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ライの強さ

またも分割です。

一話で狩りを終えて街までの帰還をするつもりが、説明で伸びてしまいました。

どうも書いてあると当初の予定と狂うなぁ…。

「ふぅ…」


剣についた血を払い落し、布で軽くふき取ってから鞘に納めてからライは二人の元へと戻る。


「お疲れ様、ライ。随分と回りくどい戦い方してたね?」

「安全第一だよ。それに自分の身体が思い通りに動かくか試したかったからね。少しでも間が空くと思考に身体が追いつかない事なんて良くあるし」


ライが周囲を見回す。


「コボルトの吠え声で何匹か寄ってくるかなと思ったけど、この周辺には他のコボルトは居ないみたいだね。夕方までには終わらせないといけないし早く次の場所に――」


ライがそう言ってアルミリアの方に視線を向けると、呆然とした表情でライを見るアルミリアが居た。


「ミリア?」

「ふぇ?あ、すみません。ぼーっとしてました」

「まぁ初めて魔物を見たんだもんね。しょうがないか」

「いえ、それも有るんですけど…ライさんって本当にお強かったんですね」

「俺はそんなに弱そうに見えたのか…」

「え?あ、いや別にライさんの事弱いとか思ってたとかそういう意味ではなく!私が思っていた以上にライさんが強かったといいますか!あのその――」

「あはは…良いよ無理にフォローしなくて、コボルト三匹倒したくらいで見直されるくらいに俺が弱っちく見えてたってだけだし、ミリアが謝る事じゃないさ」


ライはそう言って笑って見せるも、背を向け歩き始めたライの背中からはどんよりとした空気が漏れ出していた。

これ以上下手な事を言えば昨日のようにライを落ち込ませるだけだろうと、アルミリアはそれ以上何も言う事が出来ず黙ってライの後を付いていく。

そんなアルミリアの横にフィアが並ぶように移動する。


「ねぇ、ライの戦いを見てどう思った?」

「ライさんの戦いを見てですか?。そうですね、魔物と戦う人なんて初めて見ましたけどその…凄いと思いました。人とは明らかに違う化け物を相手に臆する事無くあんな風に勇敢に戦えるなんて」

「それだけ?他に何も感じなかった?」

「え?それだけって言われても…」


そう言いながらアルミリアが前を歩くライに視線を向ける。


「…私にはそれだけしか分かりません。さっきも言いましたけど私は魔物と戦う人を初めて見ましたし、あんな化け物と真っ向から戦えるなんて凄い…そんな感想しか出て来ませんでした」

「まぁそうだよね。ライの戦いは他の冒険者みたいに魔法で押し切るような事も出来ないから地味に見えるし、安全圏から一方的に攻撃するなんて事も出来ないから前に出るしかない。ライが魔物に対してとれる手段は他の冒険者と比べたら圧倒的に少ない」

「それでもライさんはCランク何ですよね?中堅と呼ばれる冒険者と同じ」

「そうだよ、ライは取れる手段が少ない分、それを極める事にしたんだよ。他の冒険者が3の手段を持つのなら、ライは1つの手段を他の冒険者にも負けない位に突き詰めて行った。他人の何倍も努力してた」


フィアはそう言い、何かを思い出すように遠くを見る。


「ねぇ、最初にライがコボルトの攻撃を避けた時、何でコボルトに攻撃しなかったと思う?」

「攻撃しなかった理由ですか?」

「うん、攻撃を空振りして無防備になってたのに、何故あそこでトドメを刺さずに別のコボルトを仕留めに行ったのか分かる?」


フィアの質問にアルミリアが考える素振りを見せるも、すぐに首を左右に振って考える事を止める。


「…全然分かりません」

「ライは今回、自分が取れる手段の中で可能な限り身の安全を考えて戦ってたんだよ」

「身の安全ですか?」

「そう、あの時そのままコボルトに止めを刺していた場合、その間に左右のコボルトに接近されて挟撃されていた可能性が高い。だからライは目の前のコボルトに止めを刺さず別のコボルトを狙った」

「それなら挟撃されないように左右どちらかのコボルトを最初に狙えば良かったのでは?」


アルミリアの言う通り、挟撃を避けるだけなら相手の誘いに乗るような事はせず、左右どちらかのコボルトを狙うべきだ。

それが正面のコボルトを倒すためだと言うのならまだしも、ライは相手の策に乗った上で正面のコボルトではなく自身の右側に居たコボルトを倒しに行った。

アルミリアからしたら身の安全所か自ら危機に突っ込んで行ったようにしか見えないだろう。


アルミリアのその言葉に、フィアが苦笑いを浮かべながらアルミリアに質問する。


「まぁそう考えるよね。じゃあ相手から攻撃を受けないようにするにはどうすれば良いと思う?」

「えーと…相手の攻撃を避けるとか、魔法が使えるなら魔法で防いだりとかでしょうか?」

「そうだね、でも一番良いのは相手に攻撃をさせない事だよ」

「攻撃をさせない…ですか。確かにそれが出来るならそれが一番だとは思いますけど」


アルミリアの中で、相手に攻撃をさせないというフィアの言葉とライの先程の戦いが結びつかずにいた。


「挟撃されそうになってたじゃないかって言いたそうな顔してるね。でもああ見えてライが取れる手段の中では相手の攻撃を最低限に抑えてるんだよ。実際コボルトが攻撃出来たのは空振りした一回だけだしね」

「確かに結果だけ見ればそうですけど、挟撃される危険性を考えれば安全策だったとは思えないです」


納得が行かないのか、アルミリアがそう言いながら難しい顔をする。

そんなアルミリアに対し、フィアが答える。


「ライは最初から挟撃なんて受ける気は無かったよ。初めから長槍を持ったコボルトを狙って動いてた」

「そうなんですか?」

「例えばライが最初から長槍のコボルトを狙って動いてた場合、長槍のコボルトは勿論迎撃に出る。どう足掻いても一回は攻撃を躱さなきゃ行けないし、そのまま残った二匹に戦いを挑めばその繰り返しで二回は攻撃を躱す必要が出てくる」

「長槍のコボルトを倒した後に、ライさんが実際にやって見せたように土で視界を奪って奇襲するのは駄目なんですか?」

「あれは残った二匹が近くに居たからこそ出来た手段だよ。遠目からだと土程度じゃ視界を塞ぐ事なんて出来ないし」

「じゃあライさんがわざと挟撃されるような動きをしたのは…」

「正面に居たコボルトの所に他のコボルトを集めるため、それと正面のコボルトを攻撃すると見せかけて右に居た長槍のコボルトに不意打ちを喰らわせるためだね」

「ただ闇雲に突っ込んだ訳ではなかったんですね…」

「それだけじゃないよ。さっき私は”ライは初めから長槍を持ったコボルトを狙ってた”って言ったでしょ?。左に居た石斧を持ったコボルトじゃなく、何故長槍を持ったコボルトなのか…分かる?」


アルミリアがフィアの問いに顎に手を当てて考える。


「コボルトを一か所に集める、正面のコボルトを狙うと見せかけて別のコボルトに不意打ちを決める、それだけなら石斧を持ったコボルトを狙っても違いはなさそうですけど…うーん、ライさんが長槍を持ったコボルトを脅威に感じたから?」

「ハズレ、脅威に感じたというよりはむしろ逆だね。不意打ちを決めた際に反撃される可能性が低いのが長槍を持ったコボルトなんだよ」

「どういう事です?」

「不意打ちを決めたからってそれで相手が何もしてこないとは限らないでしょ?。特に魔物なんて人間と比べたら反射神経なんか数段上だからね。普通に反撃される可能性だってある」

「でもそれならどちらのコボルトでも同じ事では?」

「同じじゃないよ。石斧を持ったコボルトと長槍を持ったコボルトでは間合いが違うもの」

「間合いですか?」

「そう、あの時ライは一瞬にして相手の懐まで飛び込んだ。石斧ならまだしも、あそこまで懐に入られると長槍じゃ相当無理な体勢を取るか、長槍を短く持ち直すかしないと反撃は出来ない。石斧か長槍かの二択ならまず間違いなく長槍を持ったコボルトの方が反撃を受ける可能性が低い」

「つまりライさんはコボルトに遭遇して囲まれるまでのあの短い時間の間にそれだけの事を考えたって事ですか?」


ここまでフィアから聞いた話を思い出しながら、アルミリアが驚いたような表情で前を歩くライの背を見つめる。


Cランク冒険者、才能を持たぬ者の限界点、世界中に存在する冒険者の半数がCランクだと言われている世の中だ、Cランク冒険者なんて珍しくも無い。

だがライはそんな数多く存在するCランク冒険者の中で唯一魔法も無しにCランクに到達した冒険者、他のCランク冒険者とは訳が違う。


ライが魔法も使えないのに何故Cランクという地位に居るのか、その理由をアルミリアは何となくではあったが理解出来た気がした。

そんなアルミリアの横でフィアも同じようにライの背中を見つめながら言う。


「ライは強いよ。他のどんな冒険者よりもずっと」

「………」


フィアのその言葉にアルミリアはどう言葉を返して良いのか分からず、結局会話はそれっきりになった。


街に戻ったらストーカー組を挟んでいよいよ今回のお話の重要部分に触れていきます。

実はもう折り返し過ぎてます。

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