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向かう理由

ライとフィアがエアストの街を発ち、国境を越えて教国フェイリスに入り、国境沿いの街に辿り着いたのが数日前。

そこで軽い観光を終えた後、ライとフィアは朝早く、それこそ陽が登るよりも早くに街を発ちアンシャを目指したのが一日前の事だった。


一日前の昼頃、ライとフィアはアンシャへと続く街道をかなりの速度で駆け抜けていた。


「ライ、大丈夫?」

「ふっ……ふっ……何が?」

「一回休憩を挟んでからもう三時間は経ってるよ。ここら辺で一旦休んだ方が良いんじゃない?」

「あぁ、そうだね。結構距離も稼げたし、ちょっと早いけど昼食にしようか」


そう言いながらライは徐々に速度を落としていき、それから数百メートル進んだ辺りでようやく足を止める。

適当な所に腰掛け、宿屋で用意して貰った軽食を食べながら雑談に花を咲かせる。


「それにしてもライは体力お化けだよね」

「ん、そう?」

「朝からあれだけ走ってるのに息も殆ど乱れてないし、休もうって言ってからも暫く走り続けてたでしょ」

「俺だってそんな無尽蔵に体力がある訳じゃないよ。ただ極力体力を温存するように動いてるだけだよ。それに暫く走ってたのだって別に体力に余裕があったからって訳じゃないよ。急に速度を落としたりすると筋肉に掛かる負担が大きいからね。長い距離をかけてゆっくり速度を落としてから止まった方が消耗する体力が少なくて済むってだけ」

「”だけ”……ね。本当にそれだけ?」


フィアは確認するようにライに言葉を投げた。


「前々から気になってはいたんだけど、何だか最近のライは何処となく落ち着きが無いというか、何時もなら余裕を持った日程を組むのに、今回は今日の夕暮れ前には目的地に到着しようとこんな無茶なペースでここまで飛ばして、次の目的地って一体何なの?」


ライはエアストに向かう前からその次の目的地について話しており、その時も何処か浮かない表情をしていた事をフィアは覚えていた。

これまではさして気にも留めていなかったフィアだったが、今回の強行軍と今の何処か落ち着かない様子のライを見て流石に気になってきたらしい。


問い詰めるような口調のフィアにライは一瞬怯みながらも、次の目的地について話し始める。


「今向かっている街の名前はアンシャ、エアストに『駆け出しの街』っていう異称があったように、アンシャにも似たような異称があるんだ」

「どんな?」

「『犯罪の街』だよ。その異称からも分かる通り非常に治安が悪い街なんだ」

「犯罪の街……ね。前に”次の目的地で散財する予定”とかライは言ってたけど、そんな所で何する気なの?」

「薬を買うんだよ」

「薬?」


ライの言葉にフィアは首を傾げる。

犯罪の街、薬、その単語がフィアの頭の中で結びついて行く。


「……ライ、キメるの?」

「キメないよ!別に薬と言ってもそう言う類の物じゃないから!俺が買うのは魔物相手に使う痺れ薬!」


ライが薬を使う訳じゃないと知り、安堵した様子でフィアが息を吐く。


「良かった。もしライが薬をキメるようなら細胞の一つ一つを始源で再構成してライの身体を作り直さなきゃいけない所だったよ」

「恐ろしい事言わないでよ……」


細胞レベルで身体を書き換えられる事を想像し、ライが顔を青ざめる。


「それにしても何でわざわざ魔物用の痺れ薬をそんな場所で?それくらいなら他の街にも売ってるんじゃないの?」

「確かに痺れ薬自体は道具屋で買えるんだけどね。普通の道具屋で売っている痺れ薬じゃハッキリ言って役に立たないんだ。効果を発揮するまでに時間が掛かるし、完全に動きを止められる訳じゃない。それに大型の魔物になると刃に塗った程度の量じゃ到底足りない。でもアンシャで売られている痺れ薬『ヒリビリ』は即効性も効果も段違い、大型の魔物だって鏃が濡れたくらいの量で充分動きを止められるんだ。まぁあまりにも効果が強すぎるのと、気化しやすくてその気化したヒリビリを少し吸っただけで人間も動けなくなっちゃうから取り扱いも難しくて法律で使用が禁止されてるんだけどね」

「なるほど、それにしても意外だね」

「意外って何が?」


ライがそう尋ねると、フィアはこう答えた。


「ライって法律とかそういう決まり事って絶対破らない人間だと考えてたから、魔物と戦う為とは言えそういう人間の掟に反する事なんてしないと思ってた」

「人の道を外れた事はしないさ。でも時と場合ってのはある。法律を守って自分が死んじゃったら意味ないでしょ?。ヒリビリを手に入れるのも生き残る為、その為なら俺だって多少の悪い事はするよ」

「それもそっか」


ライの言葉に納得したのか、フィアはその話題はそこまでにして別の質問をする。


「目的は分かったけど、どうして急いでるの?」

「一つは陽が暮れる前に宿を確保するため、暗くなったアンシャを出歩くのは危険だからね。それともう一つ、こっちが急ぐ最大の理由なんだけどアンシャの周りには野盗の類が良く出没するんだよ」


犯罪の街と呼ばれるだけはあり、アンシャには野盗を始めとした反社会的組織が複数存在している。

そしてそれは街の内部だけでなく、街の外側にも数多く存在していた。


「とあるパーティがアンシャ郊外の森で野営してたら三回野盗に襲われたなんて話も聞く。しかもその三回が全部所属の異なる野盗だったらしい」

「野盗が沢山居るんだね」

「普通に歩いて向かってたら途中で日が暮れてしまうからね。そんな大量の野盗が出る所で野営なんてしたく無いし、だから急いでるって訳……さて、休憩も十分取ったしそろそろ行こうか。ここから先は休憩無しでアンシャまで向かうよ」


その後ライとフィアは宣言通り、休憩を取る事無くアンシャへと向かい、途中何度か遭遇した野盗を振り切る目的で速度を上げたおかげか、夕暮れ前には無事到着したのであった。

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