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人身御供

ピンボール再び

「ぐほぉ!?」


勢い良く地面に叩きつけられ、ライの肺の中の酸素が全て外に吐き出される。

ライが酸素を補給する暇もなく、自分めがけて落下してくる物を避けるために身を捩り回避する。


「っ――!?」


落下物により地面は粉砕し、大量の土と共にライの身体も衝撃波に飲まれ大地を転がる。

転がりながらも冷静に態勢を、呼吸を整える。


「すぅぅぅぅ…はぁぁ…」


呼吸を整えながらも、土埃の向こう側に潜む者への警戒は怠らない。

ライが監視している中、突如土埃の中で爆発が起きたように土埃が晴れる。

しかし土埃の晴れたそこには何者の影も無く、大きく抉れた地面のみが姿を露わにしていた。


「こっちだよ」


自身の懐から声が聞こえてきたと認識すると同時に、ライの顎を凄まじい衝撃が襲い、ライの身体が宙を舞う。


(なんで…あんな事言っちゃったかなぁ…)


掌底を受け、朦朧とする意識の中でライはこのような事態を招く原因となった出来事を思い返していた。








巨大な鳥との遭遇から数日が経ち、何度目かの昼食を取っていた時の事だ。

話題に困ったのかカレンが、何の気なしに放った一言が全ての始まりだった。


「フィアはどれくらい戦えるんだい?」


この数日、フィアの警告により様々な危機を事前に察知し、誰も怪我する事無くここまでの道を無事に通ってきたライ達だったが、フィアは基本的に警告をするだけで戦いには積極的に参加はしていない。


最初はフィアの事をライにくっ付いてるただの同行人程度にしか思っていなかったカレン達も、数日を共に過ごすうちに認識を改め、今ではライと同じくらい頼りにしていた。


それ故にフィアがどれだけ戦えるのだろうと気になるのはごく自然な事であり、質問をしたカレン以外の者達もフィアがどう答えるのか興味津々の様子だった。


「どれくらい戦えるって言われても、私は冒険者じゃないし、指標となるランクみたいな物もないから答えられないかな」

「んー…じゃあこういうのはどうだい?。ライと同じように私と戦うってのは?」

「ぶほぉ!?」


カレンの発言に、今まで黙って話を聞いて居たライが噴き出す。

傍に座っていたライラが飛び散った物を布巾で拭きながらライを睨む。


「ライ…汚い」

「ゲホゲホ、す…すみません」

「いきなり噴き出したりしてどうしたんだい?」

「どうしたって…なんでいきなり戦う事になるんですか?」

「そりゃフィアがどれくらい戦えるか気になったからさ。話聞いてなかったのかい?」

「聞いてましたよ、聞いてたからこそ質問してるんじゃないですか。俺の時はともかく、フィアの実力なんて測る意味無いじゃないでしょう?」

「意味はあるさ。私達が守らなきゃいけない程度なのか、最低限自衛が出来る程度なのか、護衛を任せられる程度なのか。今までは余力があったから問題なかったけど、あの鳥の化け物みたいな奴が出てきた時、フィアがどの立ち位置に居るのかによって動きは大きく変わってくる…という訳で」


カレンはハルバードを掴み上げ、その場から立ち上がると空いたもう片方の手をフィアに差し出して誘う。


「フィア、腹ごなしに一戦やらないかい?」

「ふむ…」


差し出された手を見つめながらフィアが考える。

その様子を見ながら、ライはフィアに対し必死の念を飛ばしていた。


(フィア!断ってくれ!護衛対象とやりあうなんて間違ってる!!)


ライの考えは正しい。

ライとフィアはカレン達を護衛するためにここに居るのであり、戦うために居る訳ではない。

しかしカレンの言うフィアがどれだけ戦えるかを知っておくという事も、カレン達の身を守る事に繋がる事に間違いはない。

では何故ライがフィアとカレンが戦う事をこれ程までに避けようとしているかと言えば、以前ライがフィアと模擬戦を行った事に起因していた。


(フィアの戦いに関して容赦がない…もしフィアが以前俺と戦った時と同じように戦ったとしたら)


ライの脳裏にピンボールのように弾けるカレンの姿が浮かぶ。


(まずい、絶対にまずい!今後の護衛に支障をきたすのは間違いない!)


だがそれと同時に、ライの中に微かだが期待もあった。

それはここ最近のフィアの変化についてだ。

多少ではあるがフィアは他人に配慮する事を覚えた。

今のフィアならば、護衛対象であるカレンに気を使って加減して戦ってくれるのではないか?。


そんな微かな期待がフィアを止めようとしたライの口から、違う言葉を発せさせた。


「フィア」

「ん?」

「分かってるよね?」

「…分かってる。心配しなくても大丈夫だよ」


ライの問いにそう答えながらフィアが立ちあがる。


「魔法は抜き、殺し合いでは無いんだから手加減しろって言いたいんでしょ?」

「フィア…」


理解してくれたのかと、フィアのその成長にライが顔が歓喜の色を浮かべた。


「魔法抜きで殺さない…それってつまり――」


カレンの元へゆっくりと歩み寄りながら顔だけをライの方に向け、フィアが言葉を続ける。


「以前ライとやった時と全く同じで良いって事でしょ?」


(ちがぁぁぁぁう!確かにあの時フィアは徒手で魔法も使ってなかったけどそうじゃない!!)


カレンと共に輪から離れて行こうとするフィアの背にライが手を伸ばす。


(どうする!?どうすれば良い!?二人は完全にやる気満々だし、それを止める事はもう無理だ!じゃあどするんだ!?カレンさんとフィアに戦いを止めさせるにはどうすれば――)


「待った!!」

「ん?どうしたんだいライ?」


立ち止まり振り返った二人の元にライが急ぎ走り寄る。


「あの…カレンさん」

「何だい?」

「フィアとやる前にその…俺とフィアの模擬戦を見てから決めてくれませんか!?」

「…はい?」


二人の戦いを止めるために咄嗟に出た言葉、ライ自身思ってもみなかったその言葉に一瞬ライの頭の中が混乱に包まれる。


(何を言ってるんだ俺は!?いや、でもこれしか無い!!カレンさんの前に俺がフィアと戦う!それでもまだカレンさんがやるって言うならもう知らん!どうにでもなれ!!)


やけっぱちになりながらもライがカレンを丸め込むために言葉を続ける。


「フィアとの模擬戦は何というかその…ちょっと普通じゃないと言いますか!魔法無し、殺し合い無しってのは勿論なんですけど、それを抜いても異常というか…とにかく!」


カレンの両肩を掴み、鼻先が触れ合う程にライがカレンに接近する。


「フィアと戦うって言うのならまず!俺とフィアが戦うのを見てからにしてください!」

「な、なんだいそりゃ…”俺を倒してからにしろ”ってなら分かるけど、ライとフィアが戦うのを見てからにしろって、一体それはどういう意味だい?」


カレンのその問いにライは答える事が出来なかった。

ライだってカレンとフィアの戦い止めるためという目的が無ければフィアと戦いたくなどない。

それはフィアを傷つけたくないだとかそんな理由ではない。

そんな考えは以前の戦いを経た時点で毛ほども存在していない。


以前、アルミリアの好奇心によって発せられた一言によって始まったフィアとの模擬戦。

アルミリアの目の前で完膚なきまでに叩きのめされた苦々しい記憶、自分が晒した醜態、それを今一度ここで、自分の事を評価してくれている人達の前で晒さなければならないというこの状況にライの心は折れそうになっていた。


「意味なんてどうだって良いんですよ…。お願いですから…もう黙って見ててください…戦いを見てそれでもフィアとやるっていうならもう止めませんから…お願いです」


声を震わせ涙声で説得するライの様子に、カレンが引き気味に答える。


「わ、分かったよ。そこまで言うならアンタの言う通りにするよ」

「ありがとうございます…」


感謝の言葉とは裏腹にライの表情は暗く、カレンの肩を掴んでいた手を放すとふらふらとした足取りでカレンの横を通り過ぎる。


「ラ、ライ…?大丈夫?」


ライの様子にフィアが心配そうに声を掛ける。


「あぁ…大丈夫だよ、それより始めようか。もう覚悟は出来てるから、もうやるなら一思いにやってくれ」

「分かった…それじゃあ――行くよ」







走馬灯のようにここまでの経緯を宙に浮きながら思い返していたライの腹部に強烈な衝撃が突き刺さり、ライの身体が勢いよく地面に叩きつけられた。


「――っ…!」


もはや声を絞り出す気力すら無くし、地面に身体を横たえたライの傍らにフィアが着地する。


「ふぅ…ライ、これ位で終わりにしておく?」


フィアの問いかけにライは辛うじて首を縦に振る事で答える。


「そっか…さてと、身体も温まったし…ねぇ、”やる”?」


そう言いながらフィアがカレン達の方へと視線を向ける。

視線を向けられたカレンはビクリと肩を震わせると、数歩後ずさりする。


「え…遠慮しとくよ」

「…そう?やらないならやらないで別に良いけど」


先程までやる気満々だったカレンがアッサリと引き下がった事にフィアが首を傾げながらも、それ以上追求するような事はしなかった。


こうしてライの身体を張った犠牲により、護衛対象との関係悪化は避けられたのであった。

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