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全ての始まり、全ての源

「さて、それじゃあ早速だけど、試しに普段やってる通りに魔力の循環をやってみて」


ヒュン――ゴッ!!


「んごぉ!?」


フィアがアルミリアに指示を出しながら、ライに向かって魔力の塊を投げつける。

その光景のシュールさにアルミリアが微妙な表情を浮かべながらも、言われた通りに魔力の循環を始める。

アルミリアが魔力を体内で循環させ始めてから十秒ほど経過した頃、フィアの眉がピクリと動く。


「なんか魔力の循環に変な癖がついてるね」


ヒュン――ゴッ!!


「ぶふぅっ!」

「変な癖…ですか?」


ライの呻き声に気を取られながらも、アルミリアが質問を返す。


「そう、貴方右肩と腰の辺りに魔力が偏ってるみたいなんだけど…見た感じ意図的にやってるよね、なんで?」

「えっと、以前私に魔法を教えてくれる先生が居るって言ったの覚えてます?」

「あー、何かそんな話してたね…それで?」

「その先生が”私と同じように魔力の循環をやってみなさい”って言ったので、その通りに…」

「ふーん…言っておくけど魔力の循環は人それぞれに個性があるの、他人の魔力の流れなんて参考にしちゃ駄目だよ」

「そうなんですか?」


驚いたような表情をアルミリアが浮かべる。


「例えば右手から魔法を発動させるような人間だと右手に魔力を集める癖があったりとか、日頃から魔法を使ってる人間なんかは自分自身の扱いやすいよう無意識に魔力を循環させる癖が出るんだよ」


ヒュン――ゴッ!!


「ぐはっ…」


「なるほど」

「だから自然と利き手に魔力が偏る事が多いんだけど…貴方の先生ってどんな人?肩と腰に魔力が偏るなんて相当変な魔法の使い方してるんじゃない?」


ヒュン――ゴッ!!


「ぶっ!?」

「あー…先生はかなりお年を召した方で、良く肩や腰が痛いと言って回復魔法を使ってましたね」

「そういう事ね…」


フィアが納得がいったというような表情を浮かべて頷く。


アルミリアの話を聞く限り、間違いなくそれはその先生とやらの癖だ。

人に物を教えるのなら正しいやり方を見せるべきだが、そもそも他人の魔力の流れを見る事が出来る人間なんてそうは居ない。

自分と同じようにやってみろと言われて、素直にその通りに出来る人間は居ないだろう。

だからこそ、教えられた人間は教えられた事を思い出しながら自分なり、自分の身体に合った魔力の循環を覚える。

だが、アルミリアはそれが出来てしまう人間だった。

アルミリアはその先生の言葉を素直に受け取り、その通りに魔力の循環を行っていた。

それがいけなかった。


「とりあえず、その先生って人から教えられた事は一旦忘れて、私の言う通りにやってみて」

「はい!フィアちゃん先生!」

「何その変な呼び方…」


ヒュン――ゴッ!!


「ぐおぉぉ……フィ、フィアちょっと間隔が早――」

「だって、フィアちゃんは私に魔力の使い方を教えてくれるんですよね?だったら先生じゃないですか」


ヒュン――ゴッ!!


「っ――!?ちょっとまっ――」

「それなら先生だけで良いよね?」


ヒュン――ゴッ!!


「―――――」

「えー、フィアちゃん先生ってなんだか可愛くないですか?」


ヒュン――ゴッ!!


「…………」

「普通に先生にして、じゃないとここで終わりにするよ?」

「わ、分かりましたからそんな事言わないでください!」


慌てた様子で弁明するアルミリアに小さくため息を吐きながらも、切り替えるように話を進める。


「それじゃあ、まずは全身ではなく身体の一部を使って魔力を循環させてみて」

「一部…ですか?」

「そう、いきなり全身を使って魔力の流れを制御しようとすれば必ずどこかに綻びが出来るからね、まずはスムーズな流れを身体に覚えさせる所から…手始めに右手と左手の間で循環させてみて」

「なるほど…分かりました先生!」


アルミリアはそう言うと両手の指を絡め、神に祈るように両目を閉じ、その場で膝をつく。


「それじゃ、行きます」


その言葉と同時に、アルミリアが魔力の循環を始める。

周囲に漂う魔力を自身の手に集め、それを右手から左手へ、左手から右手へと輪を描くように循環させる。

アルミリアが循環を始めて一分が経過した頃、アルミリアの両手が仄かに薄緑色に発光し始めた。


(やっぱり、力と変な循環の仕方さえなければ問題ない見たいだね)


アルミリアの両手を注視しながらも、フィアの右手は休むことなく魔力をライの頭部へと叩き込み続けていた。

誰も一言も発することなく、薄暗い地下にライの顔面に魔力が叩きつけられる鈍い音だけが響き渡る中、魔力を循環させる事に集中していたアルミリアが片目を僅かに開く。

それに気が付いたフィアがアルミリアに声を掛ける。


「どうしたの?」

「いえ…その、ライさんなんですけど…随分と静かだなーと思いまして」

「………あ」










「酷い目にあった…」


特訓を行っていた地下の大部屋、その部屋の隅の壁に背を預けながらライが片手で顔を押さえながらフィアに文句を言っていた。


「途中で声掛けたのに全然気づいてくれなかったし、フィアって一度熱が入ると他の事に気が回らなくなるよね」

「う…ごめんなさい」

「まぁ、ミリアの事頼んだのは俺自身だし自業自得な所もあるんだけどね」


ライはそれだけ言うと話題を切り替える。


「さてとミリアが戻ってくるまでどうしようか?俺達も昼飯のために一度地上に戻る?」


現在時刻は昼頃、ミリアは屋敷から抜け出している事がバレるといけないからと昼食に呼ばれる前に屋敷へと一度帰っており、現在はライとフィアの二人きりになっていた。


「んーでもお昼食べたらまたここに来るんだし、外に出ずにこのままここで食べるのはどう?」

「このままって、食べ物なんか持って来てないよ?」

「そこは私が用意するよ、さっきのお詫びも兼ねてね。ライは何が食べたい?何でも良いよ」

「何でも良いって急に言われてもなぁ…」


フィアの唐突な質問にライは考えを巡らせる。


フィアは食べたい物なら何でも良いと言ったが、そもそもフィアはどうやって食べ物を用意するというのだろうか?。


その事にそこはかとなく不安を感じながらも、ライはフィアが覚えていそうな食べ物の名前を口にする。


「じゃあブーカで」

「ブーカね、分かった」


フィアはそれだけ言うと両手を前に突き出しながら目をゆっくりと瞑る。

突き出されたフィアの両手から淡く蒼色の光が溢れ出す。

光はフィアの手の中へと集まり、徐々にその光が収まってゆく。

光が完全に消えた時、フィアの手の中には白い包みにくるまれた物が左右の手に一つずつ握られていた。


「はい」


一体何処から出したんだとライが質問するよりも早く、フィアがライに手の中にあった白い包みを手渡してくる。

恐る恐るライは湯気の立つその包みを受け取り、包み紙をゆっくりと開いてゆく。

包み紙の中身は案の定ブーカであり、ライは手の中にあるそれをマジマジと見つめる。


「…これ本物?幻覚とかじゃなく?」

「何でそんな疑ってるの」

「いや、だっていきなりブーカが…しかも出来立ての物が目の前に現れたらそりゃ幻覚を疑うよ」


そう言ってライは再び自身の手の中にあるブーカに視線を落とす。

このブーカの出所が気にはなったが、出来立てで熱々のブーカはとても美味しそうであり、ライの中に食べないという選択肢は無かった。


「あむっ!」


ライが勢いよくブーカを口に運ぶ。

表面がカリっと焼けた生地に、葉野菜のシャキシャキとした食感、厚切りの肉と濃いめのソース。

口いっぱいに広がるそれが、ライにこれが夢でも幻覚でもない事を伝えてくる。


「…本物のブーカだ」

「幻覚なんかじゃ無かったでしょ?」

「うん、でも増々訳が分からないんだけど…フィアはこれを何処から持ってきたの?」


ライの質問にフィアは口の中のブーカを飲み込んでから答える。


「んっ…持って来たんじゃなくて創ったんだよ、力を使ってね」

「力…」


ライは先ほどフィアの両手から溢れた蒼色の光を思い出す。

蒼色の光を放つ力、その力にライは心当りがあった。


「その力ってもしかして?」

「そう、このブーカはライやあの子が持っている力を使って生み出した物だよ」


何の事は無い、ただそれだけの事だというようにフィアはあっけらかんとそう答える。


「その力ってそんな事まで出来るの?」

「出来るよ、人が考えうる事なら何でも出来ると言っても良いくらいにはね」


フィアのその言葉にライは呆然とした表情を浮かべる。

今までライは自分やアルミリアの中にある力というのは人の五感に影響を及ぼす程度の物だと認識していた。

だが、フィアの今の口ぶりからしてどうやらそれだけの力ではないらしい。


「なんでそんな力が俺やアルミリアの中に…」

「別にライやあの子だけの話じゃないよ、人間なら…ううん、この世界に存在する全ての物にこの力は宿ってるんだから」

「全ての物に?」

「そう、人間や魔物みたいな生き物は当然、草木や大地、空気にだってその力は存在してる。ただそのどれもが力を力として扱える程の量を持っては居ないんだけどね」

「誰もが持ってて何処にでもある特別な力…」


フィアの説明にライが頭を捻る。


「それでいて普通の人には扱えなくて、俺やミリアは扱える?どういう事なんだ…」


頭を悩ませているライにフィアが助け船を出す。


「んー、ライに分かりやすく説明するならそうだね、例えばだけどライの目の前に大量の砂があるとするよ?ライはこの砂をどう使う?」

「どう使うって?」

「何でも良いんだよ、大量の砂を作って何が出来るかって質問」

「うーん…砂をそのままふりまけば目潰しに使えるし、袋一杯に砂を詰めれば即席の鈍器にも出来る…使おうと思えば色々と用途は有ると思う」

「そうだね、それに砂をそのまま使うだけじゃなく、例えば水を混ぜて泥にすればさらに用途は増えたりするよね」


そこまで言うと、フィアは再びライに質問をする。


「じゃあライ、例えば砂粒一つ渡されて好きに使えと言われたらライはどうする?」

「一粒?」

「そうだよ、たった一粒」

「そんなの何も使えないに決まってるじゃないか」

「どうして?さっき質問したら使い道を答えたじゃない」

「それは大量の砂っていう話だったからだよ、砂粒一つじゃどう考えても扱いようが――」


そこまで行ってライが何かに気が付いたような表情を浮かべる。


「そう、その砂こそが”力”の事なんだよ。他の物に宿っている力なんて砂の一粒程度の物でしかない。でもライは違う、ライは力を力として扱えるだけの量をその身に宿してる」


フィアの言葉にライは自身の身体を見下ろす。

自分の手足を観察してみるも、やはりなんの変哲もない普通の人間の身体だ。

力を宿していると言われても全く何も感じない。

そもそも自分が宿している力とは一体どんな物なのだろうか?。


そんなライの行動を見て、ライが何を考えているのかが分かったのだろう。

フィアがゆっくりと口を開いた。


「”始源(しげん)”」

「え?」

「ライの身体を満たしている力の名前だよ」


突然告げられたその言葉にライが反応できずにいる中、フィアはお構いなしに説明を続ける。


「全ての”始”まりであり、全ての”源”。人も魔物も自然も、世界でさえ元は正せば全て始源から生み出された存在なんだよ」

「ちょ、ちょっと待って!なんかいきなり話が大きくなって何が何だか」

「難しい事じゃないよ。今この時存在している全てを構成する力であり、その存在を維持するための力、それだけ覚えてればいいよ」

「それだけ覚えてれば良いって…」


ライが何処か納得いかないというような表情を浮かべる。


「ややこしいんだよ、世界の仕組みっていうのは…ライが想像している以上にね」

「…その始源ってのが俺やミリアの中にあるんだよね?今聞いた話だと声が聞こえるようになったり、魔力が視えるようになったりするとは思えないんだけど」

「さっきも言ったけど、始源っていうのはこの世界に存在するその全てを構成する物なんだよ。それは物質的な物だけじゃない、概念的な物、精神的な物も含まれてる」

「目に見えたり、手で触れられる物だけじゃないって事?」

「そう、普通の人は自分の五感で感じられる物しか知覚する事が出来ないけど、始源があれば本来人間が知覚する事が出来ないそれらの物まで知覚出来るようになったりする」


そう言ってフィアはライの顔を覗き込みながら微笑む。


「例えば世界の意思とかね」

「世界の意思…」

「とりあえず、今はこれくらいにしておこう?ライも頭の中で整理が付いてないでしょ」

「そう…だね、正直頭が追いつかないや」

「今は難しく考える必要なんてないよ、ほらブーカが冷めないうちに食べよ?」


フィアに促されるようにライはブーカに口を付けていく。

先程と比べて少し冷めていたが、それでもまだブーカは暖かかった。

そしてブーカを食べ終え、ライが落ち着きを取り戻した頃、フィアが思い出したかのように口を開く。


「そうだ、ライに言っておかなきゃ行けない事があった」

「ん?何?」

「さっきの話、得に始源に関する事は決して誰にも話しては駄目」

「どうして?」

「始源の力を利用とする存在がライを狙うかもしれないからだよ。他人に始源の存在を知られたら絶対ろくな事にならないだろうしね」

「なるほど…でも俺の中にある始源ってそんな狙われる程の物なの?今の所声が聞こえるって位にしか使えないけど」

「ライにとってはそうかもしれないけど他の人にとってはそうじゃないんだよ。始源さえあれば私がさっきやったように好きな物をその場で生み出す事も、死者を蘇らせたり、やせ衰えた大地を肥やして豊作を招く事も出来る」

「大地を肥やす…?」


物を産み出すでもなく、死者を蘇らせるでもない、大地を肥やすという言葉にライが反応する。

ライの頭の中ではつい先日、魔窯を見た時に発したフィアの言葉が思い出されていた。


『ねぇライ、特別な魔力ってどんな物か、ライは想像できる?』

『それだけの事で大地が肥えるなら、誰も苦労しないのにね…』


もしあの時、フィアの言っていた”特別な魔力”という物が”始源”の事であるのなら?。

最後に見せたフィアのあの物悲し気な表情は?。


「ねぇ、フィア――」

「あぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


フィアに声を掛けようとしたライの声を遮るような絶叫が大部屋に響き渡る。

声がした方を見ればアルミリアがこちらに向かって大股でズカズカと歩み寄ってきていた。


「お二人共!この美味しそうな匂いはなんですか!?」

「何って、もしかしてブーカの事?」


そう言ってフィアがブーカを包んでいた紙のアルミリアに掲げて見せる。


「そう!この匂いです!地下に入った辺りから何処からともなく嗅いだことも無い良い匂いがすると思ったら…お二人だけずるいです!」

「ずるいって…貴方、昼食は食べてきたんでしょう?私達も昼食を食べただけだよ」

「うぅぅ…確かにそうですど、こんな美味しそうな匂いなのに食べられないなんて…」


突如現れたアルミリアによって、ライはフィアに質問するタイミングを完全に失ってしまった。

フィアへの質問はまた今度にしようと考え、ライは落ち込むアルミリアに今度はアルミリアの分も用意しておくと約束し、その後は何時ものように特訓をしてその日は何事も無く終わったのであった。

もっと分かりやすく、もう少し始源について掘り下げて説明をしたかったのですが、これ以上投稿を遅らせるのも不味いと思って中途半端な感じになってしまいました。

読み辛かったらすみません。

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