神様の御使い
「ん、んぅ…ここは…」
「目が覚めた?」
気だるげなライの顔を覗き込むようにしながらフィアがそう聞いてくる。
「…フィア?」
「おはようライ、その様子だとまだ全快とは言えないみたいだね」
「………そうだ!あの人達は!?祭りはどうなったの!?」
目が覚めたばかりで呆けていたライだったが、窯底での出来事を思いだし勢い良く身体を起こしてフィアに詰め寄る。
「落ち着いて、窯の中に居た人達の魂は無事解放したし、本来逝くべき所までたどり着いたよ。祭りの方はあんなことがあったし中止になっちゃったけどね」
フィアの言葉にライは落ち着きを取り戻し、フィアに礼を言う。
「…そっか、ありがとうフィア」
「私からしたらこれくらいなんてこと無いよ――って、一体そんな状態で何処に行くつもり!?」
ベッドから降りてふらふらとドアに向かって歩いていたライをフィアが制止する。
「町の様子を見に行きたいんだ」
「気を失って今目が覚めたばかりなのに…そんなの明日にすれば――」
「今じゃないと駄目なんだ。俺は自分が出した答えの結末を受け止めなくちゃいけない。明日に明日にと先伸ばしにしてたら何時になっても俺は受け止められない…そんな気がするんだよ」
それだけ言うとライはフィアの方に振り返る事もなく黙って部屋から出ていく。
宿を出たライの耳に入ってくるは案の定、中止になった祭りに関する話題ばかりだった。
「今日のあれは一体なんだったのかしら」
「なんか新しいパフォーマンスとかだったんじゃないか?」
「それなら祭りが中止になるなんて可笑しくない?」
「今日のアレで魔窯が壊れただなんだって話になってるけど本当なのかね?」
「さあな、良く分からんが…ちょっと揺れたくらいだろう?別に窯が爆発した訳でも無いんだし大丈夫なんじゃないか?」
「お前窯の中見たのかよ?中に入ってた物が空っぽになってたんだぜ?」
「特別な力だかなんだか知らねぇけどそんなもん御子がまた魔窯に力を注げば良いだけの話だろ。騒ぐほどの事でもないって」
「アルミリア様は一体どうしてしまわれたのだ…」
「これからマリンベールはどうなってしまうのだろうか?もし本当に魔窯が壊れたりでもしたら…」
「ありえん!そんな事は絶対にない!アルミリア様がそんな事をするはずが無いだろう。あのお方はエインズワース家の娘なのだぞ!?。最も魔窯の恩恵を受けているのはエインズワース家なのだ。それを壊すような真似をするはずがない、そうだそうに違いない!魔窯が壊れているなんて出鱈目だ!」
「次の祭りは一体何時になるんだろうねぇ」
「この様子だと当分はやらないんじゃないかしらね」
「祭りも中途半端に終わって、魔窯が壊れたんじゃないかって皆ピリピリしてて空気も悪いし…これも全部アルミリア様のせいね。今までロクに屋敷から出た事も無いって話だし気でも狂っていたんじゃないの?」
「本当よ、まったく領主様は一体何を考えてあんな娘を御子に選んだのかしらね」
(違う、そうじゃない)
好き勝手に話す周囲の人間達に対し、ライは言い様もない怒りと罪悪感を覚えていた。
アルミリアは何も悪くない、ただ操られていただけだ。
そして魔窯の力が失われた事にアルミリアは関係ない。
アルミリアは決して悪くない、悪いのは自分だ。
魔窯の力の源を解放し、魔窯を使えなくしたのは自分なのだ。
そう叫びたくなる衝動に駆られながらもライは広場に向かうために人混みの中を掻き分けていく。
広場に近づくにつれ周囲には鎧を着た兵士のような人間が増えていき、広場の入口には入場を禁止するように兵士達が立ち塞がっていた。
「何だお前は」
「………」
ライは兵士の問いに答える事なく兵士の背後に見える魔窯に視線を送り続けていた。
そんなライの態度に兵士は露骨に不愉快そうに顔を顰めると、舌打ちをする。
「…ッチ、変な奴だな。ほら!ここは立ち入り禁止だ!どっかに行け!」
そう言って兵士はライの身体を押す。
ライはそれに抵抗する事もせず、そのまま地面に尻餅をつく。
地面にへたり込んだままライは周囲から聞こえてくる声に耳を傾ける。
その内容はやはり宿屋を出た時と変わらない、いや魔窯の側という事もあるのか先程よりも人の量も多く内容もより辛辣な物になっていた。
マリアンベールの未来を心配する声、アルミリアを責める声、自分達はこれからどうなるのだろうかという住民達の不安の声、それらすべてが刃となりライの心に深々と突き刺さって行く。
(覚悟はしてたつもりだったんだけどな…)
何があってもその結末を受け入れる。
その覚悟は出来ていたつもりだった。
だがいざそうなってみれば、街一つ、そこに住む人々の未来を閉ざしてしまったという巨大な罪悪感で圧し潰されそうになっていた。
到底一人の人間が背負えるような物ではない。
それでもライはその声に耳を傾け続けていた。
(耳を塞いじゃ駄目だ)
逃げないと、そう決めたのだ。
自分が出した答えを受け入れると、そう決めたのだから。
ライを顔を上げ広場の中に視線を送る。
そこには先程までの腑抜けた顔はなく、覚悟の色が浮かんでいた。
この騒動の結末を、動かなくなってしまった魔窯の姿をその瞳に焼き付ける。
そんな時、ふとライの視界を遮るように一本の腕がライに差し出される。
その腕の辿ってみると、ライのすぐ脇にフィアが立っていた。
「フィア…」
「何時までそこでへたり込んでるの?ほら」
そう言ってフィアは差し出した手を掴むように促してくる。
ライはフィアの手を取るとその場に立ちあがりフィアへと向き直る。
「満足した?」
「満足って言われると違う気もするけど…そうだね、敢えて言うなら実感が湧いたって言うのかな。俺は自分で選んだんだってそんな実感が」
そう言ってライは自分の胸を握りしめるようにしながらもう一度魔窯に視線を向けた後、魔窯に背を向ける。
「…行こうか、フィア」
「もう良いの?」
「うん、ここに居ても俺に出来ることなんて…いいや、俺に何かをする権利なんて無いんだから」
ライはそのまま広場から離れるように踵を返して歩き出す。
ライの言う通り魔窯の力を奪ったライが、この街に対して、ここに住む人々に対して何かをする権利など有りはしない。
ライに有るのは自分が出した答えの結末を受け入れる義務だけなのだから。
広場から離れて少しした頃、ライは自分に向けられた視線に気づく。
視線だけではない、もう一つ魔窯の中で感じたあの感覚も感じ取っていた。
「フィア、感じる?」
「うん、広場からずっとついて来てたよ。どうするの?」
「…横道に逸れよう」
そう言ってライはフィアの手を引いて大通りから細い路地へと入って行く。
その間にも何者かの視線を感じていたが、ライは気にする事なく路地の奥へ奥へと進んで行く。
やがて大通りからも離れ、人の気配はおろか人の声すら届かぬ辺りでライは足を止め、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには闇が居た。
黒衣の中は身に纏った黒衣よりも深く暗い闇で満ちており、黒衣の中身を推し量る事は出来ない。
表情の一切を読む事も出来ないまま、互いに相手の出方を窺っていると黒衣を纏った何者かが唐突に口を開く。
「お前か?お前がやったのか?」
「一体何のことだ?」
何者かの問いにライは警戒しながらもそう聞き返す。
黒衣の者は暫く黙り込んだ後、再び口を開いた。
「窯の底を見た。あそこにはもう誰も居なくなっていた…お前が何かしたんじゃないのか?」
その問いを聞いたライの表情から警戒の色が薄れ、何処か気の抜けたような顔になる。
それに気づいたのか、黒衣の者がライに再び問う。
「何だその顔は…俺に何か言いたい事でもあるのか?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど…ただ」
「何だ?」
少し言い淀みながらもライが目の前の存在を見据えながら発言する。
「俺はてっきり魔力の暴走を止めた俺の事を恨んで後を付けてきたんじゃないかって考えてたから、普通に話が出来そうでちょっと安心したと言うか」
そう言いながらライは目の前の存在を観察する。
以前のライであればこんな存在を目の前にして今のように落ち着いて会話などしていられなかっただろう。
しかし窯の底で魔窯にまつわる話を聞き、目の前に居る者の正体に当たりを付けていたライはその者を恐れるような事はなかった。
そんなライの態度に黒衣の者も毒気が抜けたのか、黒衣の中の闇が少し薄れたように見えた。
「可笑しな奴だ。俺を目の前にしてそんな態度を取るなんてな。窯の底を見たのなら俺の正体も気付いてるんだろう?」
男の問いにライは頷く。
「窯の底で大勢の人間を見た。あんたと同じように身体から負の感情を漂わせてた」
窯底で見た物を思い出しながらライは確信をもって口にする。
「あんたは窯の底に閉じ込められた人間の内の一人だ」
「…惜しいな、正しくは閉じ込められていた元人間だ。肉体を持たず、魂だけとなった人間なんてそうは居ないだろう?」
そういって黒衣の者は身体に纏っていた黒衣を脱いで見せる。
黒衣が負の感情を押さえる役目でも果たしていたのか、黒衣を脱いだ途端、周囲に負の感情が漂う。
周囲に漂う負の感情が濃くなる度にそれに反比例するように目の前の存在を覆っていた闇が薄くなっていく。
やがて薄くなった闇の奥から一人の人間が姿を現す。
日に焼けた肌、無地で飾り気のない衣服に身に着けた20代と思われる男がライの目の前に立っていた。
「この姿も魔力で作った見せかけだ、本当の俺は呪いによってこの世に縛り続けられているただの哀れな魂でしかない」
男はそう言いながら自分を嘲るように笑う。
そんな男の笑みにライは言い様もない感情を抱く。
「あんたは一体何がしたかったんだ?窯の中に居た人達を助けたかったのか?」
その問いに男は答えない。
ライはそんな男に構う事無く言葉を続ける。
「もしそうならもっと他に方法はなかったのか?あんな荒っぽいやり方じゃなく、ミリアを操るような、広場にいた人の命を危険に晒すような方法じゃなくて、もっと違う誰も傷つけないような方法が――!?」
そう言いかけたライの背筋に突如悪寒が走る。
その悪寒の正体にライはすぐに気付いた。
目の前に居る男から先ほどとは比べ物にならない程の負の感情を感じ取ったのだ。
「誰も傷つけない方法…?お前はそんな事を本気で言っているのか?」
男が言葉を発する度に、その身から深い闇が溢れ出す。
「どうして俺がこの街に住む人間を気遣う必要がある?。誰のおかげで今の生活があるのかも知らず、ただのうのうと生きている人間に…!」
狭い路地を闇が埋め尽くそうに広がって行き、ライは始原を使う事で闇から身を守る。
「あいつらは知らない、自分達の生活が一体何を犠牲にして成り立っているのかを」
「あいつらは疑わない、魔窯の、御子のその存在する意味を」
「あいつらは気付かない、自分達の立つ地面の下に居た存在に」
うわ言にようにそう繰り返していた男だったが、そうしている間にも男からあふれ出す闇はより深い物となり男の姿を完全に覆い尽くす。
「許せるはずがない…俺達を閉じ込めたあの一族も、その言葉に騙され疑う事もしなかった人間達も、許せる訳がないだろう!!」
男が感情を爆発させ吠えるように叫ぶ。
「俺達はずっと待ってた!暗い窯の底で!気が狂いそうになるのに、耐えがたい空腹感に耐えて!何時かあの荒れ果てた土地が緑でいっぱいになった時、この暗い窯の底から出られる日が来るんだって!その日をずっと待ち続けてた!」
男の叫びが狭い路地にこだまする。
「でもそんな日は来なかった!終わりのない恐怖に、どうしようもない空腹感に皆どんどん可笑しくなっていた!」
「………」
「想像出来るかお前に!?自分の身体を、一族の仲間の身体をも喰らってでも空腹感を埋めようとする人間の姿が!」
男の言葉にライは窯の底で見た人間達の身体が欠損していた事を思い出す。
欠けた指、抉れたような傷、もしやあれは人間が食い千切った跡なのだろうか?。
その事を思い出したライは否応も無くその情景を想像してしまう。
「つい先ほどまで互いに励まし合っていたはずの人間が次の瞬間にはまるで何かが切れたように豹変し、自分の指を食い千切ったんだ!そうして狂気は連鎖していき、空っぽだった窯の底は一瞬にして悲鳴と絶叫でいっぱいになった!!」
男が両手を広げ天を仰ぐ。
「まさに地獄さ!お前に分かるか!?俺のこの怒りが!!」
「それは…」
男の言葉にライが言い淀む。
そんなライに対し、男は先ほどとは打って変わって落ち着いた声色で喋り出す。
「そうだ…お前は言っていたな?。魔力の暴走を止めた俺の事を恨んで後を付けてきたんじゃないかって」
「…あぁ」
「可笑しな事を聞くな…そんな事分かり切っているだろう?」
そう男が言った次の瞬間、身体を飲み込むように膨大な闇が、負の感情がライ目がけて襲い掛かる。
「恨んでない訳がないだろう…!お前は邪魔をしたんだ!あの屑共を殺すのを!俺達の復讐を!」
「うっ、ぐぅぅ…!」
自身に向けて放たれた濁流のような負の感情に押しつぶされないよう、ライは始原を絞り出して抵抗する。
男の怒りは収まる様子は無く依然としてライを飲み込まんとしていた。
「俺達が何をしたと言うんだ!?何故俺達がこんな仕打ちを受けなければならなかった!?」
怒りに身を任せるよう男が叫ぶ。
「何故俺達が悪魔と呼ばれなければいけない!?何故俺達が忘れ去られなければいけない!!俺達にこんな仕打ちをした者達を、俺達をこんな不死の化け物にした者を許せる訳がない!!」
一頻りそう叫ぶと、男は力なく項垂れ全身を覆い隠していた闇も徐々に薄れていく。
感情を一気に吐き出したためか、男は疲弊した様子だったが、それでもなお言葉を紡ぐ事をやめなかった。
「許せる訳が無い…でも」
男の口から嗚咽が漏れ、震えるその声には怒り以外の感情が宿る。
「それよりも…なによりも…」
困惑、悲嘆、疑念、そして――
「皆を…助けたかった…!」
――願い。
男がそう口にした途端、周囲に漂っていた全ての闇が嘘のように消えて無くなり、男の姿が露わとなる。
「例えあの男に掛けられた呪いを解くことが出来ないとしても、あの地獄から…暗い窯の底から皆を解放したかった」
顔を両手で覆い隠し、嗚咽を漏らしながら男が言う。
「本当は復讐なんてどうだって良い、ただ陽の光の当たる場所に連れ出してやりたかった…」
そう言うと男はライの方へと顔をむける。
その顔には先程までの様子とは打って変わり、どこか吹っ切れたような表情を浮かべていた。
「だから一族を呪いから解放してくれたお前には、恨み以上に感謝している…ありがとう」
「…別に俺は大した事はしてない」
先程とはまるで違う男の変わりように困惑しながらもライはそう答える。
あくまでもライは決断しただけであり、呪いから一族を解放したのはフィアだ。
ライは隣に立つフィアを横目に見る。
フィアは特に変わった様子も無く表情一つ変えずに男をただじっと見続けていた。
ここで自分ではなくフィアがやったと言った所で何かが分かる訳でもないだろうと考えながら、ライは男に質問をする。
「復讐がどうだって良いって言うなら一族が解放された今、お前はどうするんだ?」
「お前が許してくれるなら俺も一族の者と同じように呪いを解いて貰いたい。あの男と同じ力を持つお前ならそう難しい事じゃないだろう?」
男の言葉にライは驚いたような顔をする。
「俺の力に気付いてたのか…」
「お前が魔力の暴走を止めた時からな。その蒼い輝きだけは忘れられない」
ライの身を覆う蒼い光を見つめながら男が言う。
「皮肉な話だ…俺達に呪いをかけた忌まわしい力のはずなのに、それが今は俺達を解放する希望の光になるなんてな…」
「その、お前が言うあの男って言うのは何者なんだ?」
「知らない。あの男はある時突然現れ、お前が纏っている物と同じ力を使い奇跡を起こしていった。奇妙な身なりの胡散臭い男だったが、あの頃の俺達はそんな者にすら頼らなければならない程切迫していた。それに俺達はあの男によって呪いをかけられてすぐに窯の中へと入ったからな。その後男がどうなったのかも分からない」
「そうか…」
ライは少し落胆したように呟き、男はもう話せる事は全て話したとそれ以上何かを語るような事はなかった。
「もう良いだろう。さぁ俺も解放してくれ」
そう言って男はライの前で無防備に身体を晒す。
ライはフィアに目配せし、男の元へと歩み寄り男に向かって手を伸ばす。
始源に覆われた手が男に触れようとしたその時、ライは動きを止め手を下ろした。
「…悪いけど、俺にはお前を解放する事は出来ない」
「何故だ?」
「俺にはお前を許す事は出来ない、お前が本当に許しを乞わなければいけない人間がいるはずだ」
「本当に許しを乞わなければいけない人間だと…?」
それ一体何なのかと男が考えていると、ライが口を開く。
「ミリアに謝ってくれ。ミリアがお前を許さない限り、俺はお前を解放出来ない」
そう言ってライは身体に纏っていた始源を身体の中へと引っ込める。
例え同族を助けるためだったとしても、男がアルミリアを操りアルミリアの手で儀式を失敗させた事に変わりはない。
アルミリアは責任感の強い人間だ、感情の捌け口を用意してやらなければ全てを一人で抱え込もうとするだろう。
もしここでライが男を許し解放してしまえば、アルミリアは悲しみをぶつける矛先を失ってしまう。
「ミリアは優しい子だ。お前の事情をしればきっと許してくれる」
ライの口から飛び出た言葉に、男は怒りを露わにする。
「ふざけるな!許してくれるだと!?一体何様のつもりだ!!。お前は俺達を窯の底に閉じ込めた一族の末裔、それもよりにもよって俺達を封じようとする御子であるあの娘に謝れと言うのか!?」
再び身体から闇を滲ませながら男が吠える。
「そんな事出来る訳が無いだろう!あいつらは俺達の事を悪魔と呼び、あまつさえ忘れるような――」
「忘れてないよ」
男の叫びを遮るようにライが言葉を発する。
「ミリアは忘れていなかったよ」
「…どういう事だ?」
男がそうライに聞き返す。
「ミリアは俺達に言ったんだ。御子には魔窯を動かす力も、大地を豊かにする力もない。本当は神様の御使いが大地を豊かにしてくれてるんだって、お前達の事を神様の御使いだって、そう呼んでた」
その言葉に男が驚いたように目を見開くも、ライはそれに構うことなく言葉を続ける。
「マリアンベールで生を受け、生き、魔窯の恩恵を受けた一人の人間として感謝と祈りを捧げるんだって、忘れられた物を取り戻すんだって、そう言ってた」
ライから聞かされたその話に、先程まで露わにしていた怒りは鳴りを潜め、男は黙り込む。
ライはそんな男の脇をすり抜け数歩進んだ所で足を止める。
「俺達は一週間後にこの街を出る。それまでにミリアに許して貰えたのなら呪いを解くよ」
それだけ言うとライは再び歩き出す。
男はライを引き留める事もせず、ライが居なくなったその後もただ黙ってそこに佇み続けていた。
後二話でこの章は完結予定。
この章は大分シリアスに寄ってしまいましたが、暫くシリアス成分は鳴りを潜めると思います。
元々は序盤の設定に触れる部分を除いて物語後半まではほのぼの&コメディが中心になる予定でしたからね!。
それがどうしてこうなった…。