表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/164

友達

インフルエンザに掛かってしまいました…。

おかげで土日にあまり書き進められなかったので今回は短めです。


「わぁぁぁ!ここがマリアンベールの街ですか!?」


宿屋でイザベラ達が襲われた頃、中央の広場へと繋がる大通りにライとフィア、そしてアルミリアの姿があった。

目を輝かせながら辺りを見渡すアルミリアの後ろで、ライとフィアがその様子を眺めていた。


「生まれてからずっとこの街に住んでたのに、まるで初めて訪れたみたいな反応だね」

「しょうがないよ。ミリアは生まれてから屋敷から出た事が無いって言うんだからさ」

「過保護…というのはちょっと違うのかな?何にせよこの歳になるまで外に一度も出た事が無いんなんてよっぽど大事に育てられてきたんだね」

「それもそうだろうね。なんたってミリアは”御子”何だから」


ライはそう言いながら、ここに至るまでの経緯を思い返す。







ライがフィアから始源に関する話を聞いた翌日、アルミリアが昼食を終えて戻ってきたばかりの頃。


「こ、これが昨日の匂いの正体…!」


感激した様子のアルミリアの両手には白い包み紙にくるまれたブーカが握られていた。


「それでは…いただきます」


そう言うと、アルミリアは小さな口をめいっぱい開いてブーカにかぶりついた。

ブーカにかぶりついた瞬間、アルミリアの目が驚愕に見開かれ興奮した様子でブーカにかぶりついたままライとフィアに視線を向ける。


「はふっ!あふあふ!!」

「何言ってるか分からないって…」

「んっ――んく、とっても美味しいです!」

口元をソースで汚しながらも、興奮した様子でアルミリアが言う。

手の中にあるブーカを興味深そうに上や横から眺めたりした後、再びブーカに口を付けていく。

その様子にライは苦笑いを、フィアは興味深そうな表情を浮かべていた。


「一度家に戻ってお昼食べて来たはずなのに良く食べられるね」

「美味しい物は別腹です!」

「何だかそれだと家での食事は美味しくないみたいに聞こえるんだけど…」


ライそのその言葉に、アルミリアは唸るような声を出して考える。


「うーん、別に美味しいは美味しいんですよ?。マリアンベールで一番の料理人だーって噂の人が作ってくれてるので美味しいんですけど、この食べ物と比べるとなんというか…上品と言いますか、何だか何時も似通ったような物ばかりと言いますか」

「あー…つまり毎日似たような物ばっかりで飽きた訳だ」

「季節に合わせて色々と考えてはくれてるんですけどね。何時も同じ人が作ってくれてるのでどうしても…なのでこういう物は初めて食べました!」

「貴族お抱えの料理人じゃまず作らないような物だろうしね」


普段アルミリアが食べている物と言えば上品で繊細な料理ばかりだ。

それと比べればブーカは粗雑と言えるだろうが、その粗雑さがアルミリアにとっては新鮮で、今まで食べたことも無い未知の味はアルミリアの舌を楽しませるには十分に足る物だった。


その後アルミリアは黙々とブーカに齧りつき、ものの数分でブーカを平らげる。


「はぅ…とてもおいしかったです」

「それは良かった」


惚けた様子で言うアルミリアにライがそう答えた。

暫し惚けていたアルミリアだったが、自分の口元がソースで汚れている事に気が付き、手に持っていたブーカの包み紙を折り畳み汚れていない外側の部分で口元を拭う。


「ソースに気が付かないくらい夢中だったんだね」

「うぅ…ライさん、気付いてたなら教えてくださいよ…」


恥ずかしそうに言うアルミリアをライは微笑ましそうに見つめる。

そんなライの視線に何処か気恥ずかしさを感じたのか、アルミリアが視線を逸らす。


「しょうがないじゃないですか…今まで家から出た事なんて殆ど無かったんです。だからこういう物だって初めて食べたんです」

「家から出たことが無い?」


アルミリアの言葉にフィアが反応する。

少し言いづらそうな様子ではあったが、アルミリアがポツポツと喋り出す。


「その…以前私には大切なお役目があるって話をした事覚えてますか?」

「出会った時だね、それで?」

「家族には決して部外者に話してはならないと…もし知られてしまえば面倒な事になるからって…でも、お二人になら話でも大丈夫だと思うんです」


アルミリアはそう言うと、覚悟を決めた表情でライとフィアの顔を見つめる。


「実は私――”御子”なんです!!」


ついに言ってしまったと、アルミリアが思わず顔を伏せる。

魔窯祭りの御子と言えば魔窯祭りにおいて重要な存在であり、大地を肥やすという魔窯を維持させるための存在だ。

アルミリアは魔窯を欲しがる人間の存在を知っていたし、そんな人間が自分の事を狙っているという事も分っていた。

例え最初はそうでなかったとしても、アルミリアが御子だと知れば良からぬ事を考える者も居るだろう。

だからこそ、アルミリアにとって自分が御子であるという事を告げるのは勇気の要る事だった。

口では大丈夫だと言ったものの真実を告げた今、アルミリアは二人の顔を見るのが怖くなっていた。


二人は驚いたような顔をしているだろうか?。

それとも自分を利用しようとする人間と同じような顔をしているんだろうか?。


アルミリアは恐る恐ると言った様子でゆっくりと顔を上げ、二人の顔見る。

しかし、アルミリアの予想に反して二人は何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

何か言いたげのようで、どうしようか迷っている、そんな感じの表情だった。

何故二人はそんな顔をしているのだろうとアルミリアが疑問に思っていると、二人は微妙な顔のまま互いに顔を見合わせ、ゆっくりとアルミリアに向き直って言った。


「「知ってたけど」」

「………へ?」

「いや、今年の御子は領主の娘で”アルミリア”って名前の子だって街中で噂になってたし」

「た、確かに魔窯祭りの宣伝として私の名前が使われたのは知ってますけど、アルミリアなんて名前そこら辺に居るじゃないですか!私がエインズワース家の娘だなんて一言も――」

「街の地下全体に張り巡らされた地下通路を管理してるなんて、領主であるエインズワース家くらいしか考えられないよね?」

「それと、この時期に大事なお役目で魔力を扱う練習をしてるとなると、真っ先に御子を連想するよ」


二人のその説明にアルミリアはどれだけ自分が迂闊な発言をしていたのかを理解する。

項垂れるアルミリアにフィアが呆れたような様子で話しかける。


「貴方って本当に正直ね。正直というのは美徳だと思うけど虚偽を混ぜる事も覚えた方が良いと思うよ?」

「本来ならあんまり言うべきじゃないんだろうけど、ミリアに関してはフィアの言う通り少しは嘘をつく事を覚えた方が良いと思う」

「うぅ…お二人の言う通りですね。後先考えず正直に喋り過ぎたと今更ながら実感してます…」


そう言ってしょげくれるアルミリアだったが、ふと何か思い出したかのように顔を上げライとフィアの顔をまじまじと見る。


「どうかしたの?」

「いえ、お二人は最初から私が御子であることを分かっていたのですよね?」

「そうだね、それが?」


首を傾げるフィアの姿に、アルミリアが思わず微笑む。


「フィアちゃんは私が御子であると分かっていてもあんな風に接してくれたんですね」


アルミリアの頭の中では、フィアに特訓をして欲しいと頼んだ時の事が思い出されていた。

あの時、フィアはライが優先だと言ってアルミリアの特訓を断った。

もしこれがアルミリアの事を利用しようとする人間であれば、アルミリアと懇意になるチャンスを逃す手は無いだろう。

だがフィアは何の躊躇も無く蹴ったのだ。

それはフィアが御子の事もエインズワース家の事も何とも思っていない証拠でもあった。


子供の頃アルミリアを仲間外れにしていた同世代の子供達も大きくなり自身や身の回りの立場を自覚し始めた途端、アルミリアにすり寄ってくるようになった。

でもそれはアルミリアがエインズワース家の娘だからだ。

子供達だけではない、今まで当たり前のように感じていた身の回りの大人たちの優しさもアルミリア本人に向けられた物ではなく、エインズワース家への媚でしかなかった。


「フィアちゃん」

「何?」


だからこそ、フィアのような存在はアルミリアにとって初めてであり、決して友好的とは言えない態度ではあったが、逆にアルミリアにはそれが嬉しかった。

打算も思惑も何もない。


アルミリアの事を御子でもエインズワース家の娘でもなく、ただのアルミリアとしか見ていなかった。


「私とお友達になってくれませんか?」

「…はい?」


そんなフィアだからこそ、アルミリアは友達になれると思った。

友達になりたいと思った。

アルミリアはフィアの顔を真正面に捉えたままその言葉を口にした。

それに対してフィアは突然のその言葉に何も言う事が出来ず、キョトンとした表情を浮かべライに助けを求める。


「ライ…」

「フィア、これは自分で決める事だよ」

「で、でも――」

「それに俺に楽な方に逃げるなって言ったのは他誰でもないフィアだよ?。そのフィアが逃げてどうするのさ」

「うぅぅ…」


ライの正論に、フィアは言い返す事も出来ず唸っていたが、やがてアルミリアの方へと向き直る。

ライとフィアのやり取りを見ていたアルミリアが不安げな様子で尋ねてくる。


「私とお友達になるのは、そんなに嫌ですか…?」

「嫌って訳じゃ無いよ。ただ私にはライくらいしか居ないし、友達なんて今まで作った事も無いからどうしていいのか…」

「大丈夫です!それなら私なんてお友達どころか親しい知人の一人も居ませんから!」

「何でそんな悲しい事を堂々と言えるの…」


フィアが若干呆れたような顔しながらそう言った後、小さくため息を吐いた後、苦笑いのような表情を浮かべながらフィアが口を開く。


「…私で良いなら」

「はいっ!これからよろしくお願いしますね!フィアちゃん!」


短めの予定だったのに結果4000文字くらいになってる。

まぁ、元は外に出るまでの経緯一話にまとめようとしてたのでそう考えれば短めにはなったはず…。

熱も下がってきたので、今の内に書き進めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ