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悪魔の正体

暗い窯の中、地上からさしていた日の光さえ届かぬ深い闇の奥へとライは今膨大な魔力と共に落下していた。


「う…ぐぅぅぅ!」


額に脂汗を浮かべながらライが唸る。


(これだけの魔力を抑えるほどの始源、そう長くは維持できない…!)


現在ライが制御している始源の量はライが扱える所か本来捻り出すことさえ困難な量だ。

何故それだけの量を捻り出すことが出来たかと言えばそれは火事場の馬鹿力としか言い様が無いだろう。


天竜の時と同じく、ライの感情が猛り噴出したあの時、そのライの感情に引きずられるようにして捻り出されたに過ぎない。

それ故に一旦は危機を乗り越え、多少は感情の波が収まった今、ライは未だかつてない量の始源をその場に留めるだけで精一杯になっていた。


(維持するだけで手一杯だけど…でもこのままじゃ駄目だ。ただ抑えるだけじゃ一時凌ぎにしかならない!)


そもそも維持をすると言っても現状魔力が外に漏れ出さぬよう始源を蓋のようにしているだけだ。

今でこそ穴の大きさは地上の魔窯となんら変わりはないが、少しでも穴が広がったり、形が変わりでもすれば魔力は僅かなその隙間から一気に漏れだし地上へと吹き上がるだろう。


(どうすれば良い?どうすればこの状況を打開できる!?)


焦ったようにライが考えを巡らせていると、ふとライの頭の中に声が響く。


『全く、いきなり飛び出したかと思えば…無茶するねライ』

「フィ…ア?」

『喋るのも苦しいって感じだね、仕方ない…少し始源を借りるよ』


フィアの声がライの頭の中に響くと同時にライの意思とは無関係に始源が魔力を包み込むように広がる。


「これは一体…」


ライの身体から噴き出した始源は完全に制御を離れ、緑色の魔力を蒼い色の始源が押し込むのではなく、その色を塗り潰すように浸食していく。

制御が離れた事でライは自由の身となり、ただ目の前の光景に目を、意識を奪われていた。

密度も量も圧倒的に劣っているはずの始源が、一方的に魔力を侵食していくその光景に。


『これが始源だよ。全ての始まりでありその源、その力を使い生み出すのではなくその存在を無に還す事に利用する』

「無に還す?」

『別に難しい事じゃない、紙に書いた文字にインクを垂らして塗り潰すみたいな物だよ。始源によって生み出された物を始源を使って塗り潰し存在しなかった事にする、ただそれだけ』

「それだけって…」


フィアは何の事はない、当たり前の事のように言っているが、ライはそれがとんでもない力だということに気が付いていた。

始源が全ての源であるのなら、フィアが言ったように始源を使うことで簡単に存在を塗りつぶす事が出来るのだと言うのなら、それはこの世に存在する全ての存在に対し無敵と言っても過言では無いだろう。


今はただ始源を魔力に対する壁程度にしか始使っていないライだが、改めて自身の中にある力に対し言い知れぬ恐怖を覚える。


『ライ、もうすぐ窯の底に着くよ』

「へ?」

『へ?じゃないよ、落ちてるんだからいつか底にぶつかるのは当たり前でしょ。それよりもここから先は可能な限り始源で全身を守るんだよ』

「守るって一体何から――」


ライがそう言いかけた次の瞬間、全身を何かが這い回るような不快な感覚がライを襲う。


「な…に…これ」


突如襲いかかってきた言い様のない感覚にライが声を、身体を震わせる。

それだけではない、ライの身体が窯の底へと近づく程にその感覚は強くなっていき、やがてはフィアとは違う誰かの声が聞こえるようになった。


『…くい』

『ど…して』

『……たい』


不明瞭で何を言っているのかも分からない、性別も年齢も違う様々な人間の囁き声のような物がライの頭の中に響く。


(人の声…?一体何を言っているんだ?)


何をいっているのかを聞き取ろうとライが不快感に耐えながらも声に意識を向けたその時


『――殺す』


不明瞭な囁き声のような物ではない、ハッキリとした声でそう聞こえてきた。

その瞬間、ライの全身を這い回るようにしていた何かがライの中へと入り込もうとしてくる。


「うぐっ!?」


突然の事にライは対処する間もなくその何かに意識をグチャグチャにされる。

それと同時にライは自身の中に入り込んできた物の正体に気が付く。

それは感情、老若男女様々な人間の憎悪の感情だった。


「ぐっ…うぅ、うぁぁぁぁぁぁああ!!」


ライが叫び声を上げると、ライの身体から始源が噴き出し身体の中に入り込んでいた憎悪の感情を押し流す。

誰かの悪意に晒され、二度にわたり自身の限界を越えて始源を使用したためか、ライは肉体的にも精神的にも消耗が激しく身動ぎ一つ出来ないまま暗い穴の底へと落ちていく。


『だから言ったのに…仕方ないな』


そんな声が聞こえてきたと同時にライの身体が暖かい何かに包まれ落ちる速度もゆっくりとした物へと変わっていく。

悪意の込められた声とは違う優しいフィアの声色にライが少し落ち着きを取り戻す。

ライの落下速度はどんどん落ちていき、やがてライの足の裏に硬い地面の感触が伝わってくる。

地に足が付くとライの身体から力が抜け落ち、両膝を地面につき荒い息を吐く。


『ライ、大丈夫?』

「はぁ…はぁ…なんとかね、それよりもここが窯の底…?」


どれ程の高さを落ちてきたのだろうか、天を見上げるも地上の光は見えない。

それ所か全身を始源で覆い、蒼い光を周囲に発しているのにも関わらず周囲の景色はおろか自身の身体さえ視認する事が出来なかった。


「ただ暗いんじゃない、何かが視界を覆ってる?」


ライがそう言いながら片手を顔の前まで持ってくると、黒い闇を掻き分け淡く発光する自身の手が姿を現した。


「やっぱり、これは一体」

『さっきライの身体に入り込んだ物だよ。今は全身を守ってるから嫌な感じはしないと思うけどね』

「この黒いのが…それなら始源で…!」


左手に始源を集中させ、左手を横薙ぎに振るうと同時に始源を放ち、前方の闇を払う。

闇が押し流されると始源から発せられる蒼い光が暗い窯の底を照らし出す。

始源によって照らし出された窯の地面は地上部分と同じく石で出来ており、壁や天井も可笑しな所は特にない。


「うっ、ぐぅぅ…」

『ライ、始源を使い過ぎだよ、それ以上使ったら始源を維持する体力さえも無くなっちゃうよ』

「分かってる、これ以上は使わないよ…」


体力的にも限界が来ているのか、ライが重い足取りで始源により照らし出された地面に向かって歩を進める。


(ここが窯の底なら閉じ込められた何者かが居るはず)


そう考えながら周囲を見渡すも始源によって闇を払ったのは一部分であり、大部分はまだ闇に閉ざされていた。


(見えない所に居るのだろうか?)


ライが足を一歩踏み出したその時、足先が何かに引っ掛かり体力を消耗していたライはバランスを取る事も出来ずそのまま地面に顔面を強打する。


「うがっ!?」


強かに顔を打ち付け両手で顔を抑えるライの姿にフィアが声を掛ける。


『ライ、本当に大丈夫?』

「だ、大丈夫…ここ最近の特訓のおかげで大分慣れてるから。それよりも…」


ライがすぐ後ろを振り返り薄暗い地面に目を凝らしてみると、闇の中に石とは違う何かが見えた。

その正体を探るべく、ライはその何かに近づくと手をあおぎ闇を払いのけようとする。

しかし払っても払ってもその何かから闇が溢れ出しているのか完全に闇を払いのける事は出来ない。

それでも着実に闇は薄くなっていき、やがてその姿を認識出来るようになった。


辛うじて衣服としての体裁を保っている布切れ、枯れ枝のようにやせ細った四肢、胴体より繋がる頭部、闇の中から現れたその物体の正体にライは気が付く。


「…人?」


震える声でライが呟く。


「なにこれ、なんでこんな物が窯の中に…!」

『それが窯の中に閉じ込められた神の御使いの、悪魔の正体だからだよ』

「この人が…?でももうこの人は…」


そう言いながらライは地面に倒れ伏す者に視線を落とす。

長年放置され続けたのだろう、衣服であるであろう布切れの劣化具合から見てどう考えても数十年いや、数百年ですら足りない程昔からずっと魔窯の中に閉じ込められていたのだろう。

ガリガリに痩せ細り皮と骨だけになったその姿はどう考えても生きては居ない。

だが、そんなライの考えを否定するようにフィアが言う。


『死んでないよ。その人はまだ生きている』

「生きてるって…そんな馬鹿な、こんな状態で普通の人間が生きて居られる訳が」

『普通ならね。でもこの人は…ううん、この人”達”は普通じゃない』

「人達…?」


フィアの言葉に、ライは顔をあげ周囲の地面を見渡す。

すると今まで気づかなかったが目の前に倒れ伏す人間以外にも、同じようなボロボロの布切れを纏った人の存在に気付く。


「何でこんなにも大勢の人が…それに生きてるって一体どういう事なのフィア?」

『…そうだね、少し昔話でもしようか』

「昔話?」

『そう、遠い遠い昔のお話。魔窯とそれを与えられた二つの一族、そして呪いに纏わるお話』

当初の予定では分割予定は無かったのですが、分割しないと絶対また長くなるのが分かってたので今回は分割です。

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