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パーティ戦闘

アリアーヌから駆け出し冒険者の指導を依頼された翌日、ライとフィアはギルドに併設された訓練場に居た。


「流石に冒険者の育成に力を入れているだけあってしっかり造ってあるね。雑草なんかも一切生えて無いし整備も行き届いてる。ガダルの訓練場もこうだと良かったのに」


長らく拠点にしていたガダルの冒険者ギルドの事を思い出しながらライがそんな事を言う。


「ライってあの街に居た頃から暇があると訓練とかしてたよね。ギルドの訓練場でもそうだし、依頼中に森の中でもやってたよね。十年間欠かす事無く」

「少しでもサボるとすぐに腕が鈍っちゃうし、森の中でやってたのは訓練場の踏み均された地面じゃ無く、森なんかのぬかるんでたりデコボコとした不安定な足場で訓練する方がより良い訓練になるからだよ」

「へーそういう理由だったんだ。じゃあたまに山の方に遠征して依頼を受けてたのもそういう理由?」

「あーうん、森とは違って山のゴツゴツとした岩場なんかも良い訓練になるんだ。それにしてもそんな事まで把握してるなんて、昔から見守ってたとは聞いてたけど良く見てたんだね」

「私は世界そのものだからね。どこにだって目はあるし人間一人常に観察するくらい訳ないよ」

「常に…?」


フィアの言った言葉に引っ掛かる所があったのか、ライがフィアに問いかける。


「その常にってどれくらい?」

「…?常にって言ってるんだからずっとだよ」

「四六時中?」

「うん」

「二十四時間?」

「うん」

「もしかして風呂やトイレも?」

「そうだよ」

「………おぉう」


フィアの回答にライが頭を抱える。


「ちょっと待って、それってあれやこれとかそんなのも全部見られてたって事でつまり…」


混乱する頭でライが一つの答えに辿り着いた時、フィアがトドメの一言を放つ。


「ライが初めてを済ませた娘も丁度私くらいだったよね。その娘を参考にこの身体を作ったんだよ?顔は違うけどスタイルはソックリでしょ」

「うあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁああ!?」


自身の性事情までしっかり把握されていた事にライの羞恥心が爆発する。


「フィア!今すぐそれ忘れて!!」

「忘れてって言われても私は人間とは違って何かを忘却する事なんて出来ないし…あ、でもライの初体験を無かった事になら出来るけど、それで良いなら――」

「やっぱ忘れなくて良いからそれだけは勘弁してください!!」


この歳で今更未経験にされては堪らないとライが速攻で前言を撤回する。

二人が訓練場の真ん中でそんなやり取りをしていると、入口の方から五人の人間が訓練場に入ってくる。


一人はアリアーヌで残りの四人は歳は十代半ば、もしくは前半くらいの少年少女達だった。


「おーい、お兄さーんって、頭下げたりなんかして何してるの?」

「あ…いえ、ちょっと色々とありまして気にしないでください」


頭を上げてライがアリアーヌの方へと向き直り、その背後に立つ四人に視線を向ける。


「その子達が?」

「えぇ、お兄さんに指導して貰いたい駆け出しの子達よ。紹介するわね」


そう言ってアリアーヌが一人づつライ達に紹介する。


「この子はマクリール、見ての通り盾役で皆からマックって呼ばれてるわ」

「マクリールです、よろしくお願いします!」


幼さの残る顔立ちと巨大な盾と重鎧という出で立ちの少年が一歩前に出てライに頭を下げる。


「次はカイル、マックと同じく前衛だけどこっちは攻撃が主体ね。喧嘩っ早くて良くトラブルを起こすから気を付けてね」

「う、うるせーな!余計なこと言うんじゃねぇよ!」


アリアーヌの紹介に噛み付いたのは未成熟な体とは不釣り合いな大きさのバルディッシュを背負った少年だった。


「男子の番は終わったんだから静かにしてなさい。次はリゼよ、弓での支援がメインだけどいざという時のために短剣での近接戦闘も学びたいそうよ」

「あの、リゼ…です!よろしくお願い致します!」


緊張した面持ちの少女が慌てながら頭を下げる。


「最後にフランチェスカ、攻撃特化の魔法使いでマック同様フランって愛称で呼ばれてるわ」

「よろしくお願いします」


最後に紹介された少女は非常に落ち着いた雰囲気で初対面の人間を前にしても堂々としていた。


「皆の指導をする事になったCランク冒険者のライだ、よろしく」

「その付き添いのフィア、同じくよろしく」

「さてとお互いの自己紹介も済んだ所だし、早速――」

「あの…アリアーヌさん、ちょっと良いですか?」

「ん?どうかした?」


ライの呼びかけでアリアーヌがライの方を見る。


「この子達ってもしかしてパーティですか?」

「そうだけど、何か問題がある?」


そう聞き返したアリアーヌの言葉にライが表情を曇らせる。


「実は自分、今までずっと一人でやっていたので複数人での戦闘についてはちょっと…」

「あれ?そうなの?」


魔法が使えないライと組もうという奇特な人間は今まで居らず、ライはずっと一人で戦って居た。

そのためライはパーティでの戦闘のセオリーなど全くと言って良い程知らなかったのだ。


「パーティでの戦闘では無く、冒険者としての一般知識や戦い方を見て指摘するくらいなら出来ると思いますけど」

「うーん…まぁそれでもいっか。折角やるって言ってくれてるのにやっぱ無しっていうのも何だし、それじゃあお兄さんそういう事でよろしく――」

「ちょっと待てよ!」

「次は何?」


またも呼び止められたアリアーヌが声の主の方へと向き直る。

その声の主はバルディッシュを背負った少年、カイルであった。


「俺達はまだソイツから教えて貰う事を承諾した覚えはねぇぞ!」

「カイル、目上の人にその口の利き方はまずいよ…!」

「カイルがそんなだから折角教えてくれようとしてた人達も離れて行っちゃったんだよ?」

「もう少し頭で考えてから物を言いなさい」

「何だよお前ら!じゃあお前らはパーティも組んだ事が無い奴から一体何を教わろうってんだ!?。俺達はパーティなんだぞ!」

「それは…」


カイルの言葉に他の三人が黙り込んでしまう。

そんな四人にライが声を掛ける。


「その子の言う通り俺はパーティの戦闘に関して君達に教えられることは無いかも知れない。でもパーティは駄目でも君達個人の戦い方についてなら教えられる事があると思うよ」

「どういう意味ですか?」


ライの顔を見つめながら不安げな様子でマクリールが質問する。

他の三人も似たような顔でライの事を見つめる中、ライはニッコリと笑みを浮かべながら答えた。


「論より証拠、まずはやってみようか」








それから数分後、訓練場の右端にライの姿があった。

ライが向き合う先には四人の駆け出し冒険者がそれぞれ距離を置きながら立っていた。

ライからもっとも近い訓練場の中央にマクリールとカイル、そこから少し離れた位置にリザ、さらにその後ろにフランチェスカという並びだ。


「ルールをもう一度説明するよ。俺は今から君達を躱しながら一番後ろのフランチェスカの元まで駆け抜ける。俺がフランチェスカの元に辿り着く前に俺に一撃でも攻撃を入れられたら君達の勝ちだ」

「一撃なら何でも良いんですか?」

「大丈夫だよ。拳でも斧でも魔法でも、何なら盾だって良い。兎に角俺に一撃入れば良い。君達が俺に教わる必要が無い程強いのなら一撃くらい入れられるはずだ」

「へ!そんなの楽勝だぜ、後で吠え面かくんじゃねぇぞ」

「カイル!」


目上の人間に対して失礼な態度を取るカイルにマクリールが忠告するも、カイルは何処吹く風とばかりにその言葉を聞き流す。

そんな二人の様子を見ながらライは苦笑いを浮かべるもすぐに表情を引き締めて開始の合図を出す。


「さてと…それじゃあ――行くよ」


ライが駆け出すと同時にカイルが身体強化を使いライめがけ一気に飛び出して来る。


「貰ったぁぁぁ!!」


カイルはバルディッシュを振り上げると真っ直ぐ向かってくるライめがけて振り下ろす。

しかしそんな見え透いた大振りの攻撃がライに当たるはずも無く、軽々と躱されてしまう。


「なっ!?クソ、待ちやがれ!!」


思いっきり振り下ろされたバルディッシュは訓練場の地面を抉り、深々と突き刺さって抜けなくなっておりカイルはライを追う事が出来ずその背中に向かって罵声を飛ばす。


カイルの罵声を無視しし、ライはマクリールに接近すると、腰から剣を引き抜き上段に剣を構える。


「っ!!」


それを見たマクリールが来るであろうその一撃に耐えようと盾の裏に身を隠す。

だがライの剣がマクリールの盾に触れる事は無く、ライは身を固めて動かないマクリールの横をすんなりと通り抜けようとしていた。


「あ!?」


マクリールが寸での所でその事に気が付くも時すでに遅し、ライを止める者は居ない――そう思われた時、ライの進行方向から突如矢が飛来する。


正面から飛来した矢にライは足を止め身体を横にズラす事でその一撃を躱す。


「やぁぁ!!」


ライが足を止めたのを見てマクリールが盾を構え突撃を敢行するもライに足を払われ転倒してしまう。

マクリールを転倒させ、ライは矢を放ったであろうリゼの方を見る。


(俺が横に回って通り抜けようとしたタイミングを狙ってたな。良い判断だ…でも!)


ライがリゼに接近する間にリザは次の矢を番えており、真っ直ぐ自身に向かって駆けてくるライめがけ狙いを定める。


ライに狙いを定め矢を放とうとしたその時、ライの身体が僅かに横にズレた。


「っ!?」


横にズレたライの背後、そこにはバルデッシュを引っこ抜きライを追うカイルと起き上がったマクリールの姿があった。


(このまま矢を放ってもし躱されでもしたら)


間違いなく矢はカイルかマクリールのどちらかを射抜く事になる。

そんな考えが頭を過り弓を放つ事が出来ずに居ると、その一瞬の隙を突きライが短剣を投擲にリザの弓の弦を切断する。


「こうなったら…!」


リザは使えなくなった弓を投げ捨て腰から短剣を引き抜きライを迎え撃とうと構える。

だがライは剣先で地面を掬うように斬り、訓練場の土をリザの顔面めがけて叩きつけた。


「わっぷ!?」


目や口に土が入り動けなくなったリザの横を通り抜け、ライは魔法を唱えているフランチェスカの元まで一気に駆け抜ける。


「っ、もう来たの!?」


ライの接近が予想以上に早かったのか、フランチェスカはまだ魔法の構築を終えておらず、構築は間に合わないと判断したのか杖を構えライに向かって振り下ろす。

しかし近接戦闘を前提としていない純粋な魔法使いの少女の放つ一撃がライに命中する訳も無く杖は虚しく空を切り、ライの左手がフランチェスカの頭をポンと叩く。


「はい、俺の勝ち」

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