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初めての街

「それでお友達になったのは良いのですが、お友達って何をすれば良いのでしょうか?」

「貴方が言っていたかくれんぼとか肝試しとかそういうのをやるんじゃないの?」


晴れて友人となったアルミリアとフィアの二人だったが、友人になったは良いものの何をどうすれば良いのか迷っていた。


「別に友達になったからって無理して何かする必要は無いと思うよ?」

「駄目ですよライさん!初めての友達なんですよ?何か記念になるような事したいじゃないですか!」

「うーん、記念になるような事かぁ」


ライが顎に手を当てて考える。


「あ、そうだ。だったら一緒に街に出て買い物するとかは?」

「街にですか?」

「うん、二人共見た目は年頃の娘なんだし、かくれんぼなんかよりもそっちの方らしいかなって」

「見た目はって…ライさん女性にそれは失礼ですよ?」

「そ、そうだね。悪かったよ」


(だってフィアの年齢とか絶対見た目通りではないし)


アルミリアに謝罪しつつも、心の中でそんな事を考える。

そんなライの考えを悟ったのか、フィアがライの袖をクイクイと引っ張りながら尋ねてくる。


「肉体的な年齢?それとも”世界(わたし)”の年齢?」

「…肉体的な年齢で」

「じゃあ17歳だね」

「私は18歳です。フィアちゃんより一つお姉さんですね!」


アルミリアはそう言うと得意げに胸を張る。

そんなアルミリアをフィアがジト目で見ながらボソリと呟く。


「年下に物を教わる年上…」

「やめてください!それ地味に傷つきます!」


二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべていたライが、二人の話に割って入る。


「それで、どうする?街に出てみる?」

「あー…私も街に出てお買い物という案については物凄く賛成なのですが…大丈夫でしょうか?」

「アルミリアだって言わなければバレ無いんじゃない?顔までは知られてないんでしょう?」

「確かに街の人は知らないでしょうけど、この時期はお父様が監視の為に警備を街の至る所に配置していますので、もしかしたらその監視の中に私の顔を知る人が居るかもしれません」

「そっか…名前さえ言わなければ行けるかなと思ったんだけど、流石に無理があるか」


ここはエインズワース家が治める街だ。

警備の中には当主に近しい人間も居る可能性はあるし、そんな人間であればアルミリアの顔を知っていても可笑しくはないだろう。

どうしたものかとライとアルミリアが頭を悩ませていると、フィアが口を開いた。


「それなら私が何とかしようか?」

「何とかって、何とか出来るんですかフィアちゃん?」

「まさかとは思うけど、警備を物理的に排除するとか言わないよね?」

「ライは私を何だと思ってるの?」

「フィアだと思ってる」

「どういう意味かなそれ?」


それしか能がないとでも思っているのかと、フィアが威圧的な笑みをライに向ける。

だがライがそう思うのは無理はない。

実際フィアはここまで盗賊を落雷で壊滅させたり、Sランクの魔物を意図的にぶつけて追手の進路妨害をしたりと、強引な方法を取る事が多い。

フィア自身それを自覚しているのだろう。

最初こそライを威圧していたものの、途中で目を逸らし小さくため息を吐く。


「まぁ今回はもっと簡単で単純な方法だよ。警備を一人ずつ排除するなんかよりももっと簡単なね」

「というと?」

「ほら、ライだって覚えのある方法だよ」

「んん?」


フィアの言葉にライが首を傾げて考える。

そんなライを尻目に、フィアは立ち上がりライの手を取る。


「それじゃあ、行こうか」










「どんな方法かと思えば、こういう事だったんだね」

「私の言った通りライだって覚えがある方法だったでしょ?」


人通りの多い道ではしゃぎ回るアルミリアの姿を後ろから眺めつつ、二人がそんな会話をする。


フィアが今回取った方法、それはライと再会したばかりの頃、まだ人の姿を取っていなかったフィアと会話するライが周囲から不審に思われないようにと、認識を改変したのと同じ方法であった。


ただし、ライの時に使った方法は周囲の人間がフィアと会話しているライを一切認識出来ない事に対し、今回のアルミリアの場合は周囲の人間はアルミリアの存在を認識はしていた。

ただその認識というのはアルミリアがそこにそうして居ることが当たり前であるというフィアによって植え付けられた認識であり、ドレス姿の少女がはしゃぎ回っているのにも関わらず、周囲の人間はそれを変だと思うことはなく、まるで当たり前であるかのように振る舞いアルミリアを注視する事はない。


「っと、あぶねぇな」

「わっ!す、すみません」


無論、認識自体はしているのでぶつかりそうになれば今のような対応もされる。

今回の方法はあくまで"アルミリアがここでそうしている事が当たり前である"と認識させているだけなのだ。


「凄いね、あれだけはしゃぎ回ってたのに誰もアルミリアの事気にしてないよ」

「あの子に対する認識をずらしただけだからね。警備を一人一人排除するよりもよっぽど簡単でしょ?」

「認識をずらすっていう時点で簡単ではない気がするんだけど…まぁフィアだもんね」

「その私だからって納得するのは何なの…」


二人がそんなやり取りをしていると、前を歩いていたはずアルミリアが二人元へと戻ってくる。


「はしゃぐのも良いけど、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」

「あはは…はい、気を付けます」


申し訳なさそうにするアルミリアにフィアが声をかける。


「それで、街に出たけど何をするの?」

「んー、街に出たのは初めてなので何があるかはよく知らないのですが…とりあえずは――」

「とりあえずは?」


フィアが首を傾げながらオウム返しのように尋ねる。

そんなフィアの問いに答えるようにアルミリアが通りの向こうを指さしながら宣言する。


「お肉を食べに行きましょう!」

「まだ食べるの?お昼ご飯の後にブーカも食べたのに、しかも肉って…」

「呆れた食欲だね」


若干引き気味に二人が言う。


「だってほらマリアンベールって野菜が名産じゃないですか。なので家の食事も野菜がメインの物が多くてお肉が出たとしてもサイコロみたいに小さくカットされてたり薄切りだったりでこれぞ肉ー!って感じのガッツリとした物ってあんまり食べた事無いんですよ」

「だから肉って訳か…」

「はい、なので何かオススメの肉料理があれば教えてください」


アルミリアの質問にライが考える。

オススメの肉料理と言われてもライ達はマリアンベールに来てから食事の殆どは宿で取っていたし、外食と言えば二人で行った広場の出店ぐらいだ。

そもそもマリアンベールと言ったら野菜と言われる程であり、有名な料理と言えば野菜ばかりで肉料理なんて殆ど聞いた事も無い。


どうしたものかとライが頭を悩ませていると、フィアがライの袖を引っ張った。


「ねぇライ、この前行った広場の出店の中にお肉を出してる所あったよね?」

「あー…そういや、野菜ばっかりの中にチラホラとあったね」

「それで良いんじゃない?何処かお店入ってガッツリ食べるよりは出店で軽く食べるくらいが丁度良いと思うし」

「そうだね、そうしようか。アルミリアもそれで良い?」

「私には良く分からないのでお二人の判断にお任せします」

「了解、それじゃ広場に向かおうか」








「んーこの時間だと夜に比べて出店が少ないね」


マリアンベールの中央にある広場の入口でライが辺りを見渡しながらそう呟く。

そんなライの呟きに続くようにフィアも口を開いた。


「開店準備中のお店もあるみたいだけど、やってる所もあるね」

「どのお店も美味しそうですね!」


目を輝かせながら興味津々の様子でアルミリアが出店の看板や料理を見る。


「お肉はどこでしょうか?」

「パッと見なさそうだけど…」


目につく出店の殆どが野菜料理か、もしくは食べ物以外の娯楽や小物ばかりであり、ライとアルミリアの二人は首を左右に振って広場を隅々まで見渡していく。


「お、あれはどうかな?」

「どれです?」

「ほら、広場の反対側の右奥の方」


ライはそう言って一軒の出店を指さした。

ライ達の居る広場の入口から正反対の位置にある出店の看板には、遠目からでも分かるような大きな豚の絵が描かれていた。


「豚の絵が描かれてるし、肉料理の屋台じゃないかな?」

「おぉ、豚ですか。豚肉はあまり食べた事無いですね」


興味津々の様子のアルミリアを引き連れて目的の出店まで移動する。

やってきた三人に出店の店主が笑顔で応対する。


「いらっしゃい、豚串はどうだい?」

「串焼きか。味付けはなんです?」

「シンプルに塩だけさ」

「塩…」


そう呟きながらライが顔を僅かに顰める。

というのも豚肉と言えば独特の臭いがあり、豚肉を調理する場合は香草などを用いて臭いを消すのが一般的だ。

串に刺され焼かれる前の肉を見ても、特に臭みを消すために何かした様子はない。

顔を顰めたライに気が付いたのか、店主の男がライに話しかける。


「臭いを気にしてるのかい?」

「あーいや、その」

「無理に答えなくて良いよ、言わなくても分ってるから」


店主の男はそう言うと、串に刺さった肉を熱せられた鉄板の上に乗せていく。


「確かに豚肉ってのは独特の臭いがあって良い物じゃないって思われがちだ。でもそれは去勢をしない奴らが多いせいだ」

「去勢?」

「雄の豚は去勢しないままで居ると雄臭が強くなるんだよ。それを手間も費用も掛かるからってそれを一切しない連中が多いんだ」


そう言いながら男は串を裏返して片面も焼いていく。


「去勢だけじゃない、飼料だってそうだ。食わせる飼料によって豚の臭みを抑える事が出来る」

「そういえば、この豚肉はあの独特の臭いがしない…」


鉄板の上でこんがり焼かれている豚肉からは不快な臭いがしない事にライが気が付く。


「うちの豚はマリアンベールの野菜を飼料にしてるんだ。はい、豚串三本おまたせ」


店主の男が焼き立ての豚串を三本手渡してくる。

三人の手に一本ずつの串が渡され、三人は顔を見合わせてから同時に串に齧りついた。


歯の先に伝わる適度な硬さ、力を入れるとブツンと音を立てて肉が噛み切れる。

噛み切った肉の断面から肉汁が溢れ出し、シンプルな塩の味付けが脂の甘みを引き立てる。


「美味しい!」

「はい!豚肉は初めて食べましたけど、塩だけでもこんなに美味しいんですね!」


ライとアルミリアが互いに感想を言い合う中、フィアが無言のまま串に刺さった肉を小さな口の中に収めていく。


「フィアちゃんも気に入りました?」

「ん…今まで食べた肉の中では一番かも」

「ははは、気に入ってくれた見たいで良かった」


フィアの言葉に、店主の男が嬉しそうに笑みを浮かべる。


「そうだ、貴族のお嬢さん」

「え?私ですか?」

「そう、参考までに聞きたいんだけど君は貴族なんだし、今まで色んな肉料理を食べて来ただろう?。それらと比べてこの豚串はどれくらい美味しかったか感想が聞きたいんだけど」

「あー…いえ、家は野菜料理が主なので、肉料理らしい肉料理というのはあんまり…」

「そうなのかい?まぁでもまるで無かった訳じゃ無いんだろう?庶民じゃ中々食べられないような肉を食べた事もあるだろうし、何か記憶に残ってる肉はない?」

「うーん、そうですねー」


アルミリアが今まで食べた事のある肉を思い出していく。


「テラントホースはもっと弾力がありましたし、クニィクルスはこれと比べると脂身が少ないし…あっ、そうだアグリオグル!アグリオグルが一番近いです!」

「確かアグリオグルといえば食べられる魔物の中でも上位に入るくらい上質な肉を持った魔物だっけ」


アルミリアの言葉にライが軽く補足を入れる。


「嬉しいな。うちの肉はアグリオグルと同じくらい美味しかったのか」

「はい!私としてはこっちのお肉の方が好きなくらいです!」

「俺も今まで食べた肉の中じゃこれが一番かも」

「そっかそっか!」


肉の話で盛り上がる三人を他所に、フィアは一人ライの側で首を傾げていた。

そんなフィアの様子に気が付いたライが声を掛ける。


「どうしたのフィア?」

「いや、魔物って美味しいんだなぁって。意外だったから」

「意外?」

「うん、本来魔物っていうのは神様が人々に試練を課すために作り出した存在だからね。それを食べる、ましてやそれが美味しいだなんて…私からしたら考えられなくて」

「それは…」

「存在する全てに生まれた意味がある。魔物がそうであるように、人にも植物にも世界にも」


串を握るフィアの右手に自然と力が入る。


「でもその意味がもし失われようとしているなら?神様が人に試練として与えた魔物が、今ではお金や食料のために狩られているように、本来の意味を失った存在はそこに居る価値があるのかな?」

「フィア…」


一人フィアの事を心配そうに見るライを他所に、アルミリアと店主の男はフィアの話に興味深そうな顔をする。


「面白い話だね。魔物は神様が与えた試練…か」

「魔物が居る意味なんて考えた事無かったですね。フィアちゃんはどうしてそんな事を知っているんです?」


アルミリアのその質問にフィアは儚げな笑みを浮かべながら答える。


「さぁね。どうしてだろう?」


何故だ!何故シリアスに寄る!。

この話はシリアス回の予定ではあったけど始源の設定説明周りと最後の辺りだけシリアスで他はほのぼので進める予定だったんですけどね。

書き進めていく内に「このタイミングならこの話が出来るな」とか考えちゃって結局予定してたよりも話がシリアスに寄ってしまいました。

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