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兵と指揮官

予期せぬオークとの遭遇、しかし幸いな事にリザが生き物の気配に気づいたおかげで先に察知する事が出来た。


「オークだ」


オーク達に気取られぬよう、ライが小さな声で全員に告げる。

ライの言葉にカイル達が静かに息を呑む。


「あれが……オーク」

「なんでこんな所に」

「もしかして私達気付かない間に深い所まで入ってたんでしょうか?」

「いや、ここはまだ森の入口に近い、赤枠で囲まれた危険地帯まで二区画くらい離れてる場所だよ」

「じゃあどうしてオークが居るの?」


疑問を呈するカイル達だったが、ライはそれに答える事無く黙ったままオーク達を睨みつけていた。


(連絡も無しに帰ってこないアラン達にこのオーク達、それに分隊にしては数が少なすぎる……どうも予想以上にまずい状態になっているのかもしれないな)


ライはちらりと自分の背後に居るカイル達を見る。


(ここは気付かれる前に戻るべきか?。でも)


少し前のライであれば迷うことなく街への帰還を選んでいただろう。

だが嘗ての自分を取り戻したライの中にはあるもう一つの選択が浮かんでいた。


「カイル、マック、リザ、フラン」


ライが駆け出し四人の名前を一人ずつ呼んだ後、非常に落ち着いた声色で問いかける。


「オークと戦う自信はあるかい?」

「っ!」


その問いに全員が目を見開く。


「この状況から察するに今この森では何らかの異常が起きてるに違いない。真っ当な冒険者ならまずここで逃げる事を選択すべきだ。でも」

「……でも?」

「俺もエアストに長くは居られない。日を改めてなんて勿論無理だし、今日を逃せば俺はカイル達に実地で教える事が出来なくなる。そうなる前に見ておきたいんだ」

「見ておきたいって、何をですか?」

「皆の仕上がりをさ、俺が今まで教えて来た事を総動員すればオーク一体くらい倒せるはずだ」


周囲をいくら探索してもここまで殆ど魔物の痕跡を見つける事が出来なかった。

本当はもう少しランクの低い魔物を相手に四人の仕上がりを確認するつもりだったが、オークが出てきた以上もう周囲にオークより弱い魔物は食料にされ生き残ってはいないと考えて良いだろう。

それに下手に四足歩行の獣型の魔物を相手にするよりもライ相手の対人戦を繰り返してきたカイル達にとって二足歩行の人型のオークの方が戦いやすいというのもライがオークとカイル達を戦わせてみようと考えた要因の一つだ。


「分かった、やってみるぜ」

「ちょっとカイル、勝手に話を進めないでよ――と言いたいけど」

「私達もこんな中途半端なまま街に帰りたくは無いですしね」

「帰るのは師匠に認められてからじゃなきゃ」

「分かった、それじゃあ戦闘に突入する前に」


そう言いながらライは視界の奥で横切ろうとするオーク二体に視線を向ける。


「カイル達が戦う前に一体を引き離すか倒すかしないとな。皆はどっちのオークとやる?」

「相手は斧と槍か?。長物相手は避けたいな、間合いが測り辛い」

「僕は……槍の方が良いかな、表面が湾曲してる僕の盾なら突きは流しやすいし。でもカイルの言う通り間合いが測り辛いのは嫌だな」

「後衛の私はどちらだろうと問題無いわ。前衛二人が止められると思った方で良い」

「……師匠、隊長クラスのオークって兵士と比べてどれくらい強いんでしょうか?」


三人がそれぞれの意見を出す中、リザだけがライに質問をする。


「そうだね、個体差があるから正確な所は分からないけど兵士よりも1.5か1.6倍は強いと考えておいた方が良い。その上の将校なら魔法がある分、隊長よりも数倍も強い」

「それではやはり狙うなら階級の低い方ですね。問題はどっちの階級が低いかですが」


リザの言葉に他の三人はハッとした表情になる。


「そっか、オークは同階級じゃまず一緒に行動しないから片方は階級が上の可能性があるんだな」

「それにどちらも成体だから新兵じゃないね」

「最低でも兵士と隊長のペアと考えるのが妥当ね」


少し遅れて状況を理解した三人にライは小さく頷きながら言う。


「そう、相手の武器を見て判断したカイルやマックも間違いではないけど、階級について見落としていた。フランは後衛だからって考えを放棄するのは駄目だ、最低でも仲間の意見が正しい事なのか、問題が無いのかは考えるべきだ」

「ライ、指摘は良いけどモタモタしてるとオーク達が行っちゃうよ」


三人の間違いを指摘していたライにフィアがそう告げる。

フィアの言う通り、先程まで横顔を捉えていたオーク達はどんどん離れて行き、今では背後しか見えなくなっていた。


「そうだね、オーク達が居なくなる前にどちらと戦うか決めなきゃ」

「それなら前を歩いてるオークだ、先頭に立って引き連れてるのが隊長だろ」

「凄い単純な発想……でもあのオーク達横並びで歩いてるよ?」

「持ってる武器以外はどちらも継ぎ接ぎだらけの装備ですし、見た目じゃ判断は難しいですね」

「実は仲良しこよしが出来る同階級のオーク達だったり?」

「その可能性も否定は出来ないけど……そうだね」


ライは四人から視線を切り、自分達に背を向けて立ち去ろうとするオーク達を睨め付け、手に持った石を遠くに投擲する。


ライが放った石は放物線を描き、オーク達の右斜め後ろの茂みに落ち大きな音を立て、オーク達が音のした方に振り返る。


「ちょ、師匠いきなり何を」

「静かに、まぁ見てて」


驚いて大声を出しそうになったカイルを制止ながら、ライはオークの方を見ろと指を差す。


音のした茂みの方を警戒するオーク達だったが、一瞬互いに顔をみあわせた後、斧を持った方のオークが一歩前に出て槍を持ったオークがその背後に付く。


「斧を持った奴が前に出た……!アイツが隊長か」

「いや、そう判断するのはまだ早いよ。リザはどう判断する?」

「私は……槍を持った方が隊長だと思います」

「どうしてそう判断したか、説明出来る?」


ライの言葉にリザは静かに頷く。


「戦場において優先されるのは兵よりも指揮官、危険と予想される場合はまず兵が確認に向かうはずです。それに何が潜んでるか分からない茂みに近寄るなら斧よりも間合いの長い槍の方が安全です。その安全を捨ててまで斧を持ったオークが茂みに向かうという事は」

「槍を持った方が隊長に違いない、そう判断した訳だね」

「はい」

「そこまで判断出来れば十分だ。あの槍を持ったオークが隊長かどうかは兎も角、少なくとも斧を持った方が階級が低いのは間違いない」

「凄いじゃねぇかリザ!」


カイルが興奮したようにリザの背を叩く。

その瞬間、カイルの出した大声に反応したオーク達がライ達の方を見る。


「まずい……!フィア!オークを一体引き剥がしてくれ!!」

「了解、斧の方だね」


そう言うとフィアは茂みから飛び出し、オーク達の方へと向かっていく。

深緑のドレスアーマーを身に纏ったフィアは高速で動き回りながら木々や茂みを巧みに利用しオーク達の視線を切る。

一度視線が切れてしまえば自然の緑と同化したフィアを見つけるのは難しい。


フィアを見失ったオーク達が周囲をせわしなく警戒していた時


ガシッ!


「捕まえた」


斧を持ったオークの後頭部をガントレットに包まれたフィアの右手が鷲掴みにする。

フィアは斧を持ったオークの顔面を地面に叩きつけ、後頭部を鷲掴みにし地面に擦りつけたままライ達の方に向かって一直線に走って来る。


「うわ!!オークを引き摺ってる!?」

「驚いてる場合じゃないよ。槍は俺が相手をするから、フィアが連れてくる方の相手は頼んだよ」


ライはそれだけ言うと茂みから飛び出し、オークの方へと駆け出していく。


「カイル達は任せたよ」


フィアとすれ違う寸前、ライは小さな声でフィアにそう告げるとフィアを追いかけてやってきた槍を持ったオークの前に立ち塞がる。


「貴方達、ついて来て!」

「え?おい待ってくれ!」

「何処まで行く気なの!?」

「恐らくここより開けた戦いやすい場所まででは無いでしょうか!」

「だからそれって何処なのよ!!」


ライの背後ではフィアがオークを引き摺ったまま木々を薙ぎ倒し、カイル達がそれを必死に追いかけて行った。

カイル達の気配が遠くなったのを確認した後、ライは自分の前に立つ存在へと意識を完全に集中させる。


「さて、悪いけどちょっと俺に付き合って貰おうか」

「ゥゥゥ……!」


低い唸り声を上げるオークはライを忌々しそうに睨みつけていた。


「オーク一体、わざわざ分断なんて方法を選んだんだ。この機会存分に活かさせて貰うよ」


ライは薄く笑みを浮かべると、エクレールを構えオークに告げる。


「新技のお披露目だ」

数話前にうっかり抜かしそうになった新技フラグの回収です。

いやー、アレ忘れたままにしてたらライが何の脈絡も無く「新技のお披露目だ(ドヤァ」とかなってる所でした。

まぁ実際にお披露目するのは一話間に挟んだ後なんですが。

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