魔物との戦闘
予告通り早めの投稿。
短めの予定が普通に長くなってしまった。
アルミリアの言葉攻めによって意気消沈したライだったが、翌日にはどうにか元気を取り戻し気分転換とアルミリアにライの冒険者らしい所を見せるためにとフィアの提案により今日は三人で街の外に出て依頼をこなす事になった。
「い、今から街の外に出るんですね…」
ギルドで依頼を受けた後、三人は街の外に出るためにマリアンベールの正門に向かっている最中なのだが緊張の為かアルミリアが身体を震わせていた。
「何でそんな震えてるの?」
「だって今から外に出るんですよ!?」
「それが?」
「それがって…外には凶暴な魔物が居るんですよ!?しかもその魔物を討伐しに行くっていうのに何で二人はそんな落ち着いてるんですか!?」
「いや…そんな事で慌ててたら冒険者なんてやってられないし。それに街の外って言っても街道が通っている辺りは魔物なんて殆ど居ないし」
「そ、そうなんですか?」
「うん、少なくとも魔物”は”心配しなくて良いよ」
「そうですか…」
ライの言葉にアルミリアが安堵の表情を浮かべるも、すぐにまた不安そうな顔をする。
「でも今から魔物を討伐しに行く事には変わりないじゃないですか。大丈夫なんですか?言っておきますけど私一切役に立たない所か足手まといにしかならないですよ?」
「だから大丈夫だって、受けた依頼だってDランクだしアルミリアはフィアの側に居れば安全だから心配する必要は無いよ」
落ち着いた様子のライにアルミリアも少し落ち着きを取り戻す。
「ライさんって確かCランクとおっしゃってましたよね?」
「うん?そうだけどそれがどうかした?」
「いえ、以前衛兵の方達が10人がかりでCランクの魔物を討伐したという話を聞いたので、ライさんはそんな化け物を一人で討伐出来るだけの力があるんだなぁ…と」
「あー…まぁ衛兵の仕事は魔物退治ではないからね。訓練も対人を想定した物が殆どだろうし魔物に関しては殆ど素人だったと思うよ」
「そうなんですか?」
「うん、だからアルミリアが思っているよりもCランクの魔物って大した事はないんだよ。実際Cランクまでなら大概の冒険者がなれるからね」
「なるほど…」
ライのその説明に一応の納得はしたのか、それ以上アルミリアは何も言う事はなく黙ってライの後をついていく。
やがてマリアンベールの正門に辿り着くと、ライはギルドで発行された依頼書を衛兵に見せ、衛兵から渡された書類にサインをする。
その様子をアルミリアが興味深そうに見ていた。
「街から出るってだけでも色々あるんですね」
「まぁね。街に入る時は勿論、出る時もだけど何故街を出入りするのか?何か身分を証明する物はあるか?不穏な輩を街に入れないためには必要な事だからね」
「まぁ、偽ろうとすればいくらでも偽れるし、殆ど形だけで意味を無してないみたいだけど」
アルミリアとは対照的に興味は無いと言った様子でフィアが吐き捨てるように言うと、そのまま衛兵の脇をすり抜けるように門から街の外へと出ようとする。
「ちょ、ちょっとフィアちゃん!?街の外に出るのに書類とか書かなくて良いんですか!?」
「ん?あぁ、別に要らないよ。だってライと違って私達はここに居て”当たり前”なんだから」
フィアはアルミリアだけでなく、自身の存在を含めて周囲の認識をずらしていた。
普段街中を歩いているだけなら特に必要はないが、冒険者ギルドや依頼のために街に出ようとした場合、如何にも冒険者といった見た目のライとは違い、フィアはただの少女にしか見えない。
仮にそのまま街を出ようとすれば、冒険者の男がか弱い少女を街から連れ出そうとしているように見えるだろう。
そのため、フィアは余計ないざこざを避けるために認識をずらしているのだ。
「それに私がずらしているのは私達の存在であって書類は適用外なんだよ。書類を書いて街を出た証拠なんて残したら後が面倒になるよ?」
それだけ言うと、フィアは再び街の外に向かって歩み始める。
アルミリアも恐る恐ると言った様子でフィアの後を付いて門を潜ろうとする。
キョロキョロと辺りを見渡しながら門を潜ろうとするアルミリアに衛兵が視線を向けはしたが引き留めるような事は無かった。
そうしてアルミリアは門を完全に潜り抜け街の外へと出る。
街の外に出ると同時にアルミリアが大きく息を吐いた。
「ぷはぁ…!はぁ…はぁ…凄い心臓がドキドキしました」
「大袈裟だね。ここに居て当たり前に思われてるんだからもっと堂々とすれば良いのに」
「む、無茶言わないで下さいよ。街の外に出るだけでも緊張するのに衛兵の人達がこっちを見てくるんですよ!ドキドキしない訳ないじゃないですか!」
興奮した様子のアルミリアの背後から、書類を書き終えたライがやってくる。
「ミリア、少しは落ち着いて。ほらもう門は抜けたんだしさ」
「そ、そうですね。もう門は抜けたんですもんね………って、それって街の外って事じゃないですか!」
はっとした様子でアルミリアが首を左右に激しく振り辺りを見渡す。
「ま、魔物の姿は…」
「だから大丈夫だって、街道の辺りには居ないって言ったでしょ?」
「でも絶対では無いんですよね?」
「まぁそうだけど、街道に魔物が現れたりなんかしたら真っ先に衛兵が排除しに出るし、危険なんて殆ど無いよ」
「そうですか…そうですよね。すみません、初めて街の外に出るので何だか落ち着かなくて…」
「まぁ、今まで街の外に出た事も魔物を見た事も無いって言うなら仕方ない所はあるよ」
門の側でライとアルミリアがそんな会話をしていると、フィアが会話に割り込むように口を開く。
「二人共、こんな所で話してないで早く行こう。夕方までには街に戻るんでしょ?」
「おっと、そうだったね。アルミリアが屋敷を抜け出した事がバレる前には戻ってこないといけないんだった。少し急ごうか」
ライはそう言うと早歩きで街道を進み始めた。
マリアンベールの外に出てから30分程経った後、三人は街道から外れた森の中に居た。
ここ最近マリアンベールの周辺でコボルトの目撃情報が多発しており、その頻度からかなりの数の群れがマリアンベール近郊の森に居ると予想されていた。
しかしまだ集落が出来たという情報は無く、恐らく集落を作る場所を探すために分散して森の中に居る可能性が高いためこれを各個撃破、集落を作る前にコボルトを掃討する必要があった。
今回ライが受けた依頼というのがそれに関係する物であり、コボルトを10体討伐するのが今回の依頼の内容だ。
「依頼ってDランクでしたよね?。コボルトって確かEランクの魔物じゃありませんでしたか?」
「確かにコボルト自体はEランクの魔物なんだけど、コボルトは群れで行動する事が殆どだからね。最低でも二体、多いと五体以上で行動してる事もあるからDランクなんだよ」
「なるほど…もし群れに遭遇したらどうするつもりなんですぁ?」
「ん?そりゃ戦うけど」
「あーいえ、それはそうなんですけどそうではなくって例えばライさん一人では対処できない程の群れに襲われた時はどうするのかなー…と」
「対処しきれない程の大所帯に出くわす事なんて早々無いから心配する必要なんて無いと思うけど、まぁ素直に逃げるか搦め手を使うかかな」
「搦め手…ですか?」
「正面から勝てないなら相手の意表を突くしかないでしょ?まぁコボルトならいくら数が居ても問題にはならないけどね」
そんな事を話しながら森の中を移動していると、アルミリアが突然足を止める。
足を止めたアルミリアにライが振り返りながら声を掛けた。
「ミリア?」
「…ライさん、前方から変な魔力を纏った物が近づいて来てます」
「変な魔力?」
「具体的には分からないんですけど、人が自然と纏っている物とは違うというか…何か異質な――」
アルミリアの言葉を遮るようにアルミリアが見ていた前方の茂みを掻き分けるように三つの影が姿を現した。
ライよりも一回りは小さな体は全身が毛で覆われており、頭部には体に似つかわしくない大きな犬の頭を持つ魔物。
「コボルトが三体か…フィア、ミリアの護衛と魔力の供給お願いして良い?」
「分かった」
フィアが頷くと同時に、ライの中の始源を押し込むように大量の魔力が流れ込んでくる。
「ッ…!」
身体の中で二つの力がぶつかり合う感覚に顔を顰めながらも、ライは剣を構え三匹のコボルトにゆっくりと接近する。
ライとコボルトの距離が10メートルも無い程に接近した頃、三匹のコボルトの内の一匹が他の二匹に合図するように短く吠える。
「ウゥォ!」
その合図と同時に二匹のコボルトが動き出し、正面、右、左に一匹ずつライを取り囲むように位置取る。
正面のコボルトが石器の短刀を構えながらゆっくりと足を一歩前に出す。
(誘ってるのか…?)
短刀を持つコボルトに視線を合わせつつ、左右のコボルトにも意識を向ける。
(コイツの誘いに乗れば、恐らく左右のコボルトが挟撃に出るはず)
ライと正面のコボルトの距離は7メートル程、左右のコボルトは10メートル程の距離があり、左のコボルトは斧、左のコボルトは長槍を装備していた。
(さてと、どうするかな)
コボルトの動きに警戒しつつライが考える。
普段のライであればコボルト三匹程度、悩む事も無く真正面から叩き伏せていただろう。
正面のコボルトを始末してから挟撃してくるコボルトに対処するだけの技量も自信もライにはあった。
(正面からやっても良いけど、数日の間まともに戦ってないからなあ…)
たった数日ではあるが自身が気付かぬうちに感覚が鈍っている可能性は否定できない。
そもそも先日フィアにあれだけボロボロにされた後なのだ。
尚更感覚が鈍っているのではないかと疑うのも無理は無いだろう。
(コボルト相手だけど少しでも感覚を取り戻すために、ここは――)
覚悟を決めた表情でライが正面のコボルトを見据え、それと同時にライの両足に魔力が集まる。
右足の魔力が爆発し正面のコボルトに急接近する。
ライが動くと同時に、コボルト達も動き出す。
正面のコボルトはライを迎え撃つように短刀を構え、左右のコボルトはライを挟み込むようにライに接近する。
コボルトの間合いに入る寸前、ライは左足で思いっきり地面を踏みしめ急停止し、突然停止したライに反応しきれずコボルトが短刀を空振りする。
空振りをし、無防備になったコボルトを守るべく左右のコボルトが速度を上げるも、ライは正面のコボルトを無視し右側に居る長槍を持ったコボルトに意識を向けていた。
次の瞬間、ライの左足で魔力が爆発し右側のコボルトに急接近する。
「ウッ!?」
突如接近してきたライにコボルトは反応しきれず、硬直するコボルトの首目がけてライが剣を振るう。
剣がコボルトの首を断ち切り、コボルトの頭部が宙を舞う。
「次!」
消費した魔力を再度両足に込め直し、残っている二匹に向き直る。
ライが二匹の方に向き直る頃には空振りで無防備になっていたコボルトも態勢を立て直し、その斜め後ろに石斧を持ったコボルトが構えていた。
(このまま突っ込むと二体から同時に攻撃されるな…だったら)
左足の魔力を爆発させ二匹のコボルトに接近する。
コボルト達は迎撃に出るような事はせずライの動きを注視していた。
コボルトの間合いに入る寸前、左足で地面を踏みしめライが再び急停止する。
だが、それを読んでいたのかコボルトは武器を空振りする事はなく、急停止したライに向かって武器を振り下ろそうとする。
(動きが読まれてる事は分かってる…!)
自分に向かって振り下ろされようとしてる刃を避けようとする素振りも見せず、ライは左足で地面をしっかりと踏みしめたまま、右足を振り上げ地面につま先が突き刺さる勢いで地面に蹴り込み、つま先が地面にめり込むと同時に右足の魔力を爆発させる。
地面が大きく抉れ、大量の土がコボルト達に覆いかぶさる。
ライに攻撃するために至近距離まで接近していたコボルトは大量の土により視界と動きを封じる。
「オォォウ!」
コボルトが吠え、自身の身体にかぶさった大量の土を振り払い周囲を見渡す。
しかしいくら探せどライの姿は既に無く、コボルトは視覚ではなく嗅覚でライの位置を探ろうとするも、先程掘り起こされた大量の土のせいで周囲には土臭さが充満しており嗅覚さえも封じられてしまっていた。
「グォッ!?」
「っ!?」
突如背後から聞こえた短い悲鳴にコボルトが勢いよく後ろを振り返る。
背後に居たコボルトの脳天にナイフが突き刺さっており、一撃を受けたコボルトが力なく地面に崩れ落ちる。
その光景に一瞬唖然としたコボルトだったが、すぐにそのナイフが飛んできたであろう方向、自身の頭上を見上げた。
自身に向かって迫る鈍色に光る線、それが身体を両断される寸前にコボルトが見た最後の光景だった。
戦闘描写は苦手です。
状況が分かり辛かったらすみません。
もう年末という事で今年の執筆活動はこれでお終いです。
また来年も執筆活動を続けていく予定ですので、これからもよろしくお願いします。
それでは、よいお年を。