白衣の悪魔
最近、別作品でその作品の雰囲気に合わせて中二成分の濃い文章書いてたせいで、そっちの文に飲まれそうになる。(前回とかちょっとね)
あと主人公の名前を書く時にそっちの主人公の名前打ち込みそうになる。
太陽ものぼり、窓から差し込む光が明かりの無い部屋の全容を露わにする。
そこら辺に転がった目も剥くような値段の調度品、一見しただけでも分かる高級品の数々で彩られた室内、その部屋に鎮座する巨大サイズのベッドでだらしなく四肢を投げ出し眠りを貪っているのはこの街の領主、ドナード・プレハロフだった。
「ふごっ……んん」
身体を二転三転させた後、ドナードがまだ眠そうな顔で上半身を起こし目覚めた。
「ふぁぁぁあ……っ、執事が起こしに来る前に目が覚めるなんて何時以来だ」
寝ぼけ半分でそう呟きながらドナードが窓から外の風景を見る。
太陽は空高くから燦々と輝き、アンシャの街を明るく照らしていた。
その光景をぼーっと眺めていたドナードだったが、突然意識が覚醒したのかカッと目を見開いて太陽を見上げる。
「もう太陽があんな高く、私は一体何時間寝ていたんだ?」
ベッドから降り、テーブルに置いてあったハンドベルを手に取る。
「執事の奴は一体何をしているんだ」
自分を起こしに来なかった執事に文句を言いながら、その苛立ちを発散するように乱暴にハンドベルを振る。
しかし、ハンドベルを鳴らせどその音を聞きつけて誰かが来る気配はなく、ドナードは更に苛立ちを募らせ、増々乱暴にハンドベルを鳴らし立てるが、やはり誰かが来る事は無かった。
「クソッ、何だというのだ!!」
ハンドベルを床に投げ捨て、ドナードは部屋の扉を開け放ち廊下に出る。
「おい!!誰か!!!誰か居ないのかぁ!!!」
しかしやはりというべきか、その声に反応する者は誰もおらず、ここに来て苛立ちよりも不安が勝ち、ドナードが速足で廊下を歩き出す。
「何故誰も返事をしないんだ……?」
まるで見えない何かを恐れるようにドナードは小さな声で呟きながら人の姿を探す。
廊下の突き当たりに差し掛かった頃、廊下の角から誰かの足を見つけ、ドナードが歩く速度を上げてそちらに向かう。
「おい、お前!何故返事をしない!聞こえているんだろう!?」
そう捲し立てながら近づき、廊下の先を覗き込んだ時
「ひっ――」
目に入った光景に短い悲鳴が喉から漏れる。
そこには胸から血を流し、既に物言わぬ骸となった執事の姿があった。
「う――あ、あぁぁぁぁぁぁあああ!!」
情けない悲鳴を上げながらドナードが駆け出す。
館の中を駆けずり回る最中、扉の開け放たれた部屋の中、廊下の先に何人もの死体を見つける。
そのどれもが胸から血を流して倒れていた。
この殺し方、知っている。
奴だ、奴がやったんだとドナードは恐怖に慄き、身の安全を求めて館の中を駆けていく。
領主であるドナードは常に警戒しなければならない事があった。
それは暗殺、自分に恨みのある者、邪魔に思っている者から刺客を送り込まれる事を警戒していた。
特にこの街には【陰影】という世界一の暗殺者がいる。
もし【陰影】に依頼でもされたら一貫の終わり、だからドナードはみなしご通りに近寄る者を常に監視させていた。
それが誰なのか、誰の殺しを依頼するつもりなのか、それを徹底的に調べ、仮に自分を狙ったものであったならそれを始末させてきた。
ここ数日、みなしご通りに近づいた者の話は聞いていない。
なのに何故、どうしてこんな事になっている?。
何故個人ではなく、館の人間全てが殺されている?。
分からない、分からないがこのままでもロクな事にはならないだろう。
(チクショウ!どうしてこんな事になる!?不老不死、それさえあれば、私は――)
もつれる足を必死に前へ出し、ドナードが駆け込んだのは執務室だった。
執務室に入るなり扉に鍵をかけ、カーテンを全て締め切り、外から一切の干渉を絶つと、ドナードは壁際に配置された本棚の元へと移動する。
本棚の三段目、右から四冊目と五冊目の本を退け、出来た隙間に腕を突っ込む。
カチリという何かボタンを押したような音が聞こえた後、本棚が横にズレその裏から隠し通路が姿を現す。
通路は下に向かって伸びており、いざという時の為に用意していた秘密の地下室へと繋がっていた。
ドナードが通路に足を踏み入れて少しすると、背後の本棚が自動的に元の位置に戻り通路を隠す。
通路の入口が閉じられ自分以外の誰も居ない事を確認すると、ドナードは安堵のため息を吐きながら地下室へと入る。
中は十畳ほどの広さとなっており、日持ちのする保存食や飲み水が保管されていた。
「少しすれば異常を感じた衛兵なりが駆けつけるはず、それまでここに潜んでいれば――ぁ?」
ソファーに腰掛け、視線を下に向けた時、自身の胸から生える得のような物が目に留まった。
「な、これ、は」
自身の視界の中で突然柄が独りでに動き、勢い良く引き抜かれる。
鮮血が溢れ出て、無機質な地下質の床を赤く汚していく。
「ぐっ、お゛ぉぉぉ」
ドナードが胸を抑えながら前のめりに倒れる。
死ぬ、このまま死んでしまうのか?。
「ふざ、けるな……こんな、こんなところでっ――」
ここまで来たのに、こんなところで終わってたまるかと必死の形相でドナードが命を繋ごうとする。
今の地位を築くまでどれだけの労力をかけたか、どれだけの苦労を重ねて来たか。
汚い事に手を汚し、報復を恐れ、命を狙われる日々に心をすり減らしながら築き上げた今の地位、誰の手にも渡してなるものか。
「私の、命も――この街も、全て私の、物だっ!!」
だから求めた、不老不死を。
命を狙われる日々に怯えなくて済むように、永遠にこの地位に君臨できるように。
その手掛かりを掴むために今まで以上の無理もしてきた。
不老不死の方法を探す、それには多額の金が必要になったが国に支払う税金は減らす訳にはいかず、あの手この手で金を集めようとした。
もしかしたらそれがいけなかったのか?。
今まで決して自分を狙って来る事がなかった【陰影】が突然自分を狙ってきた理由はそこにあるのではないか?。
それが真実だという訳ではないが、ドナードの推論は間違ってはいなかった。
ドナードが今まで以上にもっと金を稼ごうとし、ダンからヤヅズクの製造方法を聞き出そうとしなければ、ライの命を狙おうとしなければ、きっとこうはならなかっただろう。
全てはただ運が悪かっただけ、だがそんな事は当のドナードに知る術はない。
そしてもう、そんな事を今更知ったところでもう手遅れだった。
薄れる意識の中、通路を歩き遠ざかって行く誰かの足音を聞く。
「おのれ……忌々しい快楽殺人者が……!」
「随分と苦しそうですね」
突然自身の横から湧いた声にドナードが視線を横に移す。
そこに立っていたのは白衣を纏った何者か、顔は良く見えず声や体格から男である事だけは伺えた。
(コイツが【陰影】?)
そう考えた領主だったが、相変わらず通路から聞こえてくる足音は遠のいており、目の前の人間の物とは違う。
「大変ですね。胸から血が出てるでは無いですか」
緊張感の欠片も無い調子で男がドナードに話しかけてくる。
不気味で怪しげな男、しかし今この場で頼れる人間が他に居ないドナードは男に助けを求める。
「助け、てくれ……!」
「助けてくれ、ですか?。んーそうですねぇ」
男は何か考える素振りを見せると、白衣の内ポケットから一つの瓶を取り出してドナードに見せる。
それは蒼い何かの詰まった小さな瓶だった。
「これなんか如何でしょう。これを摂取すれば瞬時に傷口は塞がり、更に貴方は今よりも強靭な肉体を手に入れる事が出来ますよ!」
まるでセールスマンのような口調で男が説明を続ける。
「さらになんと、この薬には不老不死の効能もあるんです!」
「っ――!」
男の口から出た言葉にドナードは目を剥く。
小さな瓶の中に収められた蒼く濁った何か、この男同様得体の知れない不気味さはあったが、それ以上にそこに秘められた何か途方もない力を感じ取り目を奪われる。
「どうやら気に入って頂けた様子ですね。では取引成立という事で」
そう言うと男はドナードの身体を仰向けにすると、小瓶の蓋を取り内容物をドナードの傷口から流し込む。
「ちなみにこれは取引ですので、無論タダではございません。あぁでもご安心を、別に金銭が欲しい訳ではありません。ただ――」
突然、男の纏う雰囲気が代わり、口元が愉悦に歪む。
「薬のデータさえ取れれば私はそれで良いので」
その言葉の意味をドナードは考える事が出来なかった――否、考える事が出来なくなっていた。
「オ゛――ア、ガァ゛!?」
蒼い何かを流し込まれたドナードの傷口は確かに塞がっていくが、その一方で人間の皮膚には存在しない鱗が形成されたかと思えば、それがヘドロのように溶けてなくなり、次の瞬間には石のように硬質な物へと変わる。
何もかもが定まらず、ドナードの変異は傷口から全身へと広がって行く。
そんなドナードの変容を男はじっと見つめ、愉悦に歪んだその口から思わぬ言葉が飛び出す。
「さぁ、始源によって生まれ変われ強欲な者よ!心の赴くままに、蹂躙するが良い!!」
こうしてアンシャの地下室で世界を脅かす怪物が誕生したのだった。
ちなみに前書きで言ってた作品はノクターンノベルズの方で執筆してます。
設定上どうしてもR18になっちゃう主人公だったので……まぁ直接描写省いても良かったけど、折角なら今までそういう直接的な行為は描写した事無かったしやってみたいなーと思い、あっちに掲載しました。
こっちからあっちのユーザーサイトって行けるのかな?。
一応XユーザーのID乗せときます。
西洋躑躅 [XID:X9238BK]