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エアストの名物

ライ達がエアストに到着した翌朝、宿屋を出た二人は真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かっていた。


「さーてと、どんな依頼があるかな」

「依頼?買い物をしに行くんじゃないの?」

「勿論買い物もするけど、実はエアストに来たら一度は受けてみたいなって思ってた依頼があるんだよ」

「受けておきたい依頼?」


ライの言葉にフィアは不思議そうな顔をする。


「まぁそれは実際に見てからのお楽しみって事で」


ライは笑みを浮かべながらそう言い、フィアはそんなライの横に付き大人しく着いていく。

そんな二人の視界に見慣れた建物が見えてくる。


「あれだね」

「なんだかギルドを見るとガダルに帰ってきたような気分になるな」

「基本的に街にあるギルドなんてどれも同じだものね」


基本的にというのは大きな街以外にもギルドが存在する場合があるのだが、そう言った場合は街にあるようなギルド専用の建物では無く何かの店舗か、もしくは空き家を改装して作られた物ばかりであり、ライ達が良く知るギルドらしいギルドと言えば街にしか存在しない。


そんな話をしながら二人がギルドの中に足を踏み入れると、二人の良く知るギルドと変わらない内装が”一部を除いて”広がっていた。


「あれ?」


それにフィアが真っ先に気が付く。


「掲示板が二つある…ライあれって」

「あれがエアストの名物だよ」


普段とは違う位置に設置されている掲示板にライとフィアが歩み寄る。


「これは駆け出しの冒険者の為の依頼掲示板なんだ」

「駆け出しの冒険者の為の依頼をライが受けられるの?」


フィアの疑問にライが苦笑いを浮かべながら答える。


「違うよフィア、これは駆け出しの冒険が依頼を受ける為の掲示板じゃない。駆け出しの冒険者が依頼を出す為の掲示板なんだ」

「冒険者が依頼を出す?」

「例えばほら、これとか」


そう言ってライが掲示板に張りつけられた一つの依頼書を指差し、その内容をフィアが読み上げる。


「”魔物討伐の随伴、及び護衛の依頼”って、これってもしかして」

「そう、この掲示板は駆け出しの冒険者が先輩冒険者に対して依頼を出し、先輩冒険者から学ぶための物なんだ」

「なるほど、それにしても結構良い報酬が貰えるんだね。一日の護衛で2000ギルダね…駆け出しの冒険者が払えるの?」


一般人の平均月収がおよそ2万弱、つまり依頼の報酬はその一割程であり駆け出しで冒険者としての稼ぎも殆どない者が払うにはかなり厳しいものがあった。


「そこはギルドがある程度負担してくれるんだ。依頼内容にもよるけどこの依頼の場合だと依頼主が払うのは二割程度はずだよ」

「詳しいんだね」

「昔ガダルにやってきた冒険者に聞いた話さ、討伐依頼の随伴なんかの危険が伴う依頼なんかはギルドが多くの報酬を上乗せするんだ。もし依頼の最中駆け出し冒険者が大怪我、あるいは死亡してしまった場合、依頼を受けていた冒険者がその責任を負うことになる。大体はギルドから除名されるとか酷いと投獄されたりなんかもする」

「なるほど、そんなリスクがあるんじゃ誰もやりたがらないから報酬を増やして冒険者のやる気を上げようとしてるって訳ね」

「そういう事、まぁ勿論駆け出し冒険者の命を預ける訳だからギルドもいい加減な輩に依頼は受けさせないし、最低でもCランクじゃ無いとこの依頼は受けられないんだ」


そう説明しながらライは掲示板の真ん中辺りに視線を向ける。


ギルドの掲示板に張られた依頼書と言うのは上に張られている物ほど高ランクになり、逆に下に行くほど低ランクの依頼がという風に依頼書が張り付けられている。

Cランクの依頼は大体掲示板の中央付近に張られているのだが、その掲示板は上下が完全に分かれておりCランクの依頼書がまるで目につかなかった。


「Cランクの依頼が一つも無いや」

「Cランクは一番冒険者の人数が多いんだし他の人に取られちゃったんじゃない?」

「そうなのかな?それにしてもAランクやBランクの依頼、DランクやEランクは沢山あるのになんでCランクだけ…」

「それはCランク冒険者に頼めるような依頼が今この街に無いからよ」


ライが掲示板と睨み合っているとふいに横からそんな声が聞こえてくる。

超えのした方に二人が振り向くとギルドの受付嬢がカウンター越しに手を振っていた。


「はぁいお兄さん、エアストへようこそ。見ない顔だし外から来た冒険者よね?」

「あ、はい、Cランク冒険者のライです」

「フィアよ」

「うん?そっちのお嬢さんは…冒険者には見えないけどお兄さんの連れ?」


受付嬢がフィアを指し示しながらライに尋ねる。


街の外に出る訳でもないのだからと、現在フィアはドレスアーマーでは無く普段の服装に戻っていた。

そのため今のフィアは何処からどう見てもただの少女にしか見えなかった。


「えぇ、まぁそうです」

「この女の子を連れて旅してるの?。良く今まで無事だったわねー」

「こう見えてもフィアは強いんで大丈夫ですよ。それに今は普段着なだけでちゃんと装備も持ってますし」

「へーそうなんだ。とても戦えるようには見えないけど…っと、紹介が遅れたわね。私はアリアーヌ、見ての通り受付嬢よ」


アリアーヌはそう自己紹介するとカウンターから出てライ達の元へと歩み寄ってくる。


「お兄さん依頼を受けに来てくれたの?」

「えぇ、でもCランクの依頼が一つも無くて…そう言えばさっきCランク冒険者が受ける依頼は無いとか言ってましたよね?あれってどういう事ですか?」

「そのままの意味よ。実は今この街はある問題を抱えていてね。それが解決されない限りはこの状況は解消されないわ」

「問題?」


フィアが首を傾げながら質問するとアリアーヌが答える。


「ここ最近エアスト近郊の森は現在Cランク以下は立ち入り禁止になってるの」

「エアスト近郊の森って確かEやF、たまにDランクの魔物が出るくらいで比較的危険の少ない場所のはずですよね?。その森にCランク冒険者でも入れないってBランク以上の魔物が出たんですか?」

「半分正解、実はオークの群れが森の洞窟に巣を作ったのよ」

「オーク…ですか。なるほど」


難しい顔をしながらライが納得したように頷く。


というのもオークという魔物は群れを成すのだが、その際必ずそれを纏める者が存在する。

オークが群れを成すには最低でもBランクに分類される将校(エクトゥス)と呼ばれるオークの存在が必要不可欠であり、そのオークが群れを成したとなれば将校クラスのオークの存在は確実、下手をすればその上の階級のオークが群れを纏めている可能性だってあった。


「将校が纏めている群れなんですか?」

「いえ、残念ながら将校クラスの個体が複数目撃されてるわ」


(確かオークは自分よりも階級の高い者にしか従わない。同じ階級のオークが共に行動するのはそれを纏めるもっと階級の高いオークが存在する為だ)


最低でもBランクの将校を纏めるには将校よりも階級が高い個体、Aランクのオークが存在が必要だ。


(将校よりも階級が高いってなるとAランクの大将(ラートル)か。そりゃCランク以下は立ち入り禁止になるか)


そう納得したライの隣でフィアがアリアーヌに質問する。


「ねぇ、そのオーク達はどうするの?」

「どうするって、勿論退治するわ。このまま森に居座られたんじゃおちおち冒険者を育成する事も出来ないしね」

「そういう割には依頼は出しっぱなしなのね。こういう時は安全が確保されるまで駆け出し冒険者の依頼なんかは取り下げるべきじゃ無いの?」

「んー…まぁそうなんだろうけどね、冒険者になる為にここにやってくる子達の中には結構切羽詰まってるというか、絶対に冒険者になってやるって遠くからわざわざ来てる子なんかも多いの。もしそんな子達に危ないから依頼は取り消しだなんて伝えたら”じゃあ自力で”なんて馬鹿な事やりかねないの」

「依頼は出してるんだから依頼を受けてくれる冒険者が現れるまで大人しくしてろって事ですか」

「そういう事…とはいえこの状態が結構長い事続いててね、我慢出来ずに街を出て行っちゃった子も結構居るの」

「街を出るって、森に行ったの?」

「まさか、森の周辺には見張りの兵士が立ってるしただ他の街に移っただけよ。この依頼を出してる内の何割がこの街に残っているのやら…」


そう言ってアリアーヌは駆け出し冒険者の為の掲示板を悲しそうな目で見つめる。

街の外に出るような依頼の大半はAランクやBランク相当となっており、森に入る依頼についてはAランクのみになっていた。


「今この街にAランク以上の冒険者は居ないんですか?」

「居たらこんな事になってないわ…そもそもいくらAランク冒険者とはいえ大将が率いる群れに単独で挑むなんて無茶よ。最低でもAランクが三人、もしくはBランク冒険者を二十人くらい集められたらって所かしら」


ため息を吐くアリアーヌに椿が再び質問する。


「国は何とかしてくれないの?」

「街の事なんて考えもせず責任の押し付け合いしかしない国なんて信用出来ないわよ」

「責任の押し付け合い?」

「ほら、この街ってキラヒリアの領地内にあるけど三つの国が出資して作られた街だからキラヒリアだけの物じゃないの。ヴァーレンハイドにもフェイリスにもこの街の治安を守る義務がある」


アリアーヌがそこまで説明するとライもフィアも現在のこの街の状況が見えてきた。


「つまりどの国もオーク退治を別の国に押し付ける気満々って事ですか」

「そういうこと」


カウンターに背を預けながら力なくアリアーヌが同意する。


「どの国も国境から迫る魔物の相手で手一杯なのも分かるんだけどね、だからってこの状況を何時までも放置されてたら堪ったものじゃないわ」

「どこかの国が動いてくれるまで待ってるしか無いんですか?」

「まさか、一ヶ月も待たされた時点で国の手助けなんて期待してないわ。国が助けてくれないって言うのなら私達街の人間だけでどうにかするしか無い」

「何か方法があるの?」

「えぇ、実はこの街に常駐してる四人のBランク冒険者達が居るの。流石に彼らだけじゃ一気に群れを潰すなんて事は出来ないけど、オークの数を減らし戦力を削ぐ事は出来るわ。暫く続ければオークを森の奥まで押し込めるだろうし、そうなれば森の浅い位置までなら駆け出し冒険者も入れるようになるはずよ」

「それには後どれくらい掛かりそうなんですか?」


ライの質問にアリアーヌは少し考える素振りを見せながら答える。


「そうね…後一ヶ月、いえ半月もあれば森に入れるようになるかも」

「半月ですか…流石に待てないな。折角エアストに来たんだから一度は依頼を受けて見たかったんだけど」


少し残念そうな顔をしながらライは依頼の張られた掲示板を見つめる。

そんなライの横顔を見て、アリアーヌが口を開く。


「お兄さんは駆け出しの子達に先輩冒険者として指導する為にここに来たの?」

「そんなわざわざ誰かに教えるような大層な知識なんて持ち合わせて無いですよ。ただ誰かに教える事で自分も基礎を学び直せるんじゃないかなって思ったんです」

「基礎を?」

「はい、実は最近冒険者というものに慣れきったせいか簡単な事を見落としがちというか、ふと有用だった事も忘れてしまっているんだなと気づかされまして」


例えばマリアンベールではアルミリアにエンチャントの事を気付かされ、ヴァーロンではリドルとの闘いの最中に(かつ)ての戦い方を思い出した。

あの経験からライは自分が忘れてしまっている事、もしくは頭から抜けてしまっている事がもっと他にあるのではと考え、それらを見つけ出すべく基礎を学び直してみる事にしたのだ。


「基礎を学びなおす為に…なるほど、それでここに来た訳ね。一人で基礎を思い返すよりも誰かに一つずつ順番に教えて行った方が漏れも無く思い出しやすいだろうし」

「そういう事です」


ライがそう返すとアリアーヌは何か考える素振りを見せた後、ライにある提案をする。


「ねぇお兄さん、そういう事なら一つお兄さんに受けて欲しい依頼があるのだけど」

「依頼って駆け出し冒険者絡みでですか?」

「うん、ちょっと心配な子達が居てね。ついこの間まで別の冒険者が指導してくれてたんだけどその冒険者達がオーク狩りに出てしまって今その子達に指導してくれる人が居ないの。お兄さんが良ければその子達を指導してくれないかしら?」

「自分は別に構いませんけど、Cランクの自分でも大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫!外に出るような依頼じゃ無くてただギルドの訓練場で戦い方なんかを教えてくれるだけで良いから!それじゃあ受けてくれるって事で良いのね?」

「えぇ、大丈夫ですよ。ただそれ程長くは滞在しないので見れても一週間かそこらでしょうけど」

「それで十分よ。それじゃあその子達にはギルドの方から連絡を入れておくから、明日から早速お願いするわね」


こうしてライは少しの間駆け出し冒険者の面倒を見る事になるのであった。

一月ずっと別の小説を執筆してたせいでライとフィアの名前をそっちの小説の主人公やヒロインと間違えそうになる…。

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