アルミリアの秘密
とりあえず仕事が落ち着くまでは、最低週に二話投稿出来るくらいのペースで執筆してます。
「あの、フィアさん!?」
「どうしたの?急にさん付けで呼んだりして」
「どうしたのって、それはこっちのセリフ何だけど…なにこの状況?」
アルミリアと出会った翌日、今日も雨が降っていたため朝飯を取った後にあの地下の大広間に再びやってきていた。
一度ライが別の場所を提案したものの、また探すのも面倒だし、アルミリアの許可もあるのだから大丈夫だろうというフィアの言葉で、渋々ライも了承しここで特訓を受ける事にしたのだが…。
「何で俺はこんなガッチガチに拘束されてるの?」
ライは今、フィアの魔法によって足先から頭の先までピクリとも動けない程に固定されていた。
そんなライをフィアがジト目で見つめながら言う。
「だってライ、魔力の塊を受ける際わざと身体を後ろにずらして衝撃をいなしてるでしょ?」
「う゛っ!?」
「バレてないと思った?ライってば衝撃をいなす事に集中してて肝心の力を使う事が頭に無いんだもん、だから身体を固定したの」
「だからってこれは――」
「言ったでしょ?手加減しないって、大体ライだって望む所だって言ったじゃない」
「…はい、仰る通りです」
「じゃあうだうだ言わない、自分の発言に責任を持つ」
そう言いながらフィアの手の中に可視化出来る程の魔力が集まって行く。
徐々に密度を高めていく魔力に視線を奪われながら、ライが喉を鳴らし腹を括る。
「じゃあ、行くよ」
「来いっ!」
ライがそう叫ぶ同時にフィアの手から放たれた魔力がライの顔面に叩きつけられる。
「――――」
頭部を完全に固定された状態で受けた一撃は、余すところ無くその威力をライの頭部に伝える。
一撃を受けたライは一瞬意識が飛んだもののすぐに意識を取り戻す。
「う゛…うぁ…」
視界がチカチカと明滅し、気を抜けば意識が完全に落ちてしまうのではないのかという状況で、ライは歯を食いしばりながらどうにか意識を保つ。
「ライ、意識ある?」
「なん…とかね…」
「どう?私の一撃は、床なんかよりもよっぽど効くでしょ」
そう言いながら、フィアが胸を張り誇らしげに鼻を鳴らす。
「なんでそんな誇らしげなの…?石畳に負けたのがそんなに悔しかったのか…」
頼むからそんな所で張り合わないでくれとライが考えている間にもフィアが次の準備を始める。
「それじゃあ次、しっかり意識は保つんだよ」
(あぁ――これは死ぬ気でやらないと本当に死ぬかもしれない)
望む所だと言ってしまった昨日の自分に少し文句を言いたい気分になりながらも、ライはフィアの特訓を受け続けるのだった。
「うわぁ…昨日よりも一段と凄い事になってますね…」
ライとフィアが特訓を始めてから三十分が経過した頃、アルミリアが現れ開口一番にそんな事を言う。
「ア、アルミリ――ぶっ!?」
「はい、意識を逸らさない」
アルミリアに挨拶をしようとしたライの顔面に、容赦なく魔力が叩き込まれる。
一瞬アルミリアに意識が逸れたがために、不意打ち気味に喰らったその一撃によってライの意識が完全に落ちる。
そんなライの姿にフィアが小さくため息を吐いた後、アルミリアの方に顔を向けた。
「今日も来たんだ?」
「えぇ、今日も暇でしたので」
「昨日のは参考になった?」
「うーん…それがあんまり…」
「まぁ、私のなんて”視”た所で参考にはならないよね」
何気なくそう言ったフィアに対して、アルミリアが鋭い視線を向ける。
「もしかしたらとは思ってましたが…今の言い方で確信しました」
アルミリアが確信を持った様子で、口を開く。
「貴方、私の秘密を知っていますね?」
「秘密?何のこと?」
何の事か分からないといった表情をフィアが浮かべる。
そんなフィアに対して、アルミリアがビシッと指を突き出し声を張り上げる。
「とぼけないでください!貴方が私の秘密を――”魔力を視る事が出来る”という秘密を知っているというのは分かっているんですから!」
確信を持った様子でそう言うアルミリアに、フィアは小首を傾げる。
「もしかして、秘密にしてたの?」
「…へ?」
「隠す様子も無く堂々と視てたから、まさか隠してるとは思わなかった」
「………」
フィアの言葉に、アルミリアが突き出していた指をゆっくりと下ろしながら、恐る恐ると言った様子で聞き返す。
「えっと…そんなにバレバレでしたか?」
「うん、目が光ってたし、目に力を集めてるのが視えたから」
「それって…もしかして貴方も魔力が視えるのですか?」
「別に魔力に限った話じゃないけど…まぁそうだね」
そう言うフィアの言葉にアルミリアがキラキラとした笑顔を浮かべながらフィアの両手を包み込むように握りしめる。
「私以外にも魔力が視える人が居るなんて…感激です!」
「そんな大袈裟な」
「いいえ!大袈裟なんかじゃありません!私以外で魔力が視える人に初めて出会えたんです!昔からこれのせいで散々仲間外れにされてきた私にとってはこれ程嬉しい事はありません!」
「仲間外れ…」
その言葉に、フィアが少し憂うような表情を見せる。
きっとアルミリアは魔力が視えるという体質のせいで辛い目にあってきたのだろう。
自分達の中に異物が混じれば、それを排除しようとするのが人の性だ。
それがどんな些細なものであろうと関係ない。
慰めるつもりでフィアがアルミリアの肩に手を伸ばそうとするよりも早くアルミリアが口を開く。
「魔力が視えるからとかくれんぼに参加させて貰えなかったり、目が光ってるからと肝試しで強制的に驚かし役にされたりと、どれだけ私が苦労したか…!」
「あぁ…うん、苦労したんだね」
感情の籠っていない声でフィアがそう返す。
そんなフィアの様子に気付いた様子も無く、感極まった様子でアルミリアがフィアの両肩に手を置く。
「分かってくれますか!この辛さ!いつも一人ぼっちで遊んでて一人遊びばっかり上手くなって!」
「ちょっと、あの――」
「魔力が視えるからって別に魔力の扱いが上手な訳でも無ければ何か優れた所がある訳でも無い!唯一利点があるとすればぼんやりと目が光るのでここに来るまでの薄暗い道でも明かり無しで歩けるという位です!」
「分かったから、ちょっと止ま――」
「同い年の子達からは仲間外れにされて、こんな良く分からない力でも特別視して期待を寄せてくる周囲の大人たち…おかげでこんな事言える相手も今まで居なかったんですよ!?」
止まらないアルミリアの話に、フィアが半ば諦めた様子で適当に相槌を打っていた。
結局、アルミリアの話はライが意識を取り戻し死んだ目をしたフィアを見て慌てて割って入るまで続いたのだった。