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上達した者達

予想より長くなりそうなのでいつもの分割です。

その分次回は早めに投稿する予定です。

あれから数日、祭りの本番が明後日に迫った頃、マリアンベールの地下通路を歩くアルミリアの姿があった。


「はぁ…やっと抜け出せた…」


魔法を覚えた翌日から今までたまに教えに来ていたはずの先生が毎日付きっ切りで教育をするようになり、アルミリアは思ったように時間が取れずにいた。

そのため以前のようにここに来れなくなると分かった時点でアルミリアは以前にも時間を見つけてライ達に事情だけは伝えていた。


「ふふふ…この数日魔力の制御だけをしていた訳じゃないんですよ…ウィスパーボイスをなんと五メートル離れた位置からでも声を届かせる事が出来るようになったんです!もう使う意味がないなんて言わせません!」


決意に満ち溢れた表情でアルミリアがそう宣言する。


「ん?声が…」


アルミリアが進む通路の先、いつもの大部屋から声が聞こえてくる。


「どうやら二人共もういらっしゃるようですね…。ここはウィスパーボイスで声を掛けて驚かせてみましょう!」


名案を思い付いたとばかりにあるミリアがウキウキとした様子で大部屋まで駆け足で行き、通路から中の様子を窺う。


「お二人は相変わらず特訓をして――」


ズドォォォォォン!!


「――はえ?」


アルミリアから数十センチ離れた地面が轟音と共に砕け散る。

アルミリアが呆けている間にも地面を粉砕した物の正体――魔力の塊が部屋中を飛び回り地面だけでなく天井や床に衝突する度に小さなクレーターを生み出していく。

そして部屋の中央ではアルミリアの想像通りライとフィアが特訓を行っていた。


「避けてるばかりじゃ制御は上達しないよ!」

「くっ…こんのぉ!!」


しかしその様子はアルミリアが最後に見たあの特訓よりも一段と凄まじい物になっていた。

フィアの放つ攻撃は威力も量も段違いに増えており、ただの魔力の塊だけでなく槍のような物やレーザーのような物まで飛び交っていた。

一方ライは以前は左右の手からしか出す事が出来なかった始原を全身に纏い、フィアの攻撃を防ぐだけでなく始源を周囲にばら撒く事によってフィアが魔力を集めるのを妨害していた。


「じゃあこれならどう!」


フィアの身体よりも大きな魔力の塊がライ目がけて飛んでくる。


「なんの!」


ライが右腕を薙ぎ払うと始源が溢れ出しライの姿を隠すように周囲を漂い、始源に触れる事で魔力が削がれる。


「今度はこっちの番だ!」


サイズも威力も落ちた魔力の塊を片腕で受け止めつつ、フィアに対して密度を高めた始源を叩きつけるように放つ。


「甘いよ!」


始源がフィアを飲み込むよりも早くフィアが魔力で壁を作る。

始源と魔力がぶつかり合い、互いの勢いを削ぐ。


「キツイの行くよ!」


フィアのその宣言と同時に、魔力の壁と始源を突き破るように槍状の魔力の塊が現れる。

突き破る事に特化した魔力は始原により殆ど減衰される事なく猛然とライに襲い掛かる。


(流石にあの槍を防ぐのはまだ無理だ。かと言ってただ避けるだけじゃ特訓の意味がない…それなら)


ライは自身に向かってくる槍を前に全身の力を抜き、身に纏っていた始源を霧散させる。

ここ数日の特訓によりライは始原をただ出すだけはなく、自身の体内に押し止める方法を身に付けていた。


(始源を体内に押し込んで魔力が入るスペースを作る。そして踵に魔力を、足先に始源を――)


反復で練習したことを思い浮かべながらライが構える。

ライの右足の踵に魔力が集中し、足先には全身に纏っていた時よりも濃密な始源が纏わりつく。


「行っけぇ!」


その掛け声と同時に踵の魔力が爆発し、槍状の魔力の塊の穂先に向かって斜め下から掬いあげるように蹴りを放つ。

足先に集中させた始源が槍状の魔力の塊を引き裂くよう強引に割り入り、引き裂かれた魔力の塊は跡形も無く消え失せる。


「やるね!だったらこれは!」


フィアの背後に槍状の魔力の塊が複数出現し、ライ目がけて飛んでくる。


「それは流石に無理!!」


今度は踵だけでなく右足全体に魔力を集中させクラックを発動する。

ライが勢いよく飛び上がり回避すると、魔力の塊はライの背後の壁に衝突し轟音が響き渡り、凄まじい衝撃波がアルミリアの居る通路にまで届く。


「きゃあああああああ!!」

「悲鳴!?フィア!ちょっと中断!」


悲鳴に気が付いたライがフィアに止まるよう呼び掛ける。

周囲に漂っていた始源や魔力が霧散し大部屋に静寂がかえってくる。


地面に着地したライが悲鳴のした方向に視線を向けると、頭を抑え地面に伏しているアルミリアの姿を見つけた。


「ミリア!?」


ライが慌ててアルミリアに駆け寄ると、アルミリアが体をゆっくりと起こす。


「大丈夫?」

「うぅ…はい、何とか」

「気付かなくてごめんね…」

「いえ、声を掛けなかった私が悪いんです。ライさんが気にする必要は無いですよ」


立ち上がり服についた土埃を払いながらアルミリアが言う。

立ち話をする二人の元にフィアもやってくる。


「こんな時間に抜け出してきて授業の方は大丈夫なの?」

「はい、実は先生がギックリ腰になってしまって…それで急遽予定が空いたのでこちらに来たんです」

「あぁ…そういやミリアの先生は肩と腰が悪いみたいな事言ってたね…」


出会った当初の頃を思い出しながらライが言う。


「とりあえず立ち話もなんだし座ろうか。丁度休憩もしたかったし」


ライの言葉に二人は頷き、三人で壁に寄り掛かるように腰掛ける。


「ミリアは魔法の制御の方は順調なの?」

「はい、毎日のように同じ事を繰り返してますからね。もう寝てても出来る自信があります!」


そういって握り拳を作って見せたアルミリアの拳に魔力が集まり薄緑色の光を放つ。


「へぇ…こんな短時間の内に魔力を練ったのか」


感心した様子のライに、アルミリアが気恥ずかしそうに笑みを浮かべる。


「毎日やってますから。それに何だかこの場所に何時も以上に魔力が集まっててやりやすかったというか」

「あー…それね」


不思議そうに大部屋を見回すアルミリアに対し、ライが微妙な顔をしながら隣に座るフィアに視線を向ける。


「俺の特訓のためにフィアが他所から魔力を持ってきたんだよ。ここにあっただけの分じゃ足りなかったみたいで」

「魔力を集めたんですか?。確かにそういった魔道具が存在するのは知ってますけど個人で所有出来るような物でここまで集められる物何でしょうか?」


不思議そうに首を傾げるアルミリアにライが答える。


「フィアだからね」

「…何故でしょう、何の答えにもなってないのに何だか納得してしまいました」

「二人共、それは一体どういう意味?」


フィアが張り付いたような笑みを浮かべながら二人に微笑みかける。


「あ、いやこれはその…あれだよ!フィアが凄いって事だよ!」

「そ、そうです!フィアちゃんは凄いですからこれ位出来ても不思議じゃないって事なんですよ!」

「…まぁいいけど」


そう言ってフィアが二人から視線を外すと、二人は安堵のため息を吐く。


「そう言えば先ほど特訓のためにって言ってましたけど、どういう事なんです?」

「あぁ、それはこの部屋に元からあった魔力だけだとどうしても一度に放てる魔力の数や種類にも限界があったからだよ。ライも初日の時点でかなり対応出来てたしこのままだと特訓にならないと思ってね」

「なるほど!それにしてもこれだけの魔力を一度に扱えるなんて…やっぱりフィアちゃんは凄いです!」


フィアを称賛するアルミリアだったが、すぐにはっとした表情になり自身の隣に座るライに視線を向ける。


「勿論、それを避けてたライさんも凄かったですよ!はい!」

「あはは…ありがとう。まぁフィアと比べたら俺がやってる事なんて地味だからね…仕方ないね」


ライが拗ねたような顔をするも、すぐに気持ちを切り替え今度はライがアルミリアに質問する。


「それよりアルミリアの方はどうなの?何か進展はあった?」

「あー…私ですか?」


ライの質問にアルミリアが言い辛そうな雰囲気を漂わせる。

二人の特訓を見るまではウィスパーボイスの事を自慢する気満々のアルミリアだったが、二人の特訓を見た後だと五メートルくらいで喜んでいる自分が何だか恥ずかしくなってしまったのだ。


そんなアルミリアの様子にライが心配そうな表情を浮かべる。


「何かあったの?」

「あぁ…いえ!別に何かあったって訳じゃないんです!ただその…ウィスパーボイスなんですけど、五メートルくらい離れてても声を届けられるようになったと言いますか…」

「五メートルも!?覚えて一週間も経ってないのに凄いよ!」

「…今、私のフォローを受けていたライさんの気持ちが分かった気がします」

「え?」


何を言っているのか分からないといったライに、アルミリアが頬を膨らませながら言う。


「私の五メートルなんてライさんの上達ぶりを見た後じゃ霞んで見えますよ…」

「あ――いやそんな事無いって!俺はほら毎日のように特訓してたけど、フィアは一日の殆どを魔力の制御の方に使ってたんでしょ?それで空いた時間にも魔法の特訓もしてこれなんだから俺なんかよりずっと凄いよ!」

「無理してフォローしなくて良いですよ…素人目にもライさんが凄い上達してるのはあんな短い間だけでも分かりましたから…」

「………」


これ以上無理にフォローしても意固地になるだけだろうとライは空気を変えるために別の話題を振る。


「そういえば明後日はもう祭り本番だよね!大地を豊かにする御子の姿!いやー楽しみだな!」


ライの発言にアルミリアの身体がビクンと跳ねる。

場の空気を変える事に夢中になっていたライはその事に気付く事なく続ける。


「噂話や見た事がある人なんかの話は聞いた事あるけど実際に見るのは初めてになるからね!どうやって大地が豊かになるんだろう!」


わざとらしく言葉を連ねるライに対し、アルミリアが重苦しい雰囲気を漂わせながら口を開く。


「知りたいですか?」

「…え?」


アルミリアのその雰囲気と声にライは思わず話をやめる。


「どうして大地が豊かになるのか…ライさんは知りたいですか?」


ライの真意を確かめるように、アルミリアがライの瞳を覗き込みながら問う。

初めて見るアルミリアのその様子にライは若干たじろぐも、その真剣な様子にライもアルミリアの瞳を真っ直ぐ見つめ返しながら答える。


「うん、知りたいよ」


雰囲気に流された訳ではない。

ライは実際にそれを知りたいと思っていた。

それはフィアが初めて魔窯を見た時に言っていた言葉、あの時見せた表情が忘れられなかったからだ。


(ミリアの話を聞けば、あの時の事が何か分かるかもしれない)


真っ直ぐ自分の目を見つめ返すライにアルミリアは覚悟を決めた様子でゆっくりと口を開く。

祭りの裏に隠された事実を、御子の本当の役目を、窯底に居る者について語りだす。

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