懐かしき友
「いやぁ…フィアと会えて本当に助かったよ」
『会えて、というよりは聞こえるようになって良かった…と言った方が良いんじゃないかな』
「そうなのか?まぁどっちでもいいや、こうしてまたフィアと話せるんだし…それに」
そう言いながらニコニコとした表情を浮かべるライの背中には、大きくパンパンに膨らんだ二つの麻袋があった。
「カリヤダケとムルム草の群生地も教えて貰って、おまけに足まで直して貰えたんだから、本当フィアには感謝してもしきれないよ」
マンティコアから命辛々生き延びる事が出来たライだったが、度重なるクラックブーツの使用で足に凄まじい負担が掛かっていた。
そもそも魔力を破裂させた反動で飛ぶなど普通の人間の足で耐えられるはずがない。
クラックブーツは破裂させるだけでなく、その足の保護にも魔力を使うため負担はかなり軽減されるが、それでも負担が無くなる訳ではない。
あの時のライはまるで生まれたての小鹿のように足をプルプルとさせ、まともに歩けるようには見えなかった。
それを見かねたフィアがライの足を治したのだ。
その後、再会できた事に関する喜びと何故こんな所に居たのかという話をし、依頼で来たとライが答えるとフィアが目的の物が生えている場所まで案内をしてくれたのだ。
そこはまさに群生地と言った様子で、辺り一面見渡す限りムルム草とカリヤダケが自生していた。
ライは喜び勇んでムルム草を、ついでにカリヤダケも袋がパンパンになるまで詰めて帰路についた。
ライは今、ギルドに向かってガダルの街の通りを歩いているが、そこでふとライがハッとした表情を浮かべる。
「フィアの声って誰にも聞こえるんだっけ…?」
『いいや、私の声を聞く事が出来た人間はライだけだねー』
「ヤバイ…俺周りから見たら完全に独り言言いながら歩いてる危ない人じゃないか…」
そう言うとライは辺りの様子をチラチラと窺う。
『大丈夫だよ、私に向けられた言葉は周りの人間には分からないようになってるから』
「なにそれ、フィアって姿を消すだけじゃなくてそんな事も出来るんだ、魔法ってやっぱり凄いなぁ…」
『私は姿を消してる訳では無いんだけど…まぁいいや、それよりライはこれからどうするの?』
「どうするって、ギルドに報告して宿屋に帰って寝るだけかなぁ…最近歳なのかもう依頼から帰ったら眠くて眠くて」
『歳って…まだ30代だよね?』
「冒険者で30代はもう十分歳だよ、そろそろ引退考えないとな」
またマンティコアのような魔物に襲われないとも限らない。
蓄えは十分あるし、あと少し稼いだら引退するのもアリかも知れない。
ライがそんな事を考えているとフィアが声を掛けてくる。
『ライは若くなりたいの?』
「んー…まぁ、そりゃあ歳取るくらいなら若くはなりたいけど、無理して冒険者続けてもロクな事にはなりそうにないしなぁ…」
『ふーん…そっか』
「???」
ライはフィアが何を考えているのかを全く理解する事が出来なかったが、特に考える事なく思考を打ち切る。
「ま、いっか」
その後、ライはギルドに依頼の品を納品し、自分が昔からお世話になっている宿屋へと帰って行った。