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悪魔の力

8話ぶりに話が進展した気がする。

今回のお話は基本的に主人公であるライのあずかり知らぬ所で動いているのでどうしてもこうなってしまう。

そろそろライも悪魔側のお話に絡みます。


マリアンベールで屈指の宿屋、イザベラが宿泊するその部屋のドアがノックも無しに開け放たれる。


「おい、イザベラ」


挨拶も無しに部屋に上がり込んできたアドレアに対し、イザベラはため息を小さく吐くと作業の手を止めアドレアに向き直る。


「何よいきな――」

「ほらよ」


イザベラの言葉を遮るようにアドレアが手に持っていた物を無造作に放り投げる。


「ちょ、あぶなっ!割れたらどうするつもりよ!?」

「知らねぇよ。それより結晶が無くなったから次の奴くれ」

「まったく…どうしてアンタはそんなにいい加減なのかしらね」


アドレアに対して文句を言いながらもイザベラは手に持った物を作業用の机に置く。

それは黒く濁ったイザベラ特製の魔結晶であり、その中にはイザベラを以前襲った襲撃者から吸い取った物と同じ魔法が収められていた。


「それにしても随分と数が多いな…これで何人目だ?」

「解析が終わったのが六つ、解析中の物が一つ、それと――」


イザベラが作業用の机に並べられた黒い魔結晶に視線を向ける。


「アンタが持ってきたのも合わせて手を付けていないのが五つ…計12人ね」

「随分と頻繁に刺客を送りくるもんだな…」

「それだけお手軽に量産出来るって事でしょ。はい、空の魔結晶よ」


そう言いながらアドレアに魔結晶を三つ手渡す。


「それにしたっていくら何でも多すぎじゃねぇか?。これだけ失敗しといてまだ送り込んでくるなんて、その悪魔ってのは暇なのか?」

「さぁね。私達の方に送り込んできたのは実はこれでもごく一部でありこっちは片手間に過ぎないとか」

「だとしたら相当厄介だな…洗脳の魔法ってのはそんなポンポン気軽に使える代物なのか?」


アドレアのその言葉にイザベラが露骨に呆れたような表情を浮かべた後、机の上に置かれた黒い魔結晶を手に取る。


「はぁ…アンタ、私がこの魔結晶を最初に解析した時にした話を忘れたの?」

「んあ?あー…なんか魔法に関してなんか語ってた事は覚えてるが、正直何言ってるか分からなかったな」

「あんな説明すら理解出来なかったのね…」

「俺はお前見たいなガリ勉とは違うんだよ。魔法学やらなんやらの理論なんぞ持ち出されてもサッパリなんだっての」

「だったらせめて分からなかったって言いなさいよ。何も言わないから理解したものだと思っていたわ」


イザベラはしょうがないといった様子でアドレアのためにもう一度、今度はアドレアでも分かるように要点だけを説明する。


「まず人間を操っていた力に関する事だけど、これは魔法とは言えないわ。強いて言うなら呪いみたいなものね」

「呪い?。それは闇属性魔法って事じゃねぇのか?」

「確かにどちらも闇属性の魔力から生まれた物だけど、本質的には全く違う物よ。魔法は術者が維持してやる必要があるけど、呪いはその必要がないわ。対象に取り憑いている限り呪いはそこに存在し続ける」

「術者が不要…待てよ?まさか悪魔ってのは――」

「そうね、順当に考えて意思を持つ魔法ではなく意思を持った呪いという事になるわね。それなら術者も無しに何世紀もの間存在し続けたのも納得が行くわ。ただ、その場合だとまた別の疑問が出てくるのだけど…」

「何だよその疑問ってのは?」


アドレアに対してこのまま説明するべきだろうかとイザベラが逡巡するも、理解出来ないならば説明を止めれば良いと考え口を開く。


「呪いが一体何に取り憑いているかって事よ。何世紀も昔から存在し続けている物なんて限りがあるわ。それに的を絞って調べれば悪魔に辿り着くと思っていたのだけどね…」

「駄目だったのか?」

「残念ながらそれらしき物は見つけられなかったわ。該当しそうな物は粗方調べたはずなのだけど、これで見つからないとなるともうこちらから探すのは無理ね」

「どうやっても後手に回るしかねぇって事かよ…」


そう吐き捨てるように言いながらアドレアが苦い顔をする。


「話が逸れたけど襲撃者に掛けられていた呪いの詳細の方に話を戻すわよ。呪いとは言ったけどこれは通常の物より大分簡略的な物よ」

「簡略的?」

「本来呪いっていうのは解呪しなければ対象から引き剥がす事はまず不可能、なのにこれはあっさりと剥がせた。そしてこの呪いというのが対象に強迫観念のような物を植え付けるものなのよ、対象の意識を混濁させて正常な思考能力を奪い取るの」

「あーちょっと待てよ。つまりどういう事だ?普通の呪いよりも解呪が容易で洗脳紛いの事が出来るって事で良いのか?」

「まぁ大体の認識はそんな物で良いわ。ただ洗脳ほど相手を自由に出来る訳じゃないけど」

「と言うと?」

「例えば目標を殺せという命令を洗脳された者に下したとして、洗脳の場合は1から10まで好きなように対象者を動かす事が出来るのに対しこの呪いは10のみ、つまり最終的な目的が達成されるならそこに至るまでの行動は一切指定できないの」

「そういや襲撃者によって動きが全然違ったな。前の奴が失敗して別の方法を取ったのかと思ったらその次の奴はまた馬鹿正直に真正面から突っ込んできたり…」

「この呪いはあくまで対象者に”これをやってこい”って命令するだけのもの、どう行動するも対象者次第、そしてその命令が達成されれば勝手に呪いは解けてしまうわ」

「なるほど、相手の全てを支配する訳じゃねぇって事か。その分洗脳魔法なんかと比べて代償も少ねぇだろうし…全く厄介この上ねぇなぁ」


そう言いながらアドレアが自身の頭を乱暴に掻く。


「ちょっと、フケが飛ぶから止めなさいよ」

「んだとぉ?つい三日前に風呂入ったばっかだっつーの」

「ここ各部屋に浴室がついてるんだから毎日洗いなさいよ…」

「依頼受けたら一週間くらい風呂に入らない事なんてザラだろ、三日くらいでうだうだ言うんじゃねぇよ」


アドレアはそう言った後、ふと思い出したかのようにイザベラに質問する。


「そういや悪魔の目的に関してなんか情報掴めたか?」

「目的に関してねぇ…それに関してはサッパリよ。まぁ、そこは正直そこまで重要視してないわ」

「何でだよ?目的が分かれば次にどう動くかの予想を立てられるじゃねぇか」

「確かに悪魔が魔窯を自分の物にしたいのか、破壊したいのか、それが分かるだけでも優位に立てるのは間違いないわ」


イザベラが手に持っていた魔結晶を作業用の机の上に置く。


「でも最終的な目的が魔窯である以上、どう足掻いても無視する事が出来ない物があるわ」

「無視出来ねぇ物?」

「魔窯の御子よ。魔窯をどうにかしようにも魔窯の蓋を開けるには御子の存在が欠かせないわ。だからこそ悪魔は祭りの時期にのみ現れるんじゃないかしら」

「御子か…それならこんな所に籠ってるよりその御子の護衛でもやってた方が良いんじゃねぇか?」

「要らないわよ。領主も御子が狙われるなんて百も承知でしょうし悪魔に対する対策はしてるみたいだしね。じゃないととっくの昔に魔窯は悪魔の手に落ちてるわよ」

「…それもそうか」


立ちっぱなしで話していて疲れたのか、イザベラがソファーに腰を下ろす。

飲みかけの紅茶に口を付け一息ついた後、イザベラは話を再開する。


「それに予備も用意してあるみたいだしね」

「予備?何の予備だよ」


アドレアのその質問にイザベラが少し言い淀みながらも口を開く。


「御子の予備よ」

「…何?」

「領主はもしもの時のために御子を複数用意してあるわ。もし使う予定の御子が何かしらの事情で使えなかった場合の代用品としてね」

「………何でそんな事知ってやがる。街でそんな噂話でも拾ったのか?」

「まさか、そんな事市井の人間が知っている訳が無いでしょう。領主の屋敷に小鳥を飛ばしただけよ」


イザベラは端から領主であるアルヒドの事を信用していない。

それもそうだろう、依頼を自分から持ち掛けておいて依頼に関する事を喋れないと言うのだ。

信用する所か怪しさしか感じない。

だからイザベラは街での情報収集を粗方終えた後、領主の館に小鳥を飛ばし領主の動向を探っていた。


「全員が集まってから話そうと思っていたのだけど、ここまで話が出たのだしアンタにだけ先に話しておきましょうか」


そう言ってイザベラは先ほど小鳥から受け取ったばかりの情報を思い返しながら話し出す。










「旦那様、少々お時間宜しいでしょうか」


領主の館にある書斎、そこには館の主であるアルヒドと老執事の姿があった。


「何だ、何かあったのか?」

「はい、お耳に入れておきたい事がございまして…実はアルミリア様の事なのですが、どうやら魔力の制御の方が順調なようで」

「ほう…この前は全然駄目だったと聞いていたが、制御できるようになったのか?」

「はい、今朝には魔法を覚えたいと仰っていたようでその魔法を習得する程には魔力の制御が――」


そう言いかけた老執事に向かってアルヒドが鋭い視線を向ける。


「魔法?誰がそんな物を覚えさせろと言った。アイツは御子だ、魔力の制御さえ出来ればそれで良い。余計な事を覚えさせるな!教えている人間にそう言っておけ!」

「かしこまりました。それと差し出がましいのですがアルミリア様の方も順調のようですし、アルミリア様を御子として使うように予定を変更するのでしょうか?」

「そうだな…アルミリアが使えないと思って別の人間に教育をしていたが…アイツが使えるなら使わない理由はない。予備に割り振っていた教育の時間を全部アルミリアに割り当てろ」

「かしこまりました。それともう一つご報告が」


そう言った老執事の顔をみて、アルヒドはその内容を悟ったのかため息を吐く。


「悪魔についてか…」

「はい、先日悪魔の呪いに掛けられた者が複数屋敷に侵入しようとしましたが、大多数は庭に設置された光属性の魔力を放つ外灯によって呪いを剥がす事に成功しました。しかし少数が館に侵入し使用人が数名軽傷を負いました」

「侵入を許した?外灯でも呪いを剥がしきれなかったのか?」

「はい、相当強い呪いを掛けられていたようで…」

「自身の身を削っての捨て身か…全くそれだけの力を無駄に浪費するとは、もう一度窯の中に押し込めるなら押し込んでしまいたい所だが、昔と違って今は二つ目の蓋があるからな…全く、貴重な”資源”を一体逃すなんて私の先祖はなんと愚かな事か」


不愉快そうにアルヒドが恨み言をこぼす。


「まぁいい、窯の底に居る残りでも資源は十分抽出出来ている。逃した一体に用はない」


アルヒドが窓の外に視線を向ける。


「今年は運が良い。この時期に世界に五人しか居ないSランク冒険者のうち四人がここマリアンベールに来たのだ。しかもその内の一人はあの【魔境】だ、逃げた一体を跡形も無く消してくれるだろう」


そうほくそ笑むアルヒドの視界の端、空に飛び去って行く一羽の小鳥が見えた。











「というような感じね」

「あの狸、俺達に尻拭いをさせようって事かよ」


怒りで歯をむき出しにするアドレアに対し、イザベラが落ち着かせるように声を掛ける。


「何怒ってるのよ。別に依頼で誰かの尻拭いをした事が無い訳でも無いでしょう。落ち着きなさいよ」

「確かにそうだけどなぁ…!最初から尻拭いをしてくれって頼まれたならまだしも自分は知りませんって面で押し付けてくるのは腹が立つんだよ!」


そう言って怒りをぶつけるようにアドレアがソファーの前に置かれたテーブルに拳を叩きつける。

テーブルはミシミシという音を立て、次の瞬間には真っ二つに割れる。


「はぁ…アンタが弁償しなさいよ」

「分かってるよ!」


苛立ちを抑えきれない様子のアドレアに、イザベラが訝しむような視線を向ける。


「…何でそんなに怒ってるのよ?」

「あぁ!?」

「ただ尻拭いをさせられたってだけでここまでキレる程小さい人間じゃないでしょ?。一体何が気に食わなかったっていうのよ」

「………ッチ、何でもねぇよ」


アドレアはそう吐き捨てるように言うと部屋を出ていく。

部屋を出て廊下を歩くアドレアの頭の中では先程聞いたイザベラの話が思い返されていた。


「自分の子供を道具扱いかよ。子供、家族を何だと思ってやがるんだ…」


他に誰もいない静かな廊下に、アドレアのその悲し気な呟きだけが響いた。

アドレアが常識人枠みたいになってるけどしっかり異常者です。

ただ全員それぞれ問題抱えていてそれが原因で異常性が出ているのでそれさえ取り除ければ常識人になる可能性も無きにしも非ず。

まぁ、その問題を取り除けるかはライ次第です。

あとそこら辺に触れるのは物語的に全員の異常性が明らかになってからです。(大分先です)

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