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冒険者らしさ

一つにまとめようと思いましたが、長くなりそうだったので分割しました。

そのため今回は短めです。

その代わり次回は早めに投稿出来るように頑張ります。

アルミリアが初めて街に出てた日から数日、ライ達三人は相変わらずあの地下で特訓を続けていた。

何時ものようにライが魔法によって拘束され、顔面に魔力の塊を叩きつけられていると、アルミリアがふと何かに気が付いたように口を開いた。


「そういえば、ライさんって冒険者なんですよね?」

「うっ…そう、だけど…何で今更そんな事を…」


途切れそうなっている意識を繋ぎとめながらライが何とかといった様子で言葉を返す。

そんなライの様子にアルミリアは少し言い辛そうな顔をする。


「冒険者といえば街の外に蔓延る凶悪で凶暴な魔物を相手に命がけで戦いを挑んでいるのでしょう?。その…言い辛いのですが、普段のライさんを見ているととてもそんな風には見えなくて…」

「…あぁ、なるほど」


ライは納得したような表情を浮かべながら拘束された自身の身体を見下ろす。

全身を拘束され、自分よりも見た目は年下の少女に一方的にやられるその姿は、命を掛けて魔物と戦う冒険者からほど遠い物であり、アルミリアがそう思うのも無理はない。


そんな時だ、フィアが何やら考えるような素振りを見せる。


「んー…冒険者らしいところか…」

「あの、フィア?」


考えるフィアのその姿に、ライが何か嫌な予感を覚える。

ライは知っていた。

こういう時のフィアは、突拍子もなく、そしてとんでもない事を為出かす事を。


このままフィアに考えさせてはいけない、答えを出させてはならないとライが慌てた様子でフィアに声を掛ける。


「別に無理して冒険者らしいところを見せる必要なんて無いと思うよ?」

「でも、実際最近特訓ばかりでライの身体も鈍ってるんじゃない?」

「だ、だったらギルドで依頼を受けるとかで良いんじゃないかな!?ほら、最近受けてなかったし!」

「もうお昼過ぎてるよ?。今からじゃ遅いよ」


フィアはそう言うと、再び思考を巡らせる。


「んー移動するのも手間だし、この場で出来る何か…ねぇ、冒険者らしいって具体的にどんな事?」

「ふえ?えーと、そうですね…やっぱり魔物を相手に戦うのが冒険者らしいんじゃないでしょうか」

「ふむ…魔物ね」

「あのフィア?。一応ここは街中なんだからこんな所で魔物は――」

「分かってる、流石の私もそんな非常識な事はしないよ」


そう言いながらフィアはライの拘束を解く。

拘束から解かれたライは全身をほぐしながら、フィアに質問をする。


「じゃあどうする気なの?拘束を解いたって事は特訓を続ける気は無いんでしょ?」

「うん、ライの身体が鈍らないよう適度に動いた方が良いとは思うし、もしかしたら実戦形式でやった方が力の扱い方も覚えられるかもしれないしね」

「実戦形式って、相手はどうするのさ?」

「そうだね…」


ライのその質問にフィアは顎に手を当てる。

少しだけ考える素振りを見せたフィアだったが、すぐに何か思いついたような顔をする。


「ねぇライ、私と戦ってみる?」

「フィアと?」

「そう、そもそもライの相手が出来るのが今ここには私くらいしか居ないでしょ?」

「うーん…フィアとかぁ…」


フィアの提案にライが渋い顔をする。

というのも、フィアは見た目だけで言えば可憐な少女にしか見えない。

そんな相手に剣を向けるというのは抵抗感があるし、そもそも相手はあのフィアなのだ。

まず間違いなく、ただ戦うだけでは済まないという確信がライの中にはあった。


一人考え込むライを尻目に、アルミリアが少し心配そうな表情を浮かべる。


「フィアちゃんって戦えるんですか?」

「戦った事はないけど、何時もライの戦いを見てたしそれなりに戦えると思うよ」

「思うって…」


フィアの言葉に、先程よりもアルミリアが不安げな顔をする。

そんなアルミリアを気にする事無くフィアはライの正面、数メートルは離れた位置に立つ。


「それじゃあやってみようか」

「えーっと、やるって言われてもどうするの?ルールとか何か無いの?」

「実戦形式って言ったでしょ、特にルール無し何でも有りだよ」

「何でも有りか…」


何でも有りという言葉にライはどこか諦めたどこかような表情を浮かべながら力なく呟く。

ルール無用の試合は正面切っての戦いよりも搦め手を使った戦いを得意とするライからすれば有難い事ではあるのだが、それ以上にフィアの動きに制限が掛からないという事の方がライには不安でならなかった。


「ほら、早く始めるよ?」

「始めるって言われても…」


戦おうと誘ってくるフィアに対し、ライは渋い顔をする。

フィアが普通の少女ではないというのは分かってはいるが、それでもやはり少女に剣を向けるという行為にライは抵抗感を覚えていた。

そんな考えをライの表情から読み取ったのか、フィアはこれ見よがしにため息を吐いて見せる。


「はぁ…そっちから来る気がないのなら」


フィアがゆっくりと片足を前に出す。


「こっちから行くよ?」

「っ!?」


その言葉と同時にフィアの姿が掻き消え、その瞬間ライの右頬を掠めるように凄まじい風切り音と共に何かが通り過ぎる。

一瞬の出来事に状況を飲み込めなかったライだったが、気が付けば自身のすぐ目の前にライの右頬を掠めるように左腕を突き出したフィアの姿があった。


(何だ今の動き、何も見えなかった…!)


突如目の前に現れ、気付かぬうちに攻撃を仕掛けてきたフィアにライが戦慄していると、フィアがゆっくりと顔を上げライを見つめる。


「何ぼさっとしてるの?早く構えないと――」


突き出した左腕を引っ込め、かわりに右の拳を握りしめる。


「一方的にやられるよ?」


次の瞬間、凄まじい衝撃がライの顎を襲い、ライの身体が宙に浮く。


(あぁ――やっぱりこうなるのか)


身体と共に意識も飛びそうな中、ライはそう考えるのだった。








ライとフィアの模擬戦は終始一方的なものであった。

序盤、一方的にやられていたライだったが、少女に剣を向けるのはなんて考えは早々に消え去り剣を引き抜き応戦に出た。

しかしライの攻撃がフィアに当たる事は無かった。

さらに躱されたり受け流されるだけでなく剣を振り抜いたタイミングに攻撃を合わせられてカウンターを取られる始末だ。

そんな感じでライはフィアの良い様に攻撃を受け続け、結局ライはまともに攻撃を当てる事も出来ないままに模擬戦は終了した。


トドメに貰った一撃で吹き飛ばされたライは床に大の字になりながら荒く乱れた呼吸を整える。


「はぁ…はぁ…はぁ…手も足も出なかった…」

「今のライは魔法が一切使えないからね。身体強化が出来るようになればまた変わってくると思うよ?」

「目で動きを捉えきれていない時点でいくら身体を強化した所で意味がないと思うんだけどね…」


そう言ってライはゆっくりと起き上がる。

荒く乱れていた呼吸は既に整っており、少々疲弊している様子ではあったが動く事に支障はない。


「あれだけ乱れてたのにもう呼吸が整ってる、流石だね」

「僅かな時間で体力を回復させるのは冒険者に必要な技能だからね…」


フィアの称賛の言葉にライが微妙な顔をする。

良い様にやられた後に、その相手に褒められても嬉しくは無いだろう。


微妙な空気を漂わせる二人の元にアルミリアが近づいて来る。


「二人共お疲れ様です!。私初めて人が戦ってるところを…早すぎてあまり見えはしなかったんですけど、とにかく凄かったです!」

「そう、満足したなら良かった」


興奮した様子のアルミリアにフィアは淡々とそう答えた。


「冒険者の皆さんって日夜あんな感じで魔物と戦っているのですか?」

「冒険者が全員あんな動きが出来るなら魔物相手に怯える事なんて無いと思うんだ」

「…それもそうですね」


ライの言葉にアルミリアの勢いが削がれたが、すぐに勢いを取り戻す。


「で、でもそれならフィアちゃんは凄いって事ですよね!?冒険者の人でも出来ないような事が出来るんですもんね!」

「別に普通だって、身体強化を使いこなせればあれくらいの動きは出来るようになるよ」


何の事はないといった様子で答えるフィアにアルミリアが羨望の眼差しを向けていると、ふと何か思い出したかのようにはっとした表情を浮かべる。


「あ、フィアちゃんも凄かったですけどライさんも凄かったですよ!はい!」

「別に無理してフォローしなくて良いんだよ。一方的にやられてただけだし…」


思い出したようにフォローするアルミリアに、ライが自嘲的な笑みを浮かべる。


「いえいえ!ライさんも凄かったですよ!あれだけボッコボコにやられてたのにケロっとしてるじゃないですか!」

「ボッコボコ…」


アルミリアの言葉にライがさらに落ち込む。

フォローに必死になっているアルミリアはその事に気付く様子もなく言葉を続ける。


「流石は毎日フィアちゃんにメッタメタにされてるだけはありますね!」

「メッタメタ…」

「攻撃を受けても挫けないあの姿はとってもライさんらしかったです!」


アルミリアのフォロー(?)にライは両膝と両腕を付き項垂れる。


「あ、あれ?ライさん?」

「ボッコボコのメッタメタが俺らしいって…ははは…」

「ライさん何故落ち込んでるんですか!?あれ、もしかして私変な事言いました!?」


落ち込むライを必死に元気づけようとするアルミリアと、そのフォローでさらにライが落ち込むという悪循環により、その日の特訓は中止となったのであった。


何故ライがあれだけボコボコにされておきながらケロっとしていたのか、この流れで説明入れようとするとシリアスに流れて話が長くなりそうだったので別の機会にします。


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