽りはない。
フィアの事、始源の事、今のライ達には人に言えない秘密が幾つか存在し、そのどれもが世間に露呈すればライ達の事をつけ狙う者が現れ兼ねないような内容の物ばかりだ。
今のライはまだ魔法もロクに使えない状態であり、そんな状態で襲われでもしたら魔法が使えないライでは勝てる見込みは薄い。
少なくとも最低限魔法が使えるようになるまで、それまでは他人の目に触れぬようこっそりと行動する事をライは心が掛けていた。
だがそんなライの理性的な考えとは裏腹に、心の中では自分の力を試してみたいという欲求も確かに存在していた。
そんなライの心の内を読み取ったのか、カレンがニヤリと笑みを浮かべる。
「ライ、アンタ嘘が下手だねぇ…顔に大会に出たいって書いてあるよ」
「………」
「何でアンタが目立つのを嫌っているのか…きっと他人に言えない秘密が沢山があるんだろう?。それを詮索するような真似はするつもりは無いけど、その秘密ってのは自分の心に嘘ついてでも守り通さなきゃいけない程の物なのかい?」
「…自分はそう思ってます。これだけは他人に知られちゃいけないって」
「そうかい…まぁ、それなら無理に出場しろとは言わないけどね。変わりにちょっとした事を教えてやるよ」
「ちょっとした事?」
カレンの言葉にライが首を傾げる。
「闘都の武闘大会は偽名や変装をして出場する事が認められてるんだ。さらに出場者となった者は大会期間中は国が安全を保障してくれる。専用の宿だって用意してくれるし、望めば護衛も付けてくれるし、出場者に危害を加えようものなら厳罰が待ってる」
「なんでそこまで…」
「昔に色々あったんだよ。優勝候補と呼ばれた出場者への闇討ちだったり、賭けで勝つために自分の賭けた出場者の対戦相手を襲う人間が出たりとかね」
「そのせいで武闘大会での賭け事はご法度になっちゃったんだよねぇ…残念だ」
エリオがそう口にすると、隣に座っていたカレンが鋭い視線をエリオに向ける。
「アンタ、賭け事はもうしないって約束を忘れたのかい?」
「じょ、冗談だって、そもそも賭け事は禁止されてるんだから出来る訳ないだろう」
「ったく…まぁ、そういう訳だからちょっとは考えて見な」
「…そうですね、ちょっと考えてみます。そう言えばカレンさんは出場するんですか?」
「私かい?私は出場しないよ。今回は商売の為に闘都に向かってる訳だからね。大人しく観戦してるよ」
「そうですか…闘都までは後どれくらいですか?」
「あと一時間くらいかな。もうここまで来れば襲われる心配も無いし、ライさんは休んでて大丈夫ですよ」
「すみません、護衛なのに…」
「何言ってんだい、アンタは十分すぎる程に護衛としての仕事をやってくれたよ。胸を張りな」
カレンの言葉にライは微笑みを浮かべる。
「はい、ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて休ませてもらいますね」
そう言ってライが小窓を閉めるとカレンが小さな声で隣に座るエリオに話しかける。
「どう思う?」
「どうって?」
「ライは大会に出場すると思うかい?」
「すると思うぞ」
カレンのその問いにエリオは即答する。
「即答だね、何でそう思うんだい?」
「俺も男だからな。自分の力を試してみたいっていう気持ちは分かるんだ」
「ふーん…そんなもんかい」
「そういうカレンはどう思ってるんだ?」
「私かい?。私もアンタと同じで出場すると思ってるよ」
「何でそう思うんだ?」
「同じ冒険者だからね。冒険者として磨き上げた技術を試してみたいって気持ちは分かるんだよ」
「そういう物か」
「そういう物だよ」
エリオとカレンがそんな他愛のないやり取りをしている間にも、闘都へは着実に近づいていた。
こうしてマリアンベールからヴァーロンまでの長いようで短くもあった護衛依頼は無事に終わったのであった。
こっちの執筆の息抜きにちょっとした作品投稿しました。
コメディ強めの作品となっておりますのでシリアスに疲れた方が居たら是非どうぞ。
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