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Sランク冒険者

ライがギルドを飛び出してすぐの頃、ギルドの奥にある応接室に集まる5人の男女の姿があった。

何を言うでもなく静かに目を瞑りながら黙って話を聞く、重厚な鎧を身に纏い腰まで流れる長い金髪が特徴的な男、【聖壁】のルーク。


苛立たし気な表情を浮かべながら目の前に座る女性を睨みつける金髪のポニーテールで腰にレイピアを吊り下げた少女、【剣乱】のアリス。


大きな欠伸をかきながら退屈そうにその様子を眺めるガッシリとした体形の茶髪の男、【豪腕】のアドレア。


気だるげな表情を浮かべながら我関せずといった様子の紫色のローブを身に纏った赤毛の女性、【魔境】のイザベラ。


そしてアリスから鋭い視線を向けられ冷や汗を流すメガネをかけた中年の女性…ガダルのギルドマスターだ。


重苦しい沈黙が応接室を満たしていると、苛立ちを抑えきれなくなったアリスが手に持っていた羊皮紙をテーブルに叩きつけながら吠える。


「ねぇアンタ、何なのこのふざけた依頼は…私を舐めてる訳?」

「い、いえ!そのような事はありません!しかし今その依頼をこなせるのはSランク冒険者である皆様しか――」

「へぇ…?それが分かっててこんな依頼を私達に回したっていうの?」


そう言ってアリスは手に持っていた依頼の内容が書かれた羊皮紙を女性の目の前に叩きつける。

それはライが見ていた竜の卵の納品依頼の羊皮紙だった。


「私は天竜を狩るためにここに来たのよ?それが何?アンタは私に卵運びをやらせるためにここに呼んだっていうの?」

「そ、そうではありません!勿論皆様にはガダルの側の山に住み着いた天竜の討伐のために集まっていただきました!ただ――」

「ただ?」

「…私共にも立場がございます、貴族の方からの依頼はどうしても断り辛いのです」

「………はぁ」


ギルドマスターの言葉に、アリスがあからさまにため息を吐いてみせる。

立ち上がっていたアリスは椅子に座りなおすと、ギルドマスターを睨みつける。


「私達は冒険者よ、依頼を受けろと言われれば受けるし、仕事を選り好みするつもりもない…でもね」


少女は目を細めながらギルドマスターに向かって言葉を投げる。


「こういう詐欺紛いの行為をされるなら、こっちもそれ相応の対応はするわよ?」

「詐欺など…そんな人聞きの悪い!」

「じゃあ聞かせて貰うけどこの依頼、他の街でも出しているのかしら?」

「…いいえ」

「じゃあ次、この街の周辺に天竜以外の竜種に関する目撃情報はあるの?」

「……ありません」

「それじゃあ最後に…どうしてこのタイミングでこの依頼を出してきたの?Sランク冒険者が集まるこの日に」


ギルドマスターは何も答えない。

そんなギルドマスターの様子にアリスは苛立ちを露わにして言う。


「依頼内容にもよるでしょうけど、Sランク冒険者に指名依頼を出すとしたらとんでもない額が掛かる。だから指名ではなく一般という形でギルドの掲示板に張り、さらに竜種であれば何でも良いとして費用を可能な限り抑えた…この付近で手に入る竜の卵なんて天竜の卵しかないっていうのにね、本当に馬鹿な貴族ほど悪知恵が働くものだわ」


怒りを通り越して呆れかえったアリスはそう言うとため息を吐く。

沈黙が再び応接室を満たした時、コンコンとドアをノックする音が響く。

その音に助かったというような表情を浮かべながらギルドマスターが入るように告げる。

入ってきたのはいつもライの依頼の受付をしていた受付嬢だった。


「失礼します、至急ギルドマスターにお伝えしておきたい事が…」

「伝えたい事…?それは一体何?」

「実は、とある冒険者が街の中で魔物の卵を拾ったと」

「何ですって!?」


予想外の内容にギルドマスターが声を上げる。

沈黙を守っていた他の3人もその言葉にピクリと反応を示す。


「その卵というのはどの魔物の物か分かるのですか?」

ルークが受付嬢に対してそう質問する。


「いえ…それが持ってきた方も拾ったというだけで、ギルド職員の中でもそれが何の卵なのか分かる者がおりませんでした」


受付嬢の言葉に、アドレアが口を開く。


「卵ねぇ…まぁなんの卵だって良いだろ、魔物の卵が街中にあったってのが問題なんだろ?」


アドレアのその言葉に、イザベラが反論する。


「馬鹿ね、持ち込まれた卵によっては大惨事になりかねないのよ?そうなる前に早急に何か調べる必要があるわね…その卵って何処にあるのかしら?」

「それなら皆様に見て貰おうとこちらの方に」


そう言って受付嬢が扉の前から退くと、二人の男が白黒の卵を抱えて入ってくる。

その卵を見て露骨に反応する人間が二人。

一人はルークで、卵を見た途端目を見開き驚きの表情を浮かべていた。

もう一人はイザベラで、ガタンと大きな音を立ててその場から立ち上がる。

二人の様子にアドレアが疑問の声を上げる。


「どうした二人共、あの卵に何かあるのか?」


アドレアがそう言うと、イザベラが声を震わせながら答える。


「どうしたもこうしたも無いわよ…!なんでこんな物がここに…!」


全員の視線がイザベラに集まる中、ルークがポツリと呟く。


「天竜の卵」

「え?」


誰かが上げたそんな声に、ルークが答える。


「それは天竜の卵です」

「な――!」


その場にいる人間が驚愕の表情を浮かべる中、アリスは極めて冷静にルークに問いかける。


「なんでそんな物がここに?」

「それは分かりません…案外あの依頼を見て持ってきた人間が居たのかも…」

「どんな大馬鹿者よ、たった100万ギルダで天竜の巣から卵を盗み出すなんて…あり得ないわ」

「それ以前に天竜に見つからずここまで卵を運ぶ事が可能かどうかよね…私には無理だわ」

「俺にも無理だな、コソコソするのは好きじゃねぇ」

「私にも無理ですね…もし可能な人間が居たとすれば、ここに居ない最後のSランク冒険者くらいですが…」


ルークの言葉に、その場に居るSランク冒険者達が渋い顔をする。


「確かにアイツなら可能かもしれねぇが…盗みは専門外だろ、アイツの専門は”人殺し”だぜ?」

「そんな事より今はどうしてここに天竜の卵があるかよりも、ここにある天竜の卵をどうするか考えるのが先決じゃないかしら?」


アリスがそう言うと、ギルドマスターが食い気味に肯定する。


「そうです!これが天竜の卵なら早速依頼主の元に――」

「待ちなさい」


イザベラがギルドマスターを制止する。


「その卵、そのままにしておくとちょっとまずい事になりそうよ」

「まずいって何がだ?」


アドレアがそう尋ねると、イザベラはゆっくりと立ち上がり卵の側に歩み寄る。

そして卵の表面を軽く撫でると、おもむろに何もない空間で何かをつかみ取るような仕草をする。

イザベラが空中で何かを掴むような仕草をした瞬間、空中に紫色をした魔力の糸が姿を現す。

その糸は卵の表面から窓の外に向かって伸びていた。


「コイツは…?」

「マーキングみたいなものかしらね、この魔法の糸で繋がれている限り卵の位置は糸を仕掛けた術者にまるわかりになるわ」

「術者って…この卵を街に置き去りにした奴か?」

「そんな魔法まで掛けて街中に放置するなんて意味が分からないわ、別の奴が仕掛けたんじゃないの?」

「だとすれば、この魔法を仕掛けたのは…天竜か?」

「そう考えるのが妥当かしらね…まったく、面倒な事をしてくれたわ」


イザベラはそう言うと、糸から手を放して椅子に座りなおす。


「このままだと、卵を取り返そうと天竜がガダルまですっ飛んでくるわよ」

「糸をどうにかする事は出来ないのですか?私達の中でも最も魔法に長けた君なら」

「既に試したわよ、残念だけどアレは無理ね…」

「無理って…じゃあどうするのよ?街中で戦闘する気?」

「卵を街の外に運ぶのはどうでしょう?少なくとも街中に突っ込まれるような心配は無くなると思いますが」


3人がそう話し合っていると、アドレアがおもむろに立ち上がる。


「だぁーもう!ゴチャゴチャうるせぇ…要は卵をどうにかしちまえば良いんだろう?」

「どうにかって…ちょっと、アンタまさか!?」


アドレアは卵の前で仁王立ちすると、拳に魔力を込め卵に向かって拳を振り下ろした。

卵は拳を一瞬受け止めるも、すぐに亀裂が入り粉々に砕け散った。


「た、卵が!!一体何をするのですか!?」


ヒステリックに叫ぶギルドマスターを鬱陶しそうにしながらアドレアが答える。


「ぶっ壊したんだよ、天竜の野郎がここに突っ込んでこないようにな」

「壊したって、あれが一体どれだけの価値があると――」

「うるせぇな…じゃあてめぇは金のためならこの街がどうなっても良いって言うのか?」

「それは……」


口ごもるギルドマスターと、それを苛立たし気に見つめるアドレア。

このまま男がギルドマスターに殴りかかるのではないかと、周りの人間が不安に思っているとイザベラが割って入る。


「はいはい、壊しちゃった物は仕方ないんだから、とりあえずこれからの事を考えましょ」

「そうですね、卵がどうなろうと私達は天竜を狩るために集められた…その事実に変わりはありません」

「当初の予定だと天竜の住む山にこっちから出向く予定だったけど…大人しく待っていてくれるかしら」

「無理でしょうね…卵の位置は天竜も把握してたと思うし、多分向こうからこっちに来るわよ」

「はっ!向こうから来るって言うんなら迎え撃つまでだ」

「流石に街中で戦う訳にも行きません、街の外で迎え撃つのが良いかと」

「それじゃあ決まりね、各自準備して南門に集合よ」


こうして、Sランク冒険者達は各々が天竜討伐のために行動を始めた。

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