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肉団子

半年ぶりの更新。

ノクターンノベルで書いてる方がついつい熱が入ってしまい、中々戻ってこれませんでした……。

久しぶりに本作を見返して、序盤の方の文とか構成酷いなーと我ながら思いながら、書きたい欲が沸々と湧き上がって来たので、お恥ずかしながら戻ってきました。

突如駆け出した化け物を追って変容したアンシャの街を駆けるライ。


一歩一歩、踏み出す毎に変化していく地面に足を取られ、化け物との距離は以前離される一方だった。


「クッ……!」


その事実にライの中で焦りが生まれ、前へ前へと思いばかりが前進してしまう。


(せめて魔力があれば)


暗澹とした始源のせいで魔力が一切ない為、クラックも身体強化も使えないライとは違い、化け物は始源を用いた肉体改造によりまるで獣のように四足で変容した街を駆けていく。


「クソ、待て!!」


化け物の姿は周囲を満たす始源に阻まれ見えなくなり、ライは自身の感覚を頼りに嫌な感じのする方へとひたすらに足を動かす。


そうしてどれだけ時間が経っただろうか?。

時間にすれば十分にも満たない時間であったが、ライはずっと感じていた嫌な感覚がどんどん近くなっている事に気が付いた。


(動きが止まった?。まさかもう――)


脳裏に過る嫌な想像にライの足が一瞬止まりかけたその時


『ライ!避けて!!』

「ッ!?」


フィアのその声にライが反射的に左に飛ぶと、前方の暗澹とした始源の奥から突如巨大な人の手が姿を現し、先程までライが立っていた地面にその拳を叩きつける。


「これは……!」


現れたのは巨大な肉塊、まるで数十人の人間をこねくり回して作ったような悍ましい肉団子からはまだある程度形を残した人間達の苦悶の喘ぎが聞こえてくる。


『アレが人間としての知性を取り戻し始めた弊害だね。始源の制御が利くようになったのを良い事に人間を取り込んで肥大化してる』

「なんて惨い……」


巨大な手は肉団子の中へと引っ込み、その形状を徐々に人型に変化させていく。


「フィア、この人達を元には――」

『無理だね。肉体は兎も角、魂はもう元には戻せない。出来るとしたら変質前の情報を元に作り直す事だけど、それはもう記憶や想いを引き継いだだけの良く似た別人だよ』

「……そっか」


表面を繕うだけならそれで問題はないだろうが、しかしそれではきっと犠牲となった人間への救いにはならない。


そう理解したライの前で、肉団子は推定五メートルの巨人へと変貌した。


「タカイ、タカーイ、キヒヒヒヒヒ!」


身体のあちこちに付いている口から不快な笑い声が木霊する。


取り込んだ人間の声帯をそのまま利用しているのだろう。

老若男女入り混じったその声は耳にした者の精神を凌辱するような不協和音を奏でていた。


「フィア、あの娘は無事か分かる?」

『分からないけど……多分大丈夫じゃないかな。こんな質の悪い始源じゃあの娘に干渉する事も出来ないだろうし、ただ流石にこれだけ始源をばら撒かれると元から世界(わたし)と繋がりの薄いあの娘を探すのは不可能だね』

「無事を祈るしかないか」


今は目の前の化け物を倒す事に集中しようと、ライが構える。


「アイツに始源を叩き込むにはどれだけ接近すれば良い?」

『待って…………今、あの化け物の始源の源泉は胸部の辺りにあるね。剣先が届く範囲まで近づいてくれれば行けると思う』

「胸か、どうにかして膝をつかせないと届かないな」


五メートルもある巨体を前にどうやって胸の位置を下げさせるかを考えていた時、化け物が徐に右腕を振り上げる。

変容する右腕を見てライが警戒度を引き上げた瞬間、何の予兆も無く化け物の腹部に浮き出ていた無数の顔の内の一つが伸び、ライの顔面を食い千切らんと大口を開けて迫る。


「クッ!?」


右腕に気を取られ一瞬反応が遅れはしたものの、警戒していたライはその一撃を寸でのところで躱す。


さらに追撃とばかりに異様に伸びた右腕がライめがけて振り下ろされる。


「ふっ!」


それに対しライは前に踏み込み、カウンターのように剣を振り右腕を斬り落とす。


「ギィィィ!?イタァァァイ!!」


切断された右腕を左手で押さえながら、化け物は傷を庇うようにライに背を向ける。


今がチャンスと背後から始源の有効範囲まで接近しようとするライ。

しかしそうはさせないとばかりに背中に浮かび上がる顔達が一斉にライへと襲い掛かる。


真正面からでは避けきれないと悟ったライは方向を変え、追い迫る顔達から逃れるように化け物を中心に円を描くように駆け回る。


『ライ!逃げるばかりじゃなくて反撃しないと!』

「分かってる、分かってるけど……!」


変容し辛うじて元人間と分かる程度でしか面影は残っていなかったが、元は巻き込まれただけの一般人であるという事実が脳裏を過り、ライの判断を鈍らせる。


もう助からないとは分かっているが、だからと言って剣を振り下ろせるかどうかは別の話だ。


まるで妖怪の轆轤首のように迫って来る無数の顔達、普段ならばそれらを躱しながら化け物本体と斬り結ぶくらい訳の無いライだったが、始源が邪魔である程度接近されるまで姿が見えない事、相手が一般人を取り込んだ化け物である事が精神的負荷となり、ライのパフォーマンスを著しく悪化させていた。


『ライ、しっかりして!もうその人間達は死んでしまってるんだよ!』

「でもッ!」


つまらない倫理観に囚われているだけだというのは分かっている。

助からない、もう死んでいる人間だというのは重々理解していた。

でもだからと言って"じゃあ問題ないね"とそんな理由で死体に刃を向けられる程、ライは人の道から外れては居なかった。


『ライはアイツを止めるって、そう決めたんじゃなかったの?』

「ッ――」


フィアのその言葉に、ライの思考はまるで冷水でも掛けられたように落ち着きを取り戻して行く。


あぁ、そうだ、そう決めたんじゃないか。

これ以上の犠牲を出さないために、あの娘を守るために。


「……そうだね、そう俺が決めた事だもんね」


ならばこそ、今だけは倫理観を捨て去ろう。

今一度、あの化け物を倒す為だけに全てを費やそう。


決して譲れない理由を手に入れたライが、覚悟と共に後ろを振り返る。


「――ごめんなさい」


その言葉と共にライは背後に迫っていた顔達を始源を込めた刃で両断した。

切り裂かれた顔達はライの始源によって暗澹とした始源の支配から解放され、空間に溶けるように消えていく。


助けられなかった事に対する懺悔と、こうする事しか出来ない無力な自身を呪いながら、ライは化け物本体めがけて一気に距離を詰める。


「アーア、ヒドイナァ、マッタクモッテヒドイ。タミハダイジニシナキャ」

「ッ――お前!?」


化け物の言葉でライは理解した。

取り込まれた人間を利用したあの攻撃、あれはライの良心に付け込んだ化け物の策だったのだ。


「下衆が!」


腹の底から湧き上がる怒りを始源へと変え、ライは始源を漲らせたエクレールを化け物めがけ振り下ろす。


「ギィ!?」


化け物の身体を深々と斬り裂く一撃、しかし化け物の膝が折れる程のダメージでは無く、お返しとばかりに切り裂かれた傷口から鮫のような歯が生え、ライを飲み込まんと口を開ける。


だが剣の間合いで戦っていたライにその攻撃は当たる事無く、ライは攻撃を避けるように化け物の側面に回り、棒切れのような右足を切断する。


片足を失い、バランスを崩して倒れそうになる化け物だったが、即座に胴体から足を一本生やし、倒れ込むのを阻止する。


(足を切断して胴体を下げさせるのは無理か)


やはりダメージを蓄積させ、膝をつかせるしかないと考え、ライは腰のホルダーから投擲用の短剣を取り出し、化け物めがけ投擲する。


「イ゛!」


あの巨体に対し、小さい短剣をいくら投げたところで致命傷にはならないだろうが、痛覚があるなら精神的なダメージは与えられる。

一度死に、甦生された事で体力も復活したライは化け物相手に持久戦を挑もうとしていた。


距離がある間は短剣を投げ、短剣の刺さる痛みで化け物が僅かに硬直する隙を突いて接近しては剣で斬りつけ、化け物が反撃しようとすれば距離を取り短剣を投げる。


決して欲張りはしない、だが相手に休む隙も与えない。


いくら知性を取り戻したと言っても、元となった人間は冒険者でも何でもない、剣もロクに握った事のない人物、巧みに立ち回るライ相手に我武者羅に腕を振り回したり、身体を伸ばしたところで何にもならない。


「グガァァァァ!」


そんな状況に耐えきれなくなったのか、化け物は頭部に巨大な口を形成し癇癪を起したように叫ぶ。


「ウザッタインダヨォォ!!」


その叫びと共に、化け物は自身の頭を伸ばしてライへ襲い掛かる。


「一つ覚えで読めてたよ」


取り込んだ人間を利用した咬みつきに、裂傷を利用して口を形成したりと、似通った攻撃ばかりする化け物。

その癖をライが見逃す筈もなく、ライは腰に付けていたポーチの一つをその口の中へと放り込む。


ポーチ自体はただ多くの物を収納できるという以外何の機能も備えてはいない。

だが、その機能こそが千載一遇のチャンスを掴む必勝の策となる。


(ポーチは飽くまでも魔術式で生み出された異空間への入口、でもその魔術式が何等かの影響で機能を失ったのなら――!)


突如入ってきた異物に化け物は反射的に口を閉じ、鮫のような歯でポーチをズタズタにしたその瞬間


「グゲァ゛ァ゛ァ゛!?」


ポーチを飲み込んだ化け物の頭部が弾け、大量の短剣が飛び出して来る。


「今だ!」


化け物の頭部が弾けると同時に、ライは凄まじい勢いで飛び散る投擲用の短剣に恐れる事無く、化け物の元へと一直線に駆けていく。


異空間を利用する事で本来を超える容量を獲得したポーチ、その核たる魔術式がズタズタに引き裂かれ、異空間を維持出来なくなればどうなるのか。

その答えがまさにこれだ。


維持出来なくなった異空間から内容物が全て唯一の出口であるポーチへと流れ込み一気に噴出、まるで手榴弾の鉄片のように周囲に飛び散った。


「ガ、ゴボッ……ァ」


内側から破裂し、飛び出した刃に身体を貫かれ、然しもの化け物も力なく膝を折る。


動く気配も無く、茫然とする相手の隙を見逃す程ライも甘くも無く――


「これで終わりだ!!」


始源を滾らせたエクレールを両手に握り締めながら、ライはその刃を深々と化け物の胸へと突き立て、邪悪なる始源を纏う化け物はライの始源で穿たれるのだった。

やったか?。


というフラグは置いといて、やばいなぁ……主人公に対する精神攻撃が完全にノクターンの作品に引っ張られてる。

まぁ引っ張られてるだけであっちより随分とマシですがね。

あっちは主人公虐めが基本な所あるから……。

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