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辿って来た者

投稿少し遅れてすみません。

オークの巣穴の最奥、冒険者から奪った魔道具で照らされた大広間にライの姿があり、オーク達を待ち構えるように佇むライの傍らには下半身を失い事切れたオークの亡骸があった。


その下半身が失われたオークの亡骸をここまで引き摺って来たのか、アラン達が隠れている横穴へと繋がる道からは赤い線が伸びており、オークと繋がっていた。


「さて、これで誘いに乗ってくれると良いけど」


ライは何も無意味にこんな真似をした訳では無い。

アラン達の匂いを誤魔化すためにオークを解体したが、それはアランの匂いを誤魔化すのと同時にあの場所でオーク達に警戒心を与える結果を生む。

警戒すれば普段以上に周囲の変化に敏感になり、アラン達の潜む横穴の存在に気が付いてしまう恐れがある。

それを防ぐにはオーク達の意識を別の所に、つまりライ自身に向ける必要があった。


ライは解体したオークを引き摺って跡を残し、自分が奥に向かったという事をオーク達に知らせた。

途中逃げ出したアラン達を追いかけてきたオークを討伐し、身体の一部を斬り落としてわざと出血させては同様に引き摺り、自分への道筋を残し続けてきた。


地面を耳に付けなければ聞こえなかった足音も、今や洞窟内で反響しこの最奥にまでしっかりと響いてきている。


(近いな……)


その場でふぅっと息を吐くと、ライは静かに剣を構え直す。

血の跡が続く道の先を睨んでいたライだったが、不意に違和感を覚え正面に見据えた通路から視線を切り、右にある通路へと視線を向ける。


ライが視線を変えてから数秒後、その通路から数体のオークが姿を現す。

大広間に入って来たオーク達はライの姿を捉えた瞬間、予想外の事態に一瞬動きを止めたがライの傍に転がる仲間の死体を見て激昂し次々と武器を構えだす。


「やっぱり別の入口があったか」


予想通りだったと思う反面、予想が外れたともライは思っていた。

ライの予想では血の跡を辿ってあの通路からいの一番にオーク達が駆け出して来るものだと予想していた。

しかし実際に先に現れたのは別の通路からだった。


(可笑しい、あの音の感じから察するにオーク達は洞窟の中には既に入っていたはず。俺がここまでオークを引き摺りながら歩いて来た事も考えればとっくに横穴の地点は通過してここに駆けつけていても何ら可笑しくはないはずだ)


なのに先にやって来たのは明らかにライとの遭遇を予想しておらず、別の道からんびりと歩いて来たオーク達だった。


(何かあったのか?)


殺気立つオーク達に意識を向けつつも、チラリと横目に血の跡が続く通路を見やる。


(オーク達にとって血の跡を追うよりも重大な何かが……まさか)


ライの脳裏に嫌な想像が駆け巡る。


ここは様子を見に戻るべきか、それともアラン達が無事である事を信じて囮を続けるか、あるいは――


「グォォォォオ!!」


そんなライの思考を断ち切るようにライの頭部めがけ斧を振り下ろされ、ライは剣でそれをいなす。

戦うか引くか迷っていたライだったが、それを皮切りにオーク達が一斉に動き始めライも応戦せざる負えなくなってしまった。


(クソ……無事でいてくれよ)


ライは心の中でそう呟くと思考を戦闘用に切り替え、自身の周囲に居るオーク達にのみ意識を向けるのだった。









一方その頃アラン達はライの嫌な予感が思い過ごしだったのか、オーク達に見つかる事もなく入口を完全に閉じ真っ暗になった穴の中で六人はじっと息をひそめ続けていた。


ライと別れここに隠れてからもう十分は経過した頃だろうか、カイトが口を開く。


「あ、あのさ」

「シッ、声を出すな。オークに見つかっちまうぞ」


アランにそう言われ一瞬黙り込んだカイトだったが、すぐにまた口を開き反論する。


「でもさっきから音も何も聞こえないじゃないか」


カイトのその言葉に今度はアランが黙り込んだ。

音が何も聞こえないという違和感にはカイトだけじゃない、この場に居る全員が気がついてはいた。

あの巨体、それも大群が横穴の前を通過したとなれば音だけでなく振動だって感じても可笑しくはない、むしろ何も感じない方が異常だ。


(可笑しい、ライと別れてからもう十分以上経ってるはずだ。それなのにオーク達が未だに横穴の前を通った様子が無いのは何故だ?)


別の道があったのか?それとも途中で足を止めて居るのか、或いは引き返して別の入口の方へと向かったのか?。

そうだとしてそうする理由は一体なんだ?。

ライからこの先の道について話を聞いていたアランはこの先が途中一ヶ所だけ十字路があるだけで殆ど分かれ道の無い直線である事を知っていた。

その十字路の右と左の道が何処に繋がっているかはライも知らなかったが、例えそれらの道も最奥に繋がっていても少なくとも一直線に最奥にまで伸びているこの通路よりも遠回りになる事は間違いない。


仮に左右の道を選択したのだとして何の意味も無くそんな遠回りは選ぶとは思えない。

直線の道を避けた理由が何かあるはずだ。


(途中で洞窟が崩れて道が通れなくなったとかじゃねぇだろうな)


だとしたらこんな所に隠れている場合ではない。

遠回りしているオーク達よりも先にライと合流し、急いで別の道を探す必要がある。

だが道が崩れているというのもただの推測でしか無く、ここでライの元に行くリスクはアランもちゃんと理解していた。


行動を起こすには情報が少なすぎる、そう判断したアランは小さな声でディズに話かける。


「なぁディズ、魔法でオーク達の現在地を探知出来るか?」

「そりゃ出来るが、お前正気か?」


アランの質問にディズが信じられないと言った様子で返す。


「魔物は人間以上に魔力に敏感だ。不自然な魔力の流れには鋭いし、オーク程度の知性がある連中ならそれが索敵魔法だって気が付いて、魔力の流れてきた方角からこちらの大よその位置を把握出来ちまう。今ここで俺達の位置が把握されたらライの行動が無為になるぞ」

「それくらい分かってるさ。だから索敵を一方向に限定する。巣穴の奥の方には向けず、入口の方向にだ」


自分達の位置を起点とし円で探知を行った場合、例えば入口のオークと最奥のオーク達に探知の魔法を気取られてしまった時はその両者の中間地点の何処かに居る事がバレてしまう。

だが索敵の方向を一方向のみとした場合、最奥のオーク達には気付かれる事は無い為、オーク達は中間地点を割り出す事が出来ず大まかな方向しか分からない。


「索敵に引っ掛かった奴は間違いなくこっちに向かって来るぞ?。それにもし近くに居たら間違いなくここがバレる」

「承知の上だ。俺の予想じゃそんな近くにオーク達は居ない。そんな傍まで接近してるなら物音一つ聞こえてきたって可笑しくはねぇ。それが無いって事は遠くに居るってこったろ」


笑みを浮かべながら自身満々といった感じのアランと、諦めたようにため息を吐くディズ。

暗闇でお互いの顔は良く見えなかったが、長年付き合いの二人は互いの様子が手に取るように分かっていた。


「分かったよ、索敵は任せろ。でももしもの時はお前を囮にして逃げるからな?」

「おう、そっち任せたしその時は任された」


こんな時だというのにまるでここが酒の席であるかのように二人は軽口を交わす。

ほんの少しだけ和やかな雰囲気が横穴の中に流れたがそれもすぐに霧散し、ディズは真剣な様子で魔力を練り始める。

オーク達に気取られないようゆっくりと魔力を集め、練り上げ、角度を慎重に合わせ入口の方に向けて魔法を飛ばす。


「……何匹か引っ掛かった。でもこれはもう洞窟の外だ」

「じゃあここから出入り口までオークは一匹も居ないって事?」

「だろうな、しかし途中の十字路の左右の道の方に潜んでる可能性もある。ディズ、そっちも頼めるか?」

「了解」


ディズは先程と同様に魔力を練り上げ、方向を絞って途中にある左右の道の方も索敵したが結果は変わらなかった。

その結果を受けアラン達は横穴を出て出入り口を目指す事にした。


ディズが横穴を塞いでいた魔法の壁を消し去り、恐る恐る横穴の外へと顔を出す。


「よし、誰も居ない。出てきて良いぞ」


それを合図に全員が横穴から出て周囲を確認する。

地面に転がるオークの遺体はそのままであり踏み荒らされた形跡も無い。


「よし、それじゃあ出口に向かうぞ。ただし慎重にな」


こちらに向かっていたはずのオーク達の所在が分からない以上、慎重に動くに越したことはない。

駆け出しの二人を間にアランとキシュナが先頭に立ち、残った二人が後ろにつく。


そのまま六人が巣穴の出入り口を目指し進んでいると無いかに気が付いたアランがピタリと足を止め、横を歩いていたキシュナがアランを見る。


「どうしたアラン」

「いや、この壁妙な跡があってな」


そう言ってアランは自分のすぐ脇の壁に手を這わせる。

それは壁に水平に刻まれた細長い線であり、表面の手触りから削り出されてまだ間もない事が分かった。

壁に手を這わせたまま線を辿るようにアランが歩を進めると途中から壁が狭くなり人が一人通れるくらいにまで狭くなる。

その突如狭くなった壁にアランは違和感を覚えた。


「こいつは……」


壁から手を離しアランがそれを見るために顔を近づける。

そんなアランの背後から他の五人が近づき、アランに声を掛ける。


「アラン、何かあったのか?」

「……あぁ、オーク共の死体だ」


最初、暗くアランが壁だと誤認したそれは道の邪魔にならないよう壁際に積み上げられたオーク達の死体だった。

オーク達の身体には無数の穴が開いており、その穴の大きさは先程アランが触れていた壁に刻まれた線と同じくらいの物だった。


(何者かがオークの群れを殲滅したって事か?)


この壁に刻まれた跡は恐らくその何者かの攻撃の痕跡だ。

オーク達の傷跡が背中から前面に向かっている所を見ると最奥に向かうオーク達の背後から何者かが攻撃、しかもどのオークを確認しても前面から背面に抜けたような傷跡が無い事からオーク達が背後を振り向いて反撃する猶予すら与えられなかった事が伺える。


そのような実力者がエアストの街に居たとは聞いて居ない。

となれば実力を隠していた者が街に潜んでいたか、街では無くこの森に隠れていたのか。


(オーク達が動き出したこのタイミングで?一体何が)


予想外の事態に思考をフル回転させるアランだったが答えが見つかる事は無く、オーク達が全滅している事を確認したアラン達はその事は一旦棚に上げ、無事巣穴からの脱出に成功したのだった。








場面は戻って巣穴の最奥、大広間で大量のオークを相手にライは全力で立ち向かっていた。

戦い方を全盛期の頃に切り替え、決して足を止める事無くオーク達の中を全力で駆け抜ける。

地を蹴り、壁を蹴り、時にはオークでさえも利用して上下左右、オーク達に的を絞らせないよう縦横無尽に動き回っていた。

広い所を避け、敢えてオークが密集している地帯に突っ込む事でオーク達が巻き込みを恐れて安易に武器が振るえないようにし、通り抜け様に何体かのオークの首を斬り落とす。


そんな事を繰り返す内に大広間のあちこちには頭部を失ったオークが何体も転がり、他のオーク達の動きを阻害する。

だが動きが阻害されるのはライも同様であり、迂闊に飛び込んでオークの死体に足でも取られればお終いだ。

戦闘が長引けば長引く程、激しく動き回るライにとって状況はどんどん不利になっていく。


引き際を見誤れば死ぬ。

それを理解しているライは何時、どのルートで撤退するかを頭の中でシミュレートしていた。


撤退の途中で大将とかち合うのだけは避けなければならない。

それにその他のオークを引きつけられたとしても、大将がアラン達の方に向かったのでは囮の意味が無い。

だとすれば大将がこの場に姿を現した時、その時こそが撤退の合図、ライはそう判断しその時が来るまで生き残る事を最優先に戦いを続けた。


それから地面に転がるオークの死体がどれだけ増えただろうか。

二十?三十?地面の死体が数を増しそれに足を取られる事を避けるためにライが細かく刻むように左右に移動するようになった頃


――――。


突如、何かがすり抜けるような、通り抜けたような奇妙な音が大広間にこだまし、大広間に繋がる道の一つ、その入り口付近に立っていたオーク達が全員崩れ落ちる。

そこはライが血の跡をつけておいた道であり、その奥から何者かが大広間に向かって来るのをライは見ていた。


大広間から差す光によって僅かに照らされた通路、その光さえ届かない真っ暗な通路の奥から一人の人間が姿を現した。


「跡を追ってきてみたら案の定、こんな所に居たのね」

「君は――」


その人間はライの目の前で姿を隠す為に身に付けていたと思われる外套を脱ぎ捨てその姿を晒す。

長い金髪を後頭部で一本に縛り、白銀の鎧に身を包み、右手に細剣を握った十代後半の少女。


「天竜を倒した男が巻き藁(オーク)如きに何をやっているの。もしかして剣の特訓?それなら私も混ぜてくれないかしら」


オークの事を巻き藁と呼び睥睨する少女、アリス=ブレイズがそこに立っていた。

そういやアラン達の中で一人だけ名前が出てないのが居た……。

おかげで微妙に会話に混ぜ辛い。


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