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魔法が使えない理由

マリアンベールから少し離れた森の中にライとフィアの姿があった。


「ライ!右に行ったよ!」

「了解!――っ!」


ライの左足が一瞬輝き、凄まじい炸裂音を響かせながらライの身体が右へと吹き飛んでいく。


「――はぁっ!」


魔力によって形成された光の剣を横薙ぎに振る。

鬱蒼と茂っていた草木をなぎ倒し、木々の後ろに隠れていた魔物の首を的確に切り落とす。

首を落とされた魔物は断末魔の叫びを上げる隙も無く絶命する。


「ふぅ……」


魔物が完全に死んだのを確認してから、ライが小さく息を吐きながら全身の力を抜く。

それと同時にライの背後からパチパチと柏手を打つ音が聞こえてくる。


「すっかり魔力を使った戦い方に慣れてきたね」


拍手しながら近づいて来るフィアに、ライは自虐的な笑みを浮かべながら答える。


「あははは…今のままじゃフィアが居ないと下手すればDランクの魔物にも負けそうなんだけどね…」

「それをどうにかするために毎日頑張ってるんでしょ、ライの中にある”力”を制御するために」

「俺の中にある力…」


フィアの言葉にライは自身の手を開いたり握ったりを繰り返しながら、マリアンベールに来てすぐの頃の出来事を思い出す。









「クラックブーツが使えない?」


マリアンベールに到着して翌日の事、旅費を稼ごうと魔物の討伐依頼でも受けようとギルドに向かおうとした直後、ライはフィアにそんな事を言われた。


「そう、今のライはクラックブーツ…というか、魔法を使う道具の類が一切使えない状態なんだよ」

「どうしてそんな…そもそもなんでフィアにそんな事が分かるんだ?」

「それには理由があるんだけど…取り合えず論より証拠、実際にやってみてよ」

「こ、ここで?」


ライ達は今、マリアンベールの東区にある宿屋の一室に居た。

もし仮にクラックブーツが発動してしまえば、床に穴が空くのは間違いないし宿屋にも迷惑が掛かる。

そして何より床の補修などで出費が大変な事になるのが目に見えていた。


「大丈夫だって、私の事を信じてほら!」

「うぅ…分かったよ――【クラック】」


ライが恐る恐るといった様子でクラックブーツを発動させようとしたが、クラックブーツに魔力が集まる事はなく発動する気配もない。

その事実にライが首を傾げながら、何度か試してみるも結果は変わらなかった。


「これは一体」

「うーん…説明するとちょっと面倒なんだけど、ライの中には普通の人間には無い力が宿ってるんだよ」

「普通の人間には無い力?」

「無いと言うよりは、扱えないって言った方が正しいのかな?まぁいいか、とにかくライには力があるんだよ」

「力があるって…そんな事急に言われても」


唐突に告げられた事実にライは困惑とした表情を浮かべる。

そもそもライはこれまで過ごしてきた中で自身に特別な力が備わっているなんて実感を覚えた事は無い。

そんな実感がないからこそ、ライはそれを補おうと技術を磨いて来たのだ。


特別な力所か道具の補助が無ければロクに魔法すら扱えない、本来人間に備わっているべき力さえ扱えない自分に何か特別な力があるなんて到底信じられなかった。


そんなライの考えを否定するようにフィアが言う。


「何言ってるの、ライだけが持つ特別な力があるじゃない、私の声を聞くことが出来るっていう特別な力が」

「…確かにこれも力って言えばそうなのかな?でも――」

「分かってる。声を聞くだけの力が一体どう役に立つんだって言いたいんでしょ?」

「それは…」


図星を付かれたライが言い淀む。


フィアの声を聞く事が出来ると言うのは確かに特別な力だ。

フィアは世界そのものだし、フィアに頼めば不可能な事など無いに等しいだろう。

だがそれはあくまでフィアの力であってライの力ではない。


結局、ライに分かるのは自分の持つその特別な力というのが声が聞こえるという一点のみにしか使えないという事だけだった。


「フィアの声が聞こえるっていうのが特別な力だってのは分かったよ、でも結局それがさっきの話とどう繋がるの?」

「天竜との闘いの時、私が言った事って覚えてる?”貴方は魔法が使えないんじゃない、魔力を取り込む事が出来ないんだ”って」

「あー…確かに覚えてるけど、それって一体どういう意味なの?」


ライが魔法を使う事が出来ない理由、フィアはそれを魔力を取り込む事が出来ないからだと言った。

つまり魔力を取り込むことさえできれば魔法を使う事が出来るという事なのだろうが、生憎ライは魔力を身体に取り込むことが出来ない。

結局それはライにしてみれば魔法が使えない事には変わりはない。

そのため何故フィアが魔力を取り込めないという部分を強調して言うのかがライには分からなかった。


ライの考えて居る事が分かっているのか、フィアが少し悩む素振りを見せながらライに分かるように説明する。


「うーん噛み砕いて言うとね、ライの中にあるその特別な力がライの身体をいっぱいに満たしてて、もう魔力が入る隙間が無いなんだよ」


フィアのその言葉を聞いて、ライが自分の身体を見下ろす。

自分の手、足、胴体を見回した後、全身を確認するように手足を一通り動かした後、フィアに視線を向ける。


「………全然分からないんだけど」

「全身に力が漲ってくるとか、そういう力じゃないんだよ。なんというか…そこに在って当たり前のような力というか…」

「そこに在って当たり前って…それ特別な力って言えるの?」

「うー…説明が難しいの!とにかくそういう力がライの身体を満たしてるのが原因なの!」


噛みつかんばかりの勢いで身を乗り出しながらフィアが言う。

顔と顔がくっ付きそうな程に近づき、ライが顔を赤くしながらフィアから視線を逸らす。


「わ、分かった!分かったから少し離れて!」

「本当に分かってる?…まぁいいよ、そこはそんなに重要じゃないしね」


そう言ってフィアが身体を放すと、ライが安心したようにため息を吐く。

フィアの見た目は、フィア自身がライの好みに合うようにと考えて作り出しただけに実にライ好みの外見になっていた。

そのため、そんな姿で近くに寄られるとライとしてはどうしても意識をしてしまう。


ライの心情を知ってか知らずか、フィアはライのその様子に触れる事は無く話を進める。


「その力なんだけど、ライの身体を覆い尽くすように全身から漏れ出してるの。そのせいでその力に魔力が阻まれてクラックブーツにも魔力が集まらないって状態になってるのよ」

「つまり、その力をどうにかしないとクラックブーツなんかの魔道具の類も一切使えないって事?」

「そう、でも逆に考えれば力をどうにかしてしまえば魔道具だけじゃない、ライ自身が魔法を使う事だって出来るはずだよ」


そう言うフィアの言葉に、ライは考える素振りを見せる。

フィアの言う通りなら確かにその力というのをどうにかしてしまえば魔法が使えるように聞こえる。

だが、ライは以前からクラックブーツを使って何度も戦ってきた。

マンティコアに襲われた時だってフィアに助けられる直前まで使えていたはずだ。

つまりその時にはまだその力とやらが漏れ出しては居なかったという事になる。

ならば何故今になって急にその力があふれ出すような事になったのだろうか?。


そんなライの思考を遮るかのようにフィアが話しかけてくる。


「とにかく、どうにかしないと今のライは以前のように戦えないって事なんだよ」

「どうにかしないとって…どうすれば良いのさ?」

「それは勿論――」







「ライ、聞いてるの?」


フィアの声に、ライの意識が現実に引き戻される。


「え?あ、ごめん聞いてなかった」

「もう…こんな魔物が出る森の中で考え事なんて、気を引き締めないと駄目だよ」

「分かってるよ…それより今日もやるんでしょ?」


ライが尋ねるようにフィアに言うと、フィアは当たり前だと言わんばかりに頷いて見せた後、ライに向かって宣言する。


「それじゃ、今日の特訓を始めるよ!」


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