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Sランク冒険者達の動向

エインズワース家の屋敷でアルヒドから依頼を受けてから数日、マリアンベールで最も有名な高級宿の一室にルーク達四人の姿があった。


「さて、マリアンベールに来てから数日が経ったわけですが、皆さん何か進展はありましたか?」

「あの男に関しては特に何もないわね」

「俺も同じだ、数年に一度の祭りが開かれるってだけあって色んな人間が集まってるせいか、目的の人間を探し出すのはかなり骨が折れる」

「やはりそうですか」


アリスとアドレアの報告を受け、ルークが悩む素振りを見せる。


「となると、彼に関してはエインズワース卿の方に任せるしかなさそうですね…ではもう一方、悪魔の方についてですが――」


ルークがそう言いながら、視線を部屋の隅に居るイザベラに向ける。

ルーク達三人が部屋の中央にあるテーブルを囲んで話し合っている中、イザベラは一人部屋の隅に置かれたソファーに腰掛けて読書をしていた。


自分に向けられる視線に気が付いたのか、イザベラが手元の本から視線を外し顔をあげる。


「ん?何か用かしら?」

「悪魔についての情報収集の結果を教えてください。そちらに関しては貴方が主体で動いているのですから」

「あぁ、それね。もう何日か経ってるしそろそろ頃合いかしらね」


そう言ってイザベラは本を閉じてソファーから立ち上がり、部屋の窓を開け放つ。


「お前、ここ数日宿から外に出た様子がないが…まさか今から調べに行くとか言うんじゃねぇだろうな?」

「そんなアンタ見たいな事言わないよ」

「俺みたい?俺はそんな事言った記憶はねぇぞ」

「察しが悪いわね…そんな馬鹿みたいな事は言わないって意味で言ったのよ」

「あぁなるほど、つまり俺=馬鹿って事か――って誰が馬鹿だ!?」


吠えるアドレアを無視し、イザベラが窓から空を見上げる。

すると、空から一羽の小鳥がイザベラの元へとゆっくりと羽ばたきながら降りてくる。

イザベラはその小鳥に向かって手を伸ばし、小鳥がイザベラの指先に留まる。


「おかえりなさい、早速成果を教えてくれるかしら」


そう言いながらイザベラが小鳥の頭を軽く撫でる。

頭を撫でられた小鳥が機嫌良さげにチチチと小さく鳴いた後、小鳥が発光し小鳥の体から淡い光が現れては、イザベラに吸い込まれるように消えていく。


その様子を見ていたルークが、少し驚いたような表情をしながらイザベラに質問する。


「それは精霊鳥…具現化出来たのですか?」

「確か具現化しようとしても邪魔が入って魔力に戻るとか言ってなかったか?」

「そうだったんだけど今回受けた依頼のために試しにやってみら、魔力に戻る事なく具現化出来たのよ」

「なんだそりゃ…ん、待てよ?てことは今ならあの野郎を探し出すのも簡単なんじゃねぇか?」

「無理ね」


名案を思い付いたとでもいうような顔をするアドレアに対し、イザベラは表情一つ変える事無くバッサリと切り捨てる。


「既に一度試したの、あの人を探そうと意識した途端に鳥達が魔力に戻されちゃうのよ」


そう言ってイザベラが嘆息する。

しかしアドレアはまだ納得がいかない様子だった。


「一度くらいで何言ってやがる。あの野郎だって四六時中こっちに意識を向けてる訳じゃねぇだろ。その時たまたまこっちに意識を向けてただけで今やってみたらもしかしたら出来るかもしれねぇじゃねぇか」

「あら、馬鹿の癖にマトモな事言うじゃない、馬鹿の癖に」

「アリスてめぇ誰が馬鹿だって!?」


アリスとアドレアが睨み合う。

そんな二人のやり取りを無視してイザベラが答える。


「一度やれば十分よ。皆が寝静まった深夜にやっても駄目だったのだからきっと何時やっても結果は同じよ」

「やってみなきゃそんなの分からねぇだろが!もしかしたらそん時たまたま起きてただけかも知れねぇじゃねぇか」


アリスから視線を外しアドレアが再びイザベラに言う。

そんなアドレアに対し、イザベラは視線を向ける事もせず小鳥を撫で続けていた。


「だったとしてもこれ以上やる気はないわよ」

「何でだよ」

「だって、具現化した途端に魔力に戻されちゃうなんて可哀そうじゃない。そんな事するくらいならアンタに町中駆け回って探させる方がずっと良いわ」

「俺は可哀そうじゃないってか…」

「当たり前じゃない、アンタ100匹よりも精霊鳥一羽の方が圧倒的に大事よ」

「そんなコボルトも殺せねぇような鳥なんかより俺100匹の方がよっぽど良いわ!」


言い争う二人をルークとアリスが眺めていた。


「100匹って、人間扱いされてない事には突っ込まないんですね…」

「気付いてないだけでしょ、やっぱり馬鹿ね」

「オイコラアリス、聞こえてるぞ」

「何?本当の事でしょ?」

「んだとこらぁ!?」


今度はアリスと言い争い始めたアドレアを尻目に、イザベラは手の中に居る小鳥に視線を落とす。

小鳥から溢れ出ていた光は全てがイザベラの中に納まり、小鳥はチチチと小さく鳴きながらイザベラを見上げていた。


「さて、悪いけどもう一回行ってくれるかしら?」

「チチッ!」

「ありがとう」


イザベラが礼を言って微笑むと、手の中に居た小鳥が純白の光に覆われる。


「今度は西区の方でお願いね」

「チ!」


小鳥は短くそう鳴くと勢いよく空へと飛び立っていった。


「もう一度情報収集ですか?」

「いえ、もう情報自体は十分集めたわ。今のはそうね…悪魔とやらに対する嫌がらせって所かしら」

「嫌がらせ?」


ルークがそう尋ねると、イザベラが窓に背を向けてルーク達に向き直る。


「そう、あの子には光属性の魔力を街中に撒いて貰ってるの」

「光属性ぃ?なんだってそんなもんを」

「ここ数日の情報収集の結果、意思を持つ魔力とやらは闇属性の魔法であると考えたの」

「どういう事?」

「住人の目撃証言や噂話によると祭りの時期になるとどうも黒い靄の掛かった人間が目撃されてるようなの」

「黒い靄…それは洗脳を受けた人間、もしくは取り憑かれた人間でしょうか?」

「それはどうかは分からないけど、少なくともその悪魔に関係しているのは間違いなさそうよ」

「あーなるほど、それで光属性の魔力って訳」

「確かに、今の我々に取れる手段の中で最も効率が良い手段なのかもしれませんね」

「なんだよお前ら、急に納得したような顔しやがって」


一人事態を飲み込めていないアドレアが困惑とした表情を浮かべる。


「アドレア、魔法を対処する方法として例を挙げると何があります?」

「あぁ?そんなもんこの拳でぶん殴るだけだろ」

「そんな事貴方にしか出来ませんよ…もっと一般的な方法です」

「一般的ぃ?んなぁ事言われても俺はずっとコイツでぶん殴って魔物諸共魔法も粉砕してきたからなぁ…それ以外の方法なんて知らねぇよ」


そんなアドレアの言葉にルークはため息を吐きながらも説明を続ける。


「一般的な対処法として、その魔法の属性と対となる属性で対処するのが一般的です。火属性の攻撃魔法なら水属性の防御魔法というように、相手の使う属性によってこちらも属性を切り替えるのが一般的です」

「火属性の攻撃なんてぶん殴って跳ね返せば良いだけだろ?それがイザベラのやってた事と何が関係あるんだ?」

「いえ、ですから――」

「諦めなさいルーク、”コレ”に理論立てて説明しようとした所で無意味よ」


イザベラが窓枠に腰掛けながらアドレアを指さして言う。


「要は相手の居場所が分からないから、適当に相手の嫌がる物を振りまいて嫌がらせしてるって事よ」

「あーなるほど、それなら分かったぜ!」


アドレアが納得したような表情を浮かべたが、すぐにその表情を変える。


「でもよぉ、そんなんで悪魔がどうにか出来んのかよ?」

「別にどうにかするなんて一言も言ってないわ。私は”嫌がらせ”って言ったでしょ?」

「それに一体なんの意味が――」

「これを見なさい」


アドレアが疑問を口にした時、それを遮るようにイザベラが一枚の紙を懐から取り出す。

窓際に立つイザベラの元へ三人が紙を覗き込むように集まる。

その紙に描かれていた物は大きな建物の見取り図であり、正門から建物までにある道や庭までも緻密に描かれた物だった。


「これは、この宿屋の見取り図ですか?」

「なんだってこんなもんお前がもってやがる?」

「ここって今いる部屋よね?この黄色の光点は何?」


それぞれが三者三様に疑問を口にする中、イザベラが持つ宿屋の見取り図の端、宿屋正面玄関の辺りに黒い光点が突如として現れる。


「ん?なんだこれ?」


アドレアの言葉にルークやアリスも見取り図の端に映った黒い光点に目をやる。

三人の視線が集まる中、黒い光点が凄まじい速度で見取り図の上を動き出し、黄色の光点へと接近する。


窓の側で見取り図を見る四人、その窓際に立ったイザベラの背後に何者かが突如として姿を現す。

その者は腰から短刀を取り出し無防備なイザベラの背中に短刀を突き立てようとする。


バァァンッ!


短刀の切っ先がイザベラを貫こうとしたその時、窓の左右の外壁が盛り上がり巨大な土の手が現れ襲撃者を挟み込んだ。


「釣れたわね」


首だけで振り返りながらイザベラがニヤリと笑う。


「毎日のように嫌がらせした甲斐があったわね」

「…そういう事かよ」


ここに来てアドレアもようやく状況を理解する。

悪魔の所在が分からない、情報もろくにない以上無闇に探し回った所で見つけられるとは思えない。

ならばこちらから行くのではなく、向こうから来させればいい。

イザベラはそう考え、ここ数日小鳥が情報収集に出る度に光属性の魔力を町中の至る所にばら撒かせていたのだ。

町中に振り向かれた魔力は極微量の物でしか無く、悪魔の本体をどうにかしたり、操られた人間を元に戻す程ではない。

ならば何故悪魔はイザベラを狙ったのかと言えば、それは意思を持つ魔法だからだ。

イザベラが振りまいた光属性の魔力は確かに少ないが、それでもそれと同じだけの闇属性の魔力を削ぐ事は出来た。

もしイザベラの予想通り、意思を持つ魔法とやらが闇属性の魔法であるのなら、意思を持つ魔法にとってそれは人間が皮膚を削り取られるに等しい苦痛となるだろう。


自分の想い通りの展開にイザベラは思わずほくそ笑む。


「さてと、それじゃあ次はこれね」


そう言いながら、イザベラは懐から乳白色の水晶を取り出す。


「それは魔結晶ですか?」


魔結晶、それは魔力の結晶であり周囲の魔力が枯渇した際に魔力を補充するための物だ。

しかし、ルークのその問いに対してイザベラが軽く首を振る。


「元はそうね、でもこれは私が魔法の研究をするために特別に作った物よ」


イザベラはそう言うと、土の手に挟まれた襲撃者の額に魔結晶を押し付ける。

すると、襲撃者の体から黒い魔力が溢れ出し魔結晶に吸い込まれていく。


「これは魔力ではなく、魔法その物を保存できるのよ。こうでもしないとじっくりと魔法の研究なんて出来ないのよ」


イザベラは興味深い魔法に出会うとそれを調べずには居られない。

しかし、通常魔法というのは術者が居なくなればその形を保てない。

だからイザベラは魔法をそのままの形、状態を維持して保存できる物を作り出したのだ。


「さて、これで何か分かれば良いのだけど」


手の中にある漆黒の魔結晶を見つめながらイザベラが言う。

思考に耽るイザベラに対し、ルークが口を挟む。


「イザベラ、一つ質問良いでしょうか?」

「ん?何かしら?」

「この見取り図についてです。状況からするに黄色の光点はイザベラ、黒い光点は先ほどの襲撃者を現しているのでしょうか?」

「んー惜しいわね。判断してるのは人物ではなく魔力の属性よ」

「属性ですか?」

「そう、この見取り図はこの範囲内に入った特定の属性を持つ魔力の位置を示すの」


イザベラはそう言いながら手の中にある漆黒の魔結晶を右から左へと動かす。

その動きに合わせて見取り図の黒い光点も動く。


「なるほど…それで相手の襲撃を察知する訳ですか。この黄色の光点は?」

「黄色の光点は火属性と風属性を混ぜ合わせた物よ。流石に単一属性だと至る所で光点が出てしまうもの」


街中にある魔道具の殆どは何かしらの属性を宿している物が殆どだ。

火属性や水属性などの単一属性の魔力の位置を示すようにした場合、見取り図が光点だらけになるだろう。

だからこそ、イザベラは複数の属性を混ぜ合わせる事で余計な属性の光点が表示される事を防いだのだ。

しかし闇属性だけは例外だ。

基本的に闇属性の魔力を宿された魔道具というのは大抵の場合ロクな代物ではなく、所持しているだけで違法になるような物が殆どだ。

そう言った品々は見つかり次第破壊されるか、誰も触れる事が出来ないように厳重に保管される。

だからこそ、闇属性の魔力だけは他の属性と違い、至る所に光点が現れるという事はないのだ。


「相手が闇属性で助かったわ。それ以外だと判別が効かないもの」

「ふーん…なるほどねぇ。ん?おいイザベラこれは?」


見取り図を眺めていたアドレアが見取り図の一角を指さす。

そこには光点とまでは行かないが、薄っすらと黒い何かが映り込んでいた。


「あぁ、それは闇属性を持った人間ね。人間も微量ながら自然と体に魔力を持っているし、それが映り込んでしまっただけよ」

「へー…そうなのか」

「普通は人間が自然と持ってる魔力程度ではそうそう映り込むは無いのだけど…まぁ気にする事も無いわね。それよりも私はこの魔結晶を調べるからさっさと出て行きなさい。ウロチョロされると邪魔よ」

「んだとぉ!?」

「アドレア、良いから出ますよ。イザベラ、結果が出たらすぐに教えてください」

「分かってるわよ、明日までには結果を出すわ」


手を軽くヒラヒラと振りながら、話もそこそこにイザベラは魔結晶の解析を進めるのだった。

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