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騒がしい別れ

やっぱフラグは立てるもんじゃないですね!。

オークの巣穴から無事脱出した翌日の朝、エアストの冒険者ギルドにライとフィア、そして二人がこの街で関わって来た人達が二人を見送りに来ていた。


「ごめん、本当なら残党の討伐にも参加したかったんだけど……」


そう言いながらライはチラリとすぐ脇に立つフィアの方を見る。


「実地訓練が終わったらすぐに出発、そういう約束でしょ?。このまま残党もーなんてズルズルやってたら、何時まで経っても出発できないからね」

「ははは……仰る通りで」


ジト目でライを見るフィアに、ライが苦笑いで返す。


「そんな事気にすんじゃねぇよ。本来オークの問題はエアストに住む俺達の問題なんだ。それを外から来たライが群れの頭を潰してくれたんだ。これ以上求めたら(バチ)が当たるって」

「ですね。それに本当ならもうとっくにエアストの街を出ている予定だったのでしょう?。もうこれ以上私達の事でライを足止めするのは申し訳ないですし」


アランとクリオがそう言うと、ライが面倒を見ていた四人がライの前にやって来る。


「師匠、本当に行っちまうのか……?」

「うん、俺達は冒険者であり旅人だからね。カイル達も立派になったし、もう俺が居なくても冒険者としてやっていけるよ」

「あの、でも師匠にまだ僕達が魔物と戦う所見て貰って無いし」

「オークとの戦いならフィアから事細かに聞いたよ。四人共、自分の役割を理解して良く動けたね。ただロープでオークの動きを封じようとしたのは悪手だったね。そんな物で動きを完全に止められる程オークは非力じゃないし、フランの元に行かせないようにするなら脚を狙うべきだ。察するに手負いのオークの気迫に気圧されて、近づくのを嫌ったって所かな?」

「うっ」

「バレてる……」


接近を嫌い、ロープを使う事で距離を取ろうとした事がバレ、カイルとマクリールがバツの悪そうな顔をする。


「そんな顔しなくても大丈夫、憶病である事は悪い事じゃないよ。無謀に突撃するよりかはよっぽど良いし、相手の隙を目の前にして行けるのか、行けないのかの判断をするのは熟練の冒険者でも難しい所なんだ。だから今の二人がそれを出来なくても落ち込む必要は無いよ」


ライのその言葉に、カイルとマクリールは静かに頷く。

すると今度はフランチェスカがライに話掛けてくる。


「師匠、ちょっと良い?」

「なに?」

「今回、私はオークとの闘いにおいて大した事は何もしてない。ただ何時ものように皆の後ろで魔法を唱えていただけ」

「魔法を唱えていただけって、オークの右腕を潰して、最後にはしっかりトドメを刺してパーティに貢献してたじゃないか」

「それだって他の三人が居たからこそよ。私は師匠に言われた通り仲間を信じた。三人を信じて私はただ魔法を唱える事にだけ専念していた。それなのに私は最初の一撃で決める事が出来なくて、三人に余計な危険を負わせてしまった」


最初に自分がしっかり決めていれば、カイルとマクリールがロープで足止めしようとする事も、そのロープを掴まれて振り回されるような事も、リザと衝突して三人地面に叩きつけられる事も無かったのにと、フランチェスカは悔やんでいた。


そんなフランチェスカに、フィアが一歩前に出て声を掛ける。


「貴女は貴女の役割をしっかりと真っ当したよ。だからそんな顔をしないでもっと胸を張れば良い」

「で、でも私は――」

「”ただ後ろに隠れて魔法を詠唱しただけで、他の三人と比べたら役に立ててない”――そう言いたいの?」

「……えぇ」


顔を俯け肯定するフランチェスカに、フィアはこれ見よがしにため息を吐く。


「やっぱり貴女は何処かの誰かさんにソックリね……。自分の悪い所だけ見ていて良い所には全く気付けていない」

「良い、所?」

「最初の一回を防がれてしまった貴女は二回目にはどうしたの?。一回目の失敗を踏まえて、今度は防がれないよう至近距離で魔法を放ったんでしょ?」


そうだ、フランチェスカはただ仲間の後ろに隠れて魔法を唱えていただけではない。

状況を判断し、今度こそ確実にトドメを刺せるよう自分で考えて動いたのだ。


「仲間の存在は勿論大きかった。でもオークを確実に仕留められたのは貴女の決断と行動があったからこそだよ」

「あ……」

「それと一回目の失敗を悔いてる暇があるのなら、今度は防がれないようにもっと強力な魔法を習得すれば良い。それも貴女の立派な役割だよ」

「……はいっ!」


フランチェスカが明るさを取り戻すと、今度はリザがライの前にやってくる。


「師匠、これうちで作った軽食です」

「ありがとうリザ、後でフィアと一緒に頂くよ」


軽食が入った包み紙を受け渡した後もリザは何か言いたそうな様子でライの前に佇んでいた。


「あの、師匠」

「どうしたの?そんなモジモジして」

「いえ、今まで師匠に何も返していなかったので凄く今更になってしまうのですが……その、短い間でしたが本当にありがとうございました!」


腰を九十度曲げ、全身でリザが感謝の意を表す。


「駆け出しの私達じゃ、師匠に返せるものなんて何もないですけど、せめて感謝の言葉だけでもと思って、それで」

「……リザ、顔を上げて」


その言葉で顔を上げたリザの肩に手を置きながらライが告げる。


「その言葉、有難く受け取るよ。でも一つだけ俺からリクエストしても良いかな?」

「わ、私達に返せるものなら!」


そう言って表情を引き締めるリザにライはカイル達だけでなく、カイト達四人にも視線を向けながら言う。


「じゃあお返しに”立派な冒険者になった皆”をリクエストするよ」


ライの言葉に駆け出し冒険者の八人は一瞬目を見開き、顔を見合わせた後


「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」


元気良く答えを返す。


「お前とクリオの弟子達だ。そんな事言うまでも無く立派になるさ。もしかしたら五年後にはライ、お前よりも強くなってたりしてな」

「となると、アランは三年後には抜かれてますね」

「おいクリオ、そりゃどういう意味だ」

「そのまんまの意味だろ」


クリオに食って掛かろうとしたアランの頭をディズが小突く。


「Bランクなんかで満足してたら、エアストを代表する冒険者って看板、後輩共に掻っ攫われるぜ?」

「……へっ、ちげぇねぇな」


アランはそう言って小さく笑った後、ライの顔を見つめる。


「ライ、お前と直接剣を交えたのは一回だけ、それも勝敗が有耶無耶なまま終わっちまった」

「うん、そうだったね」

「でもお前は俺達四人が敗北した大将に挑み、勝利しやがった。これに関しては俺の、いや俺達の負けだ。0勝1負1引き分け、だけどよ――」


ライを指差しながらアランが宣言する。


「次会った時はもっと強くなってお前に負けを認めさせてやる!覚悟しとけよ!」

「肝に銘じておく。でも、俺だって強くなるよ」

「はっ、望むところだ」


握手を交わした後、どちらからとも無く手を離し自然と距離を置く。

先程までライとフィアを囲んでいた人々は何時の間にか居なくなり、皆二人を見送るようにギルドの前に並んでいた。


そんな人々を前にライとフィアは一度顔を見合わせた後、正面に向き直る。


「色々とお世話になりました。長いようで短い間でしたが、本当に楽しかったです」

「世話になったのはこっちの方だ」

「楽しかったのも一緒ですよ」


ライの言葉にアランとクリオが返す。


「お兄さんのおかげで街が救われたわ。本当にありがとう」

「巣穴の中じゃ助かったぜ。今度会った時に改めて酒でも奢らせてくれ」

「私は一度手合わせを願いたいな。勿論ライが良ければだが」

「まったねー!。今度会ったら旅の話でも聞かせてよ」


続くは受付嬢のアリアーヌに、アランの仲間達。


「師匠!次会う時は今よりもっと強くなって、絶対師匠に勝って見せるからな!」

「僕も強くなって、皆を守れるように頑張るよ!」

「師匠に教えられた事は忘れません!ですから師匠も私達の事忘れないでくださいね!」

「忘れてたら私の魔法で火あぶりにしてやるんだからね!」

「助けてくれてありがとー!絶対カイルなんかに負けないくらい強くなって見せるから!」

「私もありがとう!もうオークなんかに負けないから!師匠も負けないで!」

「ご指導ありがとうございました!またエアストに来た時はお願いします!」

「かぃと、いりぃ…たすけ、ありがと……!」


そして最後に八人の駆け出し冒険者達。

全員が思い思いの言葉を掛ける中、ライが息を吸い大きな声で最後の挨拶を


「皆!本当に――」


――ガシッ


告げようとしたライの両肩を背後から何者かがガッチリと掴む。

その正体を知ろうとライが背後を振り向くよりも早く、その何者かが口を開く。


「嗚呼、ようやく――」

「――見つけたわぁ」


二人の男女の声、その声にライの身体ピタリと止まる。


「ようやく、ようやくですよ!武闘大会では見る事しか叶いませんでしたが!ついに!!嗚呼、貴方の背中を見つけた時から私はもう辛抱たまらず、鎧を脱ぎ捨ててしまい私の愚息も臨戦態勢に――」

「ちょっと、いきなり現れて何トンデモ発言しようとしてるんだアンタ!?」


ライの右肩を掴んでいるのは半裸の変態【性癖】もとい【聖壁】の二つ名を持つSランク冒険者のルーク。


「もう逃がさないわ!アリスから聞いたわよ!何でも魔法も無しで大将と戦い勝利したんですって!?魔法だけでなく肉体も人間離れしてるなんて、あぁ、もう凄いわぁぁぁぁぁ!!ねぇ!後学のためにちょっと採血しても良いかしら!良いわよね!?やるわ!!」

「せめて返答を待つくらいはしてくれよ!!」


もう一方、左肩を掴んでトリップしているのは【魔狂】もとい【魔境】の二つ名を持つSランク冒険者のイザベラだ。


「てかちょっと待って”アリスから聞いた”って」


首だけをイザベラの方に向けたライの視界、イザベラの背後に居心地が悪そうに佇むフードを目深に被ったアリスの姿があった。

アリスはライが自分を見ている事に気が付くと、ぷいっと顔を逸らし気まずそうに口を尖らせながら言う。


「……昨日の約束は守ったわ。でもそれ以外は口止めされてなかったし……それに私を問い詰める二人の目が怖かったし」


アリスはライとの約束を守り、始源の事だけは決して話はしなかった。

しかし始源の部分を抜いて話したとなると、大将が魔法を使えなかった事という部分も話せなくなるため、Aランクの魔物の攻撃を身体強化も使わず片腕で軽々といなし、魔法の鎧を斬り裂き勝利したという説明をするしか無く、結果ライは肉体的にもとんでもない化け物だという事になり、ルークの下腹部とイザベラの探求心を刺激する結果となったのだ。


「さぁ!早く私に生を実感させてください!!あぁ、でもその前にまず残った服を脱がなくては、やはり肌で直接感じた方がより死を、生を身近に感じる事が出来ますからね」

「採血の時間よ!って、あら?注射器をどこにしまったかしら」


ライの肩を掴んだままで服が脱ぎ辛そうなルークとガサゴソとローブの中に片腕を突っ込んで注射器を探すイザベラ。

両者の手はガッチリとライの肩を捕らえており、ただ逃げ出そうとしても決して離れる事は無いだろう。


(それなら――)


ライはその場で腰を落とし、両腕を地面に付く。

ライの肩を掴んでいた二人は突然身を低くしたライに引っ張られバランスを崩す。

バランスを崩し足元がふらついたところにライが身体を半回転させ、足払いで二人の体勢を完全に崩した。


「フィア!」

「はいはい」


体勢を崩しライの両肩から手が離れると、ライはフィアに声を掛けながら全力でその場から離れながら、見送りに来ていた人々に別れの挨拶を飛ばす。


「皆!本当にありがとう!また会う時を楽しみに――」


――ドカッ!


見送りに来ていた人々の方を見ながら走っていたライは正面に立っていた人間に気が付かず思いっきりぶつかってしまう。


「いてて……す、すみません!こっちの不注意で――」

「いや、謝るこたぁねぇ」


ライの前に立っていた人物はそう言いながら尻餅をついたライの背中に手を回し、ライの腕の何倍もある太い腕でライの身体をガッチリと抱きしめる。


「お前の方からこうして来てくれるとは思わなかったぜ」

「ア、アンタは!?」


ライは自分を抱きしめる大男の顔を見て目を見開く。


「武闘大会の決勝戦以来だな。会いたかったぜぇ、俺の花嫁」

「【豪腕】のアドレア!?」

「おっと、逃がさねぇぞ。ここまで追って来たんだ、そうつれない事はするなよ?」


ライがアドレアを認識したと同時に、ライを抱きしめる力が強くなる。


「「まぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇえ!!」」


ライがアドレアに捕まっている間にも背後からズボンが足に絡まり両手を使い地面を這ってくるルークと注射器を両手に構えながら空を飛ぶイザベラが迫って来ていた。


万事休す――何を思ったのか、ライはもがく事を止めアドレアの背中に手を回す。


「お?んだよ急に、なんかこう……照れるじゃねぇ――」

「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁあああああ!!」


抱きしめ返され、まるで乙女のように頬を赤らめ顔を背けるアドレア、その時ライを拘束する両腕が僅かに緩んだのをライは見逃さなかった。

アドレアの背中に回した両腕をガッチリと掴み、アドレアごと身体を海老反りにする――通称、投げっぱなしジャーマンである。


「「「うわぁ!?」」」


投げ飛ばされたアドレアの巨体はライのすぐ背後まで迫っていたルークとイザベラに直撃する。


「っ!それじゃあまた会う時を楽しみにしてるから!皆またねー!!」


アドレアを放り投げ、すぐさま体勢を立て直すとライは何事も無かったかのように別れの挨拶を告げフィアと共に街の正門まで駆けていく。


「ちょっとアドレア!早く退きなさいよ!!」

「お、イザベラじゃねぇか。久しぶりだなぁ、それにルークも……って、お前なんで半裸なんだ?」

「お久しぶりですアドレア、これはより生と死を実感する為に最も効率的な恰好なだけですのでどうぞお気になさらず」

「お、おう、そうか」

「……私は先に行くわよ」

「あ?あれってアリスか?なんであんな恰好してやがるんだ?」

「そんな事はどうだって良いから!さっさと退きなさい!!逃げられちゃうじゃ無いの!!」

「おっと、そうだな、再会を喜んでる場合じゃねぇか。行くぞお前ら!」


ライとフィアを追ってSランク冒険者達が駆け出していく。

その光景を唖然とした様子でアラン達は見ていた。


「なんだったんだ今のは……」

「まるで嵐のようでしたね……」


ライ達が消えた方向を見つめながらアランとクリオが呟くように言葉を漏らす。


「……ま、良いか。湿っぽい別れ方よりはこっちの方が俺達らしい」

「ですね」


アランとクリオが笑い合う。


「さぁ、俺達も行くか。オークの残党を殲滅して問題が解決したって事を外にアピールしていかねぇとな」

「次ライが来る頃までには何時ものような、いいえ今まで以上に活気に満ちた街にしていきませんとね」

「そういうこった、それじゃあてめぇら!行くぞぉ!!」

「「「「おぉーー!!」」」」


こうして、オークの問題で多くの冒険者が居なくなり活気を失いつつあったエアストの街は再び動き出し始めた。

街を救った流浪の冒険者、彼を再び迎え入れるに相応しい場所となる為に――。

という訳で五章完結です。

本当はGW中にいつもの人物紹介含めて書きたかったんですが、時間が足りなかったです。

連休って何ですかね(哲学)


案の定シリアスがチョクチョク入ってしまいましたが、まぁ当社比でシリアスはかなり少なめには出来ました。

次の章もシリアスは少なめ――というか当初の予定では物語中盤に少しシリアスが入るくらいで終盤まではお気楽な旅のつもりだったんですけどね。

書いてるとどうしてもシリアスに寄る自分の悪い癖です。

なので自分が最初から「シリアスに寄って書く!」ってなると想定よりもえげつないのが出来る事がままある。

現在非公開の別作品の話ですが、主人公がヒロインの抱えてる悩みを聞くシーンで、当初の予定よりヒロインの抱える闇が深すぎてもう主人公がヒロインを殺さなきゃいけない所までいってしまい慌てて修正した事があります。(ヒロインの抱えていた闇はそのままですが)


本作はシリアス薄めで書いてますし、終わり方も決まってるのでそっちの方が面白い!って途中でならない限りは大丈夫だと思います……多分。


ともかく、六章の方もどうぞよろしくお願い致します。

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