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全力全開

またも投稿遅れてすみません!。

〆に向かって怒涛のシリアス祭りになるのでどうしても筆の進みが遅くなる…。

そして今回も長いです!シリアスは本当に長くなる!どっかで分ければ良かったと思いながら前回に続き一括投稿です。

祭りの本番が始まる少し前、マリアンベール中央に位置する広場へと繋がる西側の大通りをライとフィアが歩いていた。


「もうライがグズグズしてるからこんな時間になっちゃったよ」

「…ごめん」


通りを歩くフィアの後ろをライがそう謝りながらついていく。

すると目の前を歩いていたフィアが小さく振り返った。


「まだ悩んでるの?」

「…分かんない。どうするべきかはもう答えが出てるんだけど、それを実行に移せるか分からないんだ」


そんなライの言葉に、フィアはライの考えを見通すかのように言う。


「失敗するのが怖い?。自分の出した答えのせいであの子が傷つくのが怖い?」

「………」


フィアの言葉にライは何も言い返す事も出来ず押し黙る。

あの後、ライは自分の出した答えをアルミリアに打ち明ける事にした。

だがそう決めたは良いもののいざ当日になってしまうとどうしても勇気が持てず、宿屋のベッドの上でうだうだして所をフィアに部屋から追い出され、こうして重い足取りで広場に向かって歩いていた。


「まぁ、答えを出した所は一歩前進したと思うよ。でも答えを出しただけじゃ何の意味も無いよ。答えを出してそれからどうするかが大事なんだから」

「分かってるよ…」

「なら良いんだけど」


そんな事を話している間にも二人は広場に到着するも広場は既に多くの人間で溢れかえっていた。


「やっぱり人で魔窯の回りはいっぱいになってるね…。ライがうだうだしてたせいだよ?」

「悪かったって…とりあえず道の前で立ってるのも何だし広場に入ろう」


ライはそう良いながら比較的に空いていそうな北側に移動する。

南側に比べれば人の数は減ってはいるが、あくまでも比較的というだけであり腕を伸ばそうとそれば誰かしらにぶつかってしまうだろう。


何処か良い場所は無いのかと周囲を見回すライの耳に、様々な人間の会話が聞こえてくる。


「なぁ、前に魔窯祭りをやったのって3年前って聞いたけど本当か?俺爺さんに生涯の内で一回か二回見られる位だって聞いてたんだけど」

「本当さ。その爺さんの言ってたことは先代の領主様が取り仕切ってた頃の話さ。今の領主様になってからは"民のため、領地を豊かにするために有るものは活用しなければならない"って言ってたぜ」

「へぇー領主様も立派なもんだな」


「今年からはアルミリア様が御子様をお勤めになるんですってね」

「えぇ、顔も見た事も無かったから楽しみだわ。それにしても前の御子様はどうなるのかしら?」

「あら知らないの?御子様の役目は終わったからと何処かに嫁ぐって話よ」

「嫁ぐって…先代の御子様ってもう適齢期を過ぎてたはずでしょう?それが今から嫁ぐなんて貰い手が居るのかしら?」

「そんなの分からないわよ。でもそう考えるとアルミリア様も可哀そう…。御子様の役目が終わるまでは嫁ぐ事も出来ないって話だし、役目が終わった後はどうなるのかしら」


「御子様ってのはどうやって選ばれてんだ?」

「さぁね、エインズワース家に連なる者から選ばれてるって話だし血筋なんじゃないの?」

「血筋ねぇ…そうなると代わりを探すのも大変そうだな。最近祭りの開催頻度も上がってきたしアルミリア様も大変そうだな」


耳に入ってくる人々の話にライは考える。


(そうだ、今日やってそれで終わりじゃない。ミリアは次の御子が現れるまでずっと御子であり続けるんだ)


ライもそして街の人々も御子に予備が存在している事は知らない。

いや、知って居たとしてもアルミリアが御子であり続ける事に変わりはないだろう。

今まで表に一切出てこなかった領主の娘が御子として初めて姿を見せる。

それは今までの祭りとは違い、祭りに興味を持っていなかった人間でもアルミリア自身に興味を持ち祭りを見に来るだろう。

それで人を集められるなら、アルミリアが御子として使える以上予備として用意されていた者達を使う理由も無い。

アルミリアで人を集める事が出来なくなるか、あるいはアルミリア以上に人を集める事の出来る次の御子候補が現れるまでアルミリアは御子であり続けるだろう。


ライの出した答えをアルミリアに打ち明けた時、アルミリアはどう考えるだろうか。

アルミリアは純粋で騙されやすい人間ではあるが決して馬鹿ではない。

ライの答えを聞いた時、きっとアルミリアはそれに納得してしまうだろう。

そしてアルミリアは魔窯の恩恵を受けた人間と魔窯の蓋を維持する御子との間で揺れ、苦しむことになる。

それは御子としての役割を終えた後もアルミリアを苦しめ続けるだろう。


(本当に言うのか?ミリアにこんな事を言ってしまえばミリアをずっと苦しめる事になる)


言えばそれで終わりではない、目先の事に囚われそんな簡単な事にすら気付けなかった自分に腹を立てる。

そんなことを考え、ライが一人顔を伏せていると巨大な影がライの頭上に現れる。


「こんな所で何辛気臭い顔してるんだい?」

「っ!?」


自身の頭上から聞こえたその声にライが顔をあげると、大量のぬいぐるみの上に腰掛けながらライを見下ろす一人の女の姿があった。


「貴女は…」

「やぁまた会ったね、お兄さん」


そこに居たのはアルミリアを初めて外に連れ出した時に出会った、あの気味の悪いぬいぐるみだらけの出店の店主の女だった。











「いやー、一人で見るのもつまらないと思ってたところでね、お兄さん達が居て良かったよ」

「はぁ…そうですか」

「何だいお兄さん、さっきから元気も無いし、それに何か言いたそう顔してるね?」

「いえ、貴女のおかげで魔窯の様子も良く見えるようになりましたし、感謝こそすれ文句なんて言える筋ではないんですけど…」

「けど?」


首を傾げる女にライは少し言い辛そうな顔をしながら口を開く。


「もっと他に無かったんですか?。これ以外の方法で」


そう言いながらライは自身が腰かけている物に視線を落とす。

ライとフィアは現在、宙に浮く大量のぬいぐるみの上に居た。


「えー、そんな事言われても困るよ。それに魔法使って宙に浮いてる人間なんて他にも沢山居るだろう?」


女の言う通り、広場には様々な方法で高所を取り祭りを見る者達が居た。

火属性の魔法を噴射しながら宙に浮く者、風属性の魔法を身に纏いふわりと漂う者、地属性の魔法で建物から壁を生み出しそれに腰掛ける者、それぞれが思い思いの方法で祭りをよく見るための工夫をしていた。


「それは分かってますよ。俺が言いたいのは魔法じゃなくてぬいぐるみの事です。凄い目だっててさっきから視線が痛いんですけど…」

「そうかい?気のせいじゃないかな、私は何時も通りにしか感じないけど」

「それってただ単に貴女が常に注目を集めてるだけの話では…」

「そうともいうね」


あっけらかんと言う女に対し、ライはそれ以上何も言う事もせずただ疲れたようにため息を吐く。


「お兄さん、何か悩み事かい?そんなため息ばっかり吐いてると幸せが逃げちゃうよ?」

「ご忠告どうもありがとうございます。まぁ心配される程の事でも無いんで…」

「そう…それなら良いんだけどさ。ただ女と居るってのに男がそんなんじゃ一緒に居る女に失礼ってもんだよ」


そう言いながら女がローブの首元の辺りを引っ張り胸元を見せるようにする。


「せっかくこんな美人が側に居るのにさ」


胸元を強調しながら女がライにすり寄る。


「そう…ですね、せっかくのお祭りなのに一人だけこんな調子じゃ一緒に居る人に申し訳ないですよね」


女の言葉にライは少し元気を取り戻し、顔を横に向け謝罪をする。


「ごめんねフィア」

「いや、別に私は気にしてないから謝る必要はないよ」

「あれ?お兄さーん?もしもーし私にはー?」

「でも空気を悪くしてたのは事実だから」

「おーい、私は無視かい?」


パタパタと胸元を開いたり閉じたりしている女にライが鬱陶しそうな視線を送る。


「貴女は何やってるんですかさっきから…」

「いや、落ち込んでるお兄さんを元気づけようとサービスをね?」

「はぁ…そんな事しなくても大丈夫です。おかげ様で多少はマシになりましたから…すみません、変な気を使わせてしまって」

「あぁ大丈夫だよ、変な気になんてなってないから、むしろ私がお兄さんを変な気にさせようとしてるだけだから」


そう言いながら女はいっそう胸元を開きライを挑発する。

そんな女にライは呆れたような顔をする。


「………やっぱりアンタに真面目に対応するだけ損ですね」

「酷い言い方するね、女性に対する扱いじゃないよそれ?」

「女性扱いされたかったらもっと女性らしい対応をしてくださいよ。今の所貴女の印象は女性ではなくただの不審人物ですからね?」

「お兄さんは本当に素直だね。もうちょっとオブラートに包んでくれても良いんじゃないかな…」


二人がそんな事を言い合っていると二人の話に割って入るようにフィアが言葉を挟む。


「そろそろ始まるみたいだよ」

「え?」


フィアの言葉にライが広場の方に視線を向ける。

広場の南側から大通りを通って白い服を纏った一団が魔窯に向かって歩いている姿が見えた。


「あれが…でもなんか人が多くない?」

「周りの男達は多分護衛とかだろうけど、他の女性は何だろうね?」

「二人共、魔窯祭りは初めて?」


女がライとフィアに尋ねる。


「そうですけど…貴女は違うんですか?」

「うん、私は3回目くらいかな?。それで魔窯祭りの先輩として二人の疑問に答えると、察しの通り周りの男達は御子の護衛だね。内側に居る女性達の内、例年通りなら先頭を歩いてるのが御子、それ以外は御子と似たような身なりはしてるけど御子ではないよ」

「御子じゃない…それならあの女性達の意味は?」

「それは知らない。演出か何かだと思ってたけど何か意味があるのかな?」

「三回目なのに随分といい加減ですね」

「三回目って言ったってただ見てるだけだからね。御子と一緒に舞台に上がって座ってるだけだし、魔法で何かやってる様子も無いから飾りだと思ってたけど」


女がそんな事を言っている間にも集団が広場の中へと入って来る。

魔窯へと歩を進める集団を人々が見守る中、ライの背筋に突如悪寒が走る。


「ッ!?」

「どうしたのライ?」

「いや…なんか嫌な感じが」

「嫌な感じ?」


ライの言葉にフィアと女が辺りを見渡す。


「…何か居る?」

「え、お嬢さんも何か感じるの?私は何も感じ無いんだけどなぁ…」

「貴女はそうでしょうね…貴女からしたら普段通りなんだから」

「ん?どういう事だいお嬢さん?」


フィアの発言に女がキョトンとした顔をする。

それとは対象的にライは何かに気が付いたように視線を鋭くし広場を見渡す。


(そうか、呪いか)


ライは感じた悪寒の正体が、隣に座る女から感じる物と似ている事に気が付いた。


(でも似てるけど違う…広場に漂うのはもっとこう悪意に満ちた物だ)


ライが悪寒の正体を探り出そうと辺りを見渡していると一人の人間に目がとまる。

プレートメイルを装備した冒険者らしき女性がふらふらと人混みを掻き分けながら御子の一団に近づこうとしている所だった。


「アイツか…!」

「ちょ、お兄さん何する気!?」


立ち上がろうとするライを女が制止する。


「何か不味い気がするんだよ、あれをあのまま放っておくのは」

「だからって人混みの中に飛び込む気!?そんな事したらお兄さんの落下地点に居る人間だって駄々じゃ済まないよ!」

「でも…!」

「大丈夫だよライ、どうやら祭りの警備をしている人間が対処してくれるみたいだよ?」

「え?」


フィアの言葉にライが先ほどの女性に視線を向けると、女性の背後に近寄る一人の少女の姿があった。

ポニーテールを揺らしながら真っ直ぐ迷うことなくプレートメイルを付けた女性の後ろに移動する。

そして少女が女性の背後に一瞬ピッタリとくっついた後、少女は女性の元から離れ別の方向へと歩き出す。


「あの女性から嫌な感覚が無くなった…?。一体何を」


そう言ってライは歩き去る少女に視線を移し、その正体に気が付く。


「あの子は…Sランク冒険者の――」


ライが驚いていると、一瞬アリスがライの方へと顔をむける。

視線がぶつかり合い、ライは無意識の内に目をそらしてしまう。


「…?」


アリスは首を傾げライの方を見つめていたが、イザベラからの指示ですぐにその場から離れて行った。


「誰か知り合いでも居たの?お兄さん」

「いや…知り合いって程でも無いんですけどね。一体何をやってるんだ…」

「大方この街の領主に頼まれて祭りの警備でもやってるんでしょ」


ライが顔をあげて広場のあちこちに視線を向けると、茶髪の大男に金髪で長髪の優男と見覚えのある面子の姿を見つける。


(Sランク冒険者三人がかりで祭りの警備?一体何を警戒してるんだ…って、あれ三人?)


イザベラの姿が見えない事に気が付き、ライが周囲を見渡すもそれらしき人間を見つける事が出来なかった。


(確か以前、東区で声を掛けてきたもう一人のSランク冒険者が居たはずだけど)


ぬいぐるみの上に立ち辺りを見渡すライの服の袖をフィアが引っ張る。


「ライ、少し落ち着いたら?」

「いや…でも――」

「今のライが出来る事なんて何もないよ。警備の人間が居るんだからそれに任せてライは祭りを見てれば良いんだよ」

「そーだよお兄さん、私達は祭りを見に来た観光客だよ?。それが警備の真似事なんて…下手に揉め事起こしたら言い訳も出来ないよ?」

「…そう、だね」


二人の声にライはまだ納得が行かないような顔をしながらも渋々腰を下ろす。


(Sランク冒険者が警備につくなんてただ事じゃない、絶対に何かあるはずだ)


表面上は祭りを見ている素振りを見せながらも、裏では何が起こってもすぐに動けるように常に気を張り続ける。

そうこうしている間にも祭りは着々と進み、魔窯の蓋が開け放たれる。

魔窯の中から零れ出す濃密な魔力の気配にライが思わず息を飲む。


「これが魔窯の中にある蓋…」

「蓋じゃないよお兄さん、あれがマリアンベールの大地を豊かにする神聖な力――らしいよ」

「らしい?」


その曖昧な物言いにライが首を傾げる。


「うん、マリアンベールに住んでる普通の住民や魔法について疎い人間なんかは皆そう信じ切ってるみたいだけど、ちょっとでも魔法に関する知識を持っている人間ならあれが単なる風属性の魔力だってすぐに気付くよ」


退屈そうに窯の中に視線を落としながら女はそう口にする。


「まぁでもそう考えたらお兄さんの蓋っていう予想は的外れでは無いかもしれないね。あれがただの風属性で本当に神聖な力でも何でもないというのならそれくらいしか魔力を魔窯の中に張る意味なんて無いからね」

「…でも実際に魔窯によってマリアンベールの大地は豊かになってるんですよね?」

「そう、そこが不思議なんだよねー。どう見てもただの風属性の魔力なのにマリアンベールの大地は実際に豊かになってる…お兄さんは分かる?」

「…さぁね、俺には皆目見当もつかないですよ」

「本当に?」


女性が少し笑いを堪え、ライの顔を覗き込むようにしながら問う。


「…なんでそんな風に聞いて来るんですか?」

「だってお兄さん、何か知ってそうなんだもん」

「…どうしてそう思うんです?」

「うん?だってお兄さんさっき窯の中を見て”あれが魔窯の中にある蓋”って呟いてたじゃないか。初めて祭りを見に来たはずなのに中身の事は知っていたみたいだし、それに初見の人間があれを見て蓋だなんて思わないよ普通」


ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら女が女が言う。

そんな女に対しライは表面上は平静を装いながら慌てる事無く返していく。


「ただ単に噂話の中にそんな話が混じっていただけですよ」

「本当にー?私そんな話聞いた事無かったけどなぁ…」


からかうような女の口調にライがむすっとした顔をする。

女の口調だけでなくそのしつこさにライが少し苛立ちを露わにしながら女に言葉を返す。


「仮に俺が嘘をついていたとして、それでどうする気です?真実を吐くまで質問攻めにでもするつもりですか」

「いやそんな事はしないよ。別に真実なんてどうでも良いし」


そうあっさりと言い放つ女にライが一瞬ポカンとする。


「…は?え、じゃあなんでそんな質問を…?」

「ん?単なるお兄さん弄りだけど?」

「あ、アンタって人は…!」


拳を握りしめ小刻みに震えるライの様子に女は小さく噴き出しながらも弁明する。


「ごめんごめん、お兄さんの反応があんまりにも真面目な物だからつい」

「アンタは数分に一度は誰かを弄らないと死ぬ病気にでも罹ってるんですか!?」

「違うよ、数分ではなく毎秒だね」

「訂正箇所間違ってないですか…?」


不真面目な女の態度にライはもう何も言い返す事も出来ず、力なくため息を吐く。


「貴女と真面目な話をしようと思った俺が馬鹿でしたよ」

「もーお兄さんもつれないねぇ…そもそも祭りの場で真面目な話なんて無粋なんだよ。もっと楽しい話をしようよ」

「その真面目な話を広げたのは貴女だろうに…!」

「まぁそんな事言わないでよ…それにさ」


女の余りの自由っぷりにライが頭を抱えていると、女が改まったように言う。


「いつまでそんな腐った顔してるんだい?お兄さんはここに何をしに来たの?辛気臭い顔をするためにこの街を訪れた訳じゃないんだろう?」

「………」

「何一人で抱え込んでるのさ、せっかくの祭りの席なんだから嫌な事なんて忘れて楽しめば良いんだよ。それが出来ないならそう出来るように誰かにぶちまけてスッキリすれば良い。私なら話くらいは聞くし、隣に座ってるお嬢さんだって私と同じ意見だろう?」

「…そうね、ライは少し抱え込みすぎる所があるっていう所は同意する」


今まで沈黙を守っていたフィアが女の言葉に同調する。


「それにあれだよね。お兄さんって器用だけど不器用な人間でしょ?」

「器用だけど…不器用?」

「自分に出来ない事はしない、でも出来る事なら一人でやろうとする。困ったら他人にすぐ頼る癖に、少しでも出来ると思ったら一切誰にも頼らない…そういう人間」

「………」

「出来る事と出来ない事をキッチリ分けられる器用な人間であり、自分だけの問題となると誰にも打ち明けようともしない不器用な人間でもある…もっと他の人間を頼ろうよ」


そう言いながら女はライの顔を、その次にフィアの顔を見る。


「極端なんだよお兄さんは、どちらか一方じゃなくてその間を取るべきだ。お兄さんにはこんなにも可愛らしいくて頼もしいお嬢さんが付いてるんだしさ。お嬢さんに頼っても良いんじゃない?」

「フィアに?でも俺は…」

「俺は?」

「………」


その後に続く言葉が出てこず、ライは黙り込んでしまう。


(俺はもう…フィアに散々頼ってしまっている)


天竜と戦った時、ライは天竜と戦う事を恐れ全てをフィアに投げようとした。

まともに戦えなくなってからはフィアに魔力を回して貰いながら何とか戦えるようになった。

始源を扱えるようになり、自力で魔法を使えるようになったのもフィアの協力があったからだ。

それ以外にも安全に旅を出来たのもフィアが事前に障害となる物を排除していたからだ。


(それなのに俺は、昨日もまたフィアに頼ろうとしてしまった…!)


昨日、フィアならばどうにか出来るのではないかとライはフィアに助けを求めてしまった。

自分には無理だと諦めて、出来ないからとフィアに全てを投げようとした。


「俺はもう…散々頼ってるんですよ。自分でやろうともせず頼ってばかりで…それでフィアにも昨日言われたんですよ」


『ライの悪い癖だよ、自分には無理だと思ったらすぐ諦めて誰かに頼ろうとする。天竜の時も、特訓を始めた時もそう、自分には無理だと決めつけて諦めてた』


「だから俺は諦める前に俺が出来る事をやろうって――」


『無理をしろって言ってる訳じゃないの。ただ諦める前にライが出来る事をやってからでも遅くは無いと思うよ』


「――そう決めたんです!」


ライの言葉に二人は黙って耳を傾ける。

暫く黙り込んだ後、フィアがライに問いかける。


「それで?散々一日中考えた結果、今のライの悩みは自力で解決出来そうなの?」

「それは…」

「その様子だとお兄さん悩むだけ悩んで何にも得られなかったみたいだね」

「ぐっ」


女の容赦ない言葉がライの心に突き刺さる。

そんなライの様子を横目に見ながらフィアがこれ見よがしにため息を吐く。


「はぁ…全く、ライは一つの事に囚われると他の物が見えなくなるよね」

「本当だねー、私お兄さんとは短い付き合いだけど、何と言うか単純で分かりやすい精神構造してるね」

「二人して俺を虐めて楽しいですか…」

「楽しい!…ってのはまぁ冗談で、さっきも言ったけどお兄さんは人を頼る事を覚えなよ」

「凄い笑顔で言っておいて説得力皆無なんですけど…それに言葉を返すようですけど、さっき俺も言ったように俺はもう散々フィアに頼って――」

「頼ってないよ」

「…え?」


横から聞こえてきたフィアのその言葉にライが驚いたような顔をしながらフィアの方を見る。


「ライは私に頼ってなんかいないよ」

「いや、そんな事ないよ!俺はフィアに頼りっぱなしで、それに昨日だってフィアに頼ろうとしたばっかりだし…」


そう言うライの様子にフィアは苛立ちを露わにしながら言葉を発する。


「ほんっとうにライは目の前の事に囚われるとそれ以外の事に頭が回らなくなるよね」

「フィ、フィア…?」

「ライは覚えてる?昨日私が言った事を”諦める前にライが出来る事をやってからでも遅くは無い”って」

「勿論覚えてるよ」

「じゃあ聞くけどさ、それからライはずっと悩んで考え抜いたんでしょ?考えて考えて…それでもまだ悩み続けてる」

「それは…だって俺にはそれしか出来る事が」

「あるよ、悩む以外にライに出来る事」


フィアは優しく微笑みを浮かべ自身の胸に手を当てながらライに言う。


「私を頼ってよ。ライはもう自分に出来る事を、悩むって事を散々やった後なんでしょ?」

「え?」

「私は頼るなとは言ってないよ。ただライに出来る事をやってから、それから頼ってって言ったんだよ」

「あ――」


フィアのあの言葉の意味をライは理解した。

確かにフィアは一言も頼るなとは言っていない。

フィアが本当に伝えたかった事は簡単に諦めるなという事、そして無理をせず本当に駄目だと思った時は頼ってくれと言う事だった。


「ねぇお兄さん、今お兄さんの頭を悩ませている問題は本当に一人で解決出来る問題なのかい?私にはそうは見えないけどね」

「………」

「ぶちまけちゃいなよ。無理だ、助けてくれって、見っともなく泣き叫んでしまえば良い。誰もそれを笑いやしない、馬鹿にしない、弱虫だなんて、何も出来ない男だなんて思わない」

「俺は…」

「お兄さんに必要なのは一人で抱え込む責任感なんかじゃない。本当に苦しい時、誰かに頼る勇気だ」


その言葉に無意識の内にライが両の拳を握りしめる。


(何意地を張っていたんだ自分は…フィアに、見知らぬ人にまでここまで言わせるなんて)


自分の意思の弱さにライは苛立ちを覚えていた。

ライは覚悟を決めた様子で、口を開く。


「フィア、お願いが――」


ライがその言葉を口にしようとしたその時、ライの全身を先程までとは比べ物にならない程の悪寒が襲う。

その悪寒はライだけでなくフィアや女にも伝わっていた。


「何この感覚!?」

「これは…凄い悪意の感情」

「一体何が…」


そう言いながらライは悪寒のした方向に視線を向けた時、気になる物が目に留まった。


「ミリア…?」


ふらふらと魔窯の淵へと歩み寄るアルミリアの姿をライは無意識の内に追う。

アルミリアの姿をライが追う中、アルミリアの側に居た一人の女性がアルミリアを止めようと手を伸ばす。

しかしその手がアルミリアの身体を掴む事はなく、頭から被っていた布だけがずれ落ちる。


「ッ――!?」


アルミリアから布が取り去らわれた瞬間、ライの背筋に悪寒が走る。


「フィア!何かあったら任せるよ!」

「ライ!?一体何を!」

「ミリアを止めないと!」


ライはそれだけ言うとフィアの問いに答える事もなく、両足に魔力を込めその場から思いっきり飛び上がる。

片足の魔力を使い切り高く飛んだ後、もう片方の足の魔力を使い建物の外壁を思いっきり蹴りあげ中央の舞台目がけて思いっきり飛び込む。

勢い良く飛び出したライだったが、舞台まであと少しという所で失速し始める。


(くっ、駄目だ!飛距離が足りない!このままだと人混みの中に落ちる!)


やがて完全に速度が失われライの身体は重力に引っ張られ人混みに向かって落ちていく。


(どうする!どうすれば良い!?)


焦るライを他所にタイムリミットはそこまで近づいていた。


(クソッ駄目だ!落ちる!)


――お兄さん、これは貸だからね。


ライが諦めかけたその時、ライの耳元に誰かの声が聞こえ、足の裏に何か柔らかい物を踏みつけたような感触が返ってくる。

その何かにライの足が深々とめり込むもそれ以上ライの足が沈み込む事は無く、しっかりとした足掛かりとして機能していた。


(これなら!)


ライは再び魔力を両足に込め、舞台目がけて思いっきり飛び込む。

飛び上がったライは首だけを後ろに向け足場にした物の正体を見る。

片腕で頭を押さえながら、もう片腕でこちらに手を振る気味の悪いぬいぐるみがそこには居た。


(あのぬいぐるみは…いや、今はそれよりも!)


舞台の上に着地するとライは魔窯の淵でへたり込んでいるアルミリアの元へと一目散に走り寄る。


(ミリアから感じていた嫌な感覚が無くなってる?一体何が)


ライがそんな事を考えていると、突然地面が揺れ出しライはバランスを崩す。


「うわ!?」


前のめりに倒れそうになったライの視界の端で同じようにバランスを崩したミリアが魔窯の中へと落ちていく所が見えた。

その姿を見た瞬間、ライの身体は無意識の内に勝手に動き出していた。


「あああああああああああああ!!」


残った片足の魔力を爆発させ、アルミリアの元へと思いっきり水平に飛びその襟首を掴みあげると自身の身体と入れ替えるようにアルミリアを引っ張り上げる。


「ライさん!!」


魔窯の中へと落ちていく最中、ライはアルミリアの叫ぶような声を耳にするもそれに気を捕えている余裕はライには無かった。

ライの目の前では荒れ狂う魔力が今まさに解き放たれる寸前だった。


(これは天竜の時と同じ!?)


天竜の身体を完全に消滅させたあの魔力の奔流、あれが再びこの地で引き起こされようとしている事にライは気が付いた。

このままでは折角助けたミリアの命も、そして広場に集まった何百、何千の命が失われる事になるだろう。


「そんな事、させるかぁああああああ!!」


ライが叫ぶと同時にライの身体から蒼い光が溢れ出し、解き放たれようとした魔力を抑え込む。


「こんのぉぉぉぉぉおお!!」


ライの身体から放たれた始源は魔窯に蓋するように広がり、膨大な魔力を押し込むと同時に、ライの身体は重力に引っ張られ魔力と共に窯の中へと落ちていくのだった。

流石にこれ以上遅れたらまずいと焦ったら最後の方はまたも雑な感じになってしまいました。

あと今深夜なので凄く眠たいです。

何時かその内機会があれば修正すると思います。

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