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世界色の少女

申し訳ございません。

前回編集途中に寝落ちしてしまい、中途半端な状態で投稿しておりました。

お手数ですが10/21の午前中までに前回を読んでいただいた方は読み直し頂けると有難いです。

ライがブルガスの街に到着した翌日、ライはブルガスの出店が並ぶ通りを一人つまらなそうに歩いていた。

何故ライがつまらなさそうにしているのかと言えば、話は昨日の夜に遡る。


あれから色々な旅の話をそろそろ日付が変わるという時間まで聞いていたライだったが、もう夜も遅いのと子供たちを部屋に戻さなければという事で話を中断し、その日はそれまでとなった。

アレンとアニスを部屋に戻したライは自室へと戻ると、マゲットから言われた事を早速実践しようと、フィアと共にブルガスのあちこちを見て回ろうと考えていた。

しかし、部屋に帰ってその事をフィアに伝えると『ごめん、私はやりたい事があるから、明日はライ一人で見てて』と言われてしまった。


そのため、ライは現在一人でブルガスを歩き回っているのだ。


(昔は一人で見て回ってるだけで楽しかったんだけどな…)


昨日マゲットの話を聞いたからか、それともフィアと回ろうと決めていたからなのかは分からないが、いつもは歩いているだけで楽しい気分になれたはずなのに、なんだか今日はつまらないと感じていた。

何度かフィアに向かって声を掛けてみたが、返事が返ってくる事もなく、虚しさだけが募る一方だった。


一人とぼとぼと歩いているライだったが、ふと背後から何者かの視線を感じて振り返る。

視線の主を探し出そうと、あちこちを見渡すがそれらしき人物は見当たらず、先程感じた視線も無くなっていた。

今ライに向けられている視線といえば、道ど真ん中で突然立ち止まって振り返り、辺りを見渡すという奇妙な行動を取ったライに対する周囲の人間からの胡乱な視線だけだった。


「…気のせいかな?」


そう言って前に向き直り再び歩き出す。

一度視線を感じてしまえば自分に向けられる視線に敏感になってしまうもので、ライは歩き出してすぐにまた自分に向かって先ほどの視線が向けらえている事に気がつく。

そしてまた振りかえったが、案の定視線の主の正体を掴むことは出来なかった。


それからライが歩き出す度に視線を感じては振り返り、視線の主を探すという事を何度か繰り返した頃、ライがまた前へと向き直り歩き出そうとする。

足を一歩踏み出した瞬間、視線を感じた時とほぼ同じタイミングで勢いよくライが振り向く。

そしてライは視界の端、大通りの道脇の路地に慌てて引っ込む一人の人間の影を見つけた。


ライがその人影が見えた路地裏に駆け寄り覗き込んだが、それらしき人影の姿は既にそこにはなかった。


「今のは一体…」


そうライが呟いた時、背後からあの視線を再び感じた。

ライが慌てて振り返ると、今覗き込んでいる路地から丁度対角線上に位置する反対の路地から、ライを見つめる一人の人間の姿が見えた。

肥沃な大地を思わせる茶髪に青空や海を連想させる深い青色の瞳、そして緑豊かな森のような鮮やかな緑色の服を身に纏った少女がそこには居た。


少女はライと目が合うと、路地の奥へと隠れてしまう。


「今の子が…?いや、でも…」


先程の少女がさっきから感じていた視線の正体なのかと考えたライだったが、すぐにあり得ないとその考えを否定する。

もし先ほどから感じていた視線の正体があの少女だとしたら、ライが振り返って路地を覗き込むまでの僅かな時間の間に、反対側まで移動した事になる。

とてもじゃないが対角線上にある路地までそんな僅かな時間で移動できるとはライには思えなかった。


「何がどうなってるんだ…」


その事にどこか薄気味悪さを感じながら、ライは少女から逃げるように速足で道を引き返していった。


一方、先程の路地には少女の姿があった。

少女は縮こまりながら、赤くなった自分の両頬を手で押さえて何事かを呟いている。


「あぁ…こんな、ライに見られたって意識するだけで顔が熱く…この感覚は一体」


そう呟きながら恥ずかしさを振り切るように顔を左右に激しく振るう。

一頻りそうしていた少女だったが、少し落ち着いて来たのかゆっくりと立ち上がり自分の身体を見下ろす。


「それにしても、人の身体って変な感じ…自分が自分じゃないみたい」


少女はそう呟きながら、仕切りに身体を動かして感覚を確かめる。


「っと、こんな事してる場合じゃない、ライを追いかけないと」


少女が路地から顔を出し、通りの様子を窺うがそこには既にライの姿は無かった。


「見失っちゃった…仕方ない」


少女は路地に引っ込むと、ゆっくりと目を瞑りその場に立ち尽くす。

そうやって少女が立ち尽くしてから数秒後、突然少女の全身から力が抜け人形のように生命感なく地面に崩れ落ちる。

少女が地面に崩れ落ちてから間もなく、少女が倒れる路地に少女と全く同じ声が響く。


『んー!はぁぁぁ…やっぱり人間の身体って制約が多くて不便だねー』


そう言って少女――フィアが先程まで自分が入っていた身体を魔力で包み込み、壁に背を預けるように座らせる。


『むー…それにしてもライから話しかけたくなるように、ライの好みを調べ上げて身体を作ったはずなのに…何か間違えたかな?』


抜け殻となった身体をくまなく調べながらフィアが呟く。

見た目は17歳程度、腰まで伸びた茶髪に程よい体形、ここ数年分のライの行動、思考からかき集めた情報を元にフィアなりにライの好みになるようにと生み出された身体は、誰の目から見ても美少女と呼べる程に整った容姿をしていた。


何故フィアがこのような事をしたのかと言えば、昨夜のマゲットの話を聞いたからだ。

そもそも、フィアはマゲットの話を聞く前、ライの言っていた”一緒”という言葉の意味を考え続けていた。

しかし、人間と世界では考えも価値観も全く違うため、フィアにはライの求める”一緒”が何なのかが分からなかった。

そんな所でマゲットのあの話を聞いた。

一緒に物を見て、同じ物を食べる…ライが求めた一緒とはこういう事なのではないのかと、フィアは考えたのだ。


そう考えついてからのフィアの行動は早かった。

ライと同じ物を見て、同じ物を食べられるように一晩でライが理想とする人間の身体を生み出して見せた。

後はその身体を使ってライと一緒にブルガスを見て回るだけという所で、ここで一つの問題が発生する。


マゲットは人との縁を大事にしろという話をしていたが、果たして人の身体を得た自分は”人”に当てはまるのだろうか?。

人の身であっても、中身が世界(フィア)であることには変わりない。

そんな自分と一緒にブルガスを見て回った所で、はたしてそれはライの求める”一緒”なのだろうか?。

いくら考えた所で答えなど出るはずもなく、フィアは別の解決策を見つける事にした。

それは自分がフィアである事は告げず、一人の人間としてライに近づくという物だった。

そのためにフィアは不自然にならないように自然とライと接触できる機会を伺うため、今朝からずっとライの後ろを付け回していたのだ。


残念なのは、その付け回すという行為そのものが不自然だという事にフィア自身気がついていない事だろうか。

既に自然にライと接触出来る望みは薄いという事実に気付く事なく、フィアはライの後を再び追いかけるのだった。

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